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ストレス関連障害 −適応障害−

メンタル疾患のうち、特にきっかけとなるストレッサー(ストレス源)との関連の強いものをストレス関連障害といいます。
「ストレスがかかって病院を受診したのにストレス関連障害とは診断されなかった」「ストレス関連障害のはずなのに抗うつ薬が処方された」という方が、日本には非常に多くいます。

ストレス関連障害は、これまであまり目にすることがありませんでしたが、2022年1月に改訂されたICD-11に記載されたように、本来ストレス関連障害とうつ病は全く異なるものです。
ストレス関連障害とは何か、なぜストレス関連障害と診断されずうつと診断されてしまうのかについて、説明します。

ストレス関連障害とは

ある特定の状況や出来事において、そこでのストレスが本人にとってとてもつらく、耐えがたく感じられるときに、感情面と行動面に症状として出現する疾患です。
特定の状況や出来事は、仕事でのストレスの場合もあれば、家庭内でのストレスの場合もあります。

ストレス関連障害の代表的なものは、急性ストレス障害(ASD)心的外傷後ストレス障害(PTSD)適応障害です。
急性ストレス障害と心的外傷後ストレス障害は侵入思考(意図せずイメージや記憶が思い出されること)が主症状なのに対し、適応障害はとらわれ(出来事や他者のことを反復して何度も考えること)を主症状とします。

急性ストレス障害(ASD)

心的外傷体験(トラウマティックストレス)にさらされてから1ヶ月以内に発症する、脳と神経系、ホルモン系の疾患です。
侵入思考の他に、過覚醒、強い恐怖心を示します。行動面では、外傷体験を受けた場所を避けたり、似たようなストレスがかかる状況を避けたりします。

症状は1ヶ月未満で消失するとされ、1ヶ月以上続く場合には、心的外傷後ストレス障害と診断されます。
身体的、精神的症状の有無だけでなく、社会的な機能が損なわれているかどうかまで含めて診断されます。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)

心的外傷体験(トラウマティックストレス)にさらされてから1ヶ月以上経っても、侵入思考、過覚醒、強度の恐怖心が持続している場合には、心的外傷後ストレス障害と診断されます。
状況や出来事が自分の意志とは関係なく頭に浮かんだり、ひとたび思い出されると何度も何度も考えが浮かぶため生活に支障をきたしてしまったりします。

緊張状態から警戒心が強くなり、怒りっぽくなったり、ささいな刺激に大きく反応したりするようになります。
心的外傷は生命に関わるような事故や災害のこともあれば、自分にとって手に負えない、統制不能なように感じられる出来事のこともあるため、一概に脅威か/脅威でないかでは判断できないことがあります。

急性ストレス障害同様、社会的、職業的機能が大きく障害されているかどうかが診断のポイントになります。

適応障害

社会的ストレスが本人にとって苦痛であり、そのことから感情面と身体面、行動面に症状が出現する場合、適応障害と診断されます。
特徴的な症状は、不安症状うつ症状身体症状問題行動の4つです。

アメリカの診断基準であるDSM-5では、3ヶ月以内に症状が出現するものとされています。
ストレッサー(ストレス源)から離れて6ヶ月以内に症状は消失するとされており、6ヶ月以上持続する場合には、大うつ病性障害や双極性障害を発症している可能性があります。

不安症状

ストレッサーに近づくことに不安を感じ、怯えたり状況を回避したりします。
胸の辺りがざわざわしていると感じたり、そわそわして落ち着きがなくなったりすることもあります。

不安感から緊張が生じることもあり、精神と身体両方に症状が出現します。
精神的には緊張感が高まり、イライラしやすくなったり、過敏性からびっくりしやすくなったりします。
身体的には肩こりや頭痛、呼吸の浅さ、頻脈、振戦(震え)などが起こります。

うつ症状

身体的にも精神的にも疲弊するため、気分が落ち込みやすくなり、元気がなくなります。
ストレッサーのことを考えていないときでも気分が沈み、この前まで楽しかったことが楽しく感じなくなります。

手足が鉛のように重く感じたり、朝起き上がるのが億劫になったりします。
寝つきが悪くなったり、夜中に何度も目が覚めたりといった、睡眠に関する身体症状も起こりやすくなります。

とらわれ

2022年1月に更新された診断基準であるICD-11では、適応障害に特徴的な症状として、とらわれ(preoccupation)が記載されました。
ストレッサーのことについて反すう的に思考し、継続的に苦痛を感じる状態を、とらわれといいます。
過去をくよくよ考えたり、過度に心配したり、ストレッサーの影響について長時間反復的に考えたりしていることが、適応障害の特徴的な症状とされています。

心的負荷がかかると、何か打開策はないかと状況を繰り返し思い出し、次に同じ負荷がかからないようにできないかと脳内でシミュレーションすることがあります。
相談相手がいれば話して一緒に方策を検討したり、実際場面を想定してリハーサルをしたりすることもあるでしょう。

こうして問題解決に向けて働きかける原動力になれば問題ありませんが、脳は想像と現実、過去と現在の区別が苦手なため、脳内で繰り返しているだけでも「今、目の前で起きている」と受け取り、ストレス反応を引き起こします。
とらわれは、ストレスに対するこの正常反応が過剰に働き、問題解決に繋がらなくても思考と反応が繰り返されている状態といえます。

適応の失敗(適応的対処の失敗)
順位イベントストレス度
1配偶者の死100
2離婚75
3夫婦別居生活65
4拘留63
4親族の死63
6個人のけがや病気53
7結婚50
8解雇・失業47
9夫婦の和解・調停45
9退職45
11家族の健康上の大きな変化44
12妊娠40
13性的障害39
13新たな家族構成員の増加39
13仕事の再調整39
16経済状態の大きな変化38
17親友の死37
18転職36
19配偶者との口論の大きな変化35
201万ドル以上の借金31
21担保・貸付金の損失30
22仕事上の責任の変化29
順位イベントストレス度
22息子や娘が家を離れる29
22親戚とのトラブル29
25個人的な輝かしい成功28
26配偶者の就職や離職26
26就学・卒業26
28生活条件の変化25
29個人的習慣の変化24
30上司とのトラブル23
31労働条件の変化20
31住居の変更20
31転校20
34レクリエーションの変化19
34教会活動の変化19
36社会活動の変化18
371万ドル以下の借金17
38睡眠習慣の変化16
39団らんする家族の数の変化15
39食習慣の変化15
41休暇13
42クリスマス12
43些細な違反行為11

上記は、社会生活における出来事からどのくらいの心理的負荷を生じさせるかを数値化したものです※1
出来事それ自体はそれほど苦痛ではなくても、ストレスフリーなのではなく、許容範囲内なので特に問題が表面化していないことが見て分かるかと思います。

心理的負荷がかかったからといって、そのまま何もせず「ストレスでつらい」と音を上げるわけではないでしょう。
自分なりに解決を試みたり人に訊いてみたりといった、その人なりの対処コーピングがうまくいかなかったことを適応の失敗といいます。

ICD-11では、適応の失敗があったかどうかも診断基準に含めることが明記されました。
「自分なりに業務量を減らそうと頑張ってみた」や、「あの人は当たりが強くて苦手だけれど一々反応しないよう気をつけていた」という情報は、ASDやPTSDと区別する上でも重要ですので、受診や訪院の際には伝えておくのが良いでしょう。

なぜ適応障害と診断されないのか

保険診療をおこなっているクリニックは、国から診療報酬を支払ってもらうために、診療記録を国に毎月報告しています。
どのような診療行為をおこなったかだけでなく、何という病名に対して治療をおこなったかも報告するのですが、その病名に適応障害などのストレス関連障害が挙がることはほとんどありません。

理由は単純で、ストレス関連障害には、適応障害治療薬のような保険適用の治療が今のところ存在しないからです。

例えば、うつ病と診断された人には抗うつ薬を使用することができ、国にも「この患者はうつ病と診断した、よって抗うつ薬による治療は適当である」と報告します。
風邪や食中毒に抗うつ薬を使ったら、国から診療報酬は支払われません。

では適応障害はというと、保険適用されている治療もなく、認可を受けている治療薬もないため、本当は適応障害だったとしてもそうと診断はされませんし、国に報告もされないのです。

適応障害はストレッサー(ストレス源)に対する介入や心理カウンセリングが有効な治療的介入ですが、保険適用の治療もなく、薬も対症療法に過ぎないため、診断基準を満たしていても診断されることはなく、薬を処方できるうつ病や不眠症として診断されていきます
こうして、薬の出せない適応障害は知名度が低く、薬の出せるうつ病の知名度を高めるキャンペーンばかり打ち出されていくのです。

保険適用薬があるかどうかという理由の他にも、診断者がほとんど医師に限られていることも理由の一つです。

優秀な医師は当然、自分にできること/できないことの区別をしっかりとつけており、できることの方に注力します。
診察に婚活失敗で落ち込んでいる人が訪れたからといって、第一声から婚活のアドバイスをする医師はいないでしょう。

メンタルクリニックの医師が落ち込んでいる人にできることは、第一に自殺しないよう約束すること、第二に自殺しないよう処方を検討すること、第三に相手の話を否定せず支持的に聴くことです。
ストレッサーをどうするかは医学部でも習わなければ専門医のテストにも出題されないため、診察での話題の優先順位はずっとずっと後ろなのです。

アメリカ医学会の診断基準であり、日本の臨床現場でも最も使われているDSM-5は、特に診断する者を医師に限定せず、コメディカル(医療従事者)や各種専門家が診断することとしています。
医師の診断を絶対視せず、それ以外の専門家が診断基準を適切に運用することが、日本全体のメンタルヘルスを健全化することに繋がることでしょう。

ストレス関連障害の治療

心的負荷を発生させるストレッサーを無力化したり、ストレッサーから距離をとったり、自分とストレッサーとの間に物理的/心理的境界を設けたりすることがストレスを軽減します。
こういったストレッサーに直接働きかける方法は根本解決に近づく一方、他への影響が大きすぎて実行できなかったり、より大きなストレスがかかることを覚悟しなければいけなかったりもします。

ストレッサーに対するアプローチの他に、自身に蓄積したストレスを解消したり軽減させたりする方法もあります。
ストレス解消法を行うのも一つですが、心理療法の一つにマインドフルネスストレス低減法というものがあり、脳内にあるストレス負荷を低減させることが実証されています。

当オフィスではマインドフルネス瞑想の他、フォーカストマインドフルネスという技法を多く実施しており、日々のストレスやトラウマティックストレスを軽減した上で、根本解決を目指したアプローチを実行していきます。
当オフィスはストレス関連障害専門ですが、ここまで述べてきたような日本の現状から、他院でうつ病と診断された方の相談も受け付けています。

ストレス低減に興味のある方は、ぜひ一度ご相談ください。

まとめ

ストレス関連障害は、ストレッサーをきっかけに心身に不調をきたす精神疾患です。
代表的なものは、急性ストレス障害(ASD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、適応障害です。

適応障害は、うつ病などと同じく不安感や抑うつ気分を主症状としますが、ストレッサーが明確であること、ストレッサーに思考や気分がとらわれていること、適応しようとしたけれどうまくいかなかったことが認められる場合には、適応障害と診断される可能性があります。
現状、ストレスを軽減したりストレッサーへの対処を考えたりすることは保険適用の治療とはみなされていないため、適応障害と診断されるよりうつ病・抑うつ状態と診断されるケースの方が多くみられます。

脳と体からストレスを取り除くには、マインドフルネスストレス低減法などの心理療法が奏功することがことが分かってきています。
ストレスを軽減したい方、ストレッサーへの対処を一緒に考えたい方は、ぜひ一度当オフィスにご相談ください。

※1 The social readjustment rating scale, 1967, Thomas H. Holmes, Richard H. Rahe, Journal of Psychosomatic Research https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/0022399967900104

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