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うつになりやすい人 −強迫性パーソナリティ−

従来のうつになりやすい性格傾向では、生真面目で責任感が強く、良心的で社会的評価の高い人というのが一般的でした。
他にも、完璧主義で自分に厳しく、人当たりは良いが気を遣いすぎてストレスを溜め込みやすいといった形容語もよく用いられます。

うつになりやすいとはどのような心理なのでしょうか。
少し踏み込んだ性格と認知、その原因と対処方法について説明します。

うつになりやすい人の特徴

責任感はあるが仕事中毒になるリスクも
リラックスできない

全てに完璧に対応しようとすると、気を緩めることができないためにリラックスできなかったり、常に気を張って緊張したりします。
周囲の人よりはきちんと物事をこなすので評価は高いですが、本人は何かに急かされているような気がしてちっとも気が休まらなかったり、周囲の人ものんびりしたいときには一緒にいたがらなくなったりします。

童心に返ることが苦手で、良識ある大人としての行動と態度を示します。
服装もゆったりとしたものよりもスーツやネクタイ、タイツなどの締めつけのきついものを選びます。

何かしていないと不安

何かを「している」ことが常態化している人は、ただその場に「いる」ことに居心地の悪さを感じるようになり、「存在しているだけ」ということが苦手になっていきます。
何かをしている自分には価値があると考える反面、ただ「いる」だけだと価値がない、むしろ誰かの何かを邪魔しているような気がしてしまい、動いていないと不安になってしまうのです。

自分自身は自分の恩恵を享受できない

他者や組織のために努力しますが、その恩恵をなかなか受けられません。
「みんなが楽になるように」と頑張りますが、自分は楽することを希望していないので楽したりくつろいだりできないのです。

「自分はみんなのためにやっているから」と納得している場合もありますが、「これは何かおかしい」と不満を感じている場合もあります。
しかし、不満があってもそれを表明したら他者の居心地を悪くしてしまうと思っているため、表明したり吐露したりすることができずにいます。

「もっと」「より良く」をよく使う

何かを完成させても「もっと早くできたのではないか」「より良くする手立てがあるのではないか」と考えたり、他者にそれを目指すよう指示したりします。
完璧を目指して気を配り、また次のときに完璧になるよう、事前に綿密な準備をしたがります。

他者にも完全さを求め、できないと批判的になる

自分を律することが多く、律するときには完璧になるよう心がけているため、他者にも同等の完璧さを求めることがあります。
自己評価が低いため、「自分でもできるのだから他者なら当然できるだろう」と期待し、その通りにならないと批判的になることがあります。

規範と秩序を重んじ、特に待ち合わせの時間や交通ルールなど、法律で罰されることのない常識やマナーに厳しいところがあります。
その常識やマナーに反したとき、反したことそれ自体よりもそれによって嫌な気分になる人がいた場合に、批判したり注意したりすることに躊躇がなくなります。

仕事中毒(ワーカホリック)

快感情よりも達成感を重視するため、成果の明確な業務や作業にのめり込むことがあります。
勤勉な仕事人間として業務上でも評価されますし、当人も自分の権利より他者の権利を尊重するために熱心に仕事に時間を割くため、どんどん仕事がプライベートを圧迫していってしまうことが少なくありません。

一方、プライベートでも仕事のように用事を詰め込み、いかに素早く効率的に用事を済ませるかにのめり込むケースもあります。
仕事にせよプライベートにせよ、自分を休ませたりくつろいだりさせることが不得意なため、上司や配偶者といった他者がマネジメントしないと倒れてしまいます

主な不調

からだとこころのどちらかに無理が出る
過緊張

緊張状態が長く続くせいで、肩こりや頭痛、腰痛が起こります。
神経系やホルモンバランスが乱れ、高血圧になってしまう人もいます。

体だけでなく心も緊張するため、神経過敏だったり几帳面だったり、不安になりがちだったりすることもあります。

罪悪感

完璧を目指していることから自分の至らない点にばかり目がいってしまい、慢性的に罪悪感を感じていることがあります。そこまではいかなくとも、過ぎた過去を気にしすぎてくよくよしやすい傾向にある人もいます。

憂うつ

以上の思考や行動の全てから精神的に疲弊してしまい、気分が落ち込みやすくなったり興味関心が低下したりといった抑うつ症状が多くなります。
社会情勢が刻一刻と変化するように、仕事というものもまた刻一刻と変わるので「完璧な仕事」というものは現実には存在しないのですが、その幻想を追ってしまうために必然的に不全感を感じてしまうのです。

自分の肉体と精神の限界を超えて業務にのめり込んだ場合も、感情的になるエネルギーを脳が節約してしまい、慢性的に意欲ややる気が枯渇して、抑うつ症状が出現しやすくなります。
ここで挙げたような特徴を備えた性格を強迫性パーソナリティといいます※1

うつになりやすい人の認知

強迫性パーソナリティの人の特徴的な認知(思考)を紹介します。
身近な人であれば、どのような考え方をしているか知ることで関わりやすくなリますし、自分が強迫性パーソナリティかもと思われる方であれば、心理療法で取り扱うべき課題もはっきりしてくるかと思います。

完璧でなければならない be perfect

物事を完璧に成し遂げたとき、過不足なくやり遂げたとき、私たちは達成感を得ます。
「完全であれ」の認知を持った人は、「完璧でなければならない」「完璧でなければ自分はOKでない」と考え、完璧にこなした達成感を得ようと行動します。

仕事であれば、任された業務も完璧に、内外の人への対応も完璧に、返信のメールも完璧にしようとし、そのことに全精力と時間を注ぎ込みます。
責任と業務の難易度が高まるにつれ、24時間では足りなくなってきて、この認知を修正するか破綻するかを余儀なくされます。

〜までは(○○してはならない)

幼少期には我慢を覚える必要があるように、成人後も自分の欲求を我慢することは必須のスキルです。
ある時点に達するまでは自分のしたいように行動してはならないという認知が「〜までは」です。

みんなが満足するまでは自分は充足してはならない」という認知があると、子どもたちが食事を食べ終わるまでは自分は食卓につけませんし、社内に一人でも残業している人がいたら自分だけ先に帰路につくこともできません。
与えられた課題が片づくまでは遊んではならない」があると、大人になってからも仕事が片づくまではくつろげないと作業に取り組みますし、しかし仕事なんて早々片づくものでもないのでずっと次の仕事次の仕事と追われるようになります。

子どもでいてはならない(楽しんではならない)

童心でいることは冷静さを手放すことと同義であり、冷静なまま子どものように楽しんだりはしゃいだりすると気恥ずかしさを感じるものです。
子どもでいてはならない」の認知のある人は、自分が楽しんだりはしゃいだりすることを自ら禁じ、誰かが楽しむのを見守る役目を自分に課しています。

幼い頃、親から「下の子の面倒を見るように」と言い聞かされていると、次第に自分が親の代わりにならねばならないと考え、この認知が形成されます。
ケースによっては親が何らかの精神疾患だったり依存症だったりしたために「自分が親の面倒を見るには、子どもでいてはならないのだ」と考えるようになった人もいます。

近づいてはならない

あまり人と親しくなろうとしなかったり、友好な関係を築きたがらなかったりする人がいます。
「近づいてはならない」の認知は、こういった人が持っている物事の捉え方です。

近づいてはならない」の認知を持っている人は、積極的に社交的な場には出ていかず、一人か少人数かでいることを好みます。
会話のときにも自分のことはあまり話さず、形式的な情報の共有しかしなかったり、聞き手に回ることが多かったりします。

強迫性パーソナリティの原因

達成に価値を置きすぎると楽しんだりくつろいだりできない

うつになりやすいとされている性格傾向にメランコリー気質というものがあり、これには遺伝的要因が関わっていることが指摘されています。
一方、強迫性パーソナリティは遺伝的要因の特定までは至っておらず、出生後の生育歴にその原因があるという説が有力です。

強迫性パーソナリティの人は、幼少期に子どもらしい活動を許されず、いち早く自立して成人してからも困らないよう、しつけられてきたといいます。
物事にチャレンジしたことよりもそれを達成したことに価値を置かれ、次第に「やり遂げなければ意味がない」「ミスや漏れがあってはならない」と考えるようになります。

両親の望みを叶えることが強調され、それに失敗すると「まだ足りない」と感じてやりすぎるくらいやるようになった結果、4歳か5歳、遅くとも6歳までには強迫性パーソナリティが成立するといわれています。

強迫性パーソナリティ障害

強迫性パーソナリティ障害はクラスタCに分類される

強迫性パーソナリティのネガティブな側面が強調され、自分や他者の生活を大きく阻害しているものを強迫性パーソナリティ障害と呼びます。
パーソナリティ障害として治療する場合には、認知行動療法の他、精神力動的精神療法や抗うつ薬(SSRI)が選択肢とされています。

強迫性パーソナリティ障害の診断基準
  • 活動の主要点を見失った細部の規則や予定へのとらわれ
  • 課題の達成を妨げる完全主義
  • 仕事への過剰なのめり込み
  • 融通がきかない道徳や価値観
  • 物を捨てられない
  • 他人に仕事を任せられない
  • 守銭的傾向
  • 堅苦しさと頑固さ

強迫性パーソナリティ障害と似た精神疾患として、強迫性障害があります。
強迫観念(「手を洗わないと」などの考え)と強迫行為(手洗いなど)によって日常生活に困難が生じている場合に診断されますが、強迫性パーソナリティ障害との関連はあまりないとされています。

強迫性障害はどのようなパーソナリティ傾向の人でも発症する可能性のある、不安性障害の一つです。
強迫性障害の治療をお探しの方は、当オフィスにご相談いただければと思います。

強迫性パーソナリティに対応するには

強迫性パーソナリティの人はうつになりやすい行動や考え方をしがちですが、一方でそういった傾向への対策は世の中に多く広まっています。
うつへの対策は他のページに譲るとして、ここでは強迫性パーソナリティへの対応を3つご紹介します。

「する」ではなく「いる」を増やす

ただ「いる」ことが「やらねば」の認知を修正する

誰かといるとき、何かをしていなければいけない気がして、活動したり作業したりしがちなのが強迫性パーソナリティ。
その衝動に一旦理性でふたをして、ただその場にいることを練習しましょう。

いるだけでも誰もそのことを責めたり落胆したりはしないことを身をもって体験することが、自分の認知やパーソナリティに対抗する一番の近道です。
最初は身近な人と一緒にいる時間から始めてみて、徐々に職場や知人の集まりなどでも試してみるのが効果的です。

リラックスする時間を設ける

日頃から緊張を解いておくと心も体も柔軟に

強迫性パーソナリティの困りごとの一つに、過緊張からくる身体的なコリや痛みがあります。
精神的な緊張に体がついていかず、体の方が先に悲鳴を上げ始めるのです。

身体的な負担を軽くするには、リラクゼーション法(筋弛緩法やSART)やヨガ、整体マッサージや温泉施設といったリラックスする時間を、あらかじめ確保しておくことが望ましいです。
こころの緊張をゆるめるためには、まずからだの緊張からゆるめるのが効果的です。

あえて少し間違える

意識的に間違ってみる経験が完璧主義を手放す第一歩

強迫性パーソナリティが「間違えてはいけない」と考えるのは、実際に間違えた結果からそう考えるのではなく、幼少期に間違えてはいけないと言い聞かせられたからそうしていることが少なくありません。
間違えること、ミスすることに何となく抵抗がある場合、その何となくに多大な労力と時間を割いてしまい、心身が疲労したり余裕がなくなったりしがちです。

就労している方にオススメなのは、助詞脱字法です。
業務メールを作成した際、あえて助詞(「てにをは」や名詞の後につく一字)を脱字してみる方法です。
日本語ならば助詞が抜けていても意味が通じる場合の方が多く、また助詞が「間違っている」ときより「抜けている」方が読み手が負担なく意味を補完してくれるため、問題にもなりにくいです。

意識的に間違うことで「間違ったとしても叱責されるわけではない」「ミスしても命まで奪われない」ということを実体験として経験でき、その後の認知もより強固になります。
一方、偶発的に間違った場合には恥ずかしさが先に立ってしまい、それが問題視されなくても「こんな恥ずかしい思いをしないよう、もっと完璧にしなければ」と、認知の偏りが激しくなってしまうことがあります。

また、「他にもこんな方法で強迫性に対抗している」「こんな方法もあるのでは」と思われた方は、ぜひコメント欄にて教えてください。

まとめ

うつになりやすい人は、一般的に言われている生真面目で責任感が強く、周囲からの評価が高い以外にも、いくつかの特徴を備えています。
強迫性パーソナリティは、そういったうつになりやすい人の性格特徴を包括しているパーソナリティ傾向です。

強迫性パーソナリティの人は、6歳までに完璧主義になるような環境だったり、両親や下の兄弟たちの面倒をみたりしたことから、成人後のうつ状態につながるような思考回路や行動様式を身につけています。
強迫性パーソナリティと強迫性パーソナリティ障害は似て非なるものであり、強迫性パーソナリティ障害は性格のネガティブな側面、特に病的な側面が強調されています。

うつや強迫性パーソナリティの原因はまだ科学的に特定されていませんが、その治療法については認知行動療法や磁気刺激治療(rTMS)、迷走神経刺激療法(VNS)などのエビデンスが日々蓄積されています。
一方、世の中に広まっている治療法は今回取り上げた「うつになりやすいパーソナリティの人」に向けたものであり、それ以外の人がうつになった場合のエビデンスはまだ少ないのが現状です。

自分に合ったうつ治療が見つからないとお悩みの方、強迫性パーソナリティやその対応にお困りの方は、ぜひ一度当オフィスにご相談ください。

※1 交流分析による人格適応論, ヴァン・ジョインズ, イアン・スチュアート, 2007

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