行動活性化療法とは
うつ病治療に用いられる有名な心理療法の一つに、認知行動療法があります。
行動活性化療法とは、認知行動療法の中の一つに位置づけられる行動的アプローチです。
行動活性化の効果
行動活性化療法はうつに効果があるとされており、その中でも重度のうつの方に効果が出やすいとされています。
その効果は薬物療法と同程度であり、精神科の診察で行われる支持的関わりや対人関係療法、認知行動療法(CBT)よりも高いことが臨床研究によって示されています※1。
行動活性化の目的
悪循環を好循環に変えるような対処行動(コーピング)を活性化
行動活性化療法の目的はシンプルです。
それは、クライエントを悪循環に陥らせている回避行動を特定し、その悪循環を好循環に変えるような対処行動(コーピング)を活性化させることにあります。
行動活性化療法では、何かストレスフルな出来事がうつを引き起こすのではなく、悪循環に陥ることで次第に消耗していき、その結果、二次的に落ち込みややる気の低下が起きると考えます。
よってカウンセリングの初回はクライエントの話の中から悪循環を見つけ、それをクライエント自身にも理解してもらうところから始まります。
同じ出来事を経験してもうつになる人とならない人がいるのは、この悪循環を脱する行動をとっているかいないかの差と考えます。
行動活性化療法は悪循環に自分だけで気づけるようになることを目指しており、カウンセラーなしでも対処行動(コーピング)をとれるようになったときが卒業となります。
相談室の外で対処行動をとれるようになること
行動活性化療法が他の傾聴カウンセリングと違う点は、他者と関わるような対処行動の習得を目的としているところです。
自分の苦しみやつらさを話すだけのカウンセリングは次第にクライエントの生活にカウンセラーが欠かせない存在となり、ともすれば依存関係となってしまう可能性をはらんでいます
一方、行動活性化療法は相談室の外で対処行動をとれるようになることを目的としていますので、相談室の外での人間関係が居心地の良いものとなり、結果、依存関係にならず治療を終了することができるのです。
行動活性化がうまくいかない?
理論モデルへの誤解
心療内科に勤めていた頃、「行動活性化はうまくいかない」「うつだから行動するほどの元気がない」といった声がよく聞かれました。
これは、行動活性化の理論モデルをあまり理解しないまま適用したことで起こりやすい誤解です。
よくある誤解の一つが、「行動にはうつになる行動と健康になる行動があり、行動活性化は健康になる行動を増やすものである」というものです。
これは臨床経験を重ねている療法家だけでなく、教鞭を取っている大学教授や多くの本を書いている著名な執筆家の方も大多数が誤解している点です。
「健康な人は、仕事に行く・学校に行く・人に相談する・歯を磨く・顔を洗うといった健康的な行動をしており、うつの人はこれらをしなくなる。行動活性化はこのような健康的な行動を増やすよう働きかけるものである」というのは、一見正しいことのように聞こえます。
しかしこの“良い行動”と“悪い行動”に二分している行動活性化は大抵うまくいきません。なぜでしょうか。
例えば、“ディズニーランドに行く”という行動は“良い行動”でしょうか。
ディズニーランドに行くことが好きな人には“良い行動”かもしれませんが、人混みが嫌いな人には“悪い行動”かもしれませんよね。
では、うつ病に対して“良い行動”かというと、これも一概には言えません。
「ディズニーランドに行ったら明るい気持ちになって気分転換でき、翌日の生活の活力になった」となれば“良い行動”でしょう。
一方、「明日はテストなのにどうしても勉強したくなくてディズニーランドに行ってしまった。結果、テストはできなかったし気分転換にもならなかったし、散々だった」となれば回避であり、うつ病に対する“悪い行動”となります。
成功させるカギは「回避」の発見
つまり、行動活性化を成功させるカギはこの回避を見つけることであり、回避行動は人それぞれ異なるのです。
効果の上がらない行動活性化を使っている療法家は、この点を誤解したままクライエントの行動スケジュールを立てているようです。
その結果、クライエントは行動そのものが義務化して嫌になってしまい、気分が改善する前にうんざりして行動活性化から脱落していってしまうのです。
気分の浮き沈みを繰り返したくないなら行動活性化療法
行動活性化療法は認知行動療法の一つであり、重度のうつ状態に特に効果があるとされています。
気分の浮き沈みのきっかけとなるトリガーを特定し、回避行動ではなく対処行動(コーピング)を行えるようになることで落ち込みの頻度を減らします。
行動活性化療法が失敗しやすい要因の一つに、治療者が「うつに良い行動を活性化しよう」と働きかける点が挙げられます。
どんな行動でも回避行動にも対処行動にもなり得るため、より効果的な行動活性化を行いたい場合には、カウンセラーと一緒に行動パターンを発見した上で対処行動を活性化することが望ましいでしょう。
※1 Psychological treatment of depression: Results of a series of meta-analyses, Cuijpers P, Andersson G, Donker T, van Straten A., 2011 https://d1wqtxts1xzle7.cloudfront.net/44812992/Psychological_treatment_of_depression_re20160417-10936-n39y7y-with-cover-page-v2.pdf?Expires=1639307807&Signature=AYRpUQ5jrjFTgFbpHkXcHNppA2trCsI5CUdwdsro7xzGVExN1JJRpq5PKC-L6D4fXDSFiuZC9NwUrlPZUSCTUkVBjaFjw2OMD1vihGxb6wD3immRGpDtaERLKjKaImmY0alBR6~4KoPNI1whdRskN8lg8guNe4x2g1KImgCgO3JOMTeVb-4uFVwsejoUxAiwOJVH22o7NChb4Dhy4qDbufNZU16CrthKyFhP71j5AkDSBQSdZlZkr7oUDzKODIVkqP1w1GAXZ3hvuBNTg9eaiPWFMvSd8Mjy8FKcMt4JiMfO2K84r6S4Anv-~Z7iWrRzJ7nROvzNa3vNQotiTI0oKw__&Key-Pair-Id=APKAJLOHF5GGSLRBV4ZA