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認知行動療法と認知再構成

認知行動療法は1960年代、実験心理学から派生した行動療法(Behavior Therapy)に認知療法(Cognitive Therapy)が合流したことで誕生した心理療法です。
日本では2010年4月から保険収載され、うつ病を始めとする気分障害に対して健康保険が適用されています。

それまでの精神分析やクライエント中心療法と比べ、科学的な手法を導入しての効果研究が可能であること、それによって特にうつ病や不安障害の改善や再発予防に有効であることから、多くの医療機関やカウンセリングルームで用いられている心理療法です。

うつ病や不安障害に悩む人に限らず、「自分の認知を変えたい」「ポジティブになりたい」と認知再構成法に挑戦する人は多くいます。
ここでは、認知行動療法の技法の中でも代表格となっている認知再構成法のコツを解説します。

認知行動療法とは

認知行動療法の基盤であるS-R理論

認知行動療法は、行動療法の理論と認知療法の理論をかけ合わせて臨床現場に応用した心理療法です。
主に外からの刺激をS(Stimulus)、生体の反応をR(Response)とし、落ち込みや不安といった反応は刺激を変えることで別の反応に変えることができる、という哲学のもとで介入を行う治療法です。

認知とは

認知は個々人に備わっている捉え方のフィルター機能

認知はものの見方や捉え方と表現されます。
他人の家を訪問したとき、自分にはもの珍しいけれどその家に住んでいれば見慣れていて大したものとは映らないように、人はどんなものを見聞きしたときでも、自分の認知を通して物事を知覚しています。

一言に「認知」と言っても、その意味は多義的であり、心理療法の文脈の中で用いられるときですら、いくつかの意味で用いられることがあります。
セッションの中で認知について説明するときには、認知は言葉で表現できるものの他、言葉では説明しきれないイメージ、映像、触覚や嗅覚、圧覚や温冷覚、色彩や明暗などを含みます。

一方、認知再構成法で用いる認知は言葉で表現できるものに限定され、非言語的なものは含んでいません。

「物事の捉え方を変えられるなんて認知再構成法はなんてすごい方法なんだ!」と期待されてこられる方も多くいますが、全ての認知を取り扱えるわけではないことは知っておいてほしいところです。

自動思考とは

意識できる言語的な思考は記録によって認識可能に

一言で「認知」と言っても、その種類もまた多岐にわたります。
ほとんど信念と呼んでも差し支えないような、特定の人や状況を前にすると必ず出現する認知もあれば、そのときたまたま頭に浮かんできたような一過性の認知もあります。

自動思考とは、ある場面でふとしたときに自然と頭に浮かんできた考えやセリフのことです。
自動思考は海底から立ちのぼる泡のようなものであり、意識にのぼってきたと思いきやすぐに爆ぜて跡形もなく消えてしまうことが多いです。

認知再構成法を行うときには、まずこの自動思考を捉えることが重要になります。

認知の偏り(歪み)とは

認知療法の基礎を築いたアーロン・ベックと、その弟子であるデビッド・D・バーンズは、ネガティブな感情を引き起こす認知として10パターンの偏り(歪み)について言及しました。
うつや不安症状を呈する人はこのパターンを始めとしていくつもの認知の偏りを有しており、そのために同じものを見聞きしてもネガティブに捉えてしまうのだといいます。

認知の偏り
二分化思考(全か無か)私は何をしてもうまくいかない・私は完全な落伍者だ
非現実的な期待一番でなければ意味がない・間違いは許されない
破局的思考失敗を犯したので、私は貧しく孤独になるだろう
過度の一般化面接に失敗したから、絶対に職には就けないだろう
心のフィルター試験科目のうち、一つの点数が低かった。私は何一つ上手にやれない
マイナス化思考これは大した成果ではない。みんなもっとうまくやっている
過大視と縮小視あの取引ではなんてへまをしたのだろう。上司の望んでいた条件を提示されたのに
結論への飛躍あの人は友達面をしながら裏では笑っている。私には分かる
感情的な推論自分に魅力がないと感じているから、事実そうに違いない
物事を個人的に受け取る
(自己関連づけ)
私の話が終わる前に二人退出していった。私の話がつまらなかったに違いない
自責または自己批判仕事についていけない。私が愚かでなまけ者だからに違いない
自己罵倒私は本当に愚かだ
認知の偏り一覧

こういった認知の偏りは誰しもがいくつかは経験しており、しかもその偏りが相談者の症状に影響していることの方が少ないくらいなのですが、とにかく分かりやすく「あるある」なものでもあるため、熱心なファンの多い概念でもあります。

認知再構成法とは

いつも似たような思考から気分が落ちたり、偏ったものの見方をしてばかりで柔軟性を失っていたりすると「もっと前向きな考え方はできないものか」「考え方を変えて今とは違った生き方をしたい」と思うものです。
認知再構成法は、認知の中でもネガティブな気分に直結しているものを取り上げ、違った捉え方はないかをシステマティックに模索できる方法です。

認知再構成の効果・副作用

落ち込みの程度より頻度を減らすことに長けている

認知再構成法を行うことで、これまでネガティブな捉え方しかできなかった場面でもポジティブに捉え直すことができ、落ち込んだり不安になったりする回数を減らすことができます。
認知行動療法の技法すべてに言えることですが、認知再構成法は落ち込みの度合いを軽くするというより、頻度を減らすことに長けています。

100落ち込むのを50にするより、毎日20回落ち込んでいた人を5回にするのが得意だということです。
このことを誤解したまま認知行動療法に取り組んでしまうと期待外れに終わり、かえって落ち込んでしまうことになりかねません。

自分の認知を別角度から捉え直せるようになるので、バランスの取れた考えができたり、他人の意見を聞いたときにも対立することなく「そういう捉え方もあるのか」と受け入れられるようになります。
もちろん、精神疾患の改善・治療に役立ちますし、薬だけで治療したときより再発を予防したというデータもあります。

認知再構成に取り組んだことによる副作用がほぼないことも特徴です。
一人で取り組むにはやや難しいので最初は経験豊富なカウンセラーと一緒に取り組んだ方がやりやすいこと、投薬治療などとは違って時間がかかることはデメリットかもしれません。

Aという認知を強制的にBにしてしまうわけではないので、楽しかったり嬉しかったりする場面では別の捉え方をする必要はありません。
考え方の選択肢が増え、それまではすぐ感情的になっていたような状況でひと呼吸をおくことができるようになります。

認知再構成のやり方

認知を変える方法はいくつか存在しますが、手順に従ってシステマティックに進められるところが認知再構成法の特徴です。
まずは標準的な認知再構成の7ステップを確認し、その上でつまずきポイントとその乗り越え方を確認しましょう。

1. 思考記録表をつける
思考を記録することで認知が見えてくる

自分を落ち込ませる思考は人それぞれ違います。
精神疾患の人の認知の偏り方は似通っていますが、それでも頭に浮かんでくるセリフや文言は一人ひとり微妙に異なるものです。

思考記録表は日常生活の中で頭に浮かんできた思考を書きとめ、その思考が出てきたときのシチュエーションと共に記録しておくものです。

ネガティブな気分になったときのことを、その日のうちに記録します。
カウンセリングで用いる場合には、カウンセラーが読んで分かるというより、自分が読んでそのときのシチュエーションを思い出せる程度に詳しく書くのが良いでしょう。
感情は一語で、思考は文章で書き表せるものを記録します。

この「頭に浮かんだ文章を書きとめる」というところが難しく、思考を捕まえると表現するほど、当時考えたことを思い出すのは難しいものです。
「その瞬間は確かに頭に浮かんだはずなのに、いざ書こうとしたときには忘れている」こともしばしばあります。ボールの速度に目が慣れてくるように、思考を捕まえるのにも慣れてくるとそれほど意識しなくても覚えておけるようになりますので、思考記録表をつけながら練習すると良いでしょう。

2. 感情を数値化する

思考記録がつけられるようになってきたら、そのときの感情の度合いを%で表記しておきましょう。
その感情が全くないときを0%、人生でこれ以上ないほど強いときを100%として、そのときの%を記録しておきます。

認知再構成後の感情が改善したかどうかを数値で確認することができますし、ネガティブな感情になることが何回かあったとき、その中で最も強い感情を覚えたシチュエーションはどれだったのかを後から思い出すのにも数値化は役立ちます。

3. 自動思考から認知の偏りを見つける
自動思考を掘り下げて自分が悪と思っているものを見つける

記録された自動思考が出揃ってきたら、それらをざっと見て自分の認知の偏りを発見しましょう。
そのときのコツとしてオススメしたいのが、「自分の中の悪を見つける」ことです。

例えば、仕事でミスしたことを責めていたり、ミスしないようにチェックしすぎて疲れてしまっていたりする人は「ミスは悪」という認知があることが見えてきます。
ただ、角度を変えてみると「人に迷惑をかけることは悪」という認知かもしれませんし、「仕事中気が抜けていることは悪」という認知かもしれません。

自分の中でしっくりくる「○○は悪」を見つけることが重要です。

別のケースでは、休職していることを責めた結果落ち込んでいたり、復職に向けて何かしないとと焦ったりしていれば、「何もしていないことは悪」という認知がありそうです。
これも、「目的に向けて動いていないことは悪」という認知かもしれませんし、「自分を責めていない自分は悪」という認知かもしれません。

何を悪と感じているかは日常生活では意識することはありませんが、スポットライトを当ててみれば自分のことですので意外とすんなり自覚できることも多いので、思考記録を眺めながら考えると良いでしょう。

この自分の中の「悪」もしくは「正しさ」に気づけないと、次のステップがとても困難になります。

「ミスは悪」を例にとると、「仕事でミスするなんて」という自動思考に根拠や反証を見つけることはとても難しいからです。
「仕事でミスはしてはいけない。なぜなら仕事とはミスしてはいけないものだから」という循環論法に陥ってしまい、そこで認知再構成を断念する方が多いのです。
それが「ミスは悪」という認知に気づければ、「なぜミスは悪だと思うようになったのだろう」と考える余地が生まれ、「最初の先輩から口うるさく言われたから」「ミスが原因で中学受験に失敗したから」「母からぶたれたから」といった根拠を考え出すことができるのです。

ちなみに、「○○は悪」といった無条件の考えを中核信念と呼ぶのに対し、「もし××なら、○○は悪」といった条件つきの考えを中間的信念と呼びます。
「完璧でない自分は悪」「仕事していない自分は悪」「面白い話をしなければ自分は悪」「繰り返し検査して原因を突き止めなければ自分は悪」といったものが中間的信念に当たります。

中核信念より中間的信念の方が認知再構成しやすいですが、無理に条件つきの考えにする必要はありません。
認知再構成法を成功させる鍵は、自分にとってしっくりくる考えを突き止め、自分を落ち込ませている考えを特定することです。

4. 信念の根拠を見つける
信念それ自体でなくその根拠を考えてみる

中核信念や中間的信念を特定できたら、その根拠は何かを考えます。
「ミスは悪」を例にとると、「本に書いてあったから」といったものも根拠ですし、「ミスで迷惑をかけられたことがあるから」といった個人的な体験も根拠です。

自分が生まれたときから「○○は悪」といった信念を持っているとは考えられませんので、人生のどこかでその信念が確立した時期があるはずです。
その時期が特定できれば「なぜそう考えるようになったか」を振り返れば根拠が出てくるでしょうし、時期が特定できなくてもその頃何があったかを振り返ってみると自分の体験を思い出せることが多いものです。

5. 根拠に対する反証を創出する
信念は強固でも根拠は反証の余地がある

根拠をいくつか挙げることができたら、その根拠一つひとつに対して反証を考えます。
反証とは、嚙み砕いて言えばツッコミを入れることであり、「それって本当?真理?」と考え直すことです。

「ミスは悪」のときに挙げた根拠の反証を例にひくと、「ミスを指摘した先輩もミスはしたことがあるのでは?」「中学受験には失敗したけれどその後大学には入れたのだから結果オーライでは?」「ミスの罰で母からぶたれたけれどそれは母の機嫌が悪かっただけでは?」などを考えることができます。

反証を出すコツの一つは、例外はないか考えることです。
「そういう体験をした人はみな全員そう考えるか」「自分に起きた出来事の方が限定的で例外的な事故ではないか」と考えてみることで、反証が見つかるケースがあります。

もう一つは、第三者の話としてとらえ直してみることです。
先の例同様、「その結論はおかしい」「感情的に決めつけていないか?」「そんなことばかりじゃないんじゃない?」といった指摘を入れられるようなら、それが反証になります。

6. 適応的思考を創出する

根拠に対する反証を創出できたら、自動思考と反証を合成して、より現実的で適応的な思考にしてみましょう。
「ミスは悪」の例で言えば、「ミスはしないにこしたことはないが、ミスをしたことのない人もまたいないのだから、無理のない範囲でやるよう心がけよう」といったものが適応的思考になります。

もちろんこれは一例ですので、自分の中でしっくりきて、気分に改善の見られる思考を創出することが大切です。

7. 適応的思考のときの感情を数値化する

気分に変化があったかどうか確認するため、適応的思考を何度か唱えた後にどんな気分になったか、数値化してみると分かりやすくなります。
ここまでの工程を何度か繰り返し、動思考でなく適応的思考を頭に思い浮かべやすくなったところで、認知再構成は完了です。

認知行動療法はCBTの一部に過ぎない

認知行動療法を希望される方の多くは認知の変容を望んでいることから、認知行動療法≒認知再構成法という認識の方も多いようです。
「認知を変えたい」という希望も認知再構成法に対する期待も全く問題はありませんが、「認知行動療法は様々な技法のパッケージであり、それらを複数用いることで認知を変えることができる」ということには言及しておきたいと思います。

ざっと思いつくだけでも、認知行動療法を行う上で用いる技法には以下のものがあります。

  • 基本モデルによるケースフォーミュレーション(事例化)
  • 行動活性化
  • 快行動リスト
  • 問題解決法
  • リラクゼーション法
  • イメージ法
  • 認知行動リハーサル
  • ロールプレイ
  • モニタリング
  • コーピングカード法
  • MP法
  • 曝露法
  • アサーション
  • ソーシャルスキルトレーニング(SST)
  • 読書療法
  • モデリング

認知変容を目的として認知行動療法を希望される方は、目的を忘れず、認知再構成以外の手法も組み合わせながら、結果的に認知が変わることもあると思って、取り組んでいただければと思います。

効果的な認知行動療法は東京カウンセリングオフィスへ

認知再構成法は、認知行動療法の中でも認知的アプローチに分類されます。
「考え方を変えたい」という期待の高さからその知名度が高い認知再構成法ですが、症状や疾患によってはより治療効果の高いアプローチも存在します。

行動活性化療法とその他の心理療法の効果比較

行動活性化療法は、認知行動療法の中の行動的アプローチから発展した療法です。
「考え方を変える → 行動する」という順序ではなく、「行動してみる → 結果を踏まえた考え方に修正する」という順序でアプローチするため、途中で煮詰まったりしにくい点や一度創出した認知が定着しやすい点が特徴です。

認知再構成法が取り扱う「認知」は言語化できるものに限られており、言葉にできないイメージや思い込みは直接取り扱うことができません。
行動活性化療法によるアプローチは実験的な行動に取り組み、その結果から現実的な認知を身につけていくため、認知を言語化する必要がなく、うつ病の人への負担が少ないのが強みです。

他にも当オフィスでは、再発防止策を自分で創出できるようになる問題解決法や、不安低減に効果的なマインドフルネスストレス逓減法も適宜おこなっています。
自分に合った認知行動療法の技法をお探しの方は、一度当オフィスにご相談ください。

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