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心療内科とは

心療内科は「内科」の一つです。
ストレスがかかったときに体に現れる変調を解消することを目的とする診療科です。

精神科が最初から脳に病変がある疾患を取り扱う科である一方、心療内科は病変がどこにあるのか分からないけれど、おそらく「こころ」の変調が「からだ」に出ていると考えられる疾患を特定し、治療していく科であると言えます。
ストレスがかかって胃が痛い、頭痛がする、下痢になる、吐き気がする、頭が回らない、動悸がする、涙が出てくる、眠れないといった症状が、心療内科が取り扱う症状の例です。

心療内科の目的

「心療内科とは何をするのか?」「どんな症状の人が受けるの?」といった疑問を持ったまま受診を迷っている方は多くいらっしゃいます。
ここでは、何のために心療内科にいくべきかをもう少し詳しく説明していきます。

心療内科は、心身医学という学問領域の実践の場です。
心身医学は「からだ」の症状と「こころ」の状態がお互い関連していることに注目し、それを治療することを目的とした東洋医学的なアプローチです。

例えば、日本ではうつを診るところが心療内科、という認識が一般的となっていますが、これはうつが「こころ」の症状だけでなく、不眠や食欲不振といった「からだ」の症状も同時に見られるために心療内科の主たる領分とされたところが大きいでしょう。

患者が医療機関に求める「用務」

では、少し視野を広げて、医療機関とは何を目的に行くところなのでしょう。
クレイトン・M・クリステンセンは著書の中で、医療機関の用務は次の4つに集約されると指摘しています※1

① 私と私の家族を健康になる手助けをしてほしい
② 健康を維持する手助けをしてほしい
③ 経済力獲得の手助けをしてほしい
④ 資産の減少や破産から守ってほしい

①と②は分かりやすいと思います。
私たちは健康な状態に戻すことを医療に期待していますし、うつのような生活習慣病の側面を持つ疾患が再発しないよう防いでほしいとも思っています。

強調したいのは③と④です。
うつになって休職してしまったら収入がなくなり、治療に通うこともできなくなります。
医療機関は傷病手当金の申請補助という形で金銭的不安を緩和してくれますし、重症度によっては障害年金の受給をサポートしてくれます。

要約すると、①から④までの全ての目的を達成したい方は医療機関に行くべきでしょう。
しかし、①と②だけを期待される方は医療機関に限定することはせず、より最適な治療を検討した方が良い場合もあります。

特に心療内科クリニックは得意な疾患とそうでない疾患がはっきりしていますが、それを専門家以外の人がホームページやクチコミから見極めるのは少々難易度が高いため、医療機関を受診する前に専門家に相談するのも一つの手でしょう。

精神科と心療内科の違い

「精神科と心療内科どちらに行くべき?」「違いは何?」と受診をためらわれている方も多いと思います。
また、「うつは何科に行けばいいの?」と悩んでいる方もいます。

精神科は脳の病気そのものの治療を行います
幻覚や妄想、落ち込みや怒りっぽさ、独り言や発達障害の症状などは精神科に相談に行くことをお勧めします。

一方、心療内科は脳と体両方の症状に対して治療を行います
(神経)の変調によって体に現れる症状としては、眠れない、食欲がわかない、涙が止まらない、胃痛や腹痛が起こる、吐き気がする、急な動悸が起こる、過呼吸を起こすといったものがあります。

精神科と心療内科の適用疾患

精神科が主に取り扱う疾患としては、統合失調症や双極性障害といった精神病になります。
一方、心療内科が主に取り扱う疾患はうつ病や不安症といった神経症、ストレス性の胃潰瘍や不眠症といった心身症になります。

精神科と心療内科の境界線上に位置する疾患は、パーソナリティ障害や発達障害とされています。
人の性格(パーソナリティ)や発達障害はその原因が脳にあるだろうとは言われていますが、まだ標準的な治療法が確立していないため、どちらの科でも対応するかどうか判断が分かれます。
受診の際には直接病院やクリニックに相談されると良いでしょう。

完治や寛解、克服を目指すものを急性疾患、症状や障害との共存や生活への支障を減らすものを慢性疾患と分けた場合、心療内科は急性疾患を取り扱うところであるのに対し、精神科は慢性疾患を対象にしているとも言えます。
「どちらを受診するか迷ったら両方標榜しているところへ」と案内している病院やメンタルクリニックは多いですが、自分の疑っている病気が急性疾患か慢性疾患か、一度調べてから診療科を選ぶのが賢い方法であると言えます。

以上のような棲み分けから、内科の一つである心療内科は、内科薬の取り扱いに長けています
薬はもちろん、吐き気止め、頭痛薬、血圧降下剤、睡眠導入剤などの処方を希望される際には、心療内科にかかることをオススメします。

心療内科の診療内容

「心療内科で何を話したらいいか分からない」「いくらくらいかかるもの?」「心療内科では何をされる?何をするの?」といった声も多く聞かれます。
ここではうつ病を例に、心療内科の中身について、もう少し詳しく説明していきます。

心療内科は内科薬の処方をすべきか否か、するのならどれくらい処方するかを決定したいと考えていますので、今ある症状は何か、どれくらい苦痛かはまんべんなく話した方が良いでしょう。
うつ病の場合は「2週間以上症状が続いているか」が一つの診断基準になりますので、その症状がいつから始まっているかも話せるようにしておいた方が良いと思います。

心療内科に新患として受診したときは自費診療で6,880円、保険診療3割負担で2,060円となります。
この金額に「何分なんふん話したか」「夜間・早朝・時間外でないか」「薬の処方があったか」によって追加料金が発生しますので、これは心療内科の”最低限の料金”とお考えください。

治療アルゴリズムに従うと必然的に処方されるようになっている

上記は日本うつ病学会が公開しているうつ病の治療アルゴリズムです※2
こちらを見ることで、心療内科医がうつ病患者にどのような思考で治療を検討しているかの一端が分かるかと思います。

軽度ないし中等度のうつと診断された場合、まず薬が処方されます。
処方される薬はいずれかの抗うつ薬であり、「どの抗うつ薬を用いるか」は医師ごとに異なるものの、「抗うつ薬を出さない」という選択肢は日本の標準治療には最初から含まれていない、ということです。

このように何の処方をするかを考えている心療内科医に「悩みごとの解消」や「問題の解決」、ましてや「的確なアドバイス」を求めるのはお門違いです。
薬を使わずに問題を解決したことがほとんどないわけですから、長時間相談に乗ってもらったり解決策を求めたりするは期待しない方がいいでしょう。

初診の抗うつ薬の処方率_20210821
うつ病患者の実に9割以上は初診時に抗うつ薬が処方されている

厚生労働省の調査では、心療内科を受診した人の97.5%は初診時に抗うつ薬を処方されたといいます※3
これは心療内科医が薬を出すことで儲けようとしているとか、薬依存にして受診なしではいられない体にしてやろうといった意図ではなく、日本の標準治療が薬ありきのものだからと言うよりほかないのです。

心療内科受診のタイミング

「どういうときに心療内科に行くのか?」「メンタルクリニックにはいつ行くもの?」といった質問も悩んでいる方からはよく聞かれます。
つらさも主観的、症状も自己申告の世界ですので全ての人に当てはまるわけではありませんが、受診するかどうかの一般的な判断基準を3つお伝えします。

睡眠不足

人間は睡眠中に脳内の毒素を洗い流し、神経の伝達効率を回復させています。
入眠剤による治療にはなりますが、寝つきが悪い、途中で何度も起きる、眠りが浅くて寝た気がしないなどの睡眠障害が疑われる場合には、心療内科を受診した方がいいでしょう。

痛み(頭痛、胃痛、腹痛など)

心療内科医は内科薬の使い方に長けていますので、体に痛みがある場合にはその原因が何かの検査も含め、心療内科を受診した方がいいでしょう。
ただ、胃薬や頭痛薬のような「薬局で入手できる薬で対処できるかもしれない症状」のときは心療内科でいいかもしれませんが、左の腕や肩、胸や歯などの痛みはストレス性疾患以外の可能性もありますので、総合診療科を受診した方がいいかもしれません。

限定的な状況下での緊張(動悸、頻脈、吐き気など)

不安が高まると心も体も緊張し、ドキドキしたり吐き気を催したりします。
身体的な疾患による症状であれば場所や状況を選ばないことが多く、シチュエーションが特定されているのであれば抗不安薬の効くパニック障害や社交不安性障害の可能性が高いため、まず心療内科に受診してみるのがいいでしょう。

抗うつ薬でなくてもうつ症状は治ることが多い

上の図はとある抗うつ薬の臨床試験データです※4
抗うつ薬がうつ症状を低下させていることが示されていますが、同時に抗うつ効果のないはずの偽薬(プラセボ)を服用していた群も、うつ症状を低下させていることが分かると思います。

これはこの抗うつ薬だけに限ったことではなく、現在日本で発売されているどの抗うつ薬の臨床試験データを見ても、全てのプラセボ群はうつ症状を改善させているのです。
うつを治すのに抗うつ薬が必須ではないと言えますので、うつかもしれないと思ったときには当オフィスのようなカウンセリングルームに相談してみるのも一つではないでしょうか。

心療内科への間違った期待

心療内科への期待の多くは本来カウンセリングルームが担うべきもの

上記の内容を踏まえて、心療内科を受診したのに期待とは違い、結果医療不信になった方の実例を3つご紹介します。
心療内科受診を検討されている方は、参考にしていただければと思います。

5分診療、聞くだけカウンセリング

つらさを分かってもらいたくて心療内科への受診を決めました。
2ヶ月待ちと言われましたが、誰にも相談できなければずっとこのままだと思い、2ヶ月間は何とか我慢しました。

いざ受診してみると長い問診票を書かされ、記入するだけでぐったりしてしまいました。
そして診察になりましたが、医師はその問診票だけで事情を把握したようで、私の話は5分と聞かず診察は終わってしまいました。

診察後、受付でカウンセリングを勧められたため、そちらなら話を聞いてもらえるかと期待してカウンセリングの予約をしました。
カウンセリングの先生は優しく私の話を聞いてくれましたが、特に建設的な話やアドバイスはなく、しかし事情を聴いてくれる人もいないため、そのカウンセリングを続けてかれこれ10年経ったので、これ以上は無駄だと思い通院を止めました。

処方薬のせいで悩みが増えた

コロナで親しかった友人を亡くしたため、その悲しみを吐き出したくて心療内科を受診しました。
診察の中で寝つきが悪くなっていることも話したところ、睡眠導入剤が処方されました。

服薬してみると、寝つきは良くなりましたが起床後もぼーっとするようになってしまいました。
クリニックに電話して服薬を続けたらいいか尋ねたところ、「電話対応できないので診察に来てほしい」と言われました。

診察に行ったところ、別の睡眠導入剤が処方されました。
しかしそれを飲んでもやはり起床後には頭がシャキッとしなかった上、今度は吐き気も出たためにそのことを相談しに再度診察に行きました。

診察では睡眠導入剤の変更はなく、追加で吐き気止めが処方されました。
友人を亡くした悲しみは診察では特に聞いてはもらえず、薬の作用と副作用の相談を繰り返しているうちに本来の悩みはどうでもよくなっていってしまいました。

受診したためにかえって死にたくなった

仕事のストレスから倦怠感や体の不自由さを感じたため、心療内科を受診しました。
一旦ストレス源から離れた方がいいと言われたため、休職を開始しました。

抗うつ薬が効いたのか休養したのが良かったのか、症状は1ヶ月後には消えました。
そのことを主治医に伝えたところ、復職してもいいのではと提案されました。

復職はしたものの、ストレス源は変わらずストレスですし、それに対する具体的な対策も自分の考え方も変わっていなかったために、また体が動きにくくなる症状が出てきてしまいました。
抗うつ薬の服用は続けていましたが体の症状は変わらず、このつらさをどうしたらいいか分からなくなってしまったので死んで楽になりたい気持ちが日に日に募っています。

こういった事例は心療内科ではよくあるケースです。
どのケースも処方権のないカウンセリングルームであれば解決可能でしたが、心療内科に受診してしまったばかりに更に問題をこじらせてしまった例になります。

まとめ

心療内科はストレスに対して脳や体に変調をきたしたときに受診する内科です。
内科薬の取り扱い方に長けているため、特に体の不調で困っているときには適切な処方を受けられるでしょう。

急性疾患の治療はもちろん、休職して経済的に苦しくなったり治療費を工面することに困窮したりする場合には受診することをオススメします。
一方、じっくり悩みを聞いてほしい、的確なアドバイスが欲しい場合には期待にこたえられないことも多いと思ってください。

心療内科にかかった方がいい症状としては、睡眠障害、様々な身体的痛み、特定の条件下での不安緊張症状があります。
気分の落ち込みや意欲の低下、興味関心が薄れたなどは抗うつ薬を処方されなくても改善する方法がありますので、心療内科以外の選択肢も含めて検討するのが良いでしょう。

※1 医療イノベーションの本質-破壊的創造の処方箋, クレイトン・M・クリステンセン, ジェローム・H・グロスマン, ジェイソン・ホワン, 2015

※2 大うつ病性障害の治療に関する国際的コンセンサスアルゴリズム, 樋口輝彦 https://blog.goo.ne.jp/cabinet_new_wave/e/8aba9c73af0c6a23ddb00940ea42a142

※3 初診のうつ病患者における投与薬剤の実態調査研究, 中川敦夫・菊地俊暁, 2010 https://www.ncnp.go.jp/tmc/pdf/22_report05.pdf

※4 エスタシロプラム第Ⅲ相プラセボ対照二重盲検比較試験, 持田製薬株式会社 https://med.mochida.co.jp/medicaldomain/psychiatry/lexapro/clinicalstudy/exam1_1.html

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