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自殺報道

自殺はショッキングな事件のため報道に乗りやすく、亡くなった方の有名無名を問わず報道を目にした人の心に大きな影響を与えます。
自殺と自殺報道に関する心理的効果をこころの専門家である臨床心理士が説明します。

ウェルテル効果

著名人の自殺報道によって連鎖的に自殺者が増加することを、ウェルテル効果といいます。
これは、小説『若きウェルテルの悩み』の主人公ウェルテルが自殺したことを受け、出版後の1774年にウェルテルの服装や方法を真似た自殺者が急増したことから、その名が付いています※1

近年では、1986年にアイドルの岡田有希子さんが飛び降り自殺した後に後を追うようにファンが自殺し、「ユッコ・シンドローム」と呼ばれた現象がこれに当たります。
また、2020年には俳優の三浦春馬さん、女優の竹内結子さんが自殺した後の2週間に自殺者が増加したことが確認されており、ウェルテル効果が引き起こされたものと考えられています。

1774年に『若きウェルテルの悩み』が出版された後はウェルテルと同じ格好(褐色の長靴と黄色いベスト、青色のジャケット)で、作中と同じ方法(ピストル自殺)によって自殺した人が多かったことから、自殺者と同じ属性を持った人が同じ方法で命を絶つことがウェルテル効果の特徴です。
このことから、自殺報道をするマスメディアには自殺時の詳細な情報は報道しないことが要請されています。

パパゲーノ効果

報道によって自殺を思いとどまらせたり、改めて前を向いて生きようとしたりする作用も指摘されています。
自殺を踏みとどまった体験を見聞きすることによって自殺者数が減少する現象を、パパゲーノ効果といいます。

パパゲーノとは、オペラ『魔笛』に登場する男性・パパゲーノに由来します。
パパゲーノは愛する妻を連れ去られ絶望し自殺しようとしますが、3人の精霊の力に助けられ自殺を踏みとどまります。

パパゲーノ効果を引き出す報道としては、自殺行為そのものを報じるのではなく、死にたい気持ち(希死念慮)について考える内容が有効とされています。
例えば「苦しい状況の中にあって死ぬことしか考えられなくなったけれど、改めて生きることについて考え、力強く生きていこうと思い直した」といった内容です。

パパゲーノ効果は2010年にウィーン医科大学のトーマス・ニーデルクローテンターラーのチームが実証・提唱したのが初めてとされています※2
ウェルテル効果と比べると歴史は浅く、またその検証も充分とはいえませんが、自殺を抑制する可能性のある情報やストーリーが洗練化していけば、第二、第三の悲劇を防げるようになる日もそう遠くはないかもしれません。

情報提供

パパゲーノ効果が起きる可能性のある情報として、死にたい気持ちになったときに相談できる公共サービスについての情報提供があります。
テレビのニュースやワイドショーで自殺について報道された際、最後に提示されることの多いこの情報提供ですが、WHOの推奨する方法とは少し異なることが多いです。

まず、死にたい気持ちになっている人はそれほど脳機能が充分に活動しているとは言えませんので、一瞬だけ画面を切り替えたりテロップを出したりしただけでは情報を拾い切れないでしょう。
また、公共サービスへアクセスするための情報も複数ではなく、1つに絞った方が良いとされています。

自分のこころを守るために

ある調査では、確かに自殺者の3割はうつ病であったことが示されています※3
一方でこの結果は、自殺者の7割はうつ病ではなかったことを示している、とも言えます。

近年の日本の自殺報道は、成人であれ未成年であれ、うつ病であったことを大前提に話が進められているように感じます。
しかし例えば、先の調査の第2位はアルコール依存症ですが、自殺者がアルコールを常飲していたか、自殺したときにアルコールを飲んでいたかなどは捜査をすればすぐ分かるはずなのに、そういった情報が報道に乗ることはありません。
テレビ番組やネットニュースにはスポンサーがおり、取材する側も「うつ病だったのだろう」という前提で取材するからです(医療機関でこのような思い込みから聞き取りをしたら、後でしこたま怒られます)

そういった限定的な情報をもとに自分と近しい属性を見つけたり、「あの人はこう考えて死を選んだに違いない」と考えたりすることは、誤った結論に至りやすいということは頭に入れておかなければなりません。
「自分とあの人は別の人間(個体)なのだ」という意識を心理学では境界線感覚と呼ぶことがありますが、自殺報道を見るときにもこのように自他との間に一線を引きながら見ることが、正常なメンタルヘルスを保つためには必要でしょう。

まとめ

かつて自殺報道はウェルテル効果によって連鎖自殺や群発自殺を引き起こすとされていましたが、最近ではパパゲーノ効果という自殺抑制作用も提唱されており、報道する内容や提供する情報の重要さがより強調されてきています。
自殺について報道するときには、希死念慮の内容について掘り下げた上で生きることを決めた人の体験談やストーリーを伝えること、希死念慮を抱いている人が捉え切れるだけのスピードや情報量に絞って提供することが大切です。

自殺報道を見るときにはそれが限定的な情報であることを念頭に置き、前提や思い込みから報道を見ていないか注意することが精神衛生を保つコツです。
いま死にたい気持ちを吐き出したい方は、ぜひ当オフィスに一度相談してみてください。

※1 The Influence of Suggestion on Suicide: Substantive and Theoretical Implications of the Werther Effect, David P. Phillips, 1974 https://www.jstor.org/stable/2094294

※2 Role of media reports in completed and prevented suicide:Werther v. Papageno effects, Thomas Niederkrotenthaler, Martin Voracek, Arno Herberth, Benedikt Till, Markus Strauss, Elmar Etzersdorfer, Brigitte Eisenwort, Gernot Sonneck, 2010 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20807970/

※3 World Health Organization : Suicide rates ( per 100,000) , by country, year, and gender.
http://www.who.int/mental_health/prevention/suicide/suiciderates/en/,2004

コメント

  1. 花の氷河期組のさくら より:

    最近の有名人の自殺者の多さから判断して、「令和版ユッコシンドローム(の類似版)」みたいなものが多く出るのでは、と思います。(実際、岡田有希子さんの事件の時も、子供心に「後追い自殺する人がいるんじゃないか。そうじゃなくても死にたいような悩みを抱えてたりとか同じような何らかの事情がある人が、事件を見聞きして『これだ!』って感じで自殺する人がいるんじゃないか」と思いました)
    私も、普段から障害を持っているので、どうしても先の話により「自殺がトレンド?」と思ってしまい、少なくとも2020年以降からは自殺を考えてしまったこともあります。

    追記:()内の内容については後者の方が多いと思います
    追記2: 警察庁の統計によりますと、統計の取り方は違いますが令和2年(2020年)より昭和61年(1986年)の方が自殺者数・自殺死亡率も多いです

    • 3674j6c5 より:

      自殺者数の推移
      コメントありがとうございます。執筆者の関本です。
      三浦春馬さんや竹内結子さんの報道から2週間は自殺者数が増えたので、「令和版ユッコシンドローム」は起きる(けれども報道には乗らない)と思われます。

      報道による後追い自殺が年間の自殺者数から見ると1割未満でしょうから報道規制はされないでしょうが、それとは別にコロナ以降の自殺者数は増えており、今後も増えると考えられます。
      警察の統計では変死扱いにして減っているように見せていますが(神田沙也加さんの件も遺書なければ変死扱いでしょう)、今後警察が自殺対策を強めてくれば「やはり流行・増加していたんだな」と推察できるでしょうね。

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