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転職と天職 -天職を見つけるための2つの問い-

自分の生き方に気づくたった一つの問いは「あなたが明日死ぬとしたら、何をしたいか」であり、自分の天命に気づくたった一つの問いは「あなたは何によって人に憶えられたいか」です。
1つ目は哲学者のハイデッガー(Martin Heidegger)、2つ目は経営学者のドラッガー(Peter Ferdinand Drucker)の言葉です※1 ※2

どちらも含蓄のある良い言葉ですが、では、それを「仕事」「職業」にまで落とし込むには、どのように考えたらいいのでしょうか。
失敗せずに天職先を探すにはどうしたら良いか、天職を目指して転職するとしたら何に気をつけたら良いかを、認知科学や生理心理学の観点から説明します。

天職とは

天職とは、自分の生まれつきの性質に合った職業という意味です。
人にはそれぞれ天命が授けられており、それに即した仕事に従事することで、自分も社会も幸福になる、といった考えから「天(=神)」の字がてられています。

適職との違い

天職と似た定義の言葉に、適職というものがあります。
こちらは自分に合っている仕事、今の能力やライフスタイルに合致している仕事といった意味で用いられます。天職と表現したときと比べ、やや広い意味の言葉です。

天職ならやりがいを感じられる?

「適職と異なり、天職であればやりがいを感じられる」といった比較をされることがありますが、これは適切ではありません。
天職でも適職でも、やりがいを感じられるときは感じられますし、おこなっていることの意味を見失うこともあります。
野球選手が「こんなものは棒で球を叩いているだけだ」と思い至っても、それが天職であればそのことは揺るぎませんし、天職でも適職でもやりがいを回復することはあるでしょう。

「やること」と「やり続けること」は違います。
やり続けているうちに疲れたり飽きたりすることはどんな仕事にもあるので、やりがいの有無だけで天職かどうか判断することはできません

「やり続ける」の話から、仕事と社会について少し触れておきます。
私たちは他人の仕事の成果の上で生活しています。
家から行き先までの道路は他人の敷いたものですし、着ている服も他人が編んだものです。
君主や貴族、指導者がいた時代や国ならいざ知らず、現代日本では全ての人が誰かの「やり続けた」仕事の上で生活しています

ある人の生活は別の人の仕事の上に成立しており、その人の生活はまた別の人の仕事の上に成り立っています。
思いつきで取り組むことと違い、仕事をやり続けることには少なからず苦痛が伴います。

苦痛は身体的・肉体的なものに限らず、頭を使い続ければ脳が疲労します。
この苦痛ストレスをどのように軽減するかが、天職を見つけるための重要な着眼点になります。

天職を見つけるための2つの問い

自分の天職に気づくための問いは、「お金を払ってでもやりたい、好きなことは何か?」「他の人は嫌がるのに、自分はそれほど嫌でないことは何か?」の2つです。
どちらかの問いに答えられれば、そこから自己理解を深められ、どちらも答えられれば、より天職に出会える確率を高められるでしょう。

お金を払ってでもやりたいほど好きなことか

労働には苦痛が伴い、どんなに適していようとそれは変わりません。
その苦痛を緩和する方法の1つが、没頭です。

作業に没頭する、理念にのめり込む、達成後の姿を想像して恍惚こうこつに浸る……。
没頭できる対象は様々ですが、没頭している間は労働の苦痛から解放され、また苦痛が頭をもたげてきても、再度没頭することで苦痛を和らげることができます。

没頭しているとき、脳内ではドーパミンというホルモンが放出され、達成感や多幸感が高まります。
同時に脳内や脊髄には鎮痛作用が働き、それまでの苦痛やつらさが一時的に脳内から消失します。
より快楽を求めて労働するようにもなるため、労働依存仕事中毒ワーカホリックに陥るリスクはありますが、多くはその前に疲労感がブレーキとなり、休息をとることで対応します。

ドーパミンは「やる」ことよりも、むしろ「やり続ける」ことに影響します。
いわゆる「やる気スイッチ」とは異なると考えた方がいいでしょう。

ただ「やる」「取り組む」のに必要なのは好奇心であり、遊び心に近い感覚です。
一方、天職を含む労働は「やり続ける」必要があり、そのためにはドーパミンによる持続的な行動回路の形成習慣化)が不可欠です。

ずっとやり続ける、毎日やり続ける姿はある種の狂気をはらんで見えますが、「好きなことを仕事に」の方法で天職に就いた場合には、こういった狂気・偏執へんしつ・変態的な「好き」が必要であり、また周囲からもそれを求められます。
コロナ禍において長期に消耗した医療従事者が大量に離職したニュースがありましたが、これも「狂気的に好きな人だけ残れ」という組織内部からの圧力と、「やるからにはそれくらい好き好んでやってよ」という組織外(世間)からの圧力に耐えられなくなった「ではない方の人たち」が離れた現象、と見ることもできます。

好きなことから天職を見つけようとするときには、「どれくらい好きか」まで自分自身を見つめてからの方が良いでしょう。

他の人は嫌がるが自分はそこまで嫌ではないか

労働の苦痛を緩和するもう1つの方法が、苦痛そのものが少ない労働を選ぶことです。
苦痛苦痛と言っていますが、苦痛の感じ方には個人差があります。

誰とも話さずに作業することにあまり苦痛を感じない人は、人に話しかけることにより大きな苦痛を感じることでしょう。
安定した企業で求められていることだけしていたい人は、スタートアップ企業で毎日やることが変わることには耐えられないかもしれません。

「何が苦痛か/苦痛でないか」を突き詰めていくと、それがビジネスチャンスに繋がることもあります。
それが可視化された例が、ココナラのような技能スキルを売り買いするコミュニティサイトです。
似顔絵を描いたりエアコン内部を掃除したりするような、「自分でも頑張ったらできるが、頑張らずにできる人がいたらやってほしい」という需要ニーズは、昔からあるものなのでしょう。

職業になるかならないかは相対的なもので、個人の感覚で絶対的に決まるものではありません。
下水掃除は苦痛だけれど、他の誰よりも苦痛でない人がいたら、それがその人の天職です。

嫌なことを書き出すと天職から遠ざかる

よく天職探しを勧める転職サイトなどで「絶対にやりたくないことも書き出してみましょう」と促されることがありますが、これは全く無意味で逆効果です。
嫌いなことの中にも「他の人はもっと嫌いだけど自分はそこそこ嫌いなこと」が含まれており、それは天職に繋がるのに、避けてしまいかねないからです。
また、仕事全般への否定によって脳が欠点探しのモードに入り、世間や社会の欠点ばかり目について嫌になってしまうリスクもあります。

天職を見つける上での4つの分類

ここまでの話を整理すると、仕事とは大まかに4つに分類できることになります。

  1. 他にも没頭できるほど好きな人もいるが、自分の方がそれより好きな仕事
  2. 自分より好きな人もいるが、それをするのが嫌いな人よりは好きな仕事
  3. それをすることがどちらかといえば嫌いだが、他の人はもっと嫌いな仕事
  4. それをすることに苦痛を感じ、他の人よりも嫌いな仕事

このうち、天職となり得るのは1~3です。
2つの問いから1~3を探し、現状とかけ離れているようでしたら、転職を考えましょう。

一方、4.に属さないように注意し、避けるための心理・生理学的な観点を1つご紹介します。

天職候補の中で避けた方がいいこと

天職に就けず悩める人の中には、4.他の人よりも苦痛に感じる、嫌いな作業に従事したために悩み、カウンセリングに来られるかたもいます。
他の人よりも苦痛に感じる理由の一つとして感覚過敏傾向があり、発達障害や発達障害のグレーゾーンのかたに多く見られます。

発達障害のかたの困難さというと、不注意(ADHD)やこだわり(自閉症スペクトラム障害)などの主症状によるものが広く知られていますが、感覚過敏や鈍麻どんまも2人に1人は有していると言われています。
発達障害のかただけでなく、一般のかたでも感覚過敏傾向を無視して職業決定した結果、大きな苦痛を感じ、持続的な就労が困難になるケースがあります。

以下に、就労継続困難に繋がりやすい感覚過敏の例を挙げます。
こういった傾向があるようでしたら、どんなに業務内容や企業理念が適しているようでも、勤務するのは避けておいた方が無難でしょう。

視覚室内が眩しすぎる、色彩豊かで目がちかちかする
聴覚人の声が絶えず聞こえる、外を走る車や工事の音が大きい、タイプ音の大きいキーボード
嗅覚職場のにおいが強い、香水や香料についての制限がない
触覚スーツ着用が義務、ユニフォームが化学繊維で編まれている
圧覚ユニフォームの締め付けがキツい、ネクタイの着用が義務
温度覚空調の調整が利かない、ユニフォームの腕まくりが禁止
前庭感覚大型の機械や工事などで床が微振動している、乗り物での移動中にも作業せねばならない
固有感覚合間に伸びや座り直しが困難、手書きの書類や手作業が多い
感覚過敏が就労困難を引き起こす例

年収の下がる天職・下がらない天職

「天職に就いたとしても、収入が下がることは覚悟した方がいい」という意見があります。
天職に就いたからといって収入が下がるわけではないことについても、少し触れておきます。

先に挙げた、仕事の4分類を思い出してください。
4分類のうち、最も収入が低いのは①他にも好きな人がいるが、自分の方が好きな仕事です。

①はやりたい人が多いため、経営者にやりがい搾取され、低賃金で働かねばならない確率が高いです。
保育、テレビ関係、アニメーター、ゲーマー、YouTuberやVTuber、心理職もここに含まれます。

次に低賃金なのが、③まあまあ嫌いな業務だが他の人の方が嫌っている仕事と、④他の人より苦痛なので嫌いな仕事です。
③の方が自分にとってはマシなので天職である可能性はありますが、給料や収入は社会の中で相対的に決定するものですので、④と同等となります。

最も高賃金なのは、②他の人は嫌いな業務だが、自分はむしろ好きな仕事です。
スポーツ選手や格闘家(体を鍛えたり怪我したりする苦痛を伴う)、キャバクラ嬢やホスト(感情労働を強いられる)、モデルやアイドル(体型や肌のコンディションを一定に保たねばならない)、医療従事者(人の死や人体損傷と接さねばならない)もここに含まれます。

天職の見つけ方

ここまで述べていたことから、自分にとっての天職とは何かをまとめます。

自分にはむしろ好んでやりたい業務であること

まず、他の人にとっては苦痛にもかかわらず、自分にとってはむしろ好ましい、楽しかったりやりがいを感じられたりする業務が主であるかどうかです。
よく「自分はゲームが好きだけど、これは仕事にはならない」と思っている人がいますが、ゲームなどお金をもらってもやりたくないという人もいるでしょう(自身の親や他の年代の人を想像してみてください。ジェットコースターが好きな人もいれば、絶対に乗りたくない人もいます)
人がやりたくないことをむしろやりたい自分に気づければ、それが天職になる可能性があります。

必ず付随してくる業務があまり苦痛でないこと

次に、仕事に就くと必然的に付属してくる業務が、4.他の人より強く苦痛に感じる業務でないかを確認します。
個人事業主なら確定申告の手続きがついてきますし、従業員になるなら毎月の勤務時間報告や他の従業員とのコミュニケーションが必ず付随します。

主業務だけしていれば後は何もしなくていいという仕事は絶滅しつつあります。
一方で、付随する業務も自分にとってはむしろ好きな業務だったり、他の人ほど苦痛に感じない業務だったりしたとき、真に「この仕事こそ自分にとっての天職だ」と実感できます。
必ず付随してくる業務が、4.他の人より強く苦痛に感じるものでないかどうか、最低限チェックしておくことが大切です。

※1 『存在と時間』, 1927, マルティン・ハイデガー

※2 『非営利組織の経営』, 2007, ピーター・ドラッガー

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