パワーハラスメント(power harassment)に関する相談件数は年々増加しています。
厚労省の調べでも、従業員の3人に1人は、過去3年以内にパワハラを受けたことがあると報告されています※1。
パワハラは受けた本人だけでなく、それを見聞きした他の従業員にもストレスになり、その生産性を低下させます。
パワハラによってもたらされるメンタル不調について解説します。
パワハラとは?
パワハラとは、権力を笠に着たいじめや嫌がらせのことです。
従業員の尊厳に悪影響を及ぼす、身体的、心理的な言動や行動、態度などを指します。
パワハラを受けた者は、悲しみ・怒り・不安・無力感・不信感といった精神的苦痛を、その後長期に渡って感じると言われています※2。
しかし、加害者側が高い社会的地位や名声を有していたり、周囲に影響力を持っていたりすることが多いため、パワハラは報告によって発見されることが少なく、パワハラを受けた者の後遺症は潜在化しやすい傾向にあります。
パワハラでなる病気は? パワハラの後遺症
パワハラによって体に生じる悪影響としては、高血圧や不整脈、首や肩を中心とする筋骨格の痛み、線維筋痛症などが挙げられます※3。
睡眠が乱れ、寝つきが悪くなったり、職場のことを考えてしまって早朝に目が覚めてしまったりもします。
「また何か言われるのでは」と気がかりで食欲が落ちてしまったり、全く摂れなくなったりすることもあります。
過度に警戒してしまう
パワハラの加害者がいなくなってからも過剰に警戒してしまったり、大きな物音や声にビクッと怯えてしまったりすることがあります。
それだけに留まらず、楽しそうな笑い声や騒ぐ若者の楽しげな声を聞くと、「気楽に笑いやがって」「こちらの気も知らず幸せそうにして」と苛立ったり、敵意を抱いたりするようになる人もいます。
こういった状態の原因は、自律神経系のうち、交感神経が優位になりやすくなったことによります。
交感神経優位になると、周囲からの刺激に敏感になり、脈が高まりやすくなったり、頭に血が上りやすくなったりします。
危険かそうでないか、敵かどうかといった極端な二極化で周囲を判断するようになり、穏やかで安らかな心境でいる時間が極端に短くなります。
怒りっぽくなり、職場でも私生活でも刺々しい言動が増えたり、イライラしてばかりになったりします。
落ち込み、やる気が起きなくなる
パワハラを受けた後に出現する症状は、警戒心や怒りやすさだけではありません。
「自分にも何か落ち度があったのではなかろうか」と落ち込んだり、気分が沈んだまま浮き上がってこなくなったりすることもあります。
職場から離れても気分が乗らず、以前なら楽しめていた趣味や人との交流にも心が動かなくなります。
気分の落ち込みや興味関心の喪失が長く続いてしまっているときには、うつや適応障害を発症している可能性が考えられます。
うつ状態とは、入眠困難や食欲不振といった身体症状も出現する、全身性の病態です。
個人の許容量を超えたストレスを繰り返し受けることで、脳と体の至るところで異常をきたします。
うつ状態は様々な精神疾患やその他の疾患でも表れることがありますが、その中でもパワハラのようなストレスで発症しやすいのが適応障害です。
落ち込みや意欲低下があるからといって、すぐに抗うつ薬を服用した方がいいとは限りません。
しかし、睡眠や食欲にまで症状が及んでいるときには、薬による治療が苦痛緩和に効果的である場合があります。
睡眠導入剤や消化機能調整薬を活用し、体調の立て直しを検討するのが良いでしょう。
頭も体も固まり、何もできない
パワハラしていた張本人がいなくなってからも、似たような人影を見る度に体が硬直したり、意識に一瞬空白が生じたりすることもあります。
されたことを思い出して涙が出てきたり、加害者にまつわる事柄や場所を避けたりもするようになります。
こうした症状の原因は、PTSDからくる自律神経系の凍りつきです。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、侵入思考・悪夢・回避を主症状とする精神疾患です。
パワハラという極度のストレスに突発的に、または長期間さらされたことで、心と体が繰り返し誤作動を引き起こすような状態になってしまうのです。
PTSDになると、あたかもパワハラを受けていたときのような体験を再びしたり(フラッシュバック)、寝ているときにも当時の体験を思い出して睡眠が妨げられたりするようになります。
自律神経系の凍りつきもまたPTSDの一症状であり、筋肉の硬直、末梢の冷感、現実感の喪失といった不動化の反応が一気に起こります。
PTSDや凍りつきの症状は、投薬による治療が非常に困難です。
それは、薬物療法がいま現在表れている症状の緩和に有効なのに対し、PTSDは過去の記憶やそれに伴う感情を扱わなければ、症状が解消しないからです。
PTSDの治療には、いくつかのカウンセリングや心理セラピーが有効性を認められていますので、お困りの際には検討してみるのも良いでしょう。
まとめ
職業や業務内容を選ぶことはできますが、自由に職場を選ぶことはなかなか難しいものです。
その職場にパワハラをする人がいるかどうか、そのパワハラによって自分の心身に後遺症が残るかどうかも、完全に予知することはできません。
私たちにできるのは、パワハラをするような加害者に出くわしてしまったときに速やかに離れることと、なるべく速くその後遺症から立ち直り、人生を前進させることだけです。
ただ、パワハラは仮に自分が遭ってはいなくても、それを目撃しただけで不安や罪悪感を抱き、PTSDになることがあります※4。
自分自身はパワハラを受けていなくとも、甚大なストレスを周囲にいても被っている可能性があることは、今後もより周知されていくべきでしょう。
当オフィスには、そういった過大なストレスからいち早く立ち直ることのできるような治療法が揃っています。
パワハラの傷が癒えないままでいらっしゃる方、効果的なトラウマ治療をお探しの方は、ぜひ一度当オフィスにご相談ください。
※1 令和2年度ハラスメントに関する施策及び現状|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001244070.pdf
※2 職場のいじめとメンタルヘルス: 横断的・縦断的データのメタ分析 https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0135225&
※3 職場のいじめ:悲惨な結果の物語 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4382139/
※4 職場のいじめと心理的苦痛:日本人従業員における縦断的マルチレベル分析 https://www.researchgate.net/profile/Kanami-Tsuno/publication/327115201_Workplace_Bullying_and_Psychological_Distress_A_Longitudinal_Multilevel_Analysis_Among_Japanese_Employees/links/5ce38bac299bf14d95abbc29/Workplace-Bullying-and-Psychological-Distress-A-Longitudinal-Multilevel-Analysis-Among-Japanese-Employees.pdf
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