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メメント・モリ -哲学的問いから掘り下げる考え・気持ち・生き方-

「死を想え」という意味で用いられるメメント・モリ。
元はラテン語の格言ですが、古代ローマやキリスト教の教えにも転用され、現代でも生き方を示す言葉として知られています。

死は身近にあるはずですが、普段はあまり意識することなく、忘れがちなもの。
その一方で、メメント・モリという言葉は知っていても、その言葉をどう受け止めたらいいか、あまりに壮大すぎてよく分からないという人も多いのではないでしょうか。

メメント・モリが私たちに突きつけるものは、カウンセリングの中でも度々取り扱われる話題とも関連する、重要な事柄です。
メメント・モリのことについて掘り下げながら、その使い方と本当の意味を考えます。

メメント・モリとは

ラテン語の警句で、「死を忘れるな」「死を想え」「死を記憶せよ」という意味です。
古代ローマでは、凱旋式のパレード中に、「今日は勝利により絶頂であるが、明日はどうなっているか分からない」ということを将軍に思い出させるために、後ろから使用人が告げる役目を担っていたとされています。

気を引き締めるための言葉とも、「今を最大限楽しもう」という意味とも言われています。

メメント・モリの使い方

メメント・モリの意味を踏まえ、哲学的な問いの形に直すと、次のようになります。

あなたが明日14時に亡くなるとしたら、どうしますか。

具体的な思考例に入る前に、陥りやすい問いの立て間違いについて挙げます。

× 人生は何が起こるか分からない

「何が起こるか分からない」という思考はいたずらに不安を煽るばかりで、あまり人生の役には立ちません。
「分からない」といった曖昧な仮定ではなく、「死が起こる」と仮定した方が、より具体的な目標と人生の明確な意義を見出せることでしょう。

× 明日死ぬかもしれない

同じく、「死ぬかも」より「死ぬ」と考えた方が、思考に真剣味が増し、正面から死に向き合えるでしょう。
「死ぬかもしれない。でも生きているかもしれない」といった不確定な状態が死を忘れさせ、死を遠くに追いやってしまうのですから、「死ぬかも」はメメント・モリの警鐘から最も遠い意味合いだと思われます。

× いつか本当に人生最後の日は来る

死を「いつか来る」と思っていては、死を想ったことにはなりません。
むしろ、メメント・モリとは「いつか来る」と思っている人に対する警句のはずです。

昨日も生き延びたのだから今日も生き延びるだろう、と考えるのが生き物の性。
そこに一石を投じるべく、「いつか」を具体的に定めることから思考は前進します。

メメント・モリの本当の意味

ここからはメメント・モリを警句として捉えながら、生き方への具体的な活かし方を考えていきます。
もう一度、メメント・モリの意味を問いの形に落とし込んだ文言で確認しましょう。

あなたが明日14時に亡くなるとしたら、どうしますか。

では、この問いに対してどのように考えていけばいいか、典型例を見ながら思考を進めていきましょう。

買い物をする

来世に持ち越せるお金というものはありませんから、使ってしまおうという発想が出てきます。
問題は「何を」買うか、でしょう。

宝石や時計など、欲しいと思っていたけれど手が出せなかった物は、これを機に購入するかもしれません。
一方、車や家など、購入後の使用が前提の物は購入を控えるかもしれません。

どんなに使用する時間が短くてもいい、買って使いたいという物が見つかったのなら、それを得るために今日から生きるのがあなたにとっての幸福です。
明日死ぬとしたら何を買いたくなるかで、今の自分の心が何で満たされずにいるかを知り、今この瞬間からそれを満たすための行動をとるのがベストです。

体験を買う

「一度でいいから高級フレンチを食べたい」や「全身エステで磨きたい」といった発想もあります。
多くの体験は有料であり、お金で買える体験なら、買い物の場合と同じく、価値観のままに体験するのが良いでしょう。

明日には亡くなるのですから、形の残る物と残らない体験との間に差はありません

寝ずに遊ぶ

時間が限られていることに着目して、14時までひたすら遊ぼうとする人もいるかもしれません。
体験を買った人は、その体験を徹夜して堪能するかもしれませんね。

ただ、徹夜して心身が不安定な状態で遊ぶのと、充分な睡眠をとって遊ぶのとでは、どちらがより「楽しい」でしょうか。
体験を余すところなく体験し尽くすためには、睡眠は充分とった方が良さそうです。

また、14時に死ぬことが決まっているとは言え、14時より前に死なないとも限りません。
睡眠不足からくる不注意で事故に遭っては、生きていられる時間が短くなる可能性があります。

これまでの不摂生が祟って10時くらいに心筋梗塞でも起こしたら、残り4時間は苦痛に悶えながら過ごすことになってしまいますので、やはり睡眠はとりたいところです。

一人で閉じこもる

怪我や事故へのリスクを避けるため、一人で家にこもる選択肢もあります。
ただ、14時には一人孤独に亡くなっていくのですから、死までの時間も一人でいたいかは、自分の心に正直に問うてみた方が良いでしょう。

死を迎えるときは誰しも一人です。
14時以降は嫌でも一人になるのですから、一人でいることはお預けでも良いかもしれません。

もちろん、関わりたくない人とのやりとりに疲れ、最期の一日くらいは一人で過ごしたい、という人もいるでしょう。
一人でいる体験があなたにとって容易いものかそうでないか、一人でいたいと思うかそう思わないかも価値観ですので、事前に考えた上で価値観を明確化しておいた方が良いポイントです。

死ぬと考えると落ち込む

いつかは死ぬと思っていたけれど、まさか明日とは思わず、大なり小なりショックは受けることでしょう。
明日死ぬことを悲しく思ったり、落ち込んだり、やっておきたかったことができないと後悔したりするかもしれません。

では、その悲しみや落ち込みに何時間割くでしょうか?

6時間落ち込んでいたら、6時間満喫する時間が減ります。
3時間だったら、3時間分他のことを満喫する時間が増えます。
5分だったら、5時間55分満喫する時間に充てることができるでしょう。
つまり、落ち込んだり後悔したりしている時間は「もったいない」のです。

生きていると、悲しみも落ち込みも「どうしようもないもの」と捉えがちです。
しかし、明日死ぬとなったら、悲しんだり落ち込んだりしている時間も含めて有限であることに気づかされます。

人間は自分の気分を自分で変えることができます。
何かを買ったり、何かをしたりすることで、気分は変えられるのです。

「死ぬことなんて考えたくない。忘れたい」と思うかもしれません。
「死の刻限なんて知りたくなかった。知らないまま過ごせていたら良かったのに」と考える人もいるでしょう。

では、そう考えるのには何時間使うでしょう?
6時間? 3時間? 5分?
取り返しのつかないことに心を割かず、刻限までの時間の使い方を計画した方がよほど有意義なことに気づくはずです。

悪事を働く

「明日死ぬのだから、いっそこれまでできなかったような悪事に手を染めてしまえ」という考えが浮かぶかもしれません。
どうしてもやってみたかったことが違法なことならやってみてもいいかもしれませんが、実行後逮捕されてしまっては、残り時間を拘置所か警察署で過ごさなければならなくなります。

銀行強盗や強盗殺人といった金品を得る悪事をしたからといって、そのお金を使うことなく逮捕されたり、死んでしまったりしては意味がありません。
いじめっ子に復讐したり、毒親に仕返ししたりしても、彼らのいなくなった世界をあなた本人は体験できないわけです。
首都高を高速で逆走する等、行為によっては死の刻限より早く亡くなる違法行為もあります。

死期が近づいているからといって、違法行為を行うのは筋が悪そうです。
悪事に手を染めるのは、思考放棄と衝動性の発散という、自暴自棄やけっぱちからくる行動と言えるでしょう。

人の記憶に残ることをする

悪事を行うことの対極として、人々を助け、誰かの記憶に残るようなことをしたいと思うかもしれません。
自分をいじめていた人への復讐ではなく、今いじめられている子を助け、いじめっ子に制裁できないかということです。

ここで少し考えてほしいのは、私たちはどれだけの人と功績を覚えているか、ということです。
徳川四代目将軍の名前、自分が産まれたときの総理大臣と実績、高校までの担任のフルネーム……。
どんなに覚えたものでも、私たちは忘れます。
残り1日だけで誰かの記憶に残ろうとするのは、難しいと思われます。

最も記憶に残る可能性が高い人は、普段から一緒にいる人――家族や同僚です。
明日亡くなるから彼らの記憶に残りたいと思うのなら、死の前日からではなく、今から彼らに優しく、温かく接しておくのが最善です。

1日で新しい人間関係を始めるより、自分を覚えていてほしい人たちと関係を築き、そういう人たちに囲まれるように、家族や同僚になりましょう

仕事する

誰かの役に立とうと考えたとき、最も効率的なのは、これまでしている仕事に引き続き従事することです。
今いじめられている子を見つけ出し、その子をいじめている子を制裁しようとしてもすぐには難しいですが、スクールカウンセラーや養護教諭として学校の中に入っていれば、見つけるのは容易でしょう。

溺れている人を見つけることはすぐできませんが、ライフセーバーや海難救助の仕事に就いていれば、そういう人を見つけ、助けることができます。
仕事に就いておくことは善行までの工程の省略化であり、いざ「良いことをしたい」「人に覚えておいてもらいたい」と考えたとき、就労はそこに至るまでのショートカットをしてくれます。

ここまで読んで「明日までにできないことばかりだ。時間が足りない」と思った方に朗報です。
あなたにはまだ多くの時間が残されています。
頭に浮かんだことをするために、今日、今から行動しましょう。

まとめ

メメント・モリを通して、自分の価値観は何か、どう行動し、どう生きるべきかを問い直してみました。
メメント・モリが示していることは、要約すると次の5つです。

  1. 得たいもの、体験したいことがあるならすぐ着手
  2. 体験したことを充分に味わい尽くすために、睡眠は必須
  3. 一人になることは死後に先送りすることも可能
  4. 感情は不変でなく、自らの行動によって変更可能
  5. 仕事し続けるのが最も社会の役に立ち、人の記憶にも残る確率が高い

死は誰かから引き受けることもできず、誰かに代わってもらうこともできません※1
「親・教師・いじめっ子のせいでこうなった」と言ったところで、彼らが死を引き受けてくれたりはしません。
死を意識することで、誰のせいにもできないものは何かはっきりし、人生の主導権を自分の手に取り戻すことができます

あなたは人生最後の日、何を得、何を体験し、何を感じていたいですか。
そのために今からしておきたいこと、治しておきたいメンタル疾患があれば、当オフィスにご相談ください。
カウンセリングは、皆様が自分の人生を味わい尽くすためのサポートをしています。

※1 『存在と時間』, 1927, マルティン・ハイデガー

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