うつになりやすい人の特徴ときけば、真面目で責任感が強く、完璧主義の人とばかり言われます。
では、うつの治し方はと訊くと、運動して睡眠をとり、健康的な食生活をと言われる始末。
そこは、「不真面目になれ、責任を放棄せよ、完璧主義を手放せ」ではないのでしょうか。
そもそも、上記のような人は本当にうつになりやすいのでしょうか。
うつにまつわる情報は、このようにはぐらかされたり、もっともらしいことを並べ立てたりばかりされています。
これは、発信されている情報が治している人によってではなく、治したこともない人によって書かれ、広められているからです。
本当に運動や食生活で治しているのなら、「うつになりやすい人は運動嫌いで、ファストフードばかりの人だ」と言えばいいだけのはずですから。
当オフィスでは、うつから回復された方々から、うつになったときはどんな特徴があったか、うつが治ったらそれがどう変化したか、新たな課題をどう捉えたらうつを予防できたかを伺っています。
薬で症状が消えたら通わなくなる医療機関と違い、症状消失後にどう変わったか治療者側が聞けるのが、当オフィスの強みです。
今回はそういった治療後の方々のお話から、どんな考え方の人がうつになりやすいか、治療後にはどんな考え方に変化するかを、厳選して5つご紹介します。
カウンセリングが必要か検討中の方は、是非チェックしてみてください。
また、うつになりやすい人の特徴を読んでモヤっとした方にも、そのモヤモヤの理由も説明していますので、お読みいただければ幸いです。
どんな人がうつになる? うつになりやすい人の一般的な特徴
まず、うつになりやすい人の特徴として、一般的に言われているものを挙げます。
- 真面目
- 責任感が強い
- 完璧主義
- 凝り性
- 自分に厳しい
- 気を遣いすぎる
- 人当たりが良い
- 周囲からの評価が高い
多くの日本人はこれらに該当していますが、うつになるのはその一部です(日本では6900万人が真面目に働いています)。
また、うつから回復した人も、こうした特徴を有したままの人はたくさんいます。
実はこういった特徴は、性格についての解像度が低かった時代の性格描写をそのまま流用しており、それが適切でなかったことが明らかになった現代でも、バージョンアップされずに使用され続けているのです。
では、どんな人が本当にうつになりやすいのか、どうなればうつと無縁の人生を送れるのか、確認していきましょう。
どんな人がうつになる? うつになる人の特徴
満点や正解があると思っている
「100点・正解というものがある」と思っている人はうつになりやすいです。
現実には満点などというものはなく、ある観点では素晴らしいものが、別の観点では全くダメといったことがあるのが現実です。
欠点や至らない点にばかり目がいく人は、心の中で理想の100点・正解を想定し、そこに「至らない」と注目しているのです。
「減点法で物事を見てしまう」という人も、これと同じ理屈です。
「100点・正解などない」と思えた人は、自己成長していくようになります。
よく休職者に言うのは、「休職中、あなたのデスクの上の書類は1枚も片づきません。しかし、あなたが復職すれば、デスク上の書類は1枚は処理されるでしょう。これでいいのです」ということです。
「仕事とは1日これくらいやるものだ」から解放されれば、やったらやった分だけ進むという、現実に即した考えになります。
他人と比較する
同じく、成果に関する認識として、人と比べ、相対化して自分の成果を評価しようとする人も、落ち込みやすくなります。
人より優れているところばかり注目できればいいですが、現実はそんなにうまくはいかず、劣っているところにも目がいってしまうものです。
また、今は人より優れているところばかり見えていても、別の基準が持ち込まれたり、時が過ぎて衰えたりと更に優れた人が現れるため、いずれ必ず落ち込みに転じます。
「人は人、自分は自分」と考えられることが、落ち込みを未然に防ぎます。
自分は昨日より成長しているか、目標に対して多少なりとも近づけているかだけ考えていれば、他と比べる必要もありません。
人間の眼球は前面にしか付いておらず、AとBを比べるのには適していますが、自分とAを比べるのには不向きです。
そもそも、自分とは24時間365日付き合いがありますが、他との付き合いは精々数時間。
自分の方の欠点ばかり目についたり、長所が殊更良いように見えたりと肩入れするのも、生物の機能として当然なのです。
人と比べるなどという構造上不向きなことは、なるべく減らしましょう。
効率化や最適化を際限なく求める
効率化や最適化を追求しすぎる人も、うつに陥りやすいです。
当初は人生や業務時間を有意義にするために効率的にしていたはずなのに、次第に効率化のために人生が振り回されるようになるからです。
「残業をすれば仕事が終わる」といった考えは、その典型です。
人生のために仕事に就いたのに、仕事のために人生を削ってしまっています。
ある程度のところまで突き詰めた効率化や最適化は、そこから非効率化・非最適化しておくことが大切です。
その最も一般的に行われているものが、業務を人に振ることです。
自分に定着しつつある業務を人に振ると、どうしても時間はかかるし、教える手間も増えます。
しかし、いざ手が回らなくなったとき教えるよりはずっと負担が軽いですし、そうせざるを得なくなったときの不満感も未然に防ぐことができます。
人手の不足した職場はストレスフルですが、仮に人が潤沢でも、こうしておかない人はうつに至ります。
即座に判断する
反射的に物事を判断しがちな人も、うつになりやすいです。
特に、嫌いなもの・汚いもの・悪いことなどがあるとすぐ拒否感が出たり、否定的な言葉が口をついたりする人は、気づかず自分を追い込んでいることが多いです。
素早く判断し、否定的なものを排除しなければ済まないのは、余裕のない人の挙動です。
反対に、判断を保留し、一旦触れたり関わったりできると、心に余裕が生まれ、それが大きな影響はないことが分かり、更に余裕が大きくなることでしょう。
忠実で従順
指示や命令に忠実で、言われたとおりに動く従順な人も、うつになりやすいです。
この理由は、主に2つあります。
1つは、失敗したとき「指示に従っただけだから」や「指示に従っただけなのに」という思考が出てきやすくなり、「自分の責任で行動選択した」という思考が獲得しづらくなることです。
同じ失敗でも、「私が決めたことだ」と思えば耐えられることでも、「人に決められたことだ」と思ったら苦痛になる、ということが多くあります。
未来について知っている人はいませんので、従順に言うことを聞くだけでは単純に失敗しやすくなる、ということでもあります。
世に蔓延しているうつの治療法で治らないケースは、まさにこの典型です。
統計的におおよそうつに良さそうな治療法というものは探せばすぐに見つかりますが、それがあなたのうつを治してくれるかは分かりません。
片っ端から手当たり次第に治療者を探し、治療法を忠実に実行しても、肝心の従順さが変わらないと、一向に治りません。
カスタマイズする技能も洗練化しないでしょう。
そういう意味では、最も日本人が陥りやすい治療の落とし穴でもあります。
もう1つは、未知の課題に取り組めなくなることです。
指示する人も命令する人も、未来のことを知っているわけではありません。
そういった人たちも「自分で考え行動した」から成功したのかもしれず、それを「言われるがまま行動した」からといって、成功するとは限らないのです。
ルールや法律に従順な人も、そのままではルール自体を変える発想が出てこなくなります。
従順な人は、自主性を放棄していないか考え、自分の頭で考え行動することで脳を活性化させることが、治療的に働く場合があります。
なぜうつになりやすい? うつになりやすくなる理由
今回挙げたうつになりやすい人の特徴は、全て未成年のときには効果的に機能した特徴です。
18歳までであれば、むしろこういった特徴を持っていた人の方が、状況や環境に即しています。
裏返し、うつになりやすい人とは、未成年のときの最適解を成人後も続けているか、ストレス負荷がかかると当時の癖が発動しやすい人と言えます。
満点や正解があると思う理由
学校のテストなら、100点が存在します。
テストでなくても、クラスのような閉鎖環境では、教師や発言力のある同級生の考えが疑似的な「正解」と見做されることもあるでしょう。
クラスでさえそうなのですから、より閉鎖的な家庭環境では言わずもがなです。
100点を想定し、そこから減点法で自分の落ち度を探そうとする傾向は、閉鎖環境にいた頃の名残と言えます。
他人と比較する理由
徒競走や学力など、一人で取り組むより競争相手と取り組んだ方が、成績が良くなる傾向にあります(ピア効果)。
また、親からの「近所の○○さんとこのお子さんは……」や、教師からの「同じ部活でも××の成績は……」のように、学生時代はとかく周囲との比較を意識させられます。
自他比較は、自分と他人を比較していた人の観点が内在化したものと考えられます。
効率化や最適化を求める理由
効率化や最適化は半ば生物の本能的なところもありますが、それを差し引いても、未成年のうちはひたすら効率化を叩き込まれます。
家庭では余計なことをすると叱られ、親の効率化に貢献すると褒められます。
学校ではいかに素早く課題を解くかが評価され、独創的なアイディアや、他が何時間かけても閃けないような難問の解決は評価されません。
むしろ、人を頼りまくってスピードアップしたり、あえて非効率なやり方に挑戦したりすることは、否定されることすらあるでしょう。
効率化や最適化もまた、日本の学校教育の賜物であり、負債です。
即座に判断する理由
未成年というのは判断力がない故、とにかく簡単に死んでしまう生き物です。
縁石の意味も分からず、「ちょっと高い歩道だろう」くらいにしか思っていないため、容易に車道側に降ります。
このとき、猛スピードで車道を走る車が鼻先でもかすめれば、「縁石から向こうは危険」と否が応でも刷り込まれることでしょう。
すぐ判断しようとするのは、この縁石のように「生きるか死ぬか」「安全か危険か」という二極でしか外部環境を判断できなかったときの名残です。
また、この判断は子ではなく、親が強い感情をもって刷り込むこともあります。
先の例で言えば、たとえ車道に車の影がなくても、車道側に降りた瞬間に「降りるな!」と怒鳴られることもあるでしょう。
分別のつかない自分への強烈な感情体験が刷り込まれ、分別がつくようになってからもその判断をやめられなくなっていることもあります。
こういった価値判断を排し、事実をただ事実としてだけ見られる精神状態をマインドフルネスといいます。
マインドフルネス瞑想は、価値判断なく物事を見るための修練の一つです。
忠実で従順になる理由
ここまでの4つは、どれも自分の身に覚えのあるような出来事であったものの、大人になった今そうなっているかというと、なっている人もなっていない人もいるのではないでしょうか。
これは、成長過程の中で「どうやらそこまで命に危険はなさそうだぞ」と考えて気持ちにゆとりができたり、「そんなに親や教師がけしかけるまま競争しなくても良さそうだ」と自己判断したりしてきているからです。
一方で、この4つを忠実に行い続ける、従順な人もいます。
親や教師からしてみれば、従順な子ほど育てやすいものはありません。
言われたとおりに効率的に動き、言われたとおりに他の子を意識して邁進し、至らないところは自分で見つけ自分で改善し、言われなくても素早く判断基準を適用させて間違った判断はしないのですから。
この従順さは、解答のある閉鎖環境ではかなり有効な生存戦略です。
しかし、現実は違います。
成人してからはむしろ、非効率なことも自己責任で試し、他など意識せず、やったことに注目して満足感を得、判断を保留できるくらいに余裕を持っている人に適した環境です。
従順な人からしたらびっくりすることでしょう。
「これまでのことは一体なんだったのか」と。
繰り返しになりますが、閉鎖環境とは右も左も分からない、分別のついていない子どもが分別をつけられるようにするための環境です。
閉鎖環境の延長線上で現実を捉えることのできた賢さを、現実に即したものにアップデートする必要があります。
「子どもの頃の環境は設計された閉鎖環境だ。シミュレーションゲームと同じだ」という気づきを促し、考えをアップデートするのがカウンセリング、といえるでしょう。
うつになりやすいタイプは? うつと人格適応論
うつになりやすい人の性格タイプをご紹介します。
人格適応論における6タイプのうち、うつになりやすいのは強迫性パーソナリティとスキゾイドパーソナリティです。
臨床的に見ても、この2つの性格タイプの人がうつの相談に来られることが多いです。
ただ、この2タイプを比較すると、両者には若干の違いがあります。
強迫性パーソナリティの人は、ここまで挙げてきた5つの特徴の多くか、全てに合致していることが多いです。
勤勉で仕事熱心であり、やるべきと思った業務や家事に対しては素晴らしい従事者となります。
学生時代にもその性質を遺憾なく発揮し、輝かしい成績を残したり、推薦入学の切符を手にしたりしています。
他方、スキゾイドパーソナリティはというと、学生時代にはあまり成績を残していることはなく、むしろ失敗体験を多く経験している方が多い印象です。
特徴としては忍耐力が強く、言われたことは確実にやり遂げる方です。
ただ、一人で空想したり創造的な考えを膨らませたりすることを好むため、閉鎖環境で集団行動を強いられることが負担であり、そこから失敗感を抱き続けてしまっていることが多いようです。
まとめ
特徴 | うつとの関連 | 治療後の姿 |
満点や正解が「ある」と思っている | 至らないところにばかり目が向く | やった分だけ達成感を得られる |
他人と比較する | 劣っているところを見つけては落ち込む | 「人は人」と区別できる |
効率化や最適化を求める | 効率化に生活の方が合わされていく | 変化に柔軟に対応できる |
即座に判断する | 何でも反射的に判断することに疲れ果てる | 判断を保留できる |
忠実に従う | 失敗したとき他人のせいにしたくなる 未知の課題に取り組めず行き詰まる | 主体的に物事に取り組める |
うつ抜けした方々のお話から、うつになりやすい人の特徴と、治療後の姿について紹介しました。
他にも、健康的な生活習慣や睡眠習慣、トラウマの有無など、個別の課題を抱えている方もいます。
自分の何がうつを引き起こし、何が別の症状を引き起こしているのかも、治療したことのあるカウンセラーと話せば紐解けていきます。
反対に、治療したことのないカウンセラーと話すと余計にこんがらがったり、新たなトラウマになったりもします。
現在、カウンセリングにかかるほど落ち込んではいないけれど、予防や再発防止はしておきたいという方は、今回ご紹介した特徴から着手してみると良いでしょう。
また、ここでご紹介した5つ以外にも、その改善の前に取り組んだ方が良い症状というものがあります。
自分の何から手をつけていいか分からないという方は、一度当オフィスにご相談ください。
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