私たちはみな、枠組みの中で物事を見ています。
「半分しか水が入っていない」と思うか、「半分も水が入っている」と思うかは、その人の持っている枠組みに左右されます。
あなたがファミレスに入り、コップで出された水に対してなら「半分しか」と思いやすいでしょう。
反対に、あなたがファミレスの店員で、水を注ぎに行くか決めるときなら「半分も」と思いやすいかもしれません。
意識的に自分の持っている枠組みを切り替え、別の枠組みから物事を見ることをリフレーミングといいます。
ポジティブな見方に切り替える方法としても紹介されることがありますが、必ずしもそうなる方法ではありません。
リフレーミングの使い方と、失敗しやすいリフレーミングの落とし穴について、臨床心理士が解説します。
リフレーミングとは? リフレーミングの定義
リフレーミング(reframing)とは、状況・経験・出来事・考え方・感情など、特定の捉え方を変える心理学的技法です。
ある枠組み(フレーム)で捉えられている物事から枠組みを外し、異なる枠組みを適用させて物事を見る方法です。
リフレーミングは、ポジティブであろうとネガティブであろうと、人の考え方の一般的な変化を指します。
試験の残り時間を「あと15分もある」と考えて気持ちに余裕を持たせることも、「あと15分しかない」と考えて取り組む速度を高めることも、どちらもリフレーミングです。
元々は家族療法の用語であり、その中で用いられる技法の一つです。
リフレーミングは、方法や切り替え方によっていくつかの種類に分類することができます。
名称 | 説明 | 例 |
言葉のリフレーミング | 一つの意味合い・印象・ニュアンスを持つ言葉を別の言葉に言い換える | 臆病→警戒心が強い、不注意→興味を持てるものが多い |
as ifのリフレーミング | ある状況や立場を仮定する | 前向きなあの人だったら、どんな風に考えるだろうか |
時間軸のリフレーミング | 過去・未来などの時間軸を使って、物事を捉え直す | まだ入職して間もない頃だったら、この失敗を失敗と捉えるだろうか |
解体のリフレーミング | 5W1Hなど、構成要素に分解して捉え直す | この先の将来が不安だが、今対処できることとそうでないことに解体したら、懸念点が明確になるかもしれない |
wantのリフレーミング | 「すること」「すべきこと」ではなく、「したいこと」に焦点を当てる | 関係各所への調整で頭がいっぱい→自分は何がしたい?そのために何ができる? |
この中でも、as ifのリフレーミングや時間軸のリフレーミングは、他のページで解説した方法に近いやり方です。
素早く視点を切り替え、より効果的なフレームに切り替えられるようにする方法は、こちらをご確認ください。
一方、文脈や前提といった対象以外のことを捉え直し、対象の捉え方ごと変えてしまうようなものも、リフレーミングに当たります。
as ifのリフレーミングに分類され、「枠組みを変える」という言葉のニュアンスに最も近いのがこの文脈や前提のリフレーミングですので、その方法を少しご紹介します。
前提や文脈のリフレーミングとは?
物事を目にしたり、情報を見聞きしたりしたとき、そういったものよりも、その前提や大前提、文脈といったものの方が、受け取り方や捉え方の多くを規定しています。
女性の髪型の方がその人の印象を規定していたり、スーツ姿の人と私服姿の人が同一人物だと、パッと見では分からなかったりするのと同じです。
前提や文脈のリフレーミングとは、そういった物事の受け取り方を規定している前提や文脈の方を切り替え、全く異なる感情や思考に変えたり、思いもよらなかった行動をとったりできるようになる、正攻法のリフレーミングです。
面接場面のリフレーミング
例えば、就活面接の寸前に「コント:就活」と頭に思い浮かべてみることが、このリフレーミングの一例です。
少しつまづいたくらいでは『そんなに大笑いされるようなことではないだろう』と気持ちを切り替えられますし、緊張が表に出て少し笑われても『ウケてる』と前向きな気持ちで面接を進めることができるでしょう。
前提や文脈のリフレーミングは、個別の事象に1つ1つリフレーミングするのではないため、全体的な見方や捉え方を1回で改変できるところが利点です。
世を忍ぶ仮の姿のリフレーミング
前提や文脈のリフレーミングは、いわば過去のリフレーミングです。
既に過ぎ去ったもの、決定されているものを想像力を駆使して広げ、結果として今ここでの事象を捉え直すアプローチです。
本来、過去は変えようもないものですが、所詮は人一人の脳内で形作られた過去の認識を変更するだけですので、それほど大掛かりな思考は必要ありません。
繰り返しますが、必要なのは想像力です。
例えば、自分は本来は計り知れない能力を持っているけれど、訳あってその能力を隠しながら人間社会に溶け込むように生活している、といったものも、このリフレーミングです。
何か目覚ましい成果を上げられていなくても、人間社会で目立ってはいけないのでむしろ成功している、というわけです。
『美少女戦士セーラームーン』の月野うさぎのように、前世では月の女王であり、現世ではそのとき生き別れた運命の人を見つけるために生きている、といったものでも構いません。
ただの妄想ではなく、自分の気持ちが前向きに変わるかどうか、その前提や大前提にある程度の納得感を持てるかどうかがポイントです。
模擬試験のリフレーミング
想像力を駆使してリフレーミングするというと、想像できない人には無理だと思ったり、所詮は想像なのでいつか我に返るのではと不安がったり、一般的な方法ではないように思われたりするかもしれません。
しかし、実際には逆です。
前提や文脈のリフレーミングこそ最も一般的なリフレーミングの手法であり、うまくいっている人ほど用いている方法です。
よくある例の一つに、模試があります。
模試を「本番のつもりで受けろ」と言われた経験は、多くの人があると思います。
しかし当然、模試は本番ではありません。
これもリフレーミングです。
それでも、模試に本番であるかのように事前に準備し、本番と同じ筆記用具や時計を使い、本番と同じ時間配分で、本番のつもりで模試に臨める人が良い結果を残しやすいのは、想像に難くありません。
「これは模試だ」と現実しか見られない人よりも、「これは本番だ」と捉え直せる人の方が、現実の方を変えていけるのです。
リフレーミングの効果とは? 目的と期待されること
リフレーミングの多くは「現実の見方や捉え方を変えたい」「ポジティブな気持ちに切り替えたい」といった目的で取り組まれます。
ただ、これらはリフレーミングの主目的ではありません。
リフレーミングの最たる効果は、枠組みからくる影響力を減らすことです。
Aという固定化された枠組みでしか物事を捉えられない人より、Bという枠組みでも捉えられる人の方が、状況にも柔軟に対応できますし、自分と異なる枠組みを持った他者の話も理解しやすくなります。
リフレーミングは、こういった柔軟な対応ができなかったり、人の話が理解できなかったりするときのストレスを未然に防ぐことが狙いです。
つまり、Bという新しい枠組みで見なければならない、そう考えなければならないわけではないのです。
リフレーミングしてみることでBの枠組みでもCの枠組みでも捉えられた、けれどAの枠組みで捉えた方が良さそうなら、それでいいわけです。
一面的な見方に固執せず、思考のストレッチくらいの感覚で取り組めるときに行うのが良いでしょう。
一方で、リフレーミングしようとしてもうまくいかなかったり、期待したような成果が上がらなかったりすることもよくあります。
リフレーミングを適用する上で念頭に置いておかねばならない注意点がありますので、そちらも確認しておきましょう。
リフレーミングの注意点
先に紹介した「言葉のリフレーミング」は、単語や文章を変えて異なる枠組みに切り替える手法です。
ネガティブなイメージの言葉をポジティブな言葉に変えることで、見えていなかった肯定的な側面や長所に気づけるようになることを目指すアプローチです。
別の言葉に変えるだけなので、手軽で簡単にできるような気がしてしまいがちですが、「言葉のリフレーミング」を用いるにはかなり注意が必要です。
意味が変わってしまったように感じる
例えば、「頑固」を「意志が強い」とリフレーミングしたとして、確かにそれによって長所と捉えられる可能性は生まれると思われます。
しかし、「頑固」はあくまでも「頑固」であり、「頑固」以外には言い表せないのではないでしょうか。
「頑固」と言えば、「変容させようという他者からの要求に容易には従わない性質」といったニュアンスを含みますが、「意志が強い」にはそういったニュアンスは含まれません。
反対に、「意志が強い」と言った場合には「自分でこれと決め、それに向かって一途に突き進む」というようなニュアンスが感じられますが、「頑固」にはそれがありません。
「頑固」は、「が」から始まる力強さと、「ん」で力を溜めるようなイメージ、「こ」で終わる硬さを一単語で表現しており、それも「意志が強い」という二文節には含まれてはいないものです。
要するに、「言葉のリフレーミング」を行うと、意味が変わっているような印象がどうしても付きまとってしまうのです。
これが、履歴書の自己アピール欄を記入するときのような、自分の長所に気づく場面ならあまり問題にはなりません。
しかし、人に「私って頑固なんだ」と話したのに、「意志が強いんだね」と返されたら、どうでしょう。
相手は肯定的な表現に言い換えただけかもしれませんが、自分としては自身を的確に描写しようと選びに選んで決めた「頑固」という単語を変えられては、『頑固な自分は受け入れてもらえない』『この人の前では意志の強い私でいなければならないんだ』と考え、話す前より気が沈んでしまうかもしれません。
カウンセリングに訪れる相談者というのは、そういった単語や文章のニュアンスや差異に敏感です。
そんな人たちに「『頑固』は『意志が強い』に言い換えましょう」といったメッセージを発してしまうと、「私は『頑固』と『意志が強い』を同意義で用いるくらいには、言葉を雑に扱う人間です」と発信していることになりかねません。
言葉を扱うプロであるカウンセラーでさえ使いこなすことが難しい言葉のリフレーミングですから、そうでない一般の方が自在に使いこなすのは更に難易度が上がります。
また、似たような言葉に変えたときにニュアンスが異なるような気がしたり、意味が変わっているように感じられたりする方は、言葉のリフレーミングではなく、別のリフレーミングを用いるのが望ましいでしょう。
ポジティブを強要されているように感じる
特にリフレーミングを用いるときに注意したいのは、「リフレーミングしてポジティブに考えろ」というメッセージとして相手に受け取られる可能性です。
どのリフレーミングの場合でも、『こう捉えてみたらいいかもよ』という提案やアドバイスと取れるおそれがあります。
行動への提案ですら抵抗感が生じることはありますから、思考への提案にはまず間違いなく反発が生じます。
人から「こう(ポジティブに)考えろ」と言われると、言われた側はほぼ例外なく落ち込み、元気がなくなります。
前向きにしようと思った提案が、逆に活気を失わせる結果に終わってしまうのです。
人にはそれぞれ経験があり、これまでに蓄積された知識があります。
人と人とが話すということは、自らの経験と知識によって形成された枠組みを話し、共有しようとすることに他なりません。
リフレーミングとは、経験と知識を踏まえてそれらを組み替えることであり、他人がそれを行うことは、経験と知識の大部分を共有してからでないと難しいでしょう。
リフレーミングは、自発的に『枠組みを変えたい』と思い、自分の想像力を駆使して行うものと認識しておくのが良いです。
リフレーミングすると意味が変わったと感じやすい人はカウンセリングへ
リフレーミングとは、物事を印象づけている枠組みから外し、別の枠組みに取り換えて見る心理学的技法です。
印象や直観といった心の働きは、対象そのものよりむしろその枠組みに反応するため、色々な枠組みを通して見ることで、単一の枠組みからもたらされる影響を分散させることができます。
自発的にリフレーミングするの対して、人に別の枠組みを提案したり、言い換えたりすることにはリスクが伴います。
リフレーミング後の意味が変わってしまっているように感じたり、「ポジティブに考えろ」と言われているような気がして落ち込んだりしてしまいかねないからです。
対話の中でリフレーミングし、新たな枠組みに気づくために欠かせないのは、相手への共感と理解です。
双方が気持ちや考え方を尊重し合い、その上でリフレーミングを行うことで、効果的なリフレーミングが可能になります。
もし、「上司や友人から見方を押しつけられている」と感じ、行き詰まり感を感じている方は、ぜひ一度当院にご相談ください。
コメント