
トラウマの定義
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トラウマ(心的外傷)とは、災害、暴力、深刻な性被害、事故、虐待などに晒されたことで生じる一連の症候群のことです。
そのようなトラウマを引き起こす経験のことをトラウマ体験、そのような体験に関する記憶をトラウマ記憶といいます。
トラウマ体験の後、1ヵ月以上経っても反応が消失しない場合、PTSDと診断される可能性があります。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、侵入思考と悪夢・回避・過覚醒・認知と気分の陰性変化を特徴的な症状とする精神疾患です。
一般的に「トラウマ」というと、トラウマ映像やトラウマ映画のように、恐怖のイメージを伴っていることが多いようです。
ショッキングなシーンや戦争映像、ホラーやスプラッター映画を想像する人もいるでしょう。
また、PTSDと聞くと侵入思考の1つであるフラッシュバックや、茫然自失としてしまう凍りつきをイメージする人もいるかもしれません。
しかし、トラウマが真に特徴的なのはそういった生理反応より、むしろ体験した人の認知が否定的なものに変容してしまうことの方です。
否定的な認知(NC)
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人は通常、「私は大丈夫」「私は助けてもらえる」といった基本的な信念を持っています。
赤ちゃんが思い切り泣くことができるのも、子どもは周囲がどう思おうと構わず痛がったり怖がったりすることができるのも、この信念を有しているからです。
これらは、基本的信念(core belief)もしくは肯定的認知(positive cognition:PC)と呼ばれます。
トラウマ体験を経験すると、これらが否定的認知(negative cognition:NC)に変化します※1。
「私は役に立たない」「人は必ず裏切る」「この世界に安全な場所なんてない」といった、本来持っていた基本的で肯定的な認知とは異なる認知に変容するのです。
否定的な認知は、自己・他者・世界・未来に関する、持続的で悲観的な解釈や思い込みと定義されます。
このうち、トラウマ症状の維持や悪化に特に関連しているのが、自己に関する否定的な認知です。
否定的な認知(自己に関する)
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自己に関する否定的認知は、今の自分自身についての否定的な考えや信念です。
例えば、「私は価値がない」「私は汚い」「私は無力だ」「私は自分自身をコントロールできない」「私は悪い」といったものがそれに当たります。
自己に関する否定的認知は自己卑下的な形態をとっていますが、その表現は否定的なイメージを言語化したものになっています。
家屋の倒壊被害がトラウマで建物に入れなくなった人の場合、「私は自分自身を守れない(危険だ)」という否定的認知を心内に形成していると考えられます。
自分自身に関する認知ですから、別の建物になっても、同行する人が変わっても建物には入れないわけです。
この治癒には、体験と感情の深い受容と認知の再構築が必要です。
自己に関する否定的認知は、多くの場合、否定的な感情を伴います。
虐待被害から「私は価値がない」と考えるようになると、落ち込み、無力感が生じやすくなります。
見捨てられ不安も抱きやすくなり、人と一緒に行動したがったり、愛情確認したりすることも増えるでしょう。
「価値がないのだからいなくなっても誰も困らない」と、希死念慮に駆られやすくなるかもしれません。
自己に関する否定的認知は、心の防衛として働いている側面もあります。
例えば、性被害に遭ったことで「あんなところに行った私が悪い」と考えることで、再び危険なところに行かずに済んだり、怪しい兆候のある人と関わらないようにしたりできることがあります。
自分を制限することで不確定な未来をコントロールしようとする試みが、否定的認知という形で表れているとも言えます。
肯定的な認知(自己に関する)
自己に関する否定的認知を有していると、人が本来持っている自分自身をコントロールできる感覚が感じづらくなります。
典型的な例だと、教育虐待のような親の過干渉にさらされたケースです。
「私は無力だ」と考えるようになると、良くないことが起きる兆候を感じたとき、「私なら何とかできる」と考えたり励ましたりできず、ただ事態を見守ることしかできなくなります。
未来のことは誰も知り得ませんが、未来への向き合い方や取り組み方が一般的な(肯定的な認知を持つ)人とトラウマ体験を経験した人とで異なってしまうのです。
トラウマ治療とは、自己に関する否定的認知とそれを獲得するに至った出来事を振り返り、本来持っていたはずの肯定的認知を再構築する作業です。
フラッシュバックが起こらなくなったり、茫然自失として頭が真っ白にならなくなったりするのは副次的なものに過ぎません。
むしろ、それで治療完了としてしまい、再発したり、人生が立ち行かなくなって更に苦痛に見舞われたりするケースが多くあります。
肯定的認知を持った人は、自分自身または未来について、可能な限り自信を持っています。
「私は大丈夫だ」「私は価値がある」「私はうまくできる」といった肯定的認知は、何ら根拠はないものですが、トラウマ体験を経験していない人にはおおよそ「そうだ」と確信している考えでもあります。
肯定的認知は楽観的で、勇気をくれ、「こう思えたらいいなあ」という希望を含んだものでもあります。
否定的認知を持っている人は、トラウマ記憶によって肯定的な認知が阻害されているかもしれません。
思い当たる方は、ぜひ一度当院にご相談してみてください。
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