都内にいる精神科医/心療内科医の数は約3,000人、第2位の大阪府(約1,500人)を大きく引き離して、ダントツの一位です※1。
心療内科を何ヵ所も受診して良い主治医を探し回っている人もいる中で、都内だけでも3,000人もいる中から相性も腕も良い心療内科医を見つけるのは、至難の業です。
ニーズに合った心療内科クリニックは、どのように見つけたらいいのでしょうか。
都内の心療内科クリニックの傾向と付き合い方について説明します。
心療内科クリニックのある場所
都内の心療内科クリニックは959軒、耳鼻科より多く、眼科より少ない程度の数になります。
ここ10年では右肩上がりで増加傾向にあり、都の人口からみると、1軒の心療内科で約14,000人をカバーしている計算になります。
都内に住んでいる人だけでなく近隣県に住んでいる人も都内へ受診していますから、実際にはもっと多くの人数を1軒でカバーしていることになります。
では、この1000軒近い心療内科の中から、自分に合った心療内科を見つけるにはどうすればいいか、まずは立地による特色を見ていきましょう。
山手線沿線
山手線沿線とその内側はアクセシビリティが高く、世界有数の地価を誇ることから、高い収益性が求められます。
手術とそれに付随する保険点数や選定療養費で収益を上げられる外科とは違い、心療内科は多くの患者を効率よく診察することでしか、基本収益性を高めることはできません。
そのため、山手線沿線とその内側の心療内科は、とにかくスピーディで効率的な診療を行えることが重視されています。
特に近年ではその短時間・高回転型の収益モデルが問題視されたのか、心療内科で一人あたりの単価を手軽に高めるものには、保険報酬が減額になったり支払われなかったりするような施策が続いています。
一例を挙げると、向精神薬の多剤投与時減額(2016年)、心理検査等の適用根拠記載(2020年)、指定医以外の通院精神療法減額(2022年)などです。
10年前と同じ診療をしていても、今の方がクリニックの収益は減っており、「良い診療」より「クリニックを潰さない診療」が求められてしまっているのが現状です。
これらは数診れば診るほど収益に繋がった時代から、必要な診療や検査を充分な手間と時間をかけておこなった場合にのみ保険料が国から支払われるという、医療費削減の時代の一端でもあります。
このような時代の流れから、山手線沿線とその内側は、ますます診療の時短化を進め、1人の医師の診る患者数をどんどん増やしていく方向へ推し進めていくでしょう。
話を入念に聴いてほしい患者からすれば物足りなさを感じるかもしれませんが、すでに服用する薬が決まっている患者にとっては1回の診療代は安く済みますし、診察後に仕事に戻りたい忙しい患者にとっては時短化は喜ばしいことでもあります。
「10分診療が自分には合っている」と思われる方は、山手線沿線の心療内科を選ばれるのが良いでしょう。
山手線外周
環状線である山手線駅には乗り入れている路線がいくつかあり、その沿線にも心療内科クリニックは各駅に複数存在しています。
乗り入れ路線沿いにある心療内科クリニックは、比較的時間に追われていないところが多く、集客数や回転率に血眼になっているところも少ない印象です。
どうしても医師とじっくり話したい、手狭な個室ではなく開放的な診察室や待合のある心療内科に通いたいという方は、山手線に乗り入れている路線沿いの心療内科クリニックを検討するのが良いでしょう。
反対に、クリニックでそんなに長時間滞在したくない、可能な限り簡潔に診療をおこなってほしいという方は、こういった立地のクリニックは避けるのが良いと思います。
ベッドタウン駅
山手線の駅まで何回かの乗り換えを必要とする駅は、閑静な環境とアクセスの利便性、手頃な地価から都内では居住地として選ばれることが多い場所です。
こういったベッドタウン駅近隣の心療内科クリニックは、どちらかというと心療内科というより精神科の色調が強いところが多くなります。
これは、主な精神科対象の疾患である統合失調症の治療に静かで刺激の少ない環境を必要とすることに起因します。
都心から離れ、自然に囲まれたところには精神科病院が建設され、そこに通院しながら社会生活を営んだり、退院後にも通院しながら社会復帰したりする人もまた自然と病院周辺で居住します。
すると、精神科病院の外来で診るまでもない患者の流入を見込んで、精神科での経験が豊富な開業医がクリニックを開院するのです。
この医師は統合失調症や双極性障害といった疾患の対応と薬物療法には強い反面、ストレス社会との付き合い方や薬以外での改善方法には疎いところがあります。
特に幻覚妄想のない、奇行や精神荒廃とは無縁の人が「精神科・心療内科」の看板だけを頼りにこうしたクリニックを受診すると、想像していたクリニックとはあまりにもかけ離れた診察と待合にびっくりしてしまうかもしれません。
うつや不眠といったストレス性の病気を治療したいとお考えの方は、どんなに静かで診療時間制限がないとはいっても、都心から離れさえすればいいというわけではない点には注意しましょう。
都内の精神科・心療内科クリニックの3つの勢力
医療がサービス業や接客業としての側面を強めて久しいですが、心療内科クリニックもその例に漏れず、新規顧客獲得に向けて日夜しのぎを削っています。
2022年6月現在、都内にある心療内科クリニックのうち、集客に成功している勢力が、大別すると3つあります。
有名メンタルクリニック
1つは、都内に上野、秋葉原、渋谷、池袋の4院を有し、2022年6月現在最大の患者数を誇る、ひらがな2文字のメンタルクリニックです。
診療所の他にも、新宿と品川にデイケア(リワーク)施設を運営しており、メンタル疾患とそこからくる休職者に対し、都市型のメンタルヘルスケアを提供しています。
開院者である理事長は、2000年代からメンタル疾患にまつわるメディア露出も多く受け、心療内科に関するマンガの原作も担当するなど、知名度と集客力では他の追随を許しません。
一方、治療内容については「医師は短時間で薬物療法、長々話すのはカウンセラー」という分業が進んでおり、また「話を親身に聞く」以上のことはされない場合が多いといいます。
ホームページも、都市名と症状を網羅的に記載することで色々な困りごとの人の検索にヒットするように作られており、随所にマンガやイラストを織り込むなど、広く浅く新規患者へ訴求するマーケティングスタイルです。
今後は治療効果や治療期間を説明したり、特定の疾患や症状を本当に治せる医師やカウンセラーを開示したりするようになることが期待されます。
慶應大学病院出身者によるクリニック
もう1つは、都内に新宿、大門、市ヶ谷などに展開している、慶應義塾系の精神科・心療内科クリニックです。
こちらの特徴は、第3のうつ治療とも言われる経頭蓋磁気刺激(けいとうがいじきしげき:rTMS)治療を軸に治療をおこなっている点です。
薬物治療、電気けいれん療法に続くrTMS治療は、磁気の力によって脳を刺激するため、副作用や後遺症が他の2つに比べほとんど出現しない点で優秀です。
慶應義塾大学病院がrTMSを実施していることもあり、そこからベンチャーマインドで開業した精神科医・心療内科医もrTMSを導入し、rTMSをキャッチコピーに集客規模を拡大しています。
rTMSは保険適用されていますが、保険での実施はハードルが高いため、自費診療や治験の名目でうつ治療に利用されているところが多いです。
機械による治療に抵抗の少ない方には好評な反面、内面を掘り下げたり過去の出来事の折り合いをつけたりは機械では行えませんので、そういった治療を希望される方には不向きな選択肢かもしれません。
その他
3つ目は、上記2つ以外の精神科・心療内科クリニックです。
都内にあるクリニックはクリニック間の連携はほとんどとれておらず、それぞれ独立しているクリニックが数も規模も最も大きな勢力となっています。
クリニックの中での治療成績やノウハウを外部に開示したり研究発表に出したりすることもほとんどないため、どのクリニックが本当に治せていて、どのクリニックは治せていないのかを判断できる基準が口コミ程度しかないのが現状です。
そんな中でも、渋谷、池袋、新宿、上野、さらには大宮、横浜と、1つ目の勢力と競うように開院時から分院展開している3文字の花の名前のメンタルクリニックや、デイケア・リワークを軸として東京駅周辺の休職中のビジネスマンを対象にしている虎ノ門にあるクリニックなど、他との差別化と独自色を打ち出しているクリニックも見られます。
加えて、受診するとなれば主治医やカウンセラーとの相性もありますから、受診前に迷われる方も多くいらっしゃいます。
当オフィスでは受診した方がいいかの相談や、どのクリニックに受診するのがいいかといった相談も受け付けていますので、お悩みの方は一度ご相談ください。
まとめ
都内の心療内科クリニックは、立地によって基本的な対応が異なります。
山手線沿線とその内側は回転率重視、山手線乗り入れ線沿線は一人ひとりにかける時間は多く個人負担も多め、更に都心から離れたところは心療内科対応より精神科対応に近い診療という特色があります。
各院の特色を打ち出してきているところもあり、分院を多く有する有名メンタルクリニック、磁気刺激治療をフロントエンド商品として集客している慶應義塾系クリニック、一つひとつ独立した治療法と治療理論を持っているその他のクリニックがあります。
人対人の診察やカウンセリングは相性も大きく関わりますが、「自分にニーズに合ったクリニックにかかりたい」という方は、通いやすさだけでなくこういった傾向も踏まえて受診するのが良いでしょう。
※1 都道府県別精神科・心療内科医師数 – とどラン https://todo-ran.com/t/kiji/13220
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