九段下駅から徒歩1分
月~土実施

ご予約はこちら

トラウマからの回復 -トラウマとは04-

トラウマとは

トラウマ(心的外傷)とは、災害、暴力、深刻な性被害、事故、虐待などに晒されたことによって生じる一連の症候群のことです。
そのようなトラウマを引き起こす経験のことをトラウマ体験、そういった体験に関する記憶をトラウマ記憶といいます。

トラウマ体験後、1ヵ月以上経っても反応が消失しない場合、PTSDと診断されることもあります。

一般的にトラウマからの回復と聞くと、フラッシュバックや悪夢の消失をイメージすることが多いようです。
しかし、過去のトラウマ体験がいち記憶となり、心的外傷トラウマ心的外傷トラウマでなくなるということは、そういった精神症状の生じなくなった状態のみを指しません。

むしろ、精神症状のなくなった状態は、治療の一合目とすら言えます。

トラウマからの回復とは

PTSDの四大症状といわれるのは、①侵入思考、②反応の亢進こうしん、③回避、④思考や気分の否定的変化です。

①侵入思考とは、トラウマ体験に関する考えや記憶が突然思い出されることを指し、フラッシュバックや悪夢もこれに含まれます。
②反応の亢進こうしんとは、外部からの刺激に反応しやすく、気が張って緊張しピリピリしているさまを言います。

PTSDから回復すると、トラウマとなった出来事を急に思い出したり、思い出した内容に強く引っ張られ、気分が悪くなったりすることがなくなります。
何か起こらないかと緊張し続けることもなくなり、穏やかさや安心感を得られます。

出来事に関連した場所や事柄を避けずに済むようになり(③)、それらに近づいたり考えたりできるようになります。
自分や未来に関する思考が前向きになり(④)、ポジティブな気分や楽観的な考え方ができる機会が増えます。

トラウマから回復したということは振り返りができるということ

トラウマ体験が過去のものとなり、その他多くの出来事エピソードと同じようになると、出来事の振り返りが冷静にできるようになります。
PTSD症状が出ていたり、出来事を思い出すたびに凍りついたりしていてはできないのが、この振り返りです。

例えば、中学のときのあなたはいじめられっ子で、同級生にいじめっ子がいたとしましょう。
振り返りのできる状態というのは、自分の卒業文集も同級生のそれも、どちらにも添削や推敲ができるような状態のことです。

自分の文集を目にした途端「ああ、当時はいじめられていたな」と思い出していては、文章の手直しなどできず、トラウマが解消したとは当然言えません。
同様に、いじめっ子だった同級生の文集を読んで添削のできない状態もまた、トラウマが解消したとは言えないでしょう。

振り返りができていないと次の被害に備えることもできなければ、防災や防犯に真に取り組むこともできません
「『トラウマは解消した』と思っていたのに再発した」と話す方が当オフィスにはよく来ますが、話を聞くと、トラウマ記憶を思い出す刺激から遠ざかっていただけであり、実は回避だったということがしばしば見られます。

過去の振り返りが可能になると、自分の周りで何が起き、自分の身に何が起きていたかを受け止められます。
これまでの主観から離れ、別の観点から出来事を眺めることで、新たな気づきを得られるのです。

いじめの例でいえば、「バカにされたと思っていたけど、相手が鼻を鳴らしただけだった」と気づいたり、「当時は『親も分かろうとしてくれていない』と思っていたけど、自分から先に諦めて親に打ち明けていなかっただけだった」と気づいたりします。
こみ上げてきていた感情を一旦脇に置き、事実関係を確認できるようになります。

場合によっては、「あまり鮮明に覚えてはいなかった」ことに気づくこともあるでしょう。
「印象的だったので詳細に思い出せると思ったが、実際には当時誰がいたかも何があったかも今となってはおぼろげで、自分の方で断片的な記憶を繋ぎ合わせてしまっていた」ことに思い至る場合もあります。

「相手の言わんとしていたことを自分の中で補完したり、勝手に『ダメな奴だ』と言われたような気がして酷く落胆したりしていただけだった」と判明するケースもあります。
「鮮明に覚えていると思っていたけれど、残っていたのは強烈な印象だけで、誰が何をしたかはあまり覚えていなかった」と思い至ることもあります。

「もう忘れかけている出来事に囚われ、感情的になっているなんて滑稽こっけい。覚えておくべきことの方が私の人生には必要で、忘れかけているということは、私の人生にはさほど重要ではないということだ」という考えに至ることもあります。
そういったことも、自分と自分の人生にとっては大切な気づきです。

振り返りによる自己の再定義

この気づきには、自己に関する否定的認知への気づきも含まれます。

「そのときから『自分はダメだ』と思っていたけれど、全然ダメなんかじゃない。むしろいじめてきた奴らの方がダメな奴だ」と気づくこともあります。
「『私は汚い。世界一汚い』と思っていたけれど、感情的に思い込んでいただけだった。私はまったく汚くなんかない」と気づくこともあります。

そうした気づきを通して初めて本当の自信が持て、真にトラウマから回復したと言えます。

まとめ

心的外傷トラウマになる出来事は特異なものであり、人間社会で生きていくために役立つ学びや教訓は含まれていないケースも多いです。にもかかわらず、人には「この経験から何か学び取らないと」「つぎ同じ目に遭わないよう教訓を得ないと」と考える習性が刷り込まれています。

これによって特殊なはずの出来事を一般化し、特殊な経験を普遍化してしまうことで、むしろ人間社会で生きていくことの方が難しくなってしまいます。
トラウマ治療は、生物として元々備わっているこういった機能を調整し、叡智えいちある人としての知恵と理性を正常に活用できるようにする取り組みだと言えるでしょう。

トラウマ症状によって生活に支障を来している方、過去を乗り越え、肯定的な自分を取り戻したい方は、ぜひ一度当オフィスにご相談ください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました