九段下駅から徒歩1分
月~土実施

ご予約はこちら

HPA軸 -ストレスに抵抗するため備わっている身体的な防御機構-

HPA軸とは

HPA軸エイチピーエーじく(Hypothamic-Pituitry-Adrenal axis:HPA axis)とは、視床下部ししょうかぶ下垂体かすいたい副腎ふくじん皮質を繋ぐ伝達経路です。
ストレス応答時にそれぞれが相互作用を行い、ホルモンによって体内の状態を制御します。
脳で知覚したストレスはHPA軸を伝い、ストレスホルモンとも呼ばれるコルチゾール副腎ふくじん皮質で産生・分泌します。

ストレッサーが知覚されると、脳の視床下部に情報が入り、それが下垂体に送られます。
下垂体は体内のホルモン分泌を司る部位であり、実際にホルモンを分泌させるため、腎臓のそばにある副腎ふくじん皮質に向けて信号が送られます。
刺激された副腎ふくじん皮質はコルチゾールを分泌し、体をストレスに抵抗できる状態に切り替えます

コルチゾールが分泌されると、血液中にエネルギーとして糖が多く入り、血糖値が高まります。
これは、外部のストレッサーに対して反抗したり、離脱したりするのにエネルギーを要するからです。

また、コルチゾールは免疫機能を一旦止め、炎症を抑える働きもします。
ひとたび炎症が起きてしまうと痛みが生じ、活動の妨げになってしまうためです。

HPA軸は何をしている? HPA軸の役割

脳がストレスを感じると、その情報が視床下部に入力され、下垂体に対して信号が送られます。
この信号を、CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン:corticotropin-releasing hormone)といいます。

CRHを受けた下垂体は、今度はホルモンを放出するよう、副腎ふくじん皮質に向けて信号を送ります。
この信号を、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン:adrenocorticotropic hormone)といいます。

ACTHを受けた副腎ふくじん皮質から、コルチゾールが分泌されます。
体が正常に機能していれば、コルチゾールが分泌されたという情報が視床下部と下垂体に届き、それによってCRHとACTHの放出が止まります。
これを、ネガティブフィードバックといいます。
HPA軸はコルチゾール産生だけでなく、その出過ぎを防ぐ機構も備えています。

HPA軸とうつ状態

うつ状態になると、ネガティブフィードバックの機能がうまく働かなくなるといわれています※1
CRHとACTHが出続けてしまうと、コルチゾールが分泌され続け、それが身体に様々な悪影響を及ぼします。

一時的に高まった免疫機能はかえって低下し、細菌やウィルスに感染しやすくなります。
体内に炎症が広がり、苦痛や不快感が増え、それがまたHPA軸を活性化させてコルチゾールを増やします。

慢性的にコルチゾールが増えることの問題として、記憶力の低下が挙げられます。
過剰なコルチゾールが脳内に入ると、海馬の細胞新生を止め、脳を委縮させます。

海馬ではニューロンを伸ばしネットワークを広げることで物事を記憶していますが、コルチゾールはニューロンの伸長を妨げ、新しいことを覚えづらくしたり、記憶したことを思い出しにくくしたりします。

うつ状態になると物覚えが悪くなり、別の考えを定着させることが難しくなります。
不快な考えが頭から離れなくなり、ぐるぐると思考が巡る(思考の反芻)のも、海馬の萎縮によると考えられます。

HPA軸とPTSD

一方、PTSDの人はネガティブフィードバックが過剰に働き、むしろコルチゾールが分泌されにくくなっています※1
コルチゾールは覚醒水準を高め、エネルギーを生み出し、炎症を一時的に抑えて活動性を高めるために必要ですが、そういったことが行われないと、ストレスを感じたときに抵抗できず、ただなす術なくストレスに晒されることになります。

PTSDの人がささいなことでもフラッシュバックを起こしたり、凍りつき反応によって頭が真っ白になったり、手足が冷えて絶望的な気持ちになったりすることも、コルチゾール産生の低下と考えると説明できるところがあります。
うつ状態にせよPTSDにせよ、HPA軸機能障害が症状に何らかの影響を与えていると考えられます。

HPA軸が疲れることはある? HPA軸と副腎疲労

副腎疲労」「副腎疲労症候群」という単語をご存知でしょうか。
コルチゾール産生を担っている副腎ふくじんが疲労し、コルチゾールが出にくくなり、慢性的な疲労感や落ち込みが生じるとされる状態像です。
病名のようですが病名ではなく、例えば論文検索のPubMedというサイトで「副腎ふくじん疲労(adrenal fatigue)」を調べると、「副腎ふくじん疲労は存在しない」という論文がトップに出てきます※2

副腎ふくじんの機能が損なわれる疾患はいくつかありますが、そのどれも副腎ふくじんが疲労して(使いすぎて)発症するわけではありません。
にもかかわらず「副腎ふくじん疲労」という言葉が広まったのは、それをあたかも病名かのように謳うことで、高濃度ビタミンCや点滴といった高額医療を受けさせ、儲けようとした医療者が、2000年前後にたくさんいたからです。

副腎ふくじん疲労という状態像が言わんとしていたことは、コルチゾール産生量の低下でした。
現在では、コルチゾール量低下は副腎ふくじん疲労によるものではなく、HPA軸の機能低下によると考えられています。
コルチゾールが分泌されず、覚醒水準が高まらないため、手足が鉛のように重く感じたり、全身がだるくなったりするのです。

HPA軸の働きを理解し、その機能低下がうつ状態やPTSD症状を引き起こしている、とだけ説明されればそれほど難しくありませんが、「だるい」で検索すると「副腎ふくじん疲労」の記事がヒットし、「副腎ふくじん疲労」で検索すると高額の自由診療が勧められてしまうため、HPA軸のことについて知ることが難しくなってしまっています。

科学的根拠のある医療に比べ、エセ医療は流行に敏感で、マーケティングを勉強し、経済活動に貪欲です。
情報発信の量とスピードは科学的根拠のある医療の比ではないため、検索エンジンに頼った情報収集では、どうしてもエセ医療発信の情報に引っかかってしまいがちです。
ここまでお読みいただいた皆さんには、HPA軸に関する知識を身につけてもらうことで、エセ医療への耐性も一緒に身につけてもらえればと思っています。

まとめ

HPA軸は、ストレスを脳から体に伝える仕組みであり、これによってストレスホルモンであるコルチゾールが産生され、コルチゾールは体全体に負荷がかかったことを知らせてくれます。
ストレスに反応した体は一時的には抵抗力を高めますが、あまりその状態が続くと、HPA軸の働きに異常が生じます。

HPA軸の役割を知ることで、ストレスがかかったときに体に何が起こっているか、体に備わった正常な反応なのかそうでないのかを理解できます。
これがあまり知られていない一因には、「副腎ふくじん疲労」を広めることで高額の自由診療を売り物にしようとした、悪質な医療機関の存在があります。

元々、「〇〇はがんに効く!」と謳っていた自由診療の一部が、「副腎ふくじん疲労に効く!」と看板をすげ替え、在庫一掃を図ったといった経緯もあります。 高濃度ビタミンCなどは、この一例です。
結果、HPA軸を説明しているところは発信力の高い自由診療クリニックだけとなり、HPA軸とストレスについての正しい情報は見つけづらくなりました。

全く同じ手法は、新型コロナウイルスとイベルメクチンでも使われています。
新たな疾患や病態が広く知れ渡ったときには、その裏に何か物を売りたい人がいることは忘れてはいけません。

メンタル疾患が疑われる人は、①自分に何が起きているのかと、②どうすれば良くなるかの、2つの情報を欲します。
先に②を求めてしまいがちですが、実は、①を知ることでかなりのストレスを減らすことができます。

すぐストレスを減らしたい方は、まず知るところから始めてみることが近道かもしれません。
ストレス関連障害かもという方は、ぜひ一度当オフィスにご相談ください。

※1 精神疾患の炎症性バイオマーカー・プロファイルと臨床的、社会的、生活習慣的要因との関連 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24789456/

※2 PubMed検索結果|副腎疲労 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/?term=adrenal+fatigue

コメント

タイトルとURLをコピーしました