人からの言葉に「グサッとくる」ことはありますか?
もしその感覚が、ちょっとした否定や無反応でも生じたら、どうでしょう?
いちいちムッとしたり、ムッとしてしまう自分を何度も責めたりするかもしれません。
感情的に疲れ、もうそのような場には行きたくなくなるかもしれませんね。
このような感覚を、拒絶敏感不快症といいます。
拒絶敏感不快症は、誰にでも起きるものではなく、非定型発達、特にADHDの人の体験しやすい症状です。
実に、ADHDの人の9割以上が経験していると言われている拒絶敏感不快症※1 ※2 ※3。
「他人も同じくらい感じているのだろう」と思っていると、それは実は症状だったかもしれません。
ADHDの拒絶敏感不快症について解説します。
拒絶敏感不快症の定義
拒絶敏感不快症(RSD:Rejection Sensitive Dysphoria)は、拒絶や批判に遭遇したとき感じる特別な身体的・感情的痛みのことです。
ADHDの一症状であり、特に成人後に多く報告される現象です。
特に重要な他者からの拒絶をきっかけに引き起こされ、「傷」と表現される程度の痛みです。
耐えがたいほどの感覚であり、その痛みを説明する言葉を、多くの人は見つけられません。
胸を刺されたような、殴られたような感覚が生じ、前かがみになり、顔をしかめ、胸の辺りを掴むような反応を示すこともあります。
一過性のものであり、数時間でベースラインの気分に戻ります。
拒絶敏感不快症チェックリスト
上記のうち、5つ以上に「当てはまる」「どちらかといえば当てはまる」場合、拒絶敏感不快症の可能性があります。
拒絶敏感不快症を引き起こすもの
拒絶敏感不快症は、拒絶や批判、からかいなどによって引き起こされます※4。
そのときの感覚は定型発達の人よりも遥かに激しく、耐え切れないほどであり、思考や行動は障害され、生活は非常に損なわれます。
拒絶
友好的に接しようと近づいたのに拒絶されたり、認めてもらおう、褒めてもらおうとしたのに拒絶されたりしたことがトリガーとなり得ます。
人に敬意を示したり、愛を告白したりしたのに拒絶される場合も含まれます。
それが実際に起きたときのこともあれば、想像した瞬間のこともあります。
からかい
からかわれた瞬間に症状が起こることもあります。
「茶化された」「嘲笑された」「バカにされた」のような考えが浮かび、恥や苦しみ、不安の感情と共に痛みが生じます。
批判
批判されたときにも症状が起こることがあります。
批判内容が建設的であったり、核心をついていたりした場合であっても、症状は起こり得ます。
自己批判
何かがうまくいかなかったり失敗したりしたとき、自己批判的な考えと共に痛みが生じることもあります。
それが実際にやらかした瞬間に起きることもあれば、そのときのことを思い出したときに起きることもあります。
拒絶敏感不快症の症状
重要な他者から拒絶・否定されたと認識すると、極度の感情と痛みが生じ、全否定されたような気持ちになります。
他にも、次のような症状が出現します※4。
- 突然の感情の爆発
- 社会的状況からの撤退
- 自傷衝動
- 失敗しそうだったり、批判されそうだったりする状況の回避
- 相手を「最悪の敵」とする、否定的なセルフトーク
- 思考の反芻と思考への固執
- 「攻撃されている」という持続的な認識と、防御的反応
拒絶敏感不快症への対処
拒絶敏感不快症への一般的な対処は、大別すると2つです。
1つは拒絶されないための絶え間ない努力、もう1つは努力をやめる努力です※5。
人を喜ばせる
トリガーとなる出来事を避けるため、周りの人がどういう人かスキャニングし、何を好むか、どのような価値観を有しているかを把握しようとします。
人々の期待に応えるべく、自己を望ましい方向に演じたり、人を喜ばせたりするようになります。
努力をやめる
人前で失敗したり、新しいことに挑戦した結果うまくいかなかったりしては苦痛を感じるリスクが高まってしまうため、そうしたリスクのある行動は極力とらないようになります。
リスクのない選択肢をとろうとしたり、何としてでもその選択肢を見つけ出そうとしたりし、苦痛の発生しそうなものはなるべく諦めようとします。
拒絶敏感不快症の治療
拒絶敏感不快症はトラウマによって引き起こされたわけではありませんが、この痛みや恥の感情がトラウマとなり後年まで生活を損なうことはあり得ます。
対人場面での感情や行動にはトラウマケアが有効なケースもありますので、お困りの際にはカウンセリングをぜひ一度ご検討ください。
拒絶敏感不快症に対する治療としては、薬物療法の有効性が提唱されています※6。
薬物療法
拒絶敏感不快症を緩和するとされているのは、グアンファシンとクロニジンです。
グアンファシン(Guanfacine:商品名インチュニブ)は、日本でも3番目のADHD治療薬として2017年に薬事承認された薬です。
アドレナリンが脳内に充満しすぎるのを防ぎ、衝動性や多動に効果的とされます。
クロニジン(Clonidine:商品名カタプレス)は、高血圧症に用いる薬であり、日本でも発売されていますが、ADHD治療への適用は認められていません。
どちらの薬も、効果のあった人は「感情の鎧をまとったようだ」と言い、服薬中にこれまで自分を消耗させていた出来事が「そもそも矢ではなかった」ことを知るため、自分に何が起こっていたか、どうすれば状況を終わらせられたかを、冷静に観察するのに役立ちます。
拒絶敏感不快症でお困りの方は、インチュニブ処方を検討できる医療機関を受診されるのも手かもしれません。
拒絶敏感不快症への対処とトラウマケアならカウンセリングへ
拒絶敏感不快症はADHD症状の一つ、感情調節不全に相当する症状です。
ただ、主観的な症状のため定型発達の人と比較できないこと、持続せず数時間で消失すること、成人ADHDに多い症状のためADHDの診断基準には採用しづらいことなどから、知名度はそれほど高いとは言えません。
一方で、大人のADHDの人の99%は経験したことがあり、そのうち3人に1人は「最も生活を損なわれた症状である」と報告したとも言われています。
脳の神経生理学的な測定方法も洗練化されてきており、この症状についても今後はより詳細なことが分かってくることでしょう。
拒絶敏感不快症のトリガーとなる出来事が内在化されると、外部からの刺激がなくても痛みと激しい感情を感じるようになり、うつ病や躁うつ病のように希死念慮を伴うようになります。
拒絶や批判のトラウマ化を防ぐためにも、反応に対処する方法をカウンセラーやセラピストと一緒に構築していくことが大切です。
苦痛を相談できるところを探している方、既にトラウマ化した症状のケアを希望される方などは、当院にぜひ一度ご相談ください。
※1 成人ADHDにおける情緒不安定性、併存疾患、機能障害 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S016503271200688X
※2 成人ADHDにおける感情的自己調整力:主要な生活活動における適応障害に対する感情的衝動性とADHD症状の相対的寄与度 https://www.semanticscholar.org/paper/Emotional-Self-Regulation-in-Adults-With-Disorder-(-Barkley-Murphy/801e7a11ade1c6c74883658eb67b35a722a6435e
※3 情緒不安定性:成人ADHDの診断における識別力 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25088514/
※4 拒絶敏感不快症についての新たな洞察 https://www.additudemag.com/rejection-sensitive-dysphoria-adhd-emotional-dysregulation/
※5 ADHDが拒絶敏感不快症を引き起こす仕組み https://www.additudemag.com/rejection-sensitive-dysphoria-and-adhd/
※6 拒絶敏感不快症って何? https://www.webmd.com/add-adhd/rejection-sensitive-dysphoria
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