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認知行動療法とトラウマ

認知行動療法の中からトラウマ治療を選択するとしたら、大人なら段階的エクスポージャー(曝露療法)、子どもならトラウマ焦点化認知行動療法(TF-CBT)がそれぞれ第一候補です。
どちらも有効性が確認されている(エビデンスがある)反面、ストレスがかかるため脱落率が高いことが難点です。

それぞれの治療法と理論的背景、その利点と課題を説明します。

認知行動療法におけるトラウマ治療法

エクスポージャー(曝露療法)

徐々に不安を高めていく段階的エクスポージャー

曝露療法 exposureは、不安や不快感の原因に少しずつ触れていくことで、感情を消していく方法です。
不安階層表などを作成して段階的におこなっていくため、段階的エクスポージャーとも呼ばれます。

トラウマやPTSDの場合には、対話やイメージを用いたもの(想像エクスポージャー)と実際の場所や物に近づいていくもの(現実エクスポージャー)を段階的に設定したり並行して実施したりすることで、不安感や恐怖心を克服していきます。
一般の方が想像してみれば分かると思いますが、実施には苦痛が伴うため、脱落率の高い治療法です※1

トラウマ焦点化認知行動療法(TF-CBT)

子ども用に開発されたTF-CBT

トラウマフォーカスト認知行動療法(Trauma focused cognitive behavioral therapy)は、アメリカで子ども用に開発された、トラウマ治療用の認知行動療法です。
親や養育者と一緒に進められるのが特徴で、トラウマイベントや症状についての心理教育から呼吸法などのリラクセーション法までを手続き通りに行うことによって、PTSDやトラウマイベント後のうつに対して有効であるとされています。

トラウマ治療の原理(認知行動療法の場合)

現在エビデンス(科学的根拠)の確認されている認知行動療法の多くは、条件づけの理論に基づいて成立しており、トラウマ治療の場合も同じく条件づけの理論を背景に成立しています。

条件づけ

生理的反応を引き起こすよう学習させる古典的条件づけ

条件づけとは、一定の操作によって特定の反射や反応を引き起こすよう学習させる手続きのことです。
条件づけには、古典的条件づけ(レスポンデント条件づけ)とオペラント条件づけの2つがありますが、ここではその区別は省略します。

トラウマ症状は、古典的条件づけによって身体的に学習されています。
トラウマになった出来事に付随した刺激(US:大声、閉所、男性など)に、トラウマ時の反応(UR:息苦しさ、腹痛、解離など)が条件づけられてしまい、刺激の兆候があっただけで反応してしまったり、刺激そのものを回避したりしてしまうのです。

行動主義心理学の創始者であるJ. B. ワトソンは、こういった恐怖心を伴った結果成立した条件づけを恐怖条件づけと呼びました。
彼の有名な論文の中に、アルバート坊やの例があります。

アルバート坊やは1歳になるかならないかの幼児でしたが、ラットを抱いたときだけ空のバケツをガンガンと鳴らすような大きな音を聞かされることで、ラットを抱いただけで泣くようになりました。
ラットだけでなく、他の動物やぬいぐるみなどのふわふわしたものを抱いても泣くようになったアルバート坊やの例は、恐怖条件づけや般化(1つの条件づけ学習が他にも学習されること)の代表例として、広く知られるようになりました。

エクスポージャーやTF-CBTはどちらも、刺激に徐々に近づいていったり刺激に関する話をしたりしながら反応が起こらない経験を繰り返し、刺激と反応の条件づけを消去する手続きになります。 

消去

消去 extinctionとは、条件づけの回数や頻度が減り、条件づけられなくなることです。
自分を取り巻く環境からの応答がなく、次第に行動が減っていくことを指します。

条件反射や条件反応において、刺激のみ繰り返し呈示されても反応が次第に起こらなくなっていくと、消去が成立します。
トラウマ症状の場合、トラウマ記憶にある刺激(大声、閉所、男性など)を何度も思い出したり実際にさらされたりしても反応(息苦しさ、腹痛、解離など)が起こらない体験を繰り返せば、トラウマ症状を消去することができます。

消去抵抗

条件づけられた行動や生理反応を消去しようとすると、かえってその行動や反応が増えることがあります。
いきなりやめようとすると脳や体がその度に抵抗し、習慣を元に戻そうとすることを、消去抵抗といいます。

また、消去しつつあるときにささいな刺激でかえって問題行動や大きな生理反応が起きることを、消去バースト(反応バースト)と呼びます。
ダイエットしているのに体重が一時的に下げ止まるのと同じく、消去抵抗や消去バーストが起きても動じずに続けていくと、問題行動であれ生理反応であれ消去できます。

トラウマ治療と脱落率

ここまで読んでみて、「エクスポージャーって大変そう」「私には消去できなそう」と感じた方がいたら、その感覚は一般的だと思います。
エクスポージャーからの脱落率は20%前後とも言われており※1、治療適応外とされて研究対象とならなかった人や結果が出ずに発表されなかった研究まで含めれば、更に多くの人が脱落したとみられます。

エクスポージャーは、アメリカで有効性が認められている唯一の心理療法ですが※2、有効かどうかは治療を受けた人と受けていない人との差によって検討されるため、途中で脱落した人数については、別に調査しない限り明かされません。
検索サイトで「エクスポージャー」と検索すると「エクスポージャー つらい」といったサジェストが上位に挙がるように、認知行動療法によるトラウマ治療は苦痛とそれに対する強い意志を要するのです。

古典的条件づけと消去の原理が世に出たのは1903年、恐怖条件づけとアルバート坊やが論文になったのは1920年と、どちらも100年以上前の理論です。
その間、精神的苦痛やストレスを取り巻く世の中の状況はどんどん変化している中で「心理療法」なのに「ストレスがかかる」という構造は、時代遅れになっているのかもしれません。

もちろん、治療にかかる精神的苦痛や脱落を防ぐ方略を認知行動療法が全くおこなっていないわけではありません。
エクスポージャーと同時に系統的脱感作や筋弛緩法などのリラクゼーション法を実施したり、段階的エクスポージャーによって小さな刺激から取り組んだりすることで脱落防止に力を入れてきましたが、脱落率のめざましい改善にはなっていないのが現状のようです。

脱落しにくいトラウマ治療ならブレインスポッティング

トラウマティックなイベント経験者に行われた心理療法の比較
ブレインスポッティングの治療実績

トラウマ症状と自律神経症状について説明可能にしたのが、1994年に発表されたポリヴェーガル理論です。
この理論は、これまで交感神経と副交感神経という2つでしか分類していなかった自律神経を3つで説明したこと、トラウマとなるようなストレスにさらされたときに神経系に何が起こっているのかを説明したことが画期的でした。

ブレインスポッティングは、このポリヴェーガル理論を背景に脳と体の神経系に働きかけるトラウマ治療法です。
グランド博士がEMDR中に発見した治療法であり、アメリカの銃乱射事件後のトラウマケアでは高い治療効果が確認されています。

エクスポージャーやトラウマ焦点化認知行動療法は、治療効果に関するエビデンスはありますが、事件や災害の際に脱落率の高い治療の採用はリスクであり、脱落させれば相談者のその後の人生にも暗い影を落とすことになりかねません。

東京カウンセリングオフィスでは、認知行動療法の諸理論も踏まえた上で、その治療効果を最大限発揮しながら、脱落率の低いトラウマ治療をおこなっています。
トラウマや自律神経症状でお困りの方は、ぜひ一度当オフィスにご相談ください。

※1 Dropout from psychological therapies for post-traumatic stress disorder (PTSD) in adults: systematic review and meta-analysis, Catrin Lewis, Neil P. Roberts, Samuel Gibson, and Jonathan I. Bisson, 2020 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7144189/

※2 エビデンスに基づいたPTSDの治療法, 飛鳥井望, 2008 https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1100030244.pdf

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