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自己肯定感

自己肯定感とは、自分のことを肯定的に捉える感覚のことです。
心理学的には「自分自身のあり方を概して肯定する気持ち」と定義されます。

ビジネス書や自己啓発系の書籍にもよく取り上げられる自己肯定感とはいったい何なのでしょうか。
知っているようで知らない自己肯定感について、治療的観点も踏まえて臨床心理士が説明します。

自己肯定感が低い人の特徴

自己肯定感が低いと、自分の存在・行動などを否定的に捉え、自分を取り巻く環境や未来についても否定的になり、結果として様々なシチュエーションで苦痛を感じるようになります。
それ以外にも、自己肯定感が低い人に共通しやすい特徴を5つ挙げます。

人からどう見られているか気にする

容姿や服装などが「おかしくないか気になる」というレベルではなく、自分の存在が不自然でないか、人の意識の邪魔になっていないかを恐怖に近い感覚で気にします。
そのため、新しい環境や人に対して緊張しやすく、しかしそのことを表に出さないことにも長けている方が多いです。

人目を気にするあまり、あえて目立つ服装や奇抜な髪型にして「注目を集めている状態がむしろ自然」という状況を作り出す方もいます。
こういった人たちは周囲を威嚇したりマウントをとったりしたくてそのような外見にしているわけではありませんので、行動レベルでは奇行に走ったり目立ったりはしません。

褒められることが苦手

そもそも人から注目されることが好きではないため、人前で褒められたり賞賛されたりすることに苦手意識を持っています。
褒められると謙遜したり、むしろ欠点を自ら挙げたりするような行動パターンが確立しています。

細かい点に注意を払う

言葉遣いや文面などの細かいところに注意が向きやすく、些細な変化にも気づくことが多いです。
自分の頭の先から爪先まで意識を向けており、またそのように意識を向けることを他者にも求めます。細やかな気配りやちょっとした配慮のできない人が嫌いで、そういった人とは距離を置く傾向にあります。

親から「川から拾ってきた」と言われて育ってきた

「お前は川べりに捨てられていたところを拾ってきた子」「お父さんから産まれてきた子だから私(母)に似てないの」といった冗談を幼少期に聞かされてきたケースも少なからずあります。
大人が聞けば即座に冗談だと分かるような言い方ですが、そういった高度な文脈(コミュニケーション)を理解できない幼少期にはその文言を真に受け、親に心の底からの安心感を抱けないまま成長してしまいます。

自分の顔や体型から親と似ていないところを無意識に探したり、血液型が両親と同じことを知ったときにホッとしたりします。
成人してからも親と似た特徴の人に何となく恨みの感情がわいたり、嫌悪したりしがちです。

うつ病になりやすい

自己肯定感の低さとうつ病のなりやすさには相関関係があるとされています※1
特に自己肯定感の低い人は、死ぬことによっても注目を集めたり迷惑をかけたりすることを避けたいと思い、しかし現状のつらさから「消えたい」「いなくなりたい」といった表現で控えめに苦痛を訴えてくることが多いです。

自己肯定感が低い理由

自己肯定感も恥の感情も言語獲得以前の感覚とされている

生理・心理学的な観点から自己肯定感の低さを説明するために、恥という感情について少し触れておきます。

「恥ずかしい」という感情は1歳以前、発語が始まる前には生じているとも言われています。
この恥を感じるようになった時期に適切な養育を受けて安心感を得られないと、自己肯定感が低くなると考えられます。

低い自己肯定感(否定感)はその名の通り「感覚」ですので、言葉でどんなに「自分には価値があるんだ。否定するところなんかないんだ」と唱えても、一度その感覚に触れてしまうと拭い去れないところがあります。
同じく恥も言語獲得以前の「感覚」ですので、言葉として頭に浮かんでくるより早く感じられ、それが迷走神経を通して体中に変化を引き起こします。

自律神経系が耐性の窓の枠外に出るとシャットダウン(凍りつき)が起きてしまう

ポリヴェーガル理論によれば、恥の感覚は背側迷走神経連合群を優位にし、頭では何も考えられなくなり、手足は冷え、首やのどの筋肉は緊張して息苦しくなり、その状態が続くと孤独感や絶望感に襲われます。
何か失敗したときによく「終わった」という言葉が頭に浮かぶことがありますが、自己肯定感の低い人はこの「終わった」という感覚を恥の感情と共に感じやすいのだと思われます。

恥は人間として社会生活を送る上では必要な感情でもあります※2
社会規範に照らして「間違った行動をとったとき」それを修正してくれるのが健全な恥の感情であり、それに対して、周りに人がいるところで失敗して過剰に恥ずかしい思いをしたり叱責されたりしたときに生じるのは不健全な恥の感情です。

自己肯定感の低い人は幼少期にこの不健全な恥の感情を繰り返し感じたため、背側迷走神経優位の状態に入りやすくなっていると考えられます。
これが自己肯定感が低くなる原因の一つです。

子育てをされたことがある方はご存知かと思われますが、生まれつき恥ずかしがり屋な子や人見知りの子というのもいます。
遺伝子研究によって生前から恥の感情を感じやすい人がいることが分かっており、この人たちは生まれつき背側迷走神経優位になりやすいと考えられます。

また、自己肯定感の低さが1歳以前にあるからといって、養育者である親の問題とも言い切れません。
親も不健全な恥の感情を感じるようにしか育てられておらず、そういった育て方しか知らない親が同じことをそのままわが子にもしてしまう現象を、心理学では世代間連鎖と言います。

自己肯定感にまつわる誤解

自己肯定感は「高い」「低い」と表現することから、自信と混同されやすいです。
こういった、書籍やネットにある誤解によって傷つく方がいないよう、ここで5つほど説明しておきます。

× 自己肯定感が高くなりすぎると自信過剰になる

高い自己肯定感は本人にとって「恥ずかしくない」という感覚として認識され、健全な恥によって場に則した行動がとれるので、自信満々になったり過信したりする行動とは無関係です。
自己肯定感と自信を混同している典型と言えます。

むしろ、威張ったりオーバーアクションをしたりするのは低い自己肯定感の現れです。
恥をかきたくないので他から借りてきた行動規範をそのまま演じ、内面の不安を隠したり自分への批判を逸らしたりしたいのです。

× 自分の「ありのまま」を受け入れると自己肯定感は高くなる

ありのままを受け入れている人でも場にそぐわないことをすれば恥の感情を感じますから、自己受容と自己肯定感は関係ないと考えられます。
「ありのままを受け入れなければ」と自分を追い詰めず、恥の感情が生じてもシャットダウン(背側迷走神経優位)にならないようにするのが良いでしょう。

自己肯定感が低いのは自分を価値ある存在と認めていないから、というのも誤りです。
自分の価値を認められないのは背側迷走神経優位になってしまうからであり、自律神経系がそのようになってしまえばどんな人でも自分を無価値で誰からも助けられないちっぽけな存在に感じるものです。

× 自己肯定感が低いと他者依存的になり、行動の責任を他人に押しつける

不健全な恥の感情は安全・安心の感覚を奪いますので、むしろ誰にも頼れない感覚に陥り、孤立を深めがちです。
他者に依存できる人は他人を信じ自分を「助けられる価値のある者」と認識していますので、自己肯定感は低くないと思われます。

行動した結果に責任を持てず、それを「人に言われたから」と押しつける人もいますが、自己肯定感の低い人がそうするとは考えづらいです。
過剰に恥の感情を感じているために他に責任があるときすら自責の念に駆られ、何事もなかったかのように穏当に済まそうとすることの方が多いでしょう。

× 自己肯定感の高い子(人)にするためには叱ってはいけない

叱られなければ社会では何が正しく何が正しくないのか子どもには(大人にも)伝わりませんので、叱責することは必要です。
叱られた後で泣き出した子を抱きしめ、感情反応をなだめ、存在を否定したわけではないことを伝えるようなアフターケアが、自己肯定感を育みます
反対に、叱られた後で泣いても無視し、放っておくことで子どもは背側迷走神経優位の状態から回復するすべを体得できなくなりますので、自己肯定感を獲得できなくなる確率は高まります。

学童や成人の場合も同様で、衆人環視の中では恥の感情が強まるので叱らないこと、叱った後で落ち着くまで話を聞いたり見守ったりすることで自己肯定感の低下を防げるでしょう。

自己肯定感は誰にでも備わっている、というのも誤りです。
遺伝的要因から自己肯定感が低くなりやすい人はいますし、本人以外の者が上記のような丁寧な養育をしなければ獲得できないスキルだと思います。

× ポジティブな側面に目を向ければ自己肯定感は高まる

自己肯定感は恥の感情を基盤にした「感覚」ですので、ポジティブな側面に目を向けたりポジティブシンキングでセリフを唱えたりするだけでは変わりません。
言語以前の「感覚」を取り扱うには、言語以外のもの――光・音・ふれあいによって変化を促す必要があります

筆者はかつて認知行動療法(CBT)によって自己肯定感を高めようと治療に取り組んだことがありましたが、治療成績はあまり良いものではありませんでした。
CBTの技法の一つである認知再構成は言語を用いたアプローチであり、頭に浮かんでくる文言を変えたくらいでは一歩カウンセリングルームを出るとまたすぐに感覚が戻ってきてしまうケースが多かったです。

自己肯定感の高め方

自己肯定感の根底にある不健全で過剰な恥の感覚を、健全な恥の感覚にする方法を3つご紹介します。

自分らしくいられる人と関わる

安心感のある人、自分のことにうるさく口出ししてこない人と一緒に過ごしているとき、恥の感覚は適度な規範意識として働きます。
一人で過ごしている方が楽かもしれませんが、低い自己肯定感を改善したいのであれば、そういった自分らしくいられる人との時間は意識的に設けるようにすることが望ましいでしょう。

リフレーミング

恥の感覚は不快な場合がありますが、健全な恥の感覚であれば社会適応的であり、集団生活を営む中ではむしろなくてはならないものです。
逆説的ですが、低い自己肯定感も恥の感覚も「高めなくていい」「治さなくていい」と割り切ってしまうことで不快感を軽減させることができます。

また、自己肯定感の低さから身に着けた注意力は自分を「気遣いのできる人」にしてくれたかもしれませんし、人目を気にして周囲から浮かないように自分を律する力は自分を「根気強い人」にしてくれたかもしれません。
自己肯定感ではなくその結果身についた特性に目を向けることによって、自然と健全な恥の感覚へ移行させることができます。

個人カウンセリングを受ける

狭くなった耐性の窓をひろげることで自己肯定感を獲得できる

二人きりの状況で、安全が確保された場所でのカウンセリングを行うことで安心感が醸成され、シャットダウン(背側迷走神経優位)を起こしにくくなります。
そういった目的から、カウンセリングルームは光刺激を抑え、大きな物音や重低音がせず、暑すぎず寒すぎずの環境が整えられています。

当オフィスのようなソマティック(身体)心理学に基づいた治療を実施しているところであれば、より自律神経系に効果的な介入を行えることでしょう。
自己肯定感の低さを感じずにはいられないような過酷な状況に身を置いている方は、専門家の力を借りることも選択肢に入れていただければと思います。

まとめ

自己肯定感とは恥の感情を基盤にした言語獲得以前の感覚であり、自己肯定感が低いと恥ずかしさから人目を過剰に気にしたり、注目を集めることから回避したりします。
恥の感覚は自律神経系を背側迷走神経優位の状態にするため、思考が止まったように感じたり絶望感を抱いたりし、更に自己肯定感を低下させるという悪循環に陥らせます。

自己肯定感を高めるには、自分らしくいられる他者と一緒の時間を過ごしたり「低い自己肯定感でも良い」とリフレーミングしたりし、少しずつ安心感を醸成することが有効です。
生理心理学レベルからの介入であるソマティック心理学的アプローチなど、心理カウンセリングによる方法も自己肯定感の改善が期待できますので、自己肯定感の低さにお悩みの場合にはご検討ください。

※1  Stability of self-esteem as a moderator of the relation between level of self-esteem and depression., Kernis, Michael H. Grannemann, Bruce D. Mathis, Lynda C., 1991 https://psycnet.apa.org/record/1991-33384-001

※2 レジリエンスを育む―ポリヴェーガル理論による発達性トラウマの治癒, K.L.ケイン, S.J.テレール, 2019

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