医療イノベーション
イノベーションとは技術革新とも呼ばれ、新技術、新発明、新発見によってもたらされるものと考えられていました。
その中で医療イノベーションは「医薬品、医療機器や再生医療をはじめとする最先端の医療技術の実用化」と定義されます。
しかし、実はイノベーションは新しい技術によってもたらされるばかりではないのです。
アメリカの経営学者、クレイトン・M・クリステンセンが提唱した医療イノベーションとメンタル医療の未来について解説します※1。
2種類のイノベーション
イノベーションを性質から大別すると、持続的イノベーションと破壊的イノベーションに分類できます。
違いを分かりやすく説明するために、電気ポッドと電気ケトルを例に挙げましょう。
電子ポットは1970年代に販売されました。
最初はワンタッチでお湯が沸くことが売りでしたが、企業努力によって改良が進み、逆流弁がつき、安全ロックがつき、保温時間が長くなり、今ではスイッチ一つでお茶を煎れることまでできるようになっています。
一方、電気ケトルがティファールから発売されたのは1986年、日本では2001年からでした。
電気ポッドと比べ、機能はお湯を沸かすことしかできないものの、今や一人暮らしには欠かせない商品であり、電気ポッドはない家でも電気ケトルはあるという家がほとんどかと思います。
この、電気ポッドの歩んだ進歩が持続的イノベーション、電気ケトルの登場が破壊的イノベーションに当たります。
持続的イノベーション
持続的イノベーションとは、改善と改良によって製品の性能を高めるイノベーションのことです。
電気ポッドで言えば、最初に販売された製品より次の製品の性能の方が良く、機能は追加され、新技術も次々と追加されていった過程がそれに当たります。
持続的イノベーションは、性能の向上が進むにつれて価格も高くなっていきます。
これは新技術が導入されることによって機能が増えたりよりコンパクトになったりするため、自然と高価にならざるを得ないからです。
持続的イノベーションの例は身近にありふれています。
機能の増え続けるスマホ、より速く処理できるPC、より大画面で高画質になるテレビなどは、持続的イノベーションの賜物です。
破壊的イノベーション
一方、これまでの製品をより単純なものにし、より手頃な価格で手に入れられるようにするのが破壊的イノベーションです。
電気ケトルはお湯を沸かす機能だけを取り出し、その代わりに安価で入手できるようにしました。
電気ポッドと違ったのは、購入するターゲットを変えた点にあります。
電気ポッドは主婦層をターゲットにしていましたが、電気ケトルは一人暮らしや高齢者など、多くの機能を求めない層をターゲットにしました。
そうすることで電気ケトルは電気ポッドと競合せず売り上げを出すことができ、ついには電気ポッドを市場から淘汰するまでに成長したのです。
実はこうした破壊的イノベーションは、現代では様々な分野において目にすることができます。
レコードはCDへと改良されましたが、今やiTunesやSpotifyなどの音楽配信サービスに淘汰されつつあります。
テレビ番組は白黒放送からカラー放送に進歩しましたが、現代ではテレビ局ほど高価な設備でなくても、自宅で動画を録画・編集でき、You Tubeで配信することができます。
こうした持続的イノベーションと破壊的イノベーションは、製品やサービスといったものに留まりません。
新規参入の難しいとされている医療分野や医療機関でも、このような破壊的イノベーションは出現しつつあるのです。
総合病院におけるイノベーションの例
現代の総合病院には様々な機能が詰め込まれています。
パッと思いつくだけでも診断機能と治療機能がありますし、その2つがそれぞれ新たなテクノロジーによって技術的に進歩しています。
かつては血液検査やレントゲンだったものが脳波検査やMRIに進歩し、新薬の登場は効用も販売価格も上昇させ、内視鏡手術やロボット支援手術はこれまでより体への負担を減らしたぶん金銭的負担を増やしています。
これらは全て持続的イノベーションに当たるものです。
これに対して、破壊的イノベーションの例として、自宅での採血検査が挙げられます。
まだおこなったことのある人は少ないかもしれませんが、現在は採血キットが自宅に届き、自分で採血して郵送するだけで血液検査の結果を知ることができるようになっています。
このシステムでは凍結保存や遠心分離を必要とするような検査はできませんので病院で行う採血検査より分かることは限定的ですが、家から一歩も出ずに行える手軽さと、何よりコストが安いことから今後の採血検査市場を席巻するでしょう。
他にも、心電図を取れるiPhone、どこでも行えるインスリン注射、単一の病名の患者の手術だけを請け負う専門病院などは破壊的イノベーションを実践しているといえます。
東京カウンセリングオフィスの挑戦
では、精神科・心療内科病院やクリニックに次に起こるイノベーションとは何でしょうか。
一つは、間違いなくリモートミーティングシステムを利用した遠隔診療です。
しかし、遠隔診療は専門家のアドバイスを受けたり「これをやっても(この薬を飲んでも)大丈夫か」と訊いたりすることはできますが、うつや不安、トラウマといった疾患を治療するところまではいかないでしょう。
メンタル治療は言葉だけでなく会話の間や表情の変化、リアクションのタイミングといったコミュニケーションの機微によって治療効果を発揮するところが大きく、その点こそ遠隔診療が苦手としているからです。
そこで当オフィスは、対面カウンセリングにこだわり、病院やクリニックよりも低価格で手軽に受けられるカウンセリングオフィスを目指して設立されました。
破壊的イノベーションは規制の届かないところから始めるべきという原則がありますが、当オフィスも病院ではありませんので、医療法の制限や認可を必要としないため、素早く全国展開できるような仕組みになっています。
また、うつでもパニックでも何でも診なければならない心療内科・精神科クリニックとは違い、当オフィスは薬を処方することもできなければ休職診断書を発行することもできない、限定的な機能しか有していません。
その代わり、トラウマ治療とその二次的症状としてのうつ状態については、確立されたプロセスと治療実績を持っています。
現在、トラウマやPTSDに対して国内で承認されている治療薬がないことからも、当オフィスは医療の規制を超えたところに位置づけられる治療院だと言えるでしょう。
今回は取り上げませんでしたが、他のカウンセリングルームではおそらく導入されていないテクノロジーも当オフィスではいち早く取り入れられているため、今後カウンセリングルームがいくつ増えても対応できるようになっています。
今はカウンセリングを必要としていない方も、東京カウンセリングオフィスの名前だけでも覚えておいていただけますと、いつか当オフィスがお役に立てる日が来るかもしれません。
※1 医療イノベーションの本質-破壊的創造の処方箋, クレイトン・M・クリステンセン, ジェローム・H・グロスマン, ジェイソン・ホワン, 2015
コメント