現在NHK大河ドラマで放送中の『鎌倉殿の13人』。
三谷幸喜脚本作品ということで、毎週楽しく観ています。
先週の放送にて北条宗時(演:片岡愛之助)の語った「武士の世」というセリフがとても奥行きを持った良い言葉でしたので、現代のイノベーション論を引き合いに出しながら紐解いていきたいと思います。
鎌倉殿の13人とは
『鎌倉殿の13人』は、2022年1月9日から放送されているNHK制作のテレビドラマ。
大河ドラマ第61作。脚本は三谷幸喜が務める。平安末から鎌倉前期を舞台に、源平合戦と鎌倉幕府が誕生する過程で繰り広げられる権力の座を巡る駆け引きと、その勝利者で北条得宗家の祖となった北条義時を主人公に描く。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8E%8C%E5%80%89%E6%AE%BF%E3%81%AE13%E4%BA%BA
武士の世とは
2022年2月6日に放送された第5話終盤、北条宗時(演:片岡愛之助)は弟である主人公、北条義時(演:小栗旬)に「武士の世」を目指して行動していたことを初めて語ります。
それまではお調子者で熟考とはほど遠く、口ばかりで実際に奔走する役は義時に押しつけてきた宗時でしたが、実は誰よりも北条家の、更には武士の未来のために行動していたことが明らかになるシーンです。
実際、この後の歴史を見れば、擁立した源頼朝(演:大泉洋)は鎌倉幕府を開き、その没後は義時を始めとする13人の執権が鎌倉幕府最高指導者として政を成します。
北条家だけ見ても見事に権力の中枢に入ることに成功していますし、武士として見れば江戸幕府が終わるまで700年近く続く武士の世の礎を築いたとも言えます。
しかし、ここで一つの疑問が浮かびます。
宗時が「武士の世」と語ったのは1180年であり、武士であった平清盛が既に権勢を奮っていた時期でもあります。
平清盛が政の中心にいることは、「武士の世」になったことにはならないのでしょうか。
宗時は北条家が大きくなり、権力を握ることを「武士の世」と言っているのでしょうか。
平清盛が達成したのは現状の延長線上の繁栄
『鎌倉殿の13人』以前、平清盛もまだ名をはせていなかった頃、武士は朝廷(天皇家)の警護が関の山で、基本的には武力を持たない公卿や貴族に代わって暴力を行使する、野蛮な家業でした。
次第に朝廷や貴族間の争いの中で武士は徐々に台頭し、その中で特に戦の中心となっていったのが平氏を始めとする武家だったのです。
1156年の保元の乱、1160年の平治の乱に勝利した平清盛は、そのまま政治の中枢に入り込み、天皇家や政治に対する発言力を強めていきます。
太政大臣といった要職に就いたこと、自分以外の一族も要職に就かせたこと、自分の孫を帝としたことなどを武士の身でおこなったこととしては前例のないことばかりであり、まさに武士として栄華の頂点を極めたと言えるでしょう。
ただ、見方を変えれば、今挙げたことは武士としては前代未聞でしたが、それ以前の公卿や貴族などは当然のようにそういった要職を目指していましたし、実権を握るための手法としては特に目新しくもない、手垢のついたやり方でもありました。
これは、クレイトン・M・クリステンセンの指摘したイノベーションの中でも持続的イノベーションに類するものと言えます。
宗時が目指したのは武士による破壊的イノベーション
他方、平治の乱で平清盛に敗れた源氏や伊豆の弱小武家だった北条氏が目指していたのは中枢で権力を握ることではありませんでした。
朝廷や有力貴族の力を利用しながら自分たちで領土を取り上げたり与えたりといった賞罰を行うこと、立法を行い守らせること、独裁ではなく合議制を敷くことなど、朝廷の威光を借りずに独立独歩することを目指したのです。
平清盛の歩んだ繁栄を持続的イノベーションと置けば、源頼朝と北条義時が目指した武士の世とは破壊的イノベーションということになるのです。
破壊的イノベーションの特徴は、その発端はとても限定的な場所で小さな利を得ることから始まりますが、それが急速に社会を席巻していき、最終的には持続的イノベーションを淘汰するところにあります。
破壊的イノベーションは、これまでの延長線上にある持続的イノベーションとは別の軸・別の次元での革新です。
例えば、平清盛の方法で成り上がろうとすれば公卿や貴族に取り入ったり金品を贈ったりするのが定石ですが、源氏・北条氏の方法ですとそれはむしろ良策とは言えず、むしろ味方とすべき坂東武者や反平氏勢力から反感を買ったり敵視されたりするような下策と化してしまうのです。
『鎌倉殿の13人』の面白さの秘密
平氏滅亡の原因を多方面への抑圧に対する反発や平氏一族のおごりからくるものと思われていますし、それも一面では正しいと思います。
しかし、なぜ源氏と北条氏が劣勢を覆すことができたのか、幕府を開き、その後700年近く続く武士の世の礎を築けたのかといえば、これが破壊的イノベーションだったからです。
破壊的イノベーションは一発逆転やジャイアントキリング(大番狂わせ)を引き寄せ、当事者にとっても観客にとっても劇的で魅力的なものに映ります。
一方で、そこまでの過程は地味で失敗も多く、時には滑稽でバカバカしく見えることもあるでしょう。
『鎌倉殿の13人』は、三谷幸喜のコメディセンスもさることながら、このような題材そのものの面白さも加わって、たいへん楽しい作品になるだろうことが期待できるのです。
皆さんも破壊的イノベーションのおかしさと難しさに思いをはせながら、『鎌倉殿の13人』を楽しんでいただけると幸いです。
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