愛着とは、特定の人に対して抱く、情緒的な絆のことです。
両親などの養育者との間に、生後6か月から18か月(1歳半)までに形成されるとされています。
養育者との間に心理的な絆がうまく作られないと、その後の人間関係においてトラブルになりやすかったり感情の調整がうまくできなかったりすると言われ、そういった生活上の困難を総称して愛着障害といいます。
障害 disorderとついていますが医学的な診断名ではなく、主に心理学的な疾患概念です。
愛着障害とは何なのか、医学的な診断は何か、治し方はあるのかについて説明します。
愛着障害とは
愛着障害 attachment disorderとは、特定の二者間に存在する心理的な絆がうまく形成されず、情緒が不安定になったり、それ以外の対人関係でもトラブルが発生しやすかったりするために、実生活に困難が生じる状態です。
幼少期の状態を指しますが、愛着が形成されないままだと、大人になってからも愛着障害由来の症状に悩まされる方も多くいます。
医学的な定義(診断)
DSM-5やICD-10といった診断基準には愛着障害という診断名はありませんが、愛着障害に相当する疾患が記載されています。
反応性アタッチメント障害と脱抑制型対人交流障害がそれであり、どちらも5歳以前の乳幼児期に診断されます。
反応性アタッチメント障害
反応性アタッチメント障害は5歳以前に診断され、人に対する感情表現が少なく、そっけなかったりよそよそしかったりするタイプです。
大人や友達に頼ることが苦手であり、優しくされるのも苦手です。
人を避けることもあり、おびえたりびくびくしたりして警戒していることもあります。
それ以外にも、以下のような特徴があります。
感情表出の少なさや養育者や他者に対するよそよそしさが自閉症スペクトラム障害の状態像にも似ているため、区別が難しいです。
また、人との交流を避ける様子はHSC(Highly Sensitive Child)とも似ているために混同されることもあります。
脱抑制型対人交流障害
脱抑制型対人交流障害または脱抑制型愛着障害は5歳以前に診断され、誰に対しても甘えたり、無警戒に接近したりといった愛着行動を行うタイプです。
脱抑制とは、衝動的な行動や感情表出を抑えることができない状態を表す、精神医学用語です。
このタイプの子どもは養育者以外であってもなれなれしく接し、抱きついたり後をついていってしまったりすることもあります。
上記以外にも以下のような特徴を示します。
警戒心の低さや他者への接近しやすさなどは注意欠陥多動性障害(ADHD)多動型の状態像にも似ているため、判別するには全般的な行動傾向を見る必要があります。
また、興味関心に対してすぐ接近するさまはHSS型HSCにも似ているため、直観的に混同しないよう注意しなければいけません。
愛着障害の原因
愛着は養育者、特に両親との情緒的関係性(絆)によって形成されます。
養育者とは両親に限らず、祖父母、両親の兄弟姉妹(おじやおば)、歳の離れた兄や姉、幼稚園や保育所の先生なども含まれます。
愛着障害の原因は、子どもと養育者の間に安定した関係性が築かれなかったことによるとされています。
血のつながりとは関係なく、養育を担っている人との間で以下のような不適切養育(マルトリートメント)があったときに、愛着障害を発症しやすいと言われています。
内的作業モデル
内的作業モデル internal working modelとは、人間が自分や他者に対して抱いている「こういうものだろう」という枠組み(先入観)です。
「自分とは他者より不安定だから他者の方を頼った方が良い」や「他者は利己的で独善的だから信用してはならない」といったものは、内的作業モデルによって創り出された信念です。
内的作業モデルもまた、愛着形成と深い関連があります。
例えば、養育者が過保護に関われば子どもは自己について「自分ひとりでは何をしても不充分な結果になる」といった内的作業モデルを形成し、児童期以降も見捨てられ不安を抱きやすくなります。
養育者の関わり方が安定せず、気が向いたときだけ関わったりまた別のときは無視したりすると、子どもは「最終的に何とかできるのは自分だけ」といった内的作業モデルを形成し、養育者の反応を最大化するためにわざと危険なことをしたり悪口を言ったりします。
また、養育者が育児を放置したり関心が薄かったりすると、子どもは「他人はあてにならない」といった内的作業モデルを形成し、その後他者を遠ざけたり不信を抱いたりしやすくなります。
内的作業モデルの考え方では、自己も他者も信用できるとする安定型の愛着スタイルの人は成人後、情緒的にも人間関係的も安定するとされています。
一方、それ以外の不安定な愛着スタイルはとらわれ型(見捨てられ不安が強い)、拒絶型(親密になることを避ける)、おそれ型(対人関係そのものから遠ざかる)に分類され、成人以降もその愛着スタイルを続けることがあると言われています。
神経発達
ヒトなどの霊長類には、他の個体が行動したときあたかも自分が同じ行動をしたかのように脳内で発火する神経細胞(ニューロン)があることが分かっています。
ミラーニューロンと呼ばれるこの神経細胞は、他の個体の行動を模倣したり、行動の意図を理解したりすることに役立っていると考えられています。
ミラーニューロンシステムは生後12ヵ月までに発達し、その働きによって新生児の学習を助けます。
愛着障害はこうした脳神経細胞の発達を遅らせたり、充分に機能できなかったりすることでその後対人関係を結ぶことを難しくすると予想されます。
大人が笑顔をしていたら新生児も笑顔になったり、相手が「ごめん」と言うさまを真似して「ごめん」と返したりするのはミラーニューロンによるものと考えられていますが、愛着形成が不充分だとこういったやりとりができず、養育者以外との関係もうまく築けない可能性があります。
自閉症スペクトラム障害(ASD)との違いは、遺伝的・生得的なものかどうかという点です。
ASDも対人交流が苦手で周囲に合わせたり上手にコミュニケーションをとったりすることが不得意ですが、それらは遺伝的な性質であることが分かっています。
元々ASD的な気質を持っている人はミラーニューロンが少なかったり、有していても対人場面では発火しなかったりするために、人の表情が読み取りづらかったり自分の感情を表出するすべを学習できなかったりするということです。
愛着障害は遺伝ではなく生後の養育環境にその要因があり、適切な愛着形成や愛着対象を獲得することで生活上の困難を克服できることが期待できます。
まとめ
愛着障害は5歳以前に発症する障害であり、情緒的に不安定であったり対人関係を結ぶことが難しかったりした場合に診断されます。
精神疾患の診断基準では、反応性アタッチメント障害と脱抑制型対人交流障害が愛着障害に相当します。
原因は生後6ヵ月~1ヶ月半に受けた虐待や体罰、ネグレクトなどの不適切養育(マルトリートメント)によるものとされています。
神経発達不全が考えられますが、愛着対象を獲得したり適切な愛着を築いたりすることで治療することが期待できます。
愛着障害のように、幼少期の養育者との関わりが後年の対人関係に暗い影を落としている方は多くいらっしゃいます。
幼少期のトラウマ体験や養育者との負の関係性を解消したい方は、心理カウンセラーなどの専門家にご相談ください。
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