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疾患喧伝 -病気に気づかせ薬を売りさばく精神科医療の古典的手法-

「今の私の苦しみは、まさにこの病気の症状だったんだ!」と知った経験はありませんか?
その症状を説明しているのが医療機関だった場合、それは疾患喧伝けんでんかもしれません。

軽症者や無症状者に訴えかけ、受診を促すことを、疾患喧伝けんでんといいます。

広く大々的に呼びかけ、その中にいる薬を飲んでもいい人と思っている人を見つけたら、苦痛の緩和の名目で薬を出す。
こういった疾患喧伝は、国際的な流れからも推奨されなくなっており、特に精神疾患については注意喚起されています。

一般には馴染みの薄い疾患喧伝。
通院と服薬でかえって生活の質クオリティオブライフを下げないように、疾患喧伝についての理解を深めていきましょう。

疾患喧伝とは?

疾患喧伝けんでん(disease mongering)もしくは病気喧伝けんでんとは、病気に該当する範囲を拡大したり、そのことを市民に啓発するために広告したりすることです。
多くは製薬会社や専門家が商品の市場や販路を拡大する目的で行われるため、侮蔑的なニュアンスを含みます。

例えば、俳優の武田鉄矢さんの登場したTVテレビCMコマーシャルで、「ビリビリ・チクチクといった痛みはありませんか」と、困りごとの話から始まる広告がそうです。
「それは、神経障害性疼痛かもしれません」と疾患名を提示し、最後に「お医者さんに相談を」で締めくくられるものが、代表的な疾患喧伝です。
これはヴィアトリス製薬によって、神経障害性疼痛治療薬である「リリカ」のプロモーションとして行われたCMでした。

製薬会社は薬事法により、薬そのものの宣伝をすることが禁じられています。
そこで製薬会社が編み出したのが、病気の宣伝をすることでした。

疾患喧伝けんでんは啓発の側面もあり、また受診できていない潜在層に訴求することにもなります。
実際、この3年間は新型コロナウイルスワクチンについての広報活動の甲斐もあり、日本は諸外国よりも高い接種率と低い死傷率を達成することができました。

疾患喧伝されやすい精神科医療

特に疾患喧伝けんでんの行われやすい分野が、精神科領域です。
今でこそ広く知られるようになった「うつ病」ですが、これも少し前まではそれほど知られた病気ではありませんでした。

1999年には44万人に過ぎなかった日本の「うつ病・躁うつ病」の患者数は、2000年の「心の風邪」キャンペーンを受け、2005年には92万人になり、その数を倍増させています。
うつ病が周知された背景にも、疾患喧伝けんでんが関わっています。

身体疾患であれば、病原菌を特定できたり、その症状範囲を絞り込めたりしますが、精神疾患にはそれがありません。
最もポピュラーなうつ病でも、何が原因で起きているのか、薬の何がどのように奏功しているのかすら分かっていないのですから、新たな他の精神疾患が喧伝されると、瞬く間に人々に広まってしまいます。

「病気」と「病気でない」の隙間が狙われやすい

病気にはどれも「病的」と「病的でない」の間の境界線上が存在します。
精神疾患の場合、特にその境界線の幅が広いのです。

その線上にある人に病名のラベルを付け、受診や投薬を勧めてきた疾患としては、うつ病や発達障害自閉症ADHD、双極性障害(躁うつ病)などがあります。
他にも、以下のような症候に対し、受診を勧める向きがあるようです。

状態名概要対応可能性のある精神障害
インポスター症候群成果を上げても自分の能力によると認められない強迫性パーソナリティ障害
APD
(聴覚情報処理障害)
聴力に問題がないにもかかわらず
人の声を理解することができない
うつ病
自閉症スペクトラム障害
HSP
(ハイリー・センシティブ・パーソン)
光や音など外界からの刺激に過敏で
物事を多く深く感じ取ってしまう
ADHD不注意型
強迫性パーソナリティ障害
会食恐怖症人前で食事を摂ることに過度に緊張する
「失敗するのでは」「嘔吐するのでは」
社交不安障害
空の巣症候群子どもが自立し家を離れた後の喪失感うつ病
適応障害
クーラー病・冷房病冷えからくるだるさ、肩こり、食欲不振、
下痢、入眠困難、痛みなど
身体症状症
溜め込み症物の価値にかかわらず物を捨てられない
物が手放せず部屋や屋内が散らかっている
強迫性障害
ADHD
ネット依存社会生活上のことよりもネットの利用を
優先してしまい、止めるのに多大な苦痛を伴う
強迫性障害
ADHD
バーンアウト
(燃え尽き症候群)
熱心に取り組んでいた事柄への熱意や興味を
急に失い、むしろ人に冷淡に接するようになる
適応障害
皮膚むしり症かゆみや痛みの有無にかかわらず
皮膚をかきむしることを止められない
強迫性障害
身体症状症
自閉症スペクトラム障害
夫源症
(カサンドラ症候群)
夫の言動によって慢性的にストレスを感じ、
精神だけでなく身体症状が出現する
適応障害
身体症状症
ブレインフォグ頭にもやがかかったようになり、
物事を考えづらくなったり
思い出しづらくなったりする
うつ病
全般性不安性障害
身体症状症
微笑みうつ笑顔を作ったり社交的に振る舞ったりできるが
内面では落ち込み、不眠や食欲不振がある
うつ病
精神科・心療内科によって疾患扱いされやすい状態像(一部)

疾患喧伝に乗っかる方が利益の出る構造

広告も集客もせずただ新患を待つよりは、少しでも広告した方が受診者は増えます。
受診者が増えた方が処方する確率も増え、処方しないよりはした方が売上が上がるのもまた事実です。

疾患喧伝けんでんを主導するのが製薬会社であれ精神科医であれ、疾患啓発に追従する方が利益を上げられる構造なのは確かなのです。

受診してすぐ化学的治療はしないのが世界的な流れ

一方、疾患を治療の観点からみると、軽症うつ病の場合、積極的に化学的治療を行わないことが推奨されるようになってきています。
イギリスのNICEガイドラインでは、軽症の場合には積極的な医学的治療を行わず、経過観察が推奨されています※1

これは、たとえ疾患喧伝けんでんから受診しても、服薬によってかえって希死念慮が増したり、いざ断薬しようとしたときに離脱作用で苦しんだりしないよう定められている、と見ることもできるでしょう。

また、世界保健機構(WHO)の診断基準であるICDでは、これまでPTSDの前段階として急性ストレス障害(ASD)という疾患を設定していましたが、ICD-11ではこれは診断から外され、正常なストレス反応の一つであることが示されました。
これは、トラウマティックから6ヵ月に満たないうちは病名をつけないことを意味しており、正常反応にやたらと病名をつけず、投薬などの治療を推奨しないという時流に則っているともみれます。

「早めに医師に相談」しても、安易に薬を求めない

PTSDと診断された後でも、どのようなことがあったか根掘り葉掘り訊くことは決して治療的とは言えず、むしろ症状を悪化させることすらあることが報告されています。
また、PTSDに対する投薬治療は最終的な選択肢であると治療ガイドラインに記載されているものもありますが、受診してしまったがために処方を受けて、悪化させてしまうこともあるでしょう。

「早めに医師に相談を」を真に受けて受診することが功を奏さないばかりか、かえって複雑化させるリスクもあることは、熟知しておかねばなりません。

「これこそ私の疾患だ!」と思ったときこそ、要注意

かつては製薬会社は医師にマーケティングし、それによって医師は新薬を知り、患者に処方していました。
しかし、時代は変わり、製薬会社はマスメディアを使って患者に直接広告し、それを処方してもらうべく、患者は医師の下へ受診するようになりつつあります。

この流れ自体は、患者の主体的な治療参加にもなるため、悪いことばかりではありません。

一方、簡単に病名をつけたり、困りごとをさも病気であるかのように言えたりしてしまう精神疾患では、この流れは益より害の方が多く生じかねません。
そこに精神科医が一緒になって疾患喧伝けんでんを始めれば、正常反応に病名がつき、治療法もないまま投薬が勧められてしまう状況は、想像に難くないでしょう。

精神科・心療内科が病気を広め始めたり、症状や困りごとをさも病気であるかのように語り出したりしたときは、特に用心しておく心構えが大切です。

その点、当院のようなカウンセリングルームには製薬会社との利益相反はなく、薬以外の治療を安心して受けていただくことができます。
「これだ!」という症状を見つけたものの受診を躊躇っている方、病的か正常範囲内か迷っている方などは、ぜひ一度当院にご相談ください。

なお、当院の記事の中に「○○病」「○○症候群」と表記されたものが登場しますが、それらは「困りごと」を意味する口語表現であり、特定の疾患を指すものではないこと、予めご承知おきください。

※1 英国メンタルヘルス事業における心理支援の理論と方法-NHSが採用するStepped Careモデル-, 梅垣佑介・下山晴彦 http://www.p.u-tokyo.ac.jp/shimoyama/08kaken/pdfs/01/38d168942e6ea0965d06b27948b2ed34.pdf

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