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異常行動を目の当たりにした人の心理

安倍元首相首相への銃撃、不審者のヒカキンさんへの接触など、異常行動がメディアに乗り、それを私たちが目撃することが昨今立て続けに起きています。
こうした異常行動が増えているとは思いませんが、誰もがスマホという撮影装置を持ち、車にもドライブレコーダーが標準装備されつつある現代では、異常行動を目にする機会は確実に増えていく傾向にあると考えられます。

また、ロシアによるウクライナへの侵略戦争のように、戦地の惨状を目にしたり、メディアを利用した情報戦が展開されたりと、普段目にすることのないショッキングな映像や動画を目撃する状況も増えています。
こういった、特に人の異常行動を目にした人はどのような変調をきたすのか、心理学と生理学の観点から説明します。

異常行動

一言に異常行動と言っても、その定義は様々です。
「あまり目にすることのない行動」とすれば、咳き込んだり発熱したりすることも異常行動ですし、台風で氾濫しそうな川の様子を見に行くことも、駅前で弾き語りを披露することも該当するでしょう。

ここでは、目にする機会が極めて少ないことかつ社会規範から外れていることを異常行動と定義します。

異常行動を目にすると何が起きるか

言葉遣いが荒くなることとその理由

眼前にせよ動画の中にせよ、異常行動を目にした人は驚き、緊張します。
ハッと息を飲む、体を硬直させるといった体の反応を受けて、「危ない!」「何とかしなきゃ!」「自分もこうなっちゃう!」といった、緊張状態の思考が出現します。

このとき、自律神経の状態は交感神経優位という状態に入っています。
交感神経優位状態とは、動物で言うところの臨戦態勢であり、脅威に即座に立ち向かっていくか、それとも一目散にその場から離れるかを決断し、すぐさま行動に移せるような状態です。
これを、戦うか逃げるか反応(fight or flight response)といいます。

「危ない!大変なことになっちゃう!」といった考えが頭に浮かんでくる人は、交感神経優位状態です。
交感神経が優位になると全身の血管が拡張し、脳内の血流量も増えるため、「この状況だったら自分ならどうするだろう」といった自己同一化の機能が一時的に高まったり、画面の向こうの出来事をあたかも自分がされているかのように感じる共感性が高まったり、頭の回転が速くなったりします。

急に声が大きくなったり、攻撃的な言動が増えたりするのも、交感神経優位状態の特徴です。
ヒカキンさんと不審者の接触のシーンでは、実況解説の人がしきりに「放送事故だ!」と叫んだり、笑い声を上げたりする様子が見られました。
これも面白がってのことではなく、交感神経が優位になったためにアドレナリンやドーパミンが分泌され、それによって威嚇行動や挑発的な言動が出現したと考えられます。

ショッキングなシーンを目の当たりにすると、目は瞳孔が開いて血走ったり、拍動が速くなったり、動悸で胸が苦しくなったりすることもあります。
普段の生活ではヴェーガルブレーキというブレーキが心拍にかかっている状態なのですが、交感神経優位になるとブレーキが外れ、心拍数や血圧が上昇するのです。

頭が真っ白になることとその理由

一方、緊張から体が硬直しただけでなく、頭が働かなくなったりぼんやりしたり、人によっては失神してしまったりする場合もあります。
これは、自律神経の状態が背側迷走神経優位の状態になったことを示す症状です。

背側迷走神経が優位になると、一部の哺乳類の行う「死んだふり」の状態になります。
手足や頭といった末梢の血管は収縮し、生命維持とエネルギー産生に必要な内臓に血液が集中します。
異常行動を目にしたときに頭が真っ白になったり気を失ったりするのは、この血液の集中によるものです。

「こんな場面になったらどうしよう……」という考えが頭に浮かび、そこから思考が前に進まなくなるのも、背側迷走神経優位状態の特徴です。
考えることができなくなるだけでなく、絶望感を感じたり現実感がなくなったり、あたかも自分の体が自分のものでなくなったように感じたりするのも、この状態に入ったことを示す兆候です。

血流量が減るため、手足は冷たくなり、寒気を感じることもあります。
反対に、胃や腸は血流量が増えて過活動になるため、胃酸過多になって胃痛がしたり、腸の活動が亢進して下痢になったり、腹痛が引き起こされたりすることもあります。

安倍首相が銃撃された場面をテレビや動画で目撃した人の中は、全身が虚脱感に襲われたり、ぐったりして横たわりたくなったりした人もいました。
背側迷走神経優位になるとアセチルコリンという神経伝達物質が分泌され、筋肉を弛緩させます。
倦怠感や虚脱感を感じた人たちは、アセチルコリンの過剰分泌が起きていたものと考えられます。

異常行動を目にしたときの対処

ここまで述べてきたように、異常行動を目にした場合の変化には、交感神経優位と背側迷走神経優位の2パターンがあります。
それぞれのパターン別に対処を挙げます。

言葉遣いが荒くなる、興奮したり声量が大きくなったりする人は、交感神経優位の状態です。
こういった行動に出てしまいやすい人は、普段から呼吸に意識を向けておき、吸うよりも長く息を吐くことを心がけましょう。
人体の性質上、息を吸っているときよりも吐いているときの方が脈拍はゆっくりになるため、いち早く正常に立ち戻ることができるでしょう。

交感神経優位になること自体は異常なことではなく、むしろ正常なストレス反応ですが、その状態が何日も続くようですと、適応障害を発症している可能性があります。
異常行動を目撃した日から1週間攻撃的なままだったり、意識をそらそうとしてもまた同じシーンを動画で観たりしてしまっている人は、一度ご相談いただくのが良いと思われます。

異常行動のシーンや動画を見て頭が真っ白になる、気が遠くなるなどの反応が出た人は、背側迷走神経優位の状態です。
この状態になりやすい人は、既に何らかのトラウマ記憶を抱えており、ショッキングな出来事や映像を目にすると、シャットダウン(凍りつき)を引き起こしやすくなっていると考えられます。

異常行動を目にすると胃痛や腹痛をきたす、手足が冷たくなる、絶望感を感じたり自分が自分でないような感覚がしたりする人も同様に、PTSD複雑性PTSDを発症している可能性があります。
トラウマ治療を行うことで改善する可能性がありますので、ぜひ一度当オフィスにご相談ください。

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