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複雑性PTSD

親のケンカを見させられたり愚痴を聞かされたりしながら育つとPTSDになる」と聞いたら、皆さんはどう思うでしょうか。
「そんなことでPTSDになるの?」と疑うかもしれませんし、「別に命の危険はないんだからトラウマにはならなくない?」と否定するかもしれません。

ただ、こういったことによって発症するPTSDが複雑性PTSDなのです。
21世紀に入ってからトラウマとPTSDへの理解度は格段に向上し、「トラウマ」という言葉が一般に認知されるようになって以降も、その知見は日々刷新されています。

最近では、秋篠宮眞子様が度重なる誹謗中傷にさらされたことによって複雑性PTSDになったというニュース報道もありました※1
多くの人があまり聞き慣れない病名である、複雑性PTSDについて解説します。

複雑性PTSDとは

単回性PTSDと複雑性PTSD

複雑性PTSD Complex PTSD とは、支配関係にある者から長期間、慢性的に、繰り返し反復的にトラウマとなるようなストレスをかけられたことによって発症するPTSDです。
アメリカの精神科医ジュディス・ルイス・ハーマンが提出した概念であり、主に長期間拘束や拷問を受けた人が情緒不安定になったり、自信なくネガティブになったり、適切な対人関係を築けなかったりする事例が報告されたことから提唱されました。

PTSDの症状と二次的症状

PTSDと複雑性PTSDの違いは、複雑性PTSDの症状はPTSD症状からくる二次的なものであり、脳機能の異常や人格変容まで引き起こされること、トラウマ体験が継続的かつ長期間に渡ってさらされることなどが挙げられます※2
成人に対する疾患として提唱された複雑性PTSDですが、近年では幼少期や児童期でも同様の状態になることが報告されており、トラウマを経験した年齢は関係ないと考えられています。

複雑性PTSDという診断名は、2018年発行のICD-11で採用された診断名です。
ICD-11は、自立支援医療を受けたり障害年金を申請したりするときには診断基準として用いられますので、そういった公的支援を受ける際には診断される場合もあるでしょう。
一方、臨床現場ではDSM-5という診断基準が用いられることが多く、DSM-5ではPTSDの定義を拡大することで、複雑性PTSDの概念まで包括しています。

PTSDの他類型

長期間トラウマティックストレスにさらされたことで起こる複雑性PTSD

トラウマとPTSDの症状や要因が明らかになるにつれて、これまでPTSDとくくられていたものがより細分化されたり、近しい疾患と考えられていたものとの違いがより明確になったりしてきています。
ここでは、複雑性PTSDと似た概念について挙げてみます。

発達性トラウマ(DTD)

発達性トラウマ Developmental Trauma Disorder は、ベッセル・ヴァン・デア・コーク博士によって提唱された子どものトラウマです。
複雑性PTSDと異なり、幼少期に受けたトラウマ体験によって引き起こされること、幼少期に脳に過負荷がかかったが故に、脳部位にはっきりとした病変(萎縮や肥大など)が見られることが特徴です※3

破局的体験後の持続的パーソナリティ変化(EPCACE)

破局的体験後の持続的パーソナリティ変化 Enduring personality change after catastrophic experience は、トラウマになるようなストレスによって性格に明らかな変化が確認された場合に採用される診断です。
元は強制収容所症候群と呼ばれていた概念であり、これまで明るく前向きだった人が周囲に対して猜疑心や敵愾心を示すようになったり、慢性的な空虚感や無力感を訴えたり、社会や世間から距離をとって引きこもったりする状態を指します。

特定不能の極度のストレス障害(DESNOS)

特定不能の極度のストレス障害 Disorder of Extreme Stress not otherwise specified は、複雑性PTSDと同じく慢性的なトラウマ体験によって引き起こされた症状を含んだトラウマ関連障害です。
発達性トラウマと同じく、ベッセル・ヴァン・デア・コーク博士によって提唱された概念であり、怒りや自傷行為といった情緒不安定さ、人格の否定的変化、他者と信頼関係を築けなくなるなど、複雑性PTSDの診断基準と重複するところが多いため、同じ臨床像を描写したものと考えられます。

複雑性PTSDとポリヴェーガル理論

慢性的なトラウマ体験は神経系の耐性を低下させる

人と人が関係を築くとき、落ち着きリラックスしながら、時折笑顔なども交えつつ話します。
この状態を自律神経の理論であるポリヴェーガル理論で表現すると、腹側迷走神経優位の状態と言います。

腹側迷走神経が優位であれば、部屋の外で多少大きな音がしたり、話している相手がちょっとイラっとしたり気落ちしたりしてもあまり動揺することなく、それまでと同じように会話を続けることができます。
この許容可能な範囲を耐性の窓と呼びます。

複雑性PTSDの人は、長期間に渡るトラウマ体験のために耐性の窓が狭くなり、ちょっとしたことでもシャットダウンを起こしたりケンカ腰になったりします。
発症前なら許容できるような刺激やストレスが許容できなくなり、その結果、性格が変わったような行動をとるようになってしまうのです。

狭くなった耐性の窓を外れないよう、最大限の注意を払いつつ無難なやりとりを重ねていけば、少なくともカウンセリングなどの中では調子を崩すことはないでしょう。
しかし、ひとたび別の人と関わればまた調子を崩してしまうかもしれませんし、持続可能な人間関係を築くことも難しくなります。

複雑性PTSDの治療には耐性の窓を広げるようなアプローチが不可欠です。
当オフィスでおこなっているブレインスポッティングをはじめ、ソマティック(身体的)アプローチを繰り返し行うことで、神経系の耐性を高めることができます。

複雑性PTSDと虐待

児童虐待は年々増え続けている

慢性的に長期間、繰り返し反復的なストレスをかけられる体験の代表的なものは、児童虐待や性的虐待です。
日本では平成16年に面前DV(家族間の暴力を子どもが目撃すること)が心理的虐待と認定されたことなどもあり、児童虐待の相談件数は年々増加しています※4

レイプ加害者のほとんどが被害者の知人

男性が戦争体験によってPTSDを発症するのに対し、女性の場合は圧倒的にレイプや性暴力といった性被害によってPTSDになることが知られています※5
性的虐待もまた、複雑性PTSDを引き起こす確率が高いと言われています。

性交を強要された人のうち、8割以上は顔見知りによって引き起こされたと言われており、その中には両親や養父母、兄弟姉妹も含まれています※6
身近な家族による性暴力に慢性的にさらされていては、性格が変わってしまったり解離症状(一時的に記憶が失われ感情が麻痺すること)が出たりするだろうことは、容易に想像できます。

複雑性PTSDになると、その後の人生でも第二第三のトラウマ体験に遭遇しやすくなると言われています※7
例えば、複雑性PTSDの人の情動調整障害(情緒の不安定さ)を目の当たりにした人はそれに反応して感情的になって手をあげてしまい、それがまた複雑性PTSDの人の新たなトラウマになってしまうのです。

近年、児童期逆境体験(ACEs)という概念が注目されています。
児童期に機能不全家族の中で育ったり虐待されたりしたことでトラウマが残ったり愛着の問題が表面化したりし、のちのち自傷行為・摂食障害・アルコール依存・薬物乱用などの精神疾患になりやすくなることが報告されています※8

複雑性PTSDは症状の深刻さだけでなく、生育歴から診断と治療を行うことの大切さを改めて精神医学界に問いかけていると言えるでしょう。

複雑性PTSDの相談・治療は専門家へ

複雑性PTSDは、支配的な立場の者からの慢性的で反復的なトラウマとなるようなストレスを長期間かけられたことによって発症する精神疾患です。
PTSD同様、侵入思考と過覚醒が起きることに加え、情動調整障害、自己イメージの否定的変化、対人関係の困難さが二次的に引き起こされるとされています。

複雑性PTSDを発症するかどうかは、周囲からのサポートを得られるかどうかがたいへん重要と言われています※9
温かく擁護的な態度で接してもらえること優しい声かけや励ましをもらえること心理的な支援をえられていることなどがあった人は、凄絶なトラウマ体験をしていても重症化しなかったといいます。

PTSDも複雑性PTSDも、症状の有無や度合の強弱ではなく、どれくらい生活に支障をきたしているか(機能性)が診断には重要です。
「わたしもトラウマ関連障害かも?」と思われた方は、仕事や対人関係といった生活に支障が出ているかを確認してみてください。

機能が損なわれていると感じられている方は、一度当オフィスにご相談いただければと思います。

※1 眞子さま、「複雑性PTSD」と診断 宮内庁が発表:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASPB15FXZPB1UTIL02F.html

※2 Complex PTSD: A syndrome in survivors of prolonged and repeated trauma.(1992), Herman, J. L., Trauma Stress 5(3) https://psycnet.apa.org/record/1993-05936-001

※3 特集 子ども虐待~課題と支援を考える~ : Column 虐待は子どもの脳を傷つける(2020), 友田明美, チャイルドヘルス23(6) https://www.fujisan.co.jp/product/3109/b/1960480/

※4 令和2年度 児童相談所での児童虐待相談件数(2021), 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000863297.pdf

※5 Posttraumatic stress disorder in the National Comorbidity Survey.(1995), R.C.Kessler, A.Sonnega, E.Bromet, M.Hughes, C.B.Nelson, Arch Gen Psychiatry 52(12) https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7492257/

※6 無理やりに性交等をされた被害経験 令和2年度調査|内閣府男女共同参画局 https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/chousa/pdf/r02/r02danjokan-7.pdf

※7 大人のトラウマを診るということ こころの病の背景にある傷みに気づく(2021), 青木省三, 村上伸治, 鷲田健二, 医学書院 https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/107206

※8 子どものトラウマ診療ガイドライン(2016), 国立成育医療研究センター https://www.ncchd.go.jp/kokoro/disaster/to_torauma.pdf

※9 Patterns of exposure to adverse childhood experiences and their associations with mental health: a survey of 1346 university students in East Asia(2020), Grace.W.K.Ho, D.Bressington, T.Karatzias, W.T.Chien, S.Inoue, P.J.Yang, A.C.Y.Chan, P.Hyland https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31501908/

コメント

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