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人格適応論

人格適応論は、6つのタイプでパーソナリティを分類する心理学の理論です※1
ストレスへの態度でパーソナリティを分類する人格適応論は、臨床に限らず、現代のあらゆる場面において有用な情報をくれます。

交流分析という心理学派から提出された理論ですが、6つのタイプにはアメリカのパーソナリティ障害の診断名が使われているなど、特に交流分析を知らなくても理解・利用することができる性格類型タイプ論です。
性格類型論のところでも言及したように、日本ではパーソナリティについて特性論的な理解に留まっているところが多く、類型論があまり活用されていないのが現状です。

臨床場面や社会生活で役立つ、人格類型論の概要を説明します。

人格適応論とは

人格適応論は、ポール・ウエア、テイビ・ケーラー、ヴァン・ジョインズによって開発された理論で、6つの人格適応タイプを考える。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E6%A0%BC%E9%81%A9%E5%BF%9C%E8%AB%96

人格適応論では、人は生育環境に合わせて(適応して)徐々にパーソナリティを変化・確立させるものと考えます。
この考えは、同じようなパーソナリティの人は養育者の対応が似ていたり、生育歴が似ていたりするという臨床経験から誕生しました。

成人でも「あの人の前にいるときはこうしておこう」と状況に合わせた行動をとることはありますが、人格適応論ではこれを乳児期や幼少期からおこなっていると仮定し、それがパーソナリティの基本型になるとしています。

人格適応論の中心となっているパーソナリティタイプは、次の6つです。
元はDSM-III(アメリカ精神医学会での診断基準)の診断名に準拠させてパーソナリティ障害の名称がつけられていましたが、日本では病的な印象を排除するため、6つの略称がつけられています。

人格タイプ名(診断名)人格適応論での呼称日本での略称
演技性パーソナリティ熱狂的過剰反応者感情型
強迫性パーソナリティ責任感ある仕事中毒者思考型
パラノ型パーソナリティ才気ある懐疑者信念型
スキゾイドパーソナリティ創造的夢想家創造型
受動攻撃性パーソナリティおどけた反抗者反応型
反社会性パーソナリティ魅力的操作者行動型

ここでは、口語的な略称ではパーソナリティ特徴の要点が変わってしまうため、元の診断名による名称に統一しています。

よく「遺伝か環境か」という命題で、「◯◯の能力は遺伝の割合が大きい」「××の能力は環境要因が大きいので育て方で変わる」といったことが話題に上がりますが、人格適応論は環境要因によってその後のパーソナリティが決定されるとしている点で、発達心理学的でもあります。
現代では遺伝子のゲノム解析が進み、その全てが環境要因でないことは明らかになりつつありますが、性格(パーソナリティ)の全てが遺伝で決まるわけでもないということも分かってきているため、今後も人との繋がりによって人が成長していく限り、人格適応論は有用な理論だと考えられます。

人格適応論と2つのストレス

私たちが日常生活でさらされている負荷(ストレッサー)を集約していくと、課題解決のストレスと対人ストレスの2つに収束します。
つまり、解けない問題難しい人間関係が、いつ誰であってもストレスだということです。

例えば、課題を前にどのような反応をしやすいかという軸でパーソナリティタイプを見ると、上のようになります。
演技性パーソナリティと強迫性パーソナリティは能動的に課題に取り組み、受動攻撃型とスキゾイドは課題に対して受け身です。
パラノ型と反社会性はその中間で、能動的に取り組んだり受動的に一歩引いていたりします。

同様に、対人関係についても積極的/消極的を軸にパーソナリティタイプを分類すると、次のようになります。
対人関係になると、演技性と受動攻撃型は積極的に関わり、強迫性、パラノ型、スキゾイドは消極的に(引きこもるように)なります。
反社会性はここでもその中間に位置し、一旦引いて途中から積極的に転じます。

2種類のストレスへの対応を縦軸と横軸にとったものが上の図です。

臨床場面では、目の前にいる相談者が人間関係に積極的か消極的かはなかなか判断がつかないものです。
しかし、例えば話の内容から強迫性パーソナリティと分かれば、人間関係については消極的であると予想でき、対人場面でのストレスについて聞き取り、困りごとによってはどう対人ストレスを減らすかの話題について話し合うことができるのです。

言い換えると、パーソナリティというものはストレス負荷のかかったときの表出パターンということもできます。
人はストレスフリーのときには多種多様な行動や思考ができますが、ストレスのかかったときにはこれまで身につけた行動や思考の傾向が出現してしまう、それが人格適応論においてのパーソナリティであるということです。

世の中には類型論によるパーソナリティ理論だけでも何種類も提唱されていますが、それらと比べて人格適応論が特徴的なのは、その人がストレスを感じたとき、ストレス負荷がかかったときの傾向を分類した結果、6種類のタイプに収束したという点でしょう。
ストレス状況においてどのような行動をとりやすいかは、臨床的にはたいへん有用な情報になります。

人格適応論とうつ

強迫性パーソナリティの項で「うつになりやすい人」と紹介しましたが、これは問題提起的なタイトルでもありました。
それは、日本のうつ治療・ストレスケアはこの強迫性パーソナリティに向けたものばかりが氾濫し、他の5つのパーソナリティに向けたものがほとんど見受けられないことです。

強迫性パーソナリティは、査定図表では右上に位置します。
ここは対人関係については消極的なため、対人関係において少し積極的になったり引きこもらなくなったりすることが課題と推察されます。
そこで、一般にも知られているアサーション(アサーティブ・トレーニング)、自己主張法が自己変容に対して有用に働くというわけです。

アサーションは、厚生労働省が公開している「うつ治療のための認知行動療法」にも記載されているように、日本のうつ治療と再発予防の一角を担っています。
では、その対角線に位置する受動攻撃型に、同じアプローチが有効でしょうか。

受動攻撃型は、対人関係になるとイキイキし、積極的に関わるタイプです。
アサーションの知識は人生には役立つかもしれませんが、もうすでに実践できているかもしれないため、強迫性ほどうつ治療には有用ではないでしょう。

それよりも受動攻撃型に必要なのは黙ること、対人場面であっても少し落ち着いて対応し、課題解決のために手を動かすことの方になります。
では、黙り方や課題に自発的に取り組む方法がうつ治療としてどこかに記載されているかというと、これがどこを検索しても出てこないわけです。

すると、うつになりやすい人向けのものばかり目にした受動攻撃型は「自分ももっと人と関わった方が良かったのかもしれない。課題解決に向けて働きすぎだったのかもしれない。もっと自分に優しく、人と関わろう」と自己認識を狂わせていきます。
こういったことが日本中で起きているため、強迫性以外のうつ患者は再発し、日本の生産性はどんどん低下していくのです。

日本のストレスケアに、類型論、特に人格適応論が有用だと述べた理由はここにあります。
うつはどんなパーソナリティの人でもなり得る疾患なのに、治療がワンパターンでパーソナリティを踏まえたものとして普及していないため、多くの人が間違ったカウンセリングを行い、自分について誤解したままカウンセリングを終えていってしまっています。

これはアンガーマネジメント、発達障害やアダルトチルドレン、HSPへのアプローチでも同様です。

日本のストレスケアに携わっている人たちはストレスといえば過重労働、希薄な人間関係と決めつけている節があります。
しかし、臨床経験から言えば、業務が少ないことがストレスという人もいましたし、人間関係が密なことがストレスという人も大勢いました。

ストレスケアはその人の特性論的な数値(残業時間や被サポート感)にとらわれ、その人のパーソナリティタイプへの考慮が抜け落ちています
葉っぱへの描き込みばかりが緻密で、木全体が描けていないようなものです。

そんな今だからこそ、改めて人格適応論による類型論が必要なのです。

人格適応論とMBTI

MBTI(Myers-Briggs Type Indicator)も、人格適応論と同じくパーソナリティをタイプ分けする性格検査です。
ユングのタイプ論を元にしており、「主人公」や「冒険者」など、ユニークな名称の16種類のパーソナリティタイプに分類される点が特徴です。

人格適応論における名称MBTIにおける名称
演技性パーソナリティ領事官(ESFJ)、エンターテイナー(ESFP)
強迫性パーソナリティ提唱者(INFJ)、管理者(ISTJ)
パラノ型パーソナリティ討論者(ENTP)、幹部(ESTJ)
スキゾイドパーソナリティ仲介者(INFP)、提唱者(INFJ)
反社会性パーソナリティ指揮官(ENTJ)、起業家(ESTP)
人格適応論とMBTIの一致タイプ(一部)

分類方法は異なりますが、MBTIによる分類も人格適応論による分類と一部重複するところがあります。
2つの違いとしては、MBTIが人のパーソナリティを4つの側面から分類しているのに対し、人格適応論はその人の困りごと、特に生育環境に由来する困りごとによって分類している点です。

人格適応論は、セラピーや精神病院などの臨床場面で確認された情報をもとにパーソナリティが分類されています。
そのため、Aという人とBという人の性格傾向に細かな違いがあっても、その2人が同じような困りごとを持ち、同じような症状を出現させた場合には、同じパーソナリティタイプとして分類されます。

上の表のように、MBTIの複数のパーソナリティタイプに人格適応論のパーソナリティタイプが共通しているのは、そのような理由からです。
当オフィスは相談者からの依頼を受ける臨床現場ですので、主訴や生育歴など臨床的に役に立つ情報を得られる、人格適応論の方を採用しています。

人格適応論とストレス反応

人格適応論とおそ松さん

『おそ松さん』とは、2015年からテレビ東京ほかで30分番組として放送されたテレビアニメです。
深夜アニメという特性を十二分に活かした際どいギャグと人気男性声優を主要キャストに据えたことがウケ、第3期まで制作される大人気アニメとなりました。

ストーリーの推進力となるのはおそ松さんはじめとする松野家6兄弟(とイヤミ)の社会不適合っぷりなのですが、6人の個性がそれぞれ絶妙に重なっていないところが、この兄弟の中で派閥ができないことへの説得力となっています。
どれくらい重なっていないかというと、6兄弟だけで人格適応論の6つのパーソナリティのうちの5つにそれぞれ対応しているのです。

名前人格タイプ性格描写
おそ松受動攻撃型無邪気な表情が特徴。計画性がほとんど無くいい加減でずぼらな性格。パチンコと競馬が人生の楽しみ
カラ松反社会性常にクールを気取って格好をつけている。極度のナルシストで自分をイケメンだと思い込んでいる
チョロ松パラノ型他の兄弟と比較して常識的な考えの持ち主で性格も真面目。意欲が空回りしている。ドルオタ
一松スキゾイド常に半目で生気がなく笑顔も冷めており、髪の毛はボサボサで猫背。無気力な上にぼそぼそと話す根暗かつ自虐的な性格
トド松演技性愛嬌のある表情をしていることが多い。コミュニケーション能力が高く甘え上手だが、あざとく腹黒い一面もある

人格適応論はパーソナリティ障害の名称を使用しているためネガティブな側面に注目されがちですが、その根幹はパーソナリティのポジティブな側面を発見することにも役立つところです。
生育歴の中で適応するために身につけた性格(パーソナリティ)ですので、当然肯定的な側面もあるはずなのですが、パーソナリティ障害について理解を深めていくと肯定的側面についてはほとんど描写されておらず、否定的な側面や社会不適応な部分についての膨大な情報にかき消されてしまうのです。

精神科や心療内科は障害や疾患を治したり「あなたは治せません」と適応外と診断したりするだけですからそれでいいのかもしれませんが、私のような臨床心理士・公認心理師の目的は「困難さを克服し社会適応すること」ですので、パーソナリティのポジティブな側面まで理解しておくことは、治療目標設定のためには非常に重要なのです。

そんな中でおそ松さんのキャラ造形はパーソナリティの全体像を掴み、どんなキャラクター(パーソナリティ)の人にも肯定的側面はあり、それを活かす方向で進めないとメンタルケアはうまくいかないという当たり前のことを思い出させてくれる作品です(もちろんフィクションであり、当然それは作品のメッセージとは違いますが)

おそ松さんが3期まで続く人気作品になったのは、こういった性格の多様性を無駄なくコミカルに描いてくれているからかもしれません。

人格適応論と退行

おそ松さんたちに共通しているのは、誰もが無職であり、就活やボランティアなどの社会的活動をしようともしてない(ほぼ)ニートだという点です。
これは、どのパーソナリティタイプであっても負の側面が拡大すれば社会に出られなくなること、社会から見ると引きこもっているという幼稚ともとれる未熟性こそが、パーソナリティの個性でもあることを示しているともいえます。

人格タイプ脅威に対する反応
演技性愛嬌を振りまいてごまかす、とぼける。誰か他の人がやってくれることを期待する。甘える
強迫性単純化された極端な考えで判断する(白黒思考)。感情を排し、極度に理性的であろうとする
パラノ型理詰めで相手を責める。多弁になり、一方的に論理を展開する。情を理で押し通そうとする
スキゾイドうずくまる。しゃがみ込む。うなだれる。その場から離れて一人になる。空想を始める
受動攻撃性敵か味方かと言う単純化された対立図を持ち込む。不満を言う。泣き言や愚痴をこぼす
反社会性状況を有利にしようと、相手を威嚇したりそそのかしたりする。嘘をついてマウントをとる
ストレス負荷がかかったときのパーソナリティタイプ毎の反応(一部)

ストレス負荷がかかったりうつが発症したりしたとき、人は退行して幼少期の子どもがするような反応を行うということは、100年以上前から報告されています。
「退行」と聞くと幼児退行を連想しがちですが、幼少期に身につけた反応、言葉が未熟だった頃には有効だった行動という意味では、泣いたりダダをこねたりすることだけが退行ではありません。

ストレスがかかったときにどんな反応を示したか、どのような行動を「合理的に」おこなったかを知ることは、パーソナリティタイプの特定に役立ちます。
ストレスフリーな状況や人間関係を目指すよりも、ストレスがかかったときに退行せず、真に合理的で目的に適った行動をとることを目指した方が、相談者のQOLを長期に渡って高めやすいからです。

人格適応論と作品のキャラクター

人格適応論では、パーソナリティ描写を分かりやすくするため、映画やテレビドラマに登場したフィクションの人物をしばしば例に挙げています。
ここではそれにならい、作品のキャラクターがどのパーソナリティタイプに該当するかを挙げてみます。

キャラクター(作品名)
演技性惣流・アスカ・ラングレー(新世紀エヴァンゲリオン)・葛城ミサト(新世紀エヴァンゲリオン)
葵井巫女子(戯言シリーズ)
サザエ(サザエさん)
強迫性綾波レイ(新世紀エヴァンゲリオン)
枢木スザク(コードギアス 反逆のルルーシュ)
羽川翼(化物語)
ワカメ(サザエさん)
パラノ型赤木リツコ(新世紀エヴァンゲリオン)・碇ゲンドウ(新世紀エヴァンゲリオン)
私(四畳半神話大系)
貝木泥舟(化物語)
スキゾイド碇シンジ(新世紀エヴァンゲリオン)
ぼく(戯言シリーズ)
千石撫子(化物語)
受動攻撃型紫木一姫(戯言シリーズ)
毛利小五郎(名探偵コナン)
ノリスケ(サザエさん)
反社会性加持リョウジ(新世紀エヴァンゲリオン)
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア(コードギアス 反逆のルルーシュ)
哀川潤(戯言シリーズ)
カツオ(サザエさん)

まとめ

人格適応論は交流分析学派のパーソナリティ理論であり、6つのタイプでパーソナリティを分類します。
その6つとは、演技性・強迫性・パラノ型・スキゾイド・受動攻撃型・反社会性です。
この6つは、問題解決への取り組みと対人関係への態度において、それぞれ異なるスタンスをとります。

DSM-IIIの診断名からつけられた名称ですが、パーソナリティ障害がパーソナリティの否定的側面しか描写していないのに対し、人格適応論ではパーソナリティの肯定的側面にも着目し、その上で治療や社会適応を目指していくために使用されます。
うつをはじめ、日本のストレスケア場面ではその人の個性ともいうべきパーソナリティが考慮されていないため、的外れなストレス対処が出回っていたり、パーソナリティからすれば真逆ともいえるようなストレス対処をアドバイスされたりしているのが現状です。

パーソナリティを類型的に捉え、それぞれのパーソナリティに適合したストレスケアやメンタル治療を行うことが望ましいと考えます。
家族や社内の人のストレスケアがうまくいっていないと考えている方、自分に本当に合ったメンタル治療をお探しの方は、一度当オフィスにご相談ください。

※1 交流分析による人格適応論, ヴァン・ジョインズ, イアン・スチュアート, 2007

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