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モラハラしがちな人 −パラノ型パーソナリティ–

「モラハラする人はなぜそんなことをしてしまうの」
「モラハラしたことを自覚し、行動を改めることはできるのか」
そんな疑問を持ったことはないでしょうか。

ストレスからモラハラをしているとも言われますが、同じストレスがかかっていてもモラハラする人としない人がいるのも事実。
実は、モラハラしがちな人の性格傾向と生育歴があると考えられるのです。

モラハラしがちな人の心理や思考、その傾向と対策について説明します。

モラハラしがちな人の特徴

初対面のときからやや失礼

モラハラとは無縁に思われる初対面のときから、モラハラは始まっています。
モラハラしがちな人は、失礼の階段をスモールステップで駆け上がってきます

例えば、出会ったその日のうちに「ちゃん」づけで呼ぶ、出身地や所属などから相手のことを決めつけて話す、自慢話を展開する、話をさえぎる、相手の容姿のことを話題にする、ひじで小づいたり叩いたりする、物やお金などを借りるといった行動です。
これらは職場の上司や役職が上の人に初対面では行わない行為のため、社会通念上は失礼な行為に当たります。

こういった行動をするのは、レベル5の失礼なことを許してくれる人はレベル10の失礼になっても拒絶しづらく、「前は◯◯しても何にも言わなかったじゃん」「だったら◯◯したときに言ってよ」と、相手を非難することができるからです。
モラハラされにくい人は「違和感を感じた」と言いますが、要するにこの「ちょっとした失礼」に気づき、あらかじめ親密にならないようにしているものと考えられます。

強固な論理で責めてくる

独自の、しかし強固で反論しづらい論理で相手を責めます
要は「感情的に不快だった」「だからあなたが悪い」という結論に至るまでの過程を、延々と話してきます。

対話ではなく一方的な論理展開を話したいだけなので、メールやLINEがよく長文になります

想像をエスカレートさせ、グレーゾーンがない

自分が知覚したものを「事実」と錯覚し、その上で自分の想像をエスカレートさせてくるため、しばしば現実と妄想を取り違えます。
想像の中では1のことが10にも100にも増幅されるため、たった1つの落ち度でもそれ以外の全てまでダメというような、極端で融通の利かない考え方をします。

例えば、相手が女性の場合、知り合いの男性と気軽に話していただけで「浮気」「不潔」「不倫」などと責め立てます。
本人にとっては「落ち度があった方は全面的に謝罪すべき」という考えからこのような発言が許されると思っており、また相手としても「落ち度があったのは事実だから」と責められていることを忍容し、結果としてモラハラ関係が維持されます。

叱責の対象が相手ではなく、相手の友人や家族に矛先が向くこともあります。
「お前の家族はみんなバカだから」や「そんな低レベルな友達の話は金輪際口にしないように」といった言葉で身内を責めると、相手も「自分が責められなくて良かった」と安堵したり、「自分も同じことをしたらこう責められるのだ」と萎縮したりして、次第に思考の幅がせばまっていきます。

試し行動が多い

相手の発言が嘘でないか行動で確認したり、相手が「無理」と言い出さないか試したりします。
まず試し行動に乗ってくれる人かどうかの選別がすでに済んでおり、それだけでは飽き足らず行動でも示してほしいがために、何度も繰り返し試し行動をとってきます。

試し行動に乗ってこなかった場合は心の底から落胆しますが、頭のどこかでは「やっぱりな」と思っています。
これは、モラハラしがちな人が他よりもシャープな知性を持ち、「無限の愛」や「大いなる母のような存在」は実在し得ないことを、実は頭のどこかでは理解していることの表れでもあります。

「常識的に」や「普通」で逃げる

モラハラしがちな人は明晰な頭脳を持っていることが多く、相手を責めることにその全神経を注ぎます。
一方、その叱責は「相手が悪い」と思う感情から出ており、冷静に理論立てているわけではないため、責める理由以外の理屈は隙だらけであることが少なくありません。

そういった論理の穴を埋めるために「常識的に考えて」や「普通は」といった言葉をよく用いる傾向があります。
他にも、「一般的に」「自分の周りにはいない」などの言葉を用いたり、相手が考えてから返答しようとすると「深く考えすぎ」や「考えるな」と制止してきたりすることもよくあります。

モラハラしやすい人の主訴

いらだち

綿密な計画や予定を立てれば立てるほど、その計画からわずかでも外れてしまうと、計画そのものが台なしになってしまうリスクは高まります。
モラハラしやすい人は緻密なプランを練るもののその通りにはいかず、結果イライラしたり不機嫌になったりすることが多くなります。

「モラハラの根底にはストレス過多が潜んでいる」と言われますが、こういった性格傾向によって人より多くのストレスが生じさせてしまっているのです。
イライラすることで自分自身の統制がとれなくなったり、人によっては喫煙頻度が増してしまったりしたことを機に、心療内科やストレス外来を受診する方もいます。

非難

常習的にあら探しするようになっている人や、そのあらをいちいち非難するような人が、人間関係に支障をきたし、関係修復に働きかけようと相談に訪れることもあります。
臨床経験上、自己分析を深めたことで離婚を回避できたり義父母との関係が修復できたりした方もいますが、行動変容したものの関係が決裂してしまった方もいらっしゃいます。

拒絶からの落ち込み

交際相手や周囲の人から拒絶されてしまい、ひどく落ち込んだために相談に訪れる方もいます。
モラハラしやすい人も嫌われたり離れたりしたくて行動しているわけではないため、他者から拒絶されると心の底から落ち込み、落胆します。

落ち込みは自身の行動変容が必要であることのサインと捉え、そこから自己洞察したり言動を改めたりするのが建設的ですが、中にはその落ち込みも利用して相手の同情を誘い、また更なる試し行動をしかけたり「落ち込ませるお前が悪い」と責めてきたりする人もいます。
落ち込みは一過性のものですが、死をほのめかして相手を操作しようとしてくる場合には、入院対応可能な病院での診療が適していることもあります。

ここで挙げたような特徴を備えた性格をパラノ型パーソナリティといいます※1
妄想型パーソナリティと呼ぶこともありますが、妄想が多いわけではないので、混乱を避けるためここでは妄執パラノ型パーソナリティの呼称で統一しています。

パラノ型パーソナリティの人の認知

完璧でなければならない be perfect

物事を完璧に成し遂げたとき、過不足なくやり遂げたとき、私たちは達成感を得ます。
「完全であれ」の認知を持った人は、「完璧でなければならない」「完璧でなければ自分はOKでない」と考え、完璧になるよう行動します。

完璧なものほど少しの欠点や遅れによって調和が崩れ、台なしになってしまうリスクをはらんでいます。
当初からそういった欠点や遅れが発生する可能性を見込んでおかない、理想主義的な認知特性が原因なのですが、ひとたび他の人がその欠点や遅れを生じさせた場合、執拗に責め立てたり他罰的になったりするような反応を示すことがあります。

最も完璧に近い状態は誰にも内面を打ち上げず、誰にも業務やタスクを任せない状態であると考え、自己開示しなくなったり仕事を他に割り振ったりしなくなります。
集団や組織の中で孤立し、仕事もプライベートも誰にも相談せず、業務やタスクを抱え込んだまま殻に閉じこもったように自分の理想だけを追求してしまうことも多くあります。

強くなければならない be strong

感情を表に出す人は子ども扱いされやすく、その感情につけ込まれるような対応もされやすくなります。
「強くあれ」の認知を持った人は、他者からのそういった対応をされないよう、感情を顔や言葉に出さないよう我慢するようになります。

例えば、嬉しかったり喜んだりすると次はその事柄をダシに何かやっかいなことをやらされそうになってしまうため、内心では嬉しくてもそれを外には出さないようになります。
悲しんだり落胆したりするとより一層嫌がらせをされたりそのことを嘲笑されたりしてしまうため、悲しくても外からそうとは分からないように振る舞います。

ここでいう「強く」は、「辛抱強い」や「我慢強い」といった場合に使われる意味での「強く」です。

近づいてはならない(信頼してはならない)

あまり人と親しくなろうとしなかったり、そもそも友好な関係を築きたがらなかったりする人がいます。
「近づいてはならない」の認知は、こういった行動傾向を持っている人の認知です。

積極的には社交的な場に出ていきたがらず、一人か少人数かでいることを好みます。
心のどこかで相手を信用できず、会話のときにも自分の話はあまりしなかったり、形式的な情報の共有しかしなかったりします。

子どもでいてはならない(楽しんではならない)

童心にかえってしまうと隙やボロが出やすくなり、そこを他者に見つかってはつけ込まれる、自分を陥れるための餌にされると考えます。
「子どもでいてはならない」の認知のある人は、そうならないために、自分が楽しんだりはしゃいだりすることを自ら制限します。

幼い頃、親が何らかの精神疾患だったり依存症だったりすると、「親はあてにならない。親や下の兄弟姉妹の面倒を見るためには、自分は子どもではならないのだ」と決断するといわれています。

感じてはならない

感覚は主観の最たるものであり、「私にはこう感じられた」という意見は、他の人の「でも私にはこう感じられた」で簡単に覆されてしまいます。
「感じてはならない」「感じるべきではない」の認知を持った人は、可能な限り客観性のあることを言おうとし、その結果、自分の「思ったこと」「感じたこと」をそもそもなかったかのように認知するようになります。

この認知を持った人は自分の身体感覚に注意を向けたり、今どのような感情を抱いているかを言葉にすることがとても苦手です。
一方、相手の感情(愛憎や好悪)を変えたいと思ったときにあらん限りの言葉をつぎ込むため、非常に多弁になったり長文をつづったりします(そして感情とは主観のため、言葉によるアプローチは大抵失敗終わります)

〜までは(○○してはならない)

幼少期には我慢を覚える必要があるように、成人後も自分の欲求を我慢することは必須のスキルです。
ある時点に達するまでは自分のしたいように行動してはならないという認知が「〜までは」です。

「完全に心の通う人を見つけるまでは誰にも心を開いてはならない」という認知があると、自分のことを軽々しく話したり雑談したりすることができず、周囲と自分との間に壁ができ、心の通う人を見つけるチャンスをふいにしてしまいます。
一方、自分のことを打ち明けた人や、個人的なことを話してきた相手には、心が完全に通い合うことを強要してきます。

違いや差があるのが他者ですし、完全な理解というものも存在し得ないため、こういった認知を持っている人は「自分が理解されることは決してない」と落胆することが必然的に決定されているとも言えます。

パラノ型パーソナリティの原因

パラノ型パーソナリティとなる生物学的・遺伝的要因は特定されていません。
他のパーソナリティ同様、出生後の生育歴にその原因があるという説が有力です。

パラノ型パーソナリティの人は、幼少期に受けた養育環境が不安定であり、一貫性のある養育態度でなかったといわれます。
あるときに褒められた行動が別のときには叱責されると、子どもは身の回りの要因を可能な限り全てコントロールしようとします。

自分の話し方は気分によって変えたり抑揚をつけたりせず、なるべく一定で養育者を刺激しないようにします。
物の配置やテレビのチャンネルなどもなるべく変えないようにし、兄弟姉妹にもそれを求め、変えた者を叱責して統制しようとします。

両親の養育態度が安定しない理由としては、一つには両親がうつや双極性障害などのメンタル疾患を発症していた可能性が考えられます。
両親は自分たちのメンタルを安定させることに手一杯のため、子育てにまで手が回らなかったり子どもへの注意を向けられるときと向けられないときが生じてしまうのです。

また、幼少期の体験として、悪いことを隠そうとした経験があると推察されます。
ここでいう「悪いこと」とは、違法性があるかどうかではなく、発覚したら叱られそうなこと、バツの悪いことを指します。

大事な物を壊す、弟や妹をいじめる、幼稚園や保育所のルールを破るなどをしたとき、隠そうと考えると誰かを口止めしたり、隠している場所に誰も近づかないようにしたりと、周囲に細心の注意を常に払わなければならなくなります。
この経験が、「自分の思い通りにするためには徹底的に管理・統制しなければならない」という認知を生み、やがて、自分の望むことであればあるほど、監視したり口出ししたりしないと気が済まなくなるのです。

過度な理想主義、理想通りに進まないと強い叱責を行うといったモラハラ的行動傾向は、このようにして形成されます。
愛着に関する心理学的研究やACEsの調査報告の結果も、このような生育歴とパーソナリティの関連を一部支持しています。

パラノ型パーソナリティ障害

パラノ型パーソナリティのネガティブな側面が強調され、自分や他者の生活を著しく障害する場合、パラノ型(パラノイド)パーソナリティ障害という診断になります。
妄想性パーソナリティ障害とも呼ばれるように、全く根拠がなかったりわずかな根拠しかなかったりする事柄を妄信し、周囲の人が自分に危害を加えようとしていると思ったり、自分をだまそうとしていると思ったりすることを主症状とします。

  • 他者が自分を利用している,傷つけている,または裏切っているという根拠のない疑念
  • 友人および同僚の信頼性について根拠のない疑いにとらわれている
  • 情報が自分に不利に使われるのではないかと考え,他者に秘密を打ち明けたがらない
  • 悪意のない言葉または出来事に誹謗,敵意,または脅迫的意味が隠されていると誤解する
  • 侮辱,中傷,または軽蔑に対して恨みを抱く
  • 自分の性格または評判が非難されたと考えやすく,性急に怒りをもって反応したり,反撃したりする
  • 自分の配偶者またはパートナーが不貞を働いているという根拠のない疑念を繰り返し抱く

有効な薬物療法や精神療法は確認されておらず、社交不安障害、PTSD、アルコールなどの物質依存障害などを併発しやすいとされています。

パラノイドに対処するには

パラノ型パーソナリティの人は非常に明晰な知性を持つ反面、対人関係では周囲から孤立してサポートを得られなかったり、他責性や攻撃性から関係に亀裂が入りやすかったりします。
パラノ型パーソナリティへの対処を3つ挙げますが、これらは心理カウンセラーなどの専門家がカウンセリングの中で取り組む方が望ましいものもありますので、身近にパラノ型パーソナリティの人がいらっしゃる方はご相談いただいた方がいいかと思います。

少しずつコントロールを手放す

綿密な計画や予定を立てることの多いパラノ型パーソナリティの人は、それが計画通りにいかなくなったときに多大なストレスを感じてしまいがちです。
予定外の要素を排したりベストな方法に固執したりしやすい人は、あえて予定にあそび(バッファ)を入れたり、ベストではなくベターな方法を選択したりすることで、一気にストレスがかかることを防げます。

人間関係でも、この人にはこうしてほしい、こうするべきだという思いが強くなっていたら、少しずつ自由な時間や発言を行えるよう設定するのも手です。
妻に1日だけは連絡もせず自由に過ごしてもらう、彼や彼女に3時間思っていることを話してもらい、その間にあったことはその後も反論したり言及したりしない、といった時間設計をすることで、少しずつ自分の統制癖を修正していきます。

感情をオープンにする

「強くあらねばならない」といった認知や過去の経験から、プライベートな事柄や自分の感情を素直に人に話すことが苦手な場合があります。
自分の中に感情が出現したとき、これまでの習慣からパッと覆いかぶせるように自分の感情を隠してしまい、無表情や冷静さで抑え込んでしまうのです。

感情を表現する前の段階として、「私は悲しい」や「私は怒っている」というように、言葉で表現しながら相手に伝えることで、これまでだと溜め込んでいたストレスを軽くすることができます。
「そもそも自分がどのような感情を抱いているのかよく分からない」という方もいらっしゃいますので、そういった方は当オフィスにご相談ください。

真実と思い込む前に確認する

パラノ型パーソナリティの人は、自分が見聞きしたこと、知覚したことを瞬時に判断し、それをそのまま真実と思い込むところがあります。
例えば、「男性と楽しげに話していたから浮気だ」「自分が来たら会話をやめたから陰口だ」といった具合です。

瞬時に決めつけてしまう前に、ちょっと立ち止まって「これはこういうことか?」と確認する習慣をつけることが、改善の第一歩です。
これまで思い込みから話してきた人が確認するようになっただけでも、周囲からしてみれば「ずいぶん変わった」という印象を持たれやすいですし、自分の中でも真の冷静さを獲得しつつあることに、達成感を抱く方が多いようです。

まとめ

対人関係においてモラハラになりがちな人は、パラノ型パーソナリティの可能性があります。
パラノ型パーソナリティの人は理知的で明晰な知性を持っている反面、理想や期待にそぐわないことが起こると多大なストレスを感じ、相手を理詰めで責めたり試し行動を繰り返したりすることがあります。

パラノ型パーソナリティの原因としては、幼少期の養育態度が一貫していなかったことから、周囲の人や物に対して過度に統制的になり、不確定要因をなるべく排除するようになったと考えられます。
パラノイドに対処するには、立案した計画に余裕を持たせたり、他者に対して少しずつ感情をオープンにしていったりすることで、認知や行動を変化させることができます。

パラノ型パーソナリティの人との関わり方や、自分自身のパラノイドを変えたいと思われる方は、専門家である心理カウンセラーや当オフィスにご相談いただくことをお勧めします。

※1 交流分析による人格適応論, ヴァン・ジョインズ, イアン・スチュアート, 2007

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