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災害の後遺症

災害とは

災害とは、人と環境との生態的な関係における広範な破壊の結果、被災社会がそれに対処するのに非常な努力を要し、被災地外からの援助を必要とするほどの深刻かつ急激な出来事とされています。

人と環境との生態的な関係における広範な破壊:建物の倒壊、交通網の寸断、地形の変化など

非常な努力    :がれきの撤去、土砂の撤去、消火、放射性物質の除去など

被災地外からの援助:自衛隊による人的支援、寄付金や支援金による金銭的経済的支援など

それには、地震や津波、森林火災などの自然災害、化学テロや脱線事故などの人為災害、原発事故などの環境災害を含みます。

災害による被害は、個人の許容量を超えたストレス負荷がかかるとされています。
そういったストレス負荷をトラウマティック・ストレスと呼び、一般的に「トラウマになった」と言われる際のトラウマとは、このトラウマティック・ストレスの略です。

災害の後遺症

被災したことの後遺症

まさに災害に見舞われた当人は、トラウマティック・ストレスを経験します。
自身が命の危険にさらされたかもしれませんし、災害後の悲惨な光景を目の当たりにしたかもしれません。
一個人では受け止めきれないストレスが一挙に押し寄せるため、身体的・生理的な反応が一時的に出現します。

自律神経症状としては、動悸が起こり、手汗や冷や汗が出てくることもあります。
口が常に乾いたり、知らないうちに首や肩に力が入っていたりもします。

避難所に行ってもそうでなくても、下痢や便秘をきたす場合もあります。
情動反応としては、警戒心が高まる他、何でもないときに涙が出てくることもあります。

被災地での後遺症

被災した人はすぐに安全の確保された場所に移れるわけではありません。
一時避難所で不安な夜を経験しなければならないかもしれませんし、帰宅を促されるも自宅で不安に駆られるかもしれません。

仮に警報や注意報が解除されても、それでスイッチを切り替えるように落ち着ける人は少ないでしょう。
もし人為的な災害に見舞われた場合だと、状況を引き起こした人への恨みや憎悪なども重なり、複雑な感情による葛藤が引き起こされます。

自然災害であっても、安心できる避難先に移れることは少なく、多くは見ず知らずの人との共同生活を余儀なくされます。
そこでは同じく被災して気の立っている人と関わらねばならず、その中で当たり散らされたり、喧嘩になったり、急に叫ばれて驚いたりと、更なるストレスをこうむって疲弊してしまうことも少なくありません。

避難所にいる女性が性被害に遭うケースもあります。
これも、長く緊張状態を維持しなければならない状況であること、「旅の恥はき捨て」のように非日常であることを言い訳にできる(甘えがある)こと、極端な娯楽資源の少なさなどが心理的要因として考えられます。

警報による後遺症

直接災害の被害を受けずとも、トラウマティック・ストレスを被るケースもあります。
Jアラートの警報音によって緊張状態になったものの、その後も緊張状態が解けなかった場合などがそれです。

人には「日常」「平常時」のままであってほしいという欲求のようなものがあり、多少の変化が生じても「日常の範囲内でのことだろう」と思いたがる傾向があります。
この傾向を正常性バイアスといいますが、Jアラートをはじめとする各種警報は、この正常性バイアスを打ち壊し、「非常時である」ということを知らせるため、あえて日常的ではない音に設定されています。

危機を知らせ、日常とは違った行動をとらせるためにあえて緊迫感や緊張度の高い音を鳴らしているわけですが、そのことが事態を「手に負えない」ものと認識させ、危機が去った後も張り詰めた気持ちのままになった場合に、それらがトラウマ化するリスクもはらんでいます。
同様に、非常時に国営放送で流れるニュース番組でアナウンサーが大声を出すのも、非日常への切り替えを促すための技術であり、それがトラウマ化する人もいます。

被害状況を目撃したことの後遺症

被災した瞬間を目撃したり、被害に遭った様子を見たりすることで、トラウマティック・ストレスを感じる場合もあります。
震災関連のニュースに4時間以上接した人は、PTSD症状が表れやすくなっていたという調査報告もあります※1

メディア報道は「一体何が起こっているのか」を把握するには欠かせない情報源ですが、被災した人の苦しみや悲しみまでも克明に映し出し、それを見た人もまた同程度の苦痛を感じやすくもなります。

あたかも自分が被害を受けたかのように感情移入することを、感情的同一化といいます。
視聴者が感情的同一化してしまうと、家中が津波で滅茶苦茶になった人と同じように喪失感に襲われたり、肉親を失った人と同じように悲嘆に暮れたりしてしまいます。

被災にまつわる情報に触れるのは、たとえ関心が高くても過度にならないよう注意しましょう。

被災者に限らず、被災した状況を見聞きした人であっても、一時的に饒舌になったり、反応が過度に大きくなったり、気分がハイになったりすることがあります。
これを躁的防衛と呼んだり、覚醒亢進症候群と呼んだりします。

気分が高揚するため本人は苦痛に感じていないかもしれませんが、心身には間違いなくストレス負荷と認識されていますので、クールダウンするなどして対処することが肝要です。

正常な反応

急性ストレス反応

個人の許容量を超えたストレス負荷がかかった際、人体はその負荷に抵抗するため、これまでとは異なる生理的反応を生じさせます。
精神医学的には、そのような反応を急性ストレス反応(Acute stress reaction:ASR)と呼びます。

再体験     :鮮明に思い出すこと、フラッシュバック、悪夢など

過覚醒     :強い警戒心、緊張感、物音や揺れなどに驚く反応など

ネガティブな感情:悲しみ、不安、怒り、過活動、不活動、ぼんやりとした様子、絶望など

ASRは病的ではなく正常な反応ですが、それまでの体や心の状態とは明らかに違うため、自覚的には「病気になった」と認識されるかもしれません。

被災したり被災状況を見聞きしたりしてASRが起きると、「自分は頭が変になったのではないか」「おかしくなったのではないか」といった考えが脳裏をよぎる場合があります。
「こんなことで精神の病気になるなんて、弱い人間なのではないか」「自分の神経は脆いのではないか」と言う人もいます。確かに反応の起きない人も稀にいますが、生理的な反応は起きる方が生物学的には自然ですので、闇雲に自分を責めることは控えましょう。

とはいっても、通常とは違う体の反応が1週間も続けば、「病気になったのでは」と全く思わないのも無理な話でしょう。
余震のようにストレス要因が続く場合、ASRも1ヶ月近く出現するとされています。

病気ではないけれどつらい状態が何日も続くようなときには、カウンセリングに代表される非医療サービス、極度のストレスに対する理解を深めるトラウマ・インフォームドケア(TIC)、トラウマティック・ストレスの応急処置とも言われるサイコロジカル・ファーストエイド(PFA)などが有効です。

まとめ

非常に脅威と感じるような出来事や状況にさらされると、一時的に情緒不安定になり、自律神経症状をはじめとする身体反応が表れることがあります。
これを急性ストレス反応(ASR)といい、被災した人やその様子を目にした人全員に起こる可能性があります。

病的で異常なことではなく、異常な事態に対する正常な反応です。

災害に遭った際には、自分が何を体験し、そこからどのような感情が生じたかを話し合うことが大切です。
被災者だけでなくその支援者、被災状況をテレビやネットで見た人も、画一的でない複雑な感情を抱くため、それを言葉で仕分けながら整理していくことが、人間の本来持っている回復力や復元力を取り戻す助けとなるからです。

しかし、災害の体験やそこから生じた感情にただ耳を傾けるというのも、なかなか難しいものです。

被災者の場合だと、話したい相手もまた被災者だったり、支援をするために現場入りした人だったりするためです。
また、被災していない人の場合、なぜそんなにストレスを感じているのか伝わりづらかったり、話された方もストレス反応が生じたりすることも難しさの一因でしょう。

災害のようなトラウマティック・ストレスについて話し合うときには、傾聴のプロであるカウンセラーに頼るのが効果的です。
急性ストレス反応を起こしていると思われる方、トラウマ治療を受けてみたい方は、ぜひ一度当オフィスにご相談ください。

※1 東日本大震災後の救援者における周トラウマ期の苦痛、テレビ視聴とPTSD症状との関連 https://journals.plos.org/plosone/article/file?id=10.1371/journal.pone.0035248&type=printable

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