プロジェクトが佳境にさしかかったり、締め切りがたまたま重なって追い込まれたりしたとき、一時的に集中力や判断力が増し、乗り切れたことはありませんか?
こういった状況の後、どっと疲れたり、やる気が起きなくなったりすることを燃え尽き症候群(バーンアウト)だと思っている方が多いようです。
実はこの状態は、燃え尽き症候群ではありません。
「えっ」と思われた方、燃え尽き症候群を病気だと思っている方などは、燃え尽き症候群を誤解しているかもしれません。
燃え尽き症候群の特徴やなりやすい職業、対処や治し方について解説します。
燃え尽き症候群とは? 燃え尽き症候群の定義
燃え尽き症候群とは、主に熱心でひたむきに業務に取り組んできた就労者が、あるときぱたりと意欲を失い、疲れ果てて無気力になってしまう状態のことです。
米精神科医ハーバード・フロイデンバーガーが保健施設に勤めていたとき、勤労意欲の高かったはずの同僚たちが燃え尽きたように元気を失くし、仕事への関心を失っていくのを目の当たりにしたことから、病的な精神状態として提唱されました。
燃え尽き症候群となった人は、それまでは一つのことに没頭しており、他者と深く関わるよう取り組んでいた人たちでした。
彼らは一転して精神的に消耗し、疲労感を訴え、「働きたくない」とこぼしたり、実際に辞職していってしまったりしたといいます。
退職まではせずとも、欠勤が増えたり、対人場面を明らかに避けるようになったり、アルコールや薬物に逃避したりすることもあります。
燃え尽き症候群になりやすい人は? 燃え尽きやすい人の特徴
バーンアウトしやすいのは、ヒューマンサービスに従事している人たちです。
また、特に若年層に多く見られます。
- 医師
- 看護師・保健師
- 介護士
- 教師
- 保育士・幼稚園教諭
- 塾講師・予備校講師
- 宿泊施設従業員
- ホテルマン・コンシェルジュ
- キャビンアテンダント
- 営業職
- 飲食店店員
- カスタマーサポート・カスタマーセンターオペレーター
医療・福祉・教育といった公共サービス領域に属する人が罹患しやすく、一時期は医師・看護師・保健師・ヘルパー・教師などの職業病とも考えられていました。
昨今ではそれ以外にも、プロジェクトを完遂させたビジネスパーソンや、受験を終えた新入生なども発症することが確認されています。
燃え尽き症候群になるとどうなる? 燃え尽き症候群の症状
「燃え尽き」という響きから、意欲を失くしたり、気力が枯渇したりするイメージが先行しやすいですが、バーンアウトの症状はそれだけではありません。
むしろ、バーンアウトの他の疾患と最も異なる特徴は、接する相手に冷たくなったり、人をモノのように扱ったりするようになる、脱人格化にあります。
脱人格化
サービスを提供する相手に冷淡になったり、同僚とコミュニケーションをとるのが嫌で避けたりすることを、脱人格化といいます。
援助対象である人がどう受け取るか、どう感じるかといった結果もどうでもよくなったり、患者や利用者の分からない専門用語や隠語を彼らの前で頻発するようになったりするのも、脱人格化の一形態です。
これまではむしろ意欲的に働いていた人が脱人格化すれば、周囲の驚きも特に強くなることでしょう。
あたかも人格が変わったような発言や行動は、うつ病などの診断基準にはなく、バーンアウトに特徴的な症状といえます。
情緒的消耗感
業務を通して精神的に疲弊し、情緒的な反応ができなくなるまで消耗したような感覚を、情緒的消耗感といいます。
身体的な疲労がないはずなのに精神的疲れから活動したくないと感じ、それが高じると仕事に行きたくない、就労を継続したくないと思い、休職や退職の動機となっていきます。
バーンアウトの主症状とされていますが、うつ状態とも酷似しており、これだけでバーンアウトかどうかを判別することは困難です。
個人的達成感の低下
ヒューマンサービス業務の利点は、サービスを施した人の反応が即座に得られ、それがまた動機づけとなって「もっと喜んでもらおう」「もっと自分や現場を良くしよう」と向上・改善できるところです。
個人的達成感の低下とは、こういった業務に関連した達成感や有能感を得られないか、得られても僅かになるかといった状態のことです。
業務に没頭できない、楽しみや喜びを業務から得られない、終業後に満足感も充実感も感じられない、といったものが、個人的達成感の低下した状態です。
こちらもうつ状態の中の「興味関心の低下」や「意欲の低下」と酷似しており、これだけでバーンアウトを鑑別することはできません。
燃え尽き症候群は病気? 病気でない?
アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-5には、燃え尽き症候群およびバーンアウトに該当する記載はありません。
また、WHOによる国際疾病分類(ICD-11)でも、「職場の問題」としてバーンアウトについての言及はあるものの、こちらも医療的な治療を要する疾患ではなく、あくまで職業上の事象であるとされています。
燃え尽き症候群やバーンアウトが診断名としてつくことはなく、妥当なところとしては適応障害、投薬を前提とするならうつ病やうつ状態と診断されることが多いようです。
燃え尽き症候群にはどう備えたらいい? 燃え尽き症候群への対処
一般的なバーンアウトの対処としては、ヒューマンサービス業務に個人ではなくチームとして対応することです。
個人対個人でサービスを提供していると、熱心に取り組んだりのめり込んだりはしやすいかもしれませんが、業務上の役割としての自分か、個人としての自分かが不明瞭になり、無理をしたり思い悩んだりするリスクも高まります。
チーム内で役割分担できれば、ある人への対応に熱中しても別の人へはまた別の役割を担うため、「職場での役割を果たす自分」と「個人としての自分」の境界が明確になり、過度の没入や熱中を避けることができます。
また、もし苦情を受けたとしてもチームに共有することで一人で苦悩を抱え込まずに済み、いわゆる「心が折れる」リスクも減らせるでしょう。
突き放した関心
患者や利用者に寄り添いながらも一定の距離を保ち、業務上の役割外のことにまでは関与しない姿勢が、バーンアウト予防には効果的です。
こういった業務に対する姿勢を、突き放した関心といいます。
自分の役割や立場を踏まえ、その一線を意識しながら働くことは、職場だけでなく業界のサービス全体の底上げにも繋がります。
特に、日本人は「より真心を」「より思いやりを」「より良いおもてなしを」とスタッフに追求し、料金以上の付加価値をもらい受けようとする傾向も強いため、業務上求められる役割を意識することは、心身の健康維持にも役立つでしょう。
燃え尽き症候群になったら? 燃え尽き症候群の治し方
バーンアウトは医学的な診断名ではありませんが、50年も前から確認されている、就労上の消耗感と人格変容です。
もしバーンアウトになってしまったら、どのように業務に打ち込み、どのように感じていたかをカウンセリングの中で吐露し、思いを整理してから、就労を継続するか離職するか決めるのが良いでしょう。
バーンアウトは何より、なってしまった本人を戸惑わせます。
それまでの働き方がしたい、けれど心がついてこないところに、「働けるなら職場に出てこい」「就労できないなら辞めたら」と決断を迫っては、余計に焦ってしまいます。
まずは混乱と焦燥を打ち払い、その後どうしたいかをはっきりさせるのがベターです。
バーンアウトを経験した人の方が仕事と適切な距離をとれるようになり、精神的にもタフになると言われます。
バーンアウトを治したい方、感情労働に疲れ今にもバーンアウトしそうな方は、一度当院にご相談ください。
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