九段下駅から徒歩1分
月〜土実施

ご予約・ご変更はこちら

トラウマと東日本大震災

M9.0という未曽有の地震動によって引き起こされた東日本大震災から、今日で丸11年が経ちました。
震災時の心理状態や生理的反応から、災害によるトラウマについて解説したいと思います。

震災でトラウマを負った人たち

被災地で受診した人の主訴
被災地でのメンタル不調者の診断

被災者

東日本大震災当時の避難者は47万人にのぼるとされ、そのうちの少なくとも1割(4万7千人)以上がPTSDを発症したと言われています。
被災地での震災後ストレス外来ではおよそ8割の人が精神疾患とみられる症状を訴えていたと報告されており、そのうちの1割以上がPTSD、もしくはPTSDと酷似した症状を呈していました※1

一方、半数ほどの人には身体症状もみられたとされています。
被災地でよく確認された身体症状としては、余震に対する緊張状態からの緊張性頭痛、同じく緊張や不安から自律神経のバランスを崩したことからくる過換気症候群、胃痛や腹痛といった消化器系の機能障害などが挙げられます。

救助者・支援者

直接被害を受けた被災者だけでなく、救命や支援のために被災地に入った救助者にもPTSDがみられることが知られています。
被災地から避難場所に拡散していく被災者と違い、救助者は意図して被災地に留まること、被災地入りを許可した行政や組織側には救助者の体調や行動を管理する必要があることなどから、救助者のメンタルヘルスに関する研究や報告も数多く存在します。

そこでも、救助者は被災者と同程度の割合でPTSDを発症すると言われています※2
死者の遺体と対峙した方、被災地の惨状を前に無力感にさいなまれた方、物資が足りなかったり避難者対応の中で自身も情緒的に不安定になった方などがPTSDを発症するまで無理してしまったのでしょう。

トラウマケアは被害者だけでなく、被害者をケアする救助者にも必要とされています。

視聴者

震災時は被災者だけでなく、その惨状をテレビで目にした日本国民にも衝撃を与えました。
ある調査では、震災関連のニュースを1日4時間以上視聴した人は、そうしなかった人に比べてPTSD症状が出現しやすかったことが報告されています※3

繰り返し流される震災の映像に感情を取り乱しそうになったり、取り乱した自分を恥じたりした人は特にPTSDになりやすかったといいます。
天災ではありませんが、同じく人的災害であるウクライナ戦争の様子が今も日々ニュースで報じられています。
こういった番組によってもPTSDになるリスクが高まることは視聴者として知っておかなければいけません。

震災によって引き起こされたトラウマ症状

トラウマ症状は1か月間継続して確認された場合にはASD(急性ストレス障害)、半年以上継続した場合にはPTSD(トラウマ後ストレス障害)と診断されます。
東日本大震災ではASDやPTSDとは診断されないまでも、それらの症状の一部がみられた方が多くいました。

考えるつもりもないのに震災のことを考えてしまったり、まるで被災時に戻ったかのように感じたりしてしまう侵入症状、震災を思い出させるものには近づかなくなる回避症状、イライラしたり怒りっぽくなったり、警戒しやすくなったりする過覚醒症状のうち、全てもしくは一部を表出した人が全国で確認されました。

子どものトラウマ症状

トラウマ症状を呈していたのは大人だけではありません。
被災地の子どもたちやPTSDになった人の子どもなどにもトラウマ症状がみられました。

親に抱っこをねだったりまとわりつきたがったりし、不安感の高まりから夜泣きをしたり駄々をこねたりすることもあります。
大人のように内科的症状(ストレス性の胃痛やめまい)として身体化することはない反面、行動化しやすい傾向はあるため、養育者側が対応に困るようでしたら児童精神科や保健所に相談するのが良いでしょう。

トラウマ後の一次症状

ストレスは生理神経学的反応を引き起こし、次いで様々な症状に発展する

トラウマ症状を持っているかどうかの心理検査では、先の侵入症状回避症状過覚醒症状の3因子が構成要素として確認されることが多いです。
また、症状の内容に着目し、恐怖心や警戒心などの感情や認知のネガティブな変化を主症状に含めるものもあります。

ここでは、トラウマ症状を自律神経系の反応からトラウマ体験直後から出現する一次症状一次症状が長引く(遷延化する)ことによって生じる二次症状に分け、トラウマ体験をした人についての理解を深めたいと思います。

トラウマ体験の最中や直後は、自律神経系はシャットダウン(凍りつき)反応が起こり、背側迷走神経優位の状態に入ります。
この状態のときは末梢の血流量の減少や大脳新皮質の機能低下から恐怖心が増大し、「もう助からない」と悲嘆に暮れたり絶望したりします。

時間経過と共にシャットダウンの状態からは回復しますが、ことあるごとに自律神経がシャットダウンを起こすようになり、その度に今、ここにいる感覚がなくなったり、最初にシャットダウンを起こした情景が頭に浮かんだりするようになります。
これは、PTSD症状で言うところの侵入思考・フラッシュバック・離人感に当たります。

また、一度シャットダウンを経験した被災者はその後、ストレスを感じると「シャットダウン時にはできなかったストレス反応」としての交感神経優位の状態に入りやすくなります。
地震の些細な兆候に興奮したり、気が動転したり、怒って攻撃的になったりします。

PTSD症状で言うところの過覚醒状態であり、この状態では寝つきも悪く、警戒心も強く、易怒的になります。

トラウマ後の二次症状

二次症状の中でも最も発現しやすいものが、回避症状です。
地震や津波に遭遇した場所に近づけない、それらに関する情報を避けるなどは、先に挙げた一次症状に陥らないための防衛機構であり、二次的なものと考えられます。

一次症状で挙げたような交感神経優位と背側迷走神経優位の状態を繰り返しおこなっていると、次第に体は疲弊し、神経系や免疫系、ホルモンバランスといった体の恒常性(ホメオスタシス)も崩れていきます。
疲弊した体は当然休息を求め、活動性を低下させ、気分も下向きになることが多くなります。

こうしてトラウマ体験をした人は抑うつや興味関心の低下を経験しやすくなり、状態像だけ見るとうつ病と変わりない状態になります。
PTSDと診断された人の2人に1人はうつ病を併発していること※4、被災者の多くはうつ病と診断されていることなどからも、これらのうつ状態はトラウマ体験の二次症状であると考えられます。

こうしてトラウマ体験をした人は抑うつや興味関心の低下を経験しやすくなり、状態像だけ見るとうつ病と変わりない状態になります。
PTSDと診断された人の2人に1人はうつ病を併発していること※4、被災者の多くはうつ病と診断されていることなどからも、これらのうつ状態はトラウマ体験の二次症状であると考えられます。

被災地でのメンタル不調者の診断(再掲)

トラウマに残るようなストレスのかかった人は、同じ目になんとか遭わないようにとあらゆる手を尽くします。
危険そうな場所に近寄らないだけでなく、関連する事柄に出くわさないよう、周囲の状況を完璧に自分のコントロール下に置くことに全力を注ぎます。
会話でもそういった話題が出ないように予防線に予防線を張り巡らせたようにあらゆる事柄に言及する人もいますし、できる限りの願掛けや神頼み、ジンクスを行う人もいることでしょう。

このように、精神医学的には強迫性と呼ばれる状態もまたトラウマ体験の二次症状と言うことができるでしょう。
他にも、涙が出やすくなる、体から倦怠感が抜けない、麻痺した身体感覚を取り戻すように自傷行為や自己破壊行動をとるといった心理的・社会的行動も二次症状として表出する可能性があります。

まとめ

これまでトラウマやPTSDは心理的問題として被災者の主観的訴えによって診断されていましたが、生理的な一次症状とその後に起こる二次症状が明らかになっていけば、今後は客観的な基準によって診断と治療が行われるようになっていくでしょう。
その中で、主症状と考えられていた回避症状があくまで二次的な症状ということが認められれば、これまで回避症状がないがためにPTSDと診断されなかった人も正しくPTSDとして診断され、適切な治療を受ける機会が得られるようになることが期待できます。

トラウマ体験は生理神経学的な反応だけでなく、心理的な問題や社会的な困難を二次的に引き起こします。
トラウマを治療するときには、ただPTSDの診断基準にある症状を解消するだけでなく、そこから派生した症状まで治療し、適切な社会生活を送れるところまで改善できる治療者を選ぶことが大切です。

※1 大災害のストレスと心身医学:仙台・宮城からの速報(2012), 福土審, 庄司知隆, 遠藤由香, 鹿野理子, 田村太作, 森下城, 佐藤康弘, 町田貴胤, 町田知美, 野田智子, 橋田かなえ, 田中山佳里, 金澤素, 心身医学 52(2) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/52/5/52_KJ00008045858/_pdf/-char/ja

※2 東日本大震災の救援者の心的外傷後ストレス障害に関する調査(2012) https://www.jst.go.jp/pr/announce/20120426/index.html

※3 東日本大震災後の救援者における周トラウマ期の苦痛、テレビ視聴とPTSD症状との関連(2012), 西大輔, 小道雄一, 中谷直樹, 曽根敏正, 野口博子, 浜崎圭, 浜崎智仁, 松岡阜  https://journals.plos.org/plosone/article/file?id=10.1371/journal.pone.0035248&type=printable

※4 Posttraumatic stress disorder in the National Comorbidity Survey, Kessler RC, Sonnega A, Bromet E et al, Arch Gen Psychiatry 52:1048–60, 1995. https://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/article-abstract/497313

コメント

  1. Aw, this was a really nice post. In idea I want to put in writing like this moreover – taking time and actual effort to make a very good article… however what can I say… I procrastinate alot and certainly not seem to get one thing done.

タイトルとURLをコピーしました