EMDRとは? EMDRの概要
EMDR(Eye movement desensitization and reprocessing)は、心理療法の技法の一つです。
この方法では、トラウマとなった記憶を脳が処理する間、目を特定の方法で動かします。
想起と眼球運動を同時に行うことにより、脳と体の情報処理が進み、トラウマとなった記憶を整理することができます。
EMDRの目的は、トラウマやその他の苦痛を伴う経験からの回復を助けることです。
EMDR中、相談者は感情を乱すような事柄を短時間連続で想起し、同時に外部刺激にも集中します。
外部刺激には、横方向の目の動きを使用することが一般的です。
他にも、ハンドタッピングや音刺激を含む、様々な刺激もよく用いられます。
EMDRを受けると何が起きる? EMDRの効果と目的
EMDRによる治療に成功すると、精神的苦痛が軽減され、ネガティブな思考が再形成され、生理反応としての興奮が低減します。
また、痛みを伴う出来事の意味が感情レベルで変化します。
例えば、パワハラの被害者は、恐怖と自責の念から、「私はよくやった。私は強い」という確固たる自己観を持つようになります。
最終的な効果としては、相談者がかつて自身を貶めていたまさにその体験によって力づけられていたと感じながら、EMDRのセッションを終えられるようになることです。
EMDRは眼球運動によって何を起こそうとしているのか
生き物の体は本来、傷を塞ごうと自然に働きます。
出来事も同様に、起こったその瞬間から脳内で処理され、解釈され、大枠以外の細かいところは忘れていくようにできています。
しかし、トラウマに残るような出来事の場合、出来事のインパクトによってそういった脳の機能がブロックされてしまい、そのときの感情が凍結保存されたように忘れられなくなったり、出来事を細部に至るまで覚えていたりするとされています。
EMDRの創始者シャピロは、この脳の持つ記憶の処理機能を適応的情報処理モデル(Adaptive Information Processing Model:AIP)と名付けました。
EMDRは、目の動きに代表される外部刺激によって脳の本来持っている処理機能を再活性化し、トラウマとなった出来事を様々な観点から考え直したり、捉え直したりすることを促進するとされています。
EMDRはどういう手順で行われる? EMDRの方法と流れ
EMDRは8ステップの治療法です。
カウンセラーは最初に度の記憶をターゲットにするかを相談者と決めます。
その後、相談者にその出来事やそれにまつわる思考を思い浮かべながら、カウンセラーの手が視界の中で往復するのを目で追ってもらいます。
すると、相談者の中で連想が次々と生じ、脳が記憶とネガティブな感情を処理し始めます。
EMDRも一般的なカウンセリングも、相談者の中での洞察(気づき)を引き出すという点では同じです。
異なるのは、一般的なカウンセリングが対話の中から洞察を深めていくのに対し、EMDRは脳の自然な処理を促進させ、記憶の中にある出来事の別側面に気づいたり、「安全であること」や「力を有していること」に感情レベルで実感したりするという点です。
EMDRを受けるリスクはないか? EMDRの危険性と副作用
EMDRは脳の記憶ネットワークにアクセスする心理療法です。
そのため、記憶と感情の繋がりに関する危険性をはらんでいます。
例えば、何でもないと思っていた出来事について取り扱ったことで、むしろ深い悲しみや強い怒りを感じていたことに気づくことがあります。
「あの後、助けてくれれば良かったのに」と、改めて感じる可能性はあります。
感情レベルでの安定化を目指すEMDRですが、それまでの間に不安定になることも当然ながらあり得ます。
カウンセリングルームから自宅まで帰れるか、次回までの間に話を聞いてくれたり、生活を手伝ってくれたりする人はいるか、いきなり生活費が底をつくような不安定な状況ではないか等は、実施前に確認が必要です。
記憶からくる苦痛度の減少を目的としているため、係争中の事柄に関する記憶を取り扱った場合、以前話していたときほど感情的に取り乱したり、強いネガティブ感情が甦ってきたりしなくなるかもしれません。
そうすると、そのことが一因となり、裁判で負けてしまう可能性もあります。
法的処理があらかた終わってから治療した方がいいでしょう。
トラウマ治療以外にもEMDRをすることはある? PTSD以外の適用
EMDRはトラウマとなった出来事の記憶(心的外傷的記憶)の処理を目的とするため、その主な適応疾患はPTSDや複雑性PTSDになります。
しかし、EMDRが有効な疾患はそれだけではありません。
記憶と感情、否定的な信念の関わる精神疾患であれば有効といわれています。
例えば、うつ病や強迫性障害にも効果があります。
それは、EMDRがネガティブな認知(「私はダメだ」や「私は自分自身を信頼できない」)と記憶の関連をターゲットにすること、そしてそのような認知が形成されたきっかけとなるような出来事を相談者本人は「トラウマだ」とは自覚していないケースが多いからです。
まとめ
「親が下の子につきっきりで自分のことは放置していた」や「遠距離恋愛だった彼は一度も自分に会いに来てくれず、行くのはいつも自分の方だった」のように、複雑な感情と強く結びついた記憶というものは、存外多くあるものです。
それらはネガティブな信念を形成し、未だにあなたをネガティブな気持ちにさせているかもしれません。
当オフィスにはEMDRをはじめ、EMDRの発展形であるブレインスポッティングや認知行動療法など、トラウマ記憶を昇華させる様々なアプローチが準備されています。
トラウマ記憶を処理したい方、過去の記憶によって生じたネガティブな認知を修正したい方は、ぜひ一度当オフィスにご相談ください。
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