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犬の視点で猫を見る -発達障害の生きづらさの正体-

定型発達と発達障害(非定型発達)は、犬と猫ほどに違うといいます。
『All cats have Asperger syndrome(猫はみんなアスペルガー)』という絵本もあるように、発達障害の特性と苦痛を理解するには、犬と猫の違いに注目することが近道です。

自分自身の生きづらさに悩む方、身近にいる、生きづらさを訴える人を理解したい方のために、非定型発達の人の生きづらさについて説明します。

なぜ発達障害は生きづらいか

発達障害の人と猫にはいくつかの共通点があります。
共通点の全てが生きづらさに関わっているわけではありませんし、逆に猫と似ていない点が生きづらさに関わっていることもあるでしょう。

ここでは、猫にたとえることによって明らかにしたい類似点を、3つピックアップします。

協調性がない

近年の心理学では、性格パーソナリティを5つの特性パラメータで表すというのが主流です。
そのうちの1つが協調性です。

発達障害の人も猫も、よく協調性がないといわれます。
単独行動が好きで、集団行動やまとまっていることを求められると苦痛に感じやすいです。

束縛や干渉を嫌い、社会生活でも「自由にさせてほしい」と思うことが度々あります。
マイペースといわれる人もいる一方、集団から排除された体験のせいで、集団から外れないよう一生懸命己を押し殺して生きている人も少なくありません。

人に対して「協調性がない」というと批判しているように聞こえますが、その本質は警戒心の強さです。
発達障害の人は過敏性があり、中でも聴覚と触覚(表在感覚)の過敏性が警戒心を強くさせます。
猫もまた犬より警戒心が強く、音に敏感です。

これを踏まえ、協調性のなさからくる生きづらさには、2パターンあると考えられます。

  1. 過敏性や警戒心から他と異なる行動をとってしまい、集団に入れないケース
  2. 集団行動したいが何らかの過敏性から集団になじめず、仕方なく孤立するケース

更に、発達障害の人に併発しやすい他の障害の可能性まで含めると、

  1. 集団内で嘲笑されたりいじめられたりしたことがトラウマ化し、他者を忌避するケース(PTSDパターン)
  2. 9割がた一人でいても苦痛はないが、1割は寂しさを感じるために孤独感に苛まれるケース(愛着障害パターン)

なども考えられます。

学習が成立しづらい

学習心理学や応用行動分析では、報酬(好子)と罰(嫌子)によって人の学習行動を説明しています。
目標に近い行動をとれば報酬を与え、異なる行動をしたら報酬は与えない、といったようにです。

特に猫は、このような学習が成立しづらいとされています。

例えば、犬はお手やおすわりなど、猫よりも芸の学習に長けています。
これは、一般的に犬の方が人間(飼い主やトレーナー)に注意を向けやすく、報酬の有無にも反応しやすいためです。

一方、猫はそもそも自発的にお手やおすわりをしなかったり、しても人間に注意があまり向いておらず、報酬にそれほど反応しにくかったりします。
あまり興味のない人間から何かされても、またその行動をしようと思わない(=学習が成立しない)わけです。

発達障害の人にも同じようなところがあります。
定型発達の人ならすぐ覚えられるような行動も、学習できていないことが多くあります。

先の過敏性が邪魔して指示が届かなかったり、指示通りするのが苦痛だったり、他者に興味がないために他の人がどうやっているかを見ていなかったり(=観察学習の不成立)するのです。
個別性を踏まえて一対一で、もしくは根気強く時間をかけて対応する必要があります。

日本社会は犬社会

群れを好み、単独行動をとる人を排除すること、1回で学べることを前提にし、学ぶまでに何回もかかる人は笑われたり責められたりすること、これらは日本社会の、特に教育現場でよく見られる光景です。
日本の教育は戦中の軍隊式を基盤にしているため、全員が同じことを、同じようにできるようにを目指しています。

日本社会の教育課程は、定型発達を前提に作られ、定型発達の人の能力を伸ばせるように作られています。
ここまでの言い方にならえば、犬による、犬のための、犬の社会です。
(発達障害)の生きづらさは、まさにこの部分に根差しているのです。

ここまで読んで、「協調性がないなんて嫌だ」「学習しづらいなんて人の迷惑になる」と感じた方もいるかもしれません。
これが、発達障害の人のもう一つの生きづらさです。
すなわち、定型発達の人向けの社会を自分の中に内面化してしまっているということです。

私たちは誰でも、生まれたときからおならやげっぷを恥ずかしがるわけではありません。
人生のあるときに「人前でおならやげっぷをするのは恥ずかしい」と言われ、もしくは注意されたり笑われたりしている人を目にして、人前でおならやげっぷをすることを恥じるようになります。

この過程が、内面化(内在化:internalization)です。

同様に、私たちも大なり小なり、この日本社会を内面化しています。
協調性がないことを「嫌だ」と思ったり、一回で学習できないことを「人の迷惑だ」と感じたりするのも、周りの人の言動が内面化され、あたかも最初からそうだったかのように感じるせいです。

いわば「内なる社会」から自分自身が責められたり非難されたりしているような感覚が、発達障害の人のもう一つの生きづらさを生んでいます。

軍隊式の延長線上での教育課程が構築されていない国(例えばアメリカやスウェーデン)では、日本ほど児童に同質化を求めませんし、世間や社会が強固に内面化されることもありません。
そこでは、犬は犬の、猫は猫の長所を伸ばすことが奨励されます。

考えてみれば当たり前のことで、仮にお手ができる猫ならそのことを褒められ、お手ができない猫だからといって別に罰は受けないという、ただそれだけのことです。

まとめ

犬を定型発達、猫を発達障害(非定型発達)と置き換えて、違いについて見てきました。
発達障害の生きづらさは、犬と猫の相違点――協調性がないところ・学習が成立しづらいところ・日本社会が定型発達のために構築されているところ――から生じるところが大きいと考えられます。

加えて、それらの相違点が互いに影響し合い、新たな生きづらさを生むこともあります。
また、世間や社会からの批判を幼少期に内面化してしまい、自分で自分を責めてしまうことでも生きづらさを感じることもあります。

すぐに世間や社会を変えることはできず、また、過去に否定されてきた事実をなかったことにもできません。
一方、自分の中に内面化された考えや理屈は、新しい強固な思考によって書き換えることができます。
生きづらさを感じている人は、まずは自分で自分を批判することからやめてみましょう

一人で行うのが難しいと感じた方は、カウンセリングという手もあります。
生きづらさを分かち合いながら、新たな考えを一緒に構築していきましょう。

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