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情動調律 -養育者との関わりが薄いと成長後に感情調整が難しくなる仕組み-

情動調律とは?

情動調律とは、やりとり中に表現を合わせることで、相手の感情状態や体験を共有させることです。
主に乳幼児と養育者がやりとりするとき、乳幼児の表現を即座に、直感的に養育者が再現することで、お互いに感情状態を共有することをいいます。

情動調律は、ただ単に行動や表現を模倣することではありません。
一方の表現をもう一方が強調したり、自分なりの感情表現に置き換えたりすることで、感情状態を共有することをいいます。

同じ行動をとって表現を一致させるのではなく、その表現の奥にある感情を他者と共有することが、情動調律の目的です。

情動調律の原因

他者の行動を目にしているとき、「自分も行うとしたら、どうやるだろう」と思いながら見ていたり、泣きそうな人を見ていると自分までもらい泣きしてしまったりすることがあります。
他者の行為や表情をあたかも自分がおこなっているかのように考えたり感じたりできるのは、ミラーニューロンと呼ばれる脳神経細胞が関わっています。

ミラーニューロンは、脳内のいくつかの部位にあることが確認されています。

例えば、ある人の手の動作を観察しているとき、観察している方の人の運動野にも動作をしているときと同じ神経興奮が見られました。
体の動きだけでなく、体を動かして何をしようとしているのかも脳内に表れていることから、ミラーニューロンは人の意図や狙いも複写していると考えられています。

情動調律もまた、このミラーニューロンによって引き起こされていると考えられます。
目の前にいる人が何を感じているかを行動から読み取り、同じ感情を感じた上で自分なりの行動で表現するのに、ミラーニューロンが利用されているのです。

情動調律の例

乳児がおもちゃを手に嬉しそうにしているとき、親も嬉しそうな表情を見せ、「嬉しいねえ」「良かったねえ」「楽しいの?」と声かけをします。
乳児はまだ言葉も分からず、親も特に乳児が言葉を理解するとも思っていなくても、こういった対応や言葉かけは行われます。 これが、情動調律です。

また、乳児が泣き叫んでいるとき、親や周囲の人たちが顔を曇らせながら、「どうしたの?」「どこか痛い?」「トイレかな?」と言葉かけをしたり、抱きかかえて「よーしよしよし」と言いながらあやしたりするのも、情動調律です。
悲しんでいる様子を見てそのまま「悲しいんだね」とは言わなくても、そういった感情であることを認め、「悲しい」という感情が伝わっていることを表現できていれば、情動調律しているといえます。

反対に、乳幼児もまた周囲の人たちの感情を受け取り、それを表現しています。
親や周囲の人が笑っていたり穏やかでいたりすれば安心し、そわそわと落ち着かなくしていたり緊張していたりすれば不安がります。

乳幼児の感情は未分化であり、快か不快かしかありません。
周囲の人が穏やかなら「今は外敵もおらず安全なのだろうな」と快感情を示し、周囲に緊張が高まっていれば「危険が近くにあり、自分の身も危うそうだ」と不快感情を示すのです。

情動調律は、個体の生存戦略にも関わる機能です。

赤ちゃん言葉は成人語に直させた方がいいの?

乳幼児が1歳前後になると、言葉を発するようになり始めます。
「まんま」「わんわん」「ブーブー」といった初語は一語文とも呼ばれ、言語発達のための重要な過程の1つです。

発達のためにはこういった一語文をそのまま返した方がいいのか、それとも「ご飯ね」「犬ね」「車ね」といったように、正しく言い換えた方がいいのかという質問が、度々話題に上ることがあります。

この質問に対して、情動調律の観点からいえば、回答は「どちらでも良く、大切なのはその奥にある感情を共有すること」となります。
対象を指さしながら一語文を言っているとき、乳幼児は「対象を一緒に見てほしい」「見つけたことを共有したい」と思っているはずです。

その感情を受け止めたことが伝わるのなら、「わんわんね」でも「犬ね」でも構いません。
反対に、感情が共有されないままただ表現だけなぞっても、感情を共有したと伝わっていなければ、あまり意味はないといえるでしょう。

まとめ

情動調律の概念を提唱したスターンは、情動調律し始めるようになる時期を0歳の最後半、8ヵ月~12ヵ月ごろと述べました※1
一方、乳幼児が一語文を話し始めるのも1歳前後と、情動調律開始の時期と重なっています。

発語はただ言語機能が発達し始めるというだけでなく、その奥にある感情や欲求を他者と共有し、適切に脳内で調整し始めた証なのかもしれません。

言葉にすること、気持ちを表すこと、それを他者と共有し受け止められることは、どれも成人してからの感情調整にも有効であることが知られています。
一方、人生早期に虐待やネグレクトを受けると、感情を適切に抑えたり表したりすることができなくなることもまた、広く知られるようになっています。

虐待やネグレクトによってトラウマや複雑性PTSDになっている方には、カウンセリングや心理療法が効果的です。
あまり情動調律を受けてこなかったと思われる方、自分が子育てするようになったけれどうまく情動調律ができていないと感じる方などは、ぜひ一度当オフィスにご相談ください。

※1 D.N.Stern, 乳児の対人世界 https://amzn.to/4bQRTyB

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