九段下駅から徒歩1分
月~土実施

ご予約はこちら

回避性パーソナリティ障害

回避性パーソナリティ障害は、回避行動と自己肯定感の低さが特徴的なメンタル疾患の一つです。
「人の顔色ばかり気にしてしまう」「相手に嫌われるのが嫌だから大勢のいるところには行きたくない」と考えやすい方は、回避性パーソナリティ障害かもしれません。

回避性パーソナリティ障害は不安障害やうつ病にもなりやすいため、薬物療法や休養だけでは何度も再発してしまう可能性があります。
回避性パーソナリティ障害の人の心理や行動傾向、原因と対策について説明します。

回避とは

回避、もしくは回避行動とは、目先のストレスから逃げたり避けたりすることとされます。
その中でも回避を大きく分けると、人との関わりや接触を避けることと、問題に取り組み、解決を避けることの2種類があります。

対人ストレスからの回避

人と関わることで生じるストレスから逃げたり避けたりすることです。
過去に嫌な目にあったことがトラウマになって回避することもあれば、話しかけたことで説明を求められるなど頭を使わなければいけないと回避することもあります。

一方で、自分の考えや内面世界を大事にするあまり反論されたくない、否定されたくないがために回避することもあります。
外から見ても、どのような理由で人と話さなかったり口を閉ざしたりしているのか分かりませんので、対人ストレスからの回避がなぜ生じているのかは本人に語ってもらうか、会話以外の応対(話さないだけで手伝ったり助けたりするか否か)を観察して判断するかしかありません。

問題解決ストレスからの回避

特に人と関わることはないときでも、ストレスがかかる事柄は多くあります。
まず、課題に取り組もう、手をつけようというときに、多大な心的負荷がかかります。

課題を効率よく行おうとすれば計画を立てなければなりませんし、Bをする前にやるべきAがあったときには、Aから取り組む必要も生じます。
課題に取りかかってからも、他の誘惑に注意を奪われず取り組み続けるストレスがありますし、取り組んだからには完成度と期限を満足いくものにしようとするストレスも発生するでしょう。

学生時代であれば夏休みの宿題、過去問への取り組み、社会人であればメールの返信、伝票の処理、報告書などの書類作成など、人と関わらないものでもストレスを感じるものは枚挙にいとまがありません。
こういった解決しなければならない課題からの逃避もまた、回避と呼ばれます。

課題からの逃避は業務に支障をきたしてしまうことも多く、作業から逃避して降格を命じられたり、昇進の話があっても指示を出せないからと言って傷心を断ってしまったりすることがあります。
このような回避行動は、誰でも多少はしながら生活しているものです。

回避性パーソナリティ障害の特徴は、この回避行動に加え、他者の顔色を過剰に気にしてしまう点にあります。

回避性パーソナリティ障害 Avoidant personality disorder とは

APDは、回避・逃避行動に加え、相手の反応を過度に気にしすぎる傾向を持つパーソナリティです。
自分には魅力がないと思ったり、社会不適合者だという信念を持っていることもあります。

「人から笑われたくない」「恥をかきたくない」「集団から排除されたくない」「嫌われたくない」と考え、その結果として回避行動をとっている人は診断される可能性があります。

『全米におけるアルコールおよび関連疾患に関する全国疫学調査』では、有病率は2.4%とされています。
男女の比率に差はないとされていますが、日本人は文化的に回避性パーソナリティ障害になりやすいとされているため、欧米よりも有病率が高いという意見もあります。

回避性パーソナリティ障害は性格(パーソナリティ)の傾向に留まらず、それが人間関係や社会生活に障害となっている場合に診断される疾患です。
診断の際には、持続的に社会的接触を回避していること、能力が欠けていると感じていること、人からの批判や拒絶に敏感であることなどを確認し、以下の4つ以上に当てはまると診断されます。

回避性パーソナリティ障害の診断基準
  • 自分が批判されたり、拒絶されたりすること、または他者に気に入られないことを恐れるため、対人的接触を伴う仕事関連の活動を避ける。
  • 自分が好かれることが確実ではない限り人と関わりたがらない。
  • 馬鹿にされたり、恥をかいたりすることを恐れるため、親密な関係を築くことをためらう。
  • 社会的状況で批判されたり、拒絶されたりすることへのとらわれがある。
  • 自分に能力が欠けていると感じているため、新しい社会的状況で引っ込み思案になる。
  • 社会的能力に欠ける、魅力がない、または他人に劣っているという自己像をもっている。
  • 恥をかく可能性があるために、リスクをとったり、新しい活動に参加したりしたがらない。

不安障害を併発することが多く、回避性パーソナリティ障害の人の10〜50%はパニック障害を、20〜40%は社会不安障害を併発していたと報告されています。
また、うつ病を併発することも多いと言われています。

一方、全般性不安障害の人の45%、強迫性障害の人の56%は回避性パーソナリティ障害だったという報告もあり、メンタル疾患になった場合には回避性パーソナリティ障害もないか、注意が必要です。

パーソナリティの統合理論である人格適応論では、回避性パーソナリティ障害はパラノ型パーソナリティとスキゾイドパーソナリティ両方の性質を持った障害であるとされています。

回避性パーソナリティ障害の認知

回避性パーソナリティ障害は、パラノ型パーソナリティスキゾイドパーソナリティ両方の特徴を兼ね備えているため、その認知の偏り方や思考もそれらと共通しています※1
臨床経験ではスキゾイドパーソナリティの特徴がより強い印象ですが、排除や拒絶への過敏さはスキゾイドパーソナリティにはない傾向だといえるでしょう。

強くなければならない be strong

子どもは言語が未発達のため感情的になるより他に表現するすべを知りませんが、乳幼児期に感情的になっても何の反応も対応もされなかったときには、その後も感情表現すること自体を抑制します。
強くあれの認知を持った人は、感情表現以外の表現方法を身につけた後も、感じたことを顔や言葉に出さないよう我慢するようになります。

ここでの「強く」は、「辛抱強い」や「我慢強い」という意味での「強く」です。
どうしようもなくなるまでは自分の感情や欲求に目を向けず、しかし人からも「感情や欲求がない」と扱われることは、不満に感じる場合もあります。

完全でなければならない be perfect

物事を完璧に成し遂げたとき、過不足なくやり遂げたとき、私たちは達成感を得ます。
「完全であれ」の認知を持った人は、「完全でなければならない」「完全でなければ自分はOKでない」と考え、完璧になるよう行動します。

完全なものほど少しの欠点や遅れによって調和が崩れ、台なしになってしまうリスクをはらんでいます。
当初からそういった欠点や遅れが発生する可能性を見込んでおかない、理想主義的な認知特性が原因なのですが、ひとたび自分がその欠点や遅れを生じさせた場合、自分を執拗に責め立てたり自罰的になったりすることがあります。

近づいてはならない(信頼してはならない)

あまり人と親しくなろうとしなかったり、そもそも友好な関係を築きたがらなかったりする人がいます。
「近づいてはならない」の認知は、こういった行動傾向を持っている人の認知です。

積極的には社交的な場に出ていきたがらず、一人か少人数かでいることを好みます。
心のどこかで相手を信用できず、会話のときにも自分の話はあまりしなかったり、形式的な情報の共有しかしなかったりします。

子どもでいてはならない(楽しんではならない)

童心にかえると隙やボロが出やすくなり、そこを他者に見つかってはつけ込まれる、自分を陥れるための餌にされると考えます。
「子どもでいてはならない」の認知のある人は、そうならないために、自分が楽しんだりはしゃいだりすることを自ら制限します。

幼い頃、親が何らかの精神疾患だったり依存症だったりすると、「親はあてにならない。親や下の兄弟姉妹の面倒を見るためには、自分は子どもではならないのだ」と決断するといわれています。

回避性パーソナリティ障害の原因

回避性パーソナリティ障害となる生物学的・遺伝的要因は特定されておらず、出生後の生育歴にその原因があるという説が有力です。
回避性パーソナリティ障害の人は、乳幼児期にうけた養育環境が不安定であり、養育者からネグレクトを受けたり、あやふやに接されてきたりしたとされます。

世話をしてくれる人が接近していいのか離れていいのか分からず、戸惑ったまま接するために、子どもの方としても要求していいのかいけないのか、感情を表現したら余計戸惑わせてしまうのか要求を聞いてくれるのか、分からなくなります。
結果、強い欲求なしで現状を乗り切ろうとし、現実で満たされない欲求については、空想を代用したり、「自分に何か落ち度があるのだ」と内面に意識を向けて現状をしのいだりするようになります。

こういった養育環境で過ごすことで、遅くとも1歳半までには回避性パーソナリティ障害が形成されるといわれています。

回避性パーソナリティ障害の治療

薬物療法によってパーソナリティ障害が治療できるというエビデンス(科学的根拠)はありませんが、抗うつ薬のSSRIが症状緩和に有効なケースもあるといいます。
社交不安障害の治療に用いられることもあるβブロッカーのうち、アテノロール(テノーミン)が回避性パーソナリティ障害の症状に有効だったという報告もあります。

回避性パーソナリティ障害に限らず、パーソナリティ障害の治療には精神療法が有効とされます。
「拒絶された」という認知の変容を目指す認知行動療法、困難場面での対応の仕方や接近方法を検討する行動活性化療法などが奏効するケースもありますので、治療をご検討の方はぜひ一度当オフィスにご相談ください。

まとめ

回避・逃避行動には対人ストレス性のものと対課題ストレス性のものの2種類があり、どちらも一般的に経験するような、病的ではない行動です。
回避性パーソナリティ障害は、回避行動に加え、相手の反応を気にしすぎてしまう過敏性が根幹にあった場合に診断される、パーソナリティ障害の一つです。

パーソナリティの統合理論である人格適応論では、回避性パーソナリティ障害はパラノ型パーソナリティとスキゾイドパーソナリティの両方の側面を併せ持つとされます。
感情を表出してはならない、完全でなければならない、人に精神的に接近してはならないといった認知的特徴を持っています。

回避性パーソナリティ障害は、不安障害や気分障害、特にうつ病との併存率が高いことが指摘されています。
うつ病や全般性不安障害が治ったと思っても、回避性パーソナリティ障害が根本にある場合には再発するリスクがあるため、診断基準に当てはまる方は専門家にご相談ください。

※1 交流分析による人格適応論, ヴァン・ジョインズ, イアン・スチュアート, 2007

コメント

タイトルとURLをコピーしました