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疑似家族を作りたがる人

人間もまた群れを作る動物ですが、集団があると、そこを「家族」「家庭」にしたがる人が現れることがあります。
自分を家長(父親)に見立てて集団を統制しようとする人もいれば、長兄(「お兄ちゃん」)として接したり扱われたりすることを要求してくる人もいます。

最近では「万引き家族」や「SPY×FAMIRY」など、疑似家族を舞台装置とし、肯定的な扱われ方をされる創作物がよく出てくるようになりました。
血の繋がりや過ごした時間などにはよらない関係性は創作対象としては魅力的ですが、現実には様々な歪みや欲望の闇をはらんだものになりがちです。

会社や職場、地域や団体などのコミュニティを疑似家族化するとどうなるか、疑似家族を作りたがる人はどのような人なのかを、臨床心理の視点から説明します。

疑似家族とは

家族とは、同じ家に住み生活を共にする、配偶者や血縁の人々のことを指します。
しかし、この定義はかなり狭い意味での家族であり、現代では様々なスタイルの家族が存在しています。
養子を取った人や孤児を引き取った人、婚姻関係にはなくてもLGBTQ当事者であったり、単身赴任や週末だけ会うといった形態の人々も、現代では家族であると見なす人が多くなってきたように思います。

そういった多様な形態の家族が認められつつあるにもかかわらず、家族のような関係性を集団に求めたり、疑似家族を作りたがったりする人がいます。
疑似家族とはどういったものか、一例を挙げてみましょう。

職場を家族にしたがる人

最もよく聞かれるケースは、職場を疑似家族にしようとする人です。
職場は家庭の次に長い時間を共にしたり、人によっては家庭より長時間一緒にいたりするため、「第二の我が家」にしたくなる気持ちも、分からなくはありません。

疑似家族を作りたがる人の大半は、その職場の家長(父親)的ポジションに就きたがります
自分の鶴の一声で物事を決めようとし、思ったように決まらないと機嫌を損ねます。
疑似家族を作りたがる人は往々にしてその企業のトップだったり、部や課のトップだったりするため、「その人の思い通りにさせた方が何かと面倒が少なそうだ」と考えた人から、トップの意向に沿うように行動し始めます。

業務時間外のプライベートも職場の人と過ごしたがり、就業時間後に飲みに誘ったり、休日に活動することを企画したりします。
これも、呼びかけに応じるのが当然と考え、応じない人には「あたかも集団外の人であるかのように」よそよそしく対応したり排除したりしようとします。

業務成績や達成度でメンバーを評価せず、もっぱら親密度と自分への献身度で評価しようとします。
自分の雑談に付き合ってくれたり、自分の身の回りのお世話を「言わなくても」やってくれたりする人を称賛し、そうでない人を茶化して笑いものにしたり、貶めたりします。

家長的なポジションに就きたがる人の他にも、その傍らでメンバーを支援しつつ場の不満を吸い上げる「女房役」がいたり、家長的な人に代わってメンバーを𠮟咤したり統制したりする「長兄」がいたりします。
集団内部の雰囲気やムードが何よりも優先された結果、外部からの圧力(目標未達や組織解体リストラによって集団を維持できなくなることが多くあります。

コミュニティを家族にしたがる人

疑似家族を作りたがる人は職場だけでなく、趣味の集まりや地域のコミュニティにも現れます。
大学のサークルや社会人サークルで、やはりプライベートな時間を共有するよう強いたり、自分への貢献や忠誠を求めてきたりします。

仕事と違って売上を上げたり成果を出したりすることが必ずしも必要ではないため、職場の場合よりも集団内での親密感や居心地の良さ、雰囲気といった漠然としたものに重きを置かれます
そういった目に見えないものを高めるために、「情熱」「友情」「誠意」「熱意」「優しさ」「親睦」といった、これまた抽象的な単語を用いてメンバーの動機づけをしようとしてきます。

実際の家族と異なり、年齢や経験が拡散しづらいのも、疑似家族の特徴です。
実際の家族ですと、自分より年上の者がいたり、逆に歳の離れた年少者がいたりするものですが、疑似家族であればそこまで年齢層が散らばることがないため、話が通じやすかったり、意見を分かってくれる人が多かったりします。

経験についても同様です。
年長者は「私が若かった頃は」と、前時代の経験と価値観を押しつけてきますし、年少者は年少者で「いま学校では」「最近では」と、いま現在の経験からくる価値観のアップデートを求めてきます。
疑似家族はこうした自然発生的な現実の家族と違い、他世代からの圧力を極力減らすことができ、体験や経験も近しい者同士で構成することができるのです。

患者を家族にしたがる人

実は、医療機関は疑似家族を作りたがる人が発生しやすい土壌です。
それは、多くの医療が医師を頂点とした家父長制的な構造になりやすく、患者側もまた医師を頂点として、助けを求めたりすがったりしやすいところがあるからです。

患者は心身に苦痛を抱えていたり、自分ではどうしようもない状態を何とかしてほしかったりして医療機関を訪れます。
医療従事者は医師の指示の下、そこで医行為を施したり医学的見地からアドバイスしたりします。
この構造が医師=絶対者、患者=従属者といった錯覚を生みやすく、結果として疑似家族のような共同幻想を抱かせてしまうのです。

家長と錯覚した医師は、判断の過程を示すことなく「とにかくこうするように」と結果だけを伝え、患者にもそれに唯々諾々と従うことを求めます。
従わない患者には感情的に、または冷徹に接し、話し方や態度といった非言語で「従え」というメッセージを発信します。

医師だけでなく医療従事者側にも、「私欲を排して患者に尽くしてきた」という自負の代償として、プライベートや実際の家族関係が破綻している人が少なくありません。
そういった医療従事者側の要因によって、患者との関係を疑似家族と錯覚してしまうのです。

一般的に「先生」と呼ばれる職業の人たちは、こういった錯覚に陥る傾向が強いように感じます。
議員、弁護士、教師など、社会的責任と知名度の大きさが「これくらいならやっても(言っても)いい」という甘えを生み、それを敏感に察する人が率先して従属者(フォロワー)になることで、疑似家族という共同幻想が成立してしまうのです。

疑似家族化の原因

これまでの例から、疑似家族を作りたがる人の特徴を挙げます。

  • 集団の中で権力を有している
  • 面倒ごとが嫌い
  • 自分の一存で物事を決めたがる
  • 感情的になることに躊躇しない
  • まとまりのある集団が好き
  • プライベートの時間を割くことが気持ちの強さだと考える
  • 抽象的な単語やスローガンをよく用いる
  • 誰かを助けたり誰かに頼られたりしたがる
  • 「自分は自己犠牲(滅私奉公)してきた」と認識している
  • 実際の家庭生活がうまくいっていないか、独り身
  • 人間関係の中で「これくらいならやってもいいだろう」という甘えを抱いている

こういった特徴を有しているのが、受動攻撃性パーソナリティという性格タイプです。
受動攻撃性パーソナリティとは、1987年~1994年に使用されていた診断基準(DSM-Ⅲ-R)に記載されている受動攻撃型パーソナリティ障害に類似した性格タイプですが、このタイプは問題解決に対して受動的である、感情的に反応しやすいなど、疑似家族を作りたがる人との共通項が見られます。

人格適応論によれば、受動攻撃性パーソナリティの人は、幼少期に葛藤を抱えるような生育環境にいたケースが多く、疑似家族を作りたがる人の「家庭環境がうまくいっていなかった」という特徴にも、潜在的に合致します。
疑似家族を作りたがる人や受動攻撃性パーソナリティの人の、遺伝的または脳科学的な原因は判明していませんが、幼少期の親との関係にその一因があると言えそうです。

疑似家族を作りたがる人が身近にいても、その人の実際の家族や、まして幼少期の家庭環境をあなたが変えることはできません。
そういった人とどう接していくか、どういう見方をすればいいかは、抗うつ薬や抗不安薬では当然解決できません。
対応方法はカウンセリングの中で答えを出していくのが得策でしょう。

また、あなたが疑似家族を作りたいと暗に願っていたり、疑似家族を作りたがる人の特徴に当てはまったりしている場合にも、カウンセリングは有効です。
実際の家族関係の改善に取り組むには行動活性化療法、過去の家庭環境を再処理するにはブレインスポッティングなど、困りごとに適したカウンセリングがございますので、気になる方は一度当オフィスにご相談ください。

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