皆さん、イライラしていますか?
「そうそう!イライラしてる!」と同意する人もいれば、そう訊かれることそのものにイライラする人もいるかもしれませんね。
イライラ・苛立ちは社会生活を送る上でもはや切っても切り離せない感情ですが、それが募れば生活の質を下げ、心だけでなく体にまで不調をきたす感情でもあります。
人は何に対して苛立ち、何にイライラするのか。
イライラの生じる機序を、心や脳、体といった観点から、それぞれ解説していきます。
イライラの定義
イライラ(irritation)は、自分のしたいことを邪魔するものに対して向けられる感情とされます。
よく、怒り(anger)と同じ括りにされますが、ここでは別の感情として区別します。
「テロに対して怒りを感じた」とは言いますが、「テロに対してイライラした」とは言いません。
イライラは怒りに比べ、したいことがあるのと阻害・障害されるの2条件が揃ったときのネガティブ感情、ということができるでしょう。
すなわち、その人の「したいこと」によって、感じるイライラも異なるといえます。
脳の情報処理経路からくるイライラ
まずは、脳の2つの情報処理経路から、同時系(背側経路優位)の人と、継次系(腹側経路優位)の人のイライラを比較してみましょう。
継次系のイライラすること
継次系の人は、物事の流れを時系列で整理し、まとめながら理解することに長けています。
過去の記憶を参照しながら物事を考えるので、まずやるべきことを見定めて、着実に進めていくことを好みます。
反面、何から取り組んだらいいか分からない、突拍子もない目標や夢物語、話題が拡散していくような会議などでは、イライラしてしまいます。
アイディアばかりが無責任に出され、「企画を前に進めたり実施したりするのは結局いつも自分だ」と感じ、イライラしてしまうことも多いようです。
また、作業ペースを大事にするので、ペースを乱されることにもイライラしやすいです。
同時系のイライラすること
同時系の人は、物事を直観で理解しやすく、先の結果や展開を素早く把握することに長けています。
話を映像としてイメージしやすく、今後の状況を思い浮かべ、自分があたかもそこにいたらどうなるかまで想像を膨らませることが得意です。
一方、将来的にどうなるか分からず、ただ手を動かすべきことだけがある状況では、イライラしやすいです。
先のことがイメージできてしまっているので、そこに至るまでの工程を「遅い」と感じやすかったり、イライラしやすかったりします。
人と会話しているときには、結論やオチが見えてしまうことが多いので、イライラして話を遮ってしまうこともあります。
性格からくるイライラ
人格適応論では、性格を6つのタイプに分類します。
タイプによって人との付き合い方や課題への取り組み方も異なるため、イライラを感じることも全く異なります。
イライラすることに対してそれぞれどのように対応しているか、比較して見ていきましょう。
演技性のイライラすること
演技性パーソナリティの人は、そもそもそれほどイライラしません。
いえ、正確にはイライラして見せない、と言うべきでしょう。
イライラしていること、不満を抱いていること、不機嫌であることを見せることが自分の目的に合致しないことだと、直感的に分かっているのです。
その目的とはみんな楽しく、です。
イライラしていても場の雰囲気を最優先
演技性の人は、自分よりも周りの人の気分や雰囲気を重んじる、利他的な人です。
イライラしている人が場にいたら、それだけで楽しげな雰囲気ではなくなってしまうわけですから、それを自ら率先して表すなど以ての外、というわけです。
イライラして見せないだけで、人並みにはイライラしますし、不満も溜まっています。
雰囲気に関して口出しされるとイライラ
演技性の人の最もイライラするのは、「言われたとおりにやれ」と行動を指示されることです。
特に大人数が集まっている場では、誰よりも皆の機嫌に注意を払っていますから、大して皆を見てもいない人から「こうして」「ああして」と指図されると、「何も分かってない癖に」と苛立ちます。
また、「そんなに気を配らなくてもいいから」と指示されることも、同様にイライラします。
強迫性のイライラすること
強迫性パーソナリティの人は、他人よりも自分のことにイライラします。
自分のやると決めたことが決めたとおりにできないとき、最もイライラが高まり、不甲斐なさに落ち込みます。
想定した時間を超えてしまったら、想定を修正するのではなく、自分の動作速度の方を修正します。
決まりを破られることにイライラ
規範やルールを重んじるため、それらを破る人にもイライラします。
ただ、他人にイライラして見せて行動を変えさせたり、決まりを守らせたりすることは嫌いなため、イライラや不機嫌さを人前で出すことは滅多にないでしょう。
それよりは、自分の不注意や失念で決まりを破ってしまったときの方が、自分に大いに苛立ちます。
パラノ型のイライラすること
パラノ型パーソナリティの人もまた、規律やルールなど、決まったことを重んじます。
強迫性の人と違うのは、そういった決まり事を軽視したり、破ったりする人にイライラする点です。
決まり事と自分を同一視し、「自分が軽んじられた」「決まりを守っている自分がバカみたいだ」と、破った相手を責めがちです。
想定外の動きにイライラ
他人を思い通りにしたい、思い通りに動いてほしいという隠れた欲求があるため、想定と違うことをする人にイライラしやすいです。
この欲求は、「自分の考えがこの場で最も行き届いている」という確信に裏付けられたものです。
ただ、子どもならいざ知らず、大人は大人でそれぞれの利のために思い思いの行動をとるので、結果として不満を溜めやすくなります。
動機を疑われるとイライラ
生真面目なところがあるため、茶化されたり、失敗を笑われたりするとイラっとします。
特にイライラしやすいのが、行動の動機を疑われたときです。
善意からやったのに「あの子のこと好きなんだろ」と言われたり、みんなのためを思ってやったことを「点数稼ぎ」と言われたりすると、人一倍イライラし、次からはやらないと固く決意します。
スキゾイドのイライラすること
スキゾイドパーソナリティは、内的世界を大切にする人です。
そのため、一人になる時間を確保できない、一人でいるところを侵されると、強くイラっとします。
自分の時間、自分の場所、自分の世界を大事にするため、共同生活で一人になれなかったり、フリーアドレスで自席という概念がなかったりすると、落ち着かずイライラしてしまいます。
この手のイライラは自己概念に直結するため、表し方もかんしゃくを起こしたような、激しいものになりがちです。
受動攻撃性のイライラすること
受動攻撃性パーソナリティの人は、すぐイライラを表明するのが特徴です。
「イライラする」という行為自体が、直接は要望を言わず、しかし他者に察しと配慮を求める、典型的な受動攻撃だからです。
イライラを感じやすいポイントも多岐にわたります。
上からこられるとイライラ
偉そうに振る舞われた、マウントを取られたと感じる出来事は、イライラしやすい状況の典型例です。
やりたくないことを押し付けられる等、上下関係を感じさせ、なおかつ「上から」を意識させられたとき、よくイライラします。
幼少期に親や教師から過度に管理され、そのことへの反発が習慣化したことが、苛立ちの一因です。
疎外されるとイライラ
人から軽んじられたように感じたり、蔑ろにされたりしたときにイライラするのも、受動攻撃性の典型です。
これも幼少期、大人たちの会話に入れてもらえなかったり、一人としてカウントされなかったり、同年代の輪から弾かれたりした経験のある人に多く見られます。
格差や疎外に人一倍苛立ちを感じやすいのが、受動攻撃性の人です。
反社会性のイライラすること
何かと損か得かで物事を見がちな反社会性パーソナリティ。
イライラを感じるのも、自分が「損している」と感じたときのことが多いです。
例えば、取り組んだ時間に比して成果が芳しいものではなかったり、皆に自慢できるような派手なものではなかったりしたとき、イライラを感じます。
結果が出たそのときより、「これはどうやら地味に終わりそうだ」というときの方が苛立ちます。
見返りがなくむしろ罰されるとイライラ
何かに向かって自分なりに努力し、その見返りが得られると思っていたら、逆に苦痛を与えられたときなどにも、イライラしやすいです。
彼女のため女性のいる飲み会を断っていたら彼女から「つまんない男」と言われた、社命でおこなった工作がむしろ処分の対象だった、といった状況では、利害を重視する反社会性は特にイライラすることでしょう。
自律神経とイライラ
怒っているときがそうであるように、イライラしているときもまた、自律神経系は交感神経優位になっています。
交感神経優位は別名「戦うか逃げるか反応(fight-flight-response)」と呼ばれるように、イライラもまた、脅威に対して挑むか退くか、決断とその後の行動を迅速に行うための心身状態の名残といえるでしょう。
交感神経優位になると起きること
交感神経優位になると、心拍は大きくなり、かつ速くなります。
内臓の血液は手足に回され、血管は膨張し、活発に動けるようになります。
呼吸は速くなり、酸素が多く取り込まれ、脂肪は分解され、体内のエネルギーは高まります。
瞳孔は開き、可聴域は広がり、良く見え、良く聞こえ、外からの刺激に対して即座に、そして劇的に対応できるようになります。
脳もまた血流量が高まり、頭の回転が速くなり、また普段以上に広範に考えたり、深いところまで考えを進められたりできるようになります。
活動に備え、アドレナリンやドーパミン、ノルアドレナリンといったホルモンが放出され、気分が高揚することもありますが、反面怒りっぽくもなります。
これが、精神神経学の観点から見たイライラの起こりです。
イライラへの対処法
イライラへの対処も、こうした神経学的な知見を踏まえたものが有効です。
なぜなら、考え方や気晴らしをしてみても、それらもまた交感神経の影響を受け、イライラする方に歪曲していってしまうからです。
イライラしているときの活動性を利用して行動していく方法もありますが、ここでは神経の仕組みを利用した方法をご紹介します。
交感神経を和らげる腹側迷走神経
少し前までは、交感神経と副交感神経は切り替えの関係であり、どちらかが優位の状態だともう一方の状態にはなれない、とされていました。
しかし、最新の神経理論であるポリヴェーガル理論では、交感神経優位のときでも活動させることのできる副交感神経があることが分かっています。
この副交感神経を、腹側迷走神経といいます。
ただ交感神経優位の状態だと、先の説明のとおり、心拍は高まり、血流量は増加します。
ここで、腹側迷走神経を同時に働かせることができれば、心拍は適切に抑えられ、アドレナリンやドーパミンが脳内に巡るのも抑制することができます。
この腹側迷走神経を活性化させる方法の一つが、笑顔です。
笑顔はイライラ反応を体から打ち消す
腹側迷走神経の走行しているところの一つに、口の周りから喉にかけての部位があります。
イライラしたとき、口角を上げ、息を吐きながら笑うと、腹側迷走神経が働き、交感神経に対して抑制的に働きかけてくれるようになります。
「笑いながら走ると、短距離走のタイムが上がる」というのと、原理は同じです。
交感神経優位になると確かに活動性は高まるのですが、頭にも血が上って感情的になったり、筋肉も緊張して固くなりすぎたりと、良い作用ばかりではありません。
同時に腹側迷走神経を働かせることができれば、脳や体にかかる負荷を軽減し、より高いパフォーマンスを実現することも可能です。
イラっとしやすい方は、神経の仕組みを活用し、まずはイラっとしたときにでも咄嗟に笑えるような習慣作りから始めてみてはいかがでしょうか。
他にも、脳と感情を安定させたい方は、一度当オフィスにご相談ください。
まとめ
イライラの発生するシチュエーションを、脳の情報処理過程や性格型の観点から分類しました。
脳の情報処理過程については、自分と異なる脳タイプのイライラポイントを知ることで、関係上の摩擦を減じ、より建設的な方向に物事を進めることが可能になることでしょう。
また、自分のイライラするポイントを他者に伝えるときにも理解は役立ちます。
性格型によるイライラの分類は、イライラが万人に共通の負荷ではなく、ある性格の人には大したことがなくても、別の性格の人には耐えがたい負荷になり得ることを示しています。
人格形成は生育歴にも関わってくるため、イライラでお困りの方の中には、過去の記憶の清算がイライラを鎮める最善手の方もいらっしゃるかもしれません。
イライラは、自律神経系とホルモンバランスの両方から生じる心身状態です。
脳や体の状態を調整したい方、イライラする状況を整理されたい方は、一度当オフィスにご相談ください。
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