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トラウマを自然回復する方法 -トラウマの治し方・克服方法を臨床心理士が解説-

トラウマを負った人の中にも、PTSDになる人とならない人がいます。
しかし、ならない人についての手がかりを知ろうと「PTSD なぜ」や「トラウマ 原因」と検索しても、「トラウマの原因は自然災害や事故、いじめや犯罪被害など」といったページばかりが出てきます。

PTSDにはなりやすい人となりにくい人がいますが、ではどうすればなりにくくなるのかについてはどこにも詳しく書かれていません。
これは、そもそも記事を書いている人がPTSDのことをよく分かっていないのです。
PTSDの症状と体に起きることを知れば、PTSDにならない人のことも自ずと分かってきます。

自力でトラウマを克服し、自然回復させる方法を、出来事が起こったときの状態から説明します。

トラウマでなる病気は? トラウマ症状と自律神経

ストレス負荷がかかると、自律神経は交感神経優位に転じます。
心拍は大きく激しくなり、呼吸と脈拍は速くなり、全身の血流が上がって体温が上昇します。

一方、トラウマティックストレスの場合、シャットダウン(凍りつき)と呼ばれる状態に切り替わります。
心拍は低下し、呼吸と脈拍は遅くなります。

全身の血流量は低下し、血液は胃や腸といった内臓に集中します。
手足などの末梢には血液が行き届かなくなり、脳への血流も少なくなるため、頭の中が真っ白になったり、人によっては意識を失ったりもします。

シャットダウン中の自律神経

トラウマティックストレスの負荷がかかると、寒気や思考力低下の他、筋肉の弛緩、全身の倦怠感、胃腸の過活動による胃痛や下痢、感情と感覚の麻痺、孤独感や絶望感などが生じます。
魚類や爬虫類、哺乳類であれば、トラウマティックストレスを感じたときには気絶します。

人間も同様に気絶することはありますが、脅威が去るまで気絶できた場合、心の傷トラウマは残りません。
トラウマ化するのは、自律神経系は背側はいそく迷走神経優位になるものの、意識は保たれ、これまでに培った社会適応的な行動をとり続けた場合です。

トラウマティックストレスを受けても、「はい、はい、」とだけ返事したり、体は硬直しながらも「分かりました」「すみません」と発したりすることはできます。
これが社会適応的な行動です。

人間社会では、自律神経系に任せてかんしゃくを起こしたり、大声で泣き喚いたりするよりも、社会適応的な行動をとっていた方が、早く脅威が過ぎ去ってくれることがあります。
その中でも、特に注目したい自律神経系症状が、感覚の麻痺です。

シャットダウン中のトラウマ症状

麻痺のないとき、脳は末梢(骨や筋肉など)と常に連絡を取り合っています。
骨や筋肉の状態は固有感覚によって確認され、傾きや揺れは平衡感覚によって確認されています。

感覚の麻痺が起こると、そういった末梢から脳への連絡が途絶え、脳は体の状態が把握できなくなります
つまり、トラウマティックストレス下では、脳は各部位がどうなっていたか、把握できていなかったことになります。

PTSDの人がストレスにさらされると、脳は前に似たようなことはなかったかと、現状の突破口を見つけようとして過去の記憶を参照します
そのとき、麻痺を起こしながらも社会適応的な行動をとっていた記憶に行き当たると、「このとき体はどうなっていたんだ?!このままだと、体は欠損するってことなのか??!」と混乱します。

不安定になった脳はパニックを起こし、麻痺を含む体感が発作的に甦ります(フラッシュバック)
麻痺のままではいられないと体を傷めつけて強引に感覚を甦らせようとしたり、逆に麻痺を起こして脅威が過ぎ去るのを待ち、生存確率を高めようとしたりします。

「身体はトラウマを記憶している」と表現されることがありますが、実際にはその逆で、トラウマは身体に記憶されていないからこそ・・・・・・・・・・・・・・・、激しい感情が湧き上がったり、感覚がまざまざと甦ったりしているのです。

自傷

日本人がイメージしやすい感覚の麻痺は、正座した後の足の感覚でしょう。
長時間正座をした後、感覚を戻そうと足をさすったり叩いたりすることがあるかと思います。

トラウマティックストレスを受けた後も同様に、麻痺していた部分に刺激を与え、無意識に神経を通わせようとします
髪を掻きむしる、顔をパンパンと叩く、伸びをするといった動作は、そこに麻痺が起こっていたことの名残です。

麻痺していた時間が長く深刻になってくると、そこに与える刺激もより強度を高めるようになります。
体を壁や物に叩きつけたり、爪で自分の体を強く掻いたり、声を張り上げて喉と耳に強い刺激を与えたりします。

リストカットやアームカット、レッグカット、口に指を突っ込んでの嘔吐なども同様で、行うとすっきりしたり、生きている実感が戻ったりするのも、麻痺から回復したことで生じた感覚です。

解離

意識・注意・記憶・感情・感覚などを統合する力が失われ、それぞれが別々であるかのように感じられる状態を解離といいます。
外界との繋がりを断たれたように感じる離人感・離人症や、今ここにいる感覚がなくなる現実感喪失症も、解離の一つです。
解離もまた、感覚の麻痺が広く、長時間に渡って起こったことによる症状と考えられます。

脳は外界からの情報だけでなく、体内からの情報も常に受け取り、脳内でまとめ上げています(求心性神経路)
麻痺が起きると、まず脳が「当然あるもの」と思っていた体内情報が途絶します……①。
次いで、麻痺した部分が外から受け取っていた情報も途絶します……②。
手足でいうと、手足が「ある」という認識がなくなり、手足が触れていた物の肌触りや温かさも感じなくなります

部分的な麻痺なら手足を動かして刺激を与え、感覚を戻すよう働きかけられますが、まさにその手足が「ない」と感じられてしまうと、脳は感覚を取り戻す手立てを失ってしまいます。
そこで、感覚が「あった」ときの自分と「なくなった」ときの自分を別物とし、「あった」ときの自分(人格)を保全しようとします。
これが、解離や離人感の起こりです。

性逸脱・性的逸脱行為

普段の気分のときにはしないような性的行動をとることを、性逸脱(性的逸脱行為)といいます。
月1程度しか性行為をしたくならない人が毎日となれば性逸脱ですし、下ネタを全く言わない人が卑猥な言葉を言うようになるのも性逸脱です。
トラウマティックストレスを受けた人の一部は、トラウマ症状の一つとしての性逸脱が出現することがあります。

性逸脱も、感覚の麻痺から生じている可能性があります。
性器(生殖器)とその周囲は感覚器が密集していますが、日常生活ではそれをあまり意識することなく過ごしています。
ストレス負荷がかかり、性器周辺が麻痺した後、麻痺から回復したときに性器への刺激を強く求める場合があります。

PTSDの中でも、長期間に渡って性的虐待などのトラウマティックストレスにさらされる複雑性PTSDでは、麻痺からくる性逸脱のリスクが高いと考えられます。
また、同じく長期に渡るストレスによって人格形成が不安定になる境界性パーソナリティ障害や、性被害や性暴力といったトラウマティックストレスからくるPTSDでも、感覚麻痺が起きている可能性があります。

トラウマは治る? トラウマから自然回復する方法

トラウマティックストレスは感覚の麻痺を引き起こし、それがまた後で別の問題を引き起こしていく経緯を説明してきました。
では、トラウマティックストレスから回復できた人とそうでない人は何が違ったのか、感覚の麻痺に着目した方法を2つご紹介します。

背中をさする、叩く

感覚の麻痺には、背中をさすったり叩いたりすることが有効です。
背側はいそく迷走神経優位になり、感覚の麻痺を始めとする諸症状が起きると、自力で体の感覚に注意を向けることが難しくなります。
そこで背中をさすったり叩いたりしてもらうと、そこから感覚が甦り、他の部位の感覚も次第に戻していくことができます

さすったり叩いたりするのも、ただすればいいというわけではありません。
麻痺を起こしている人の感情に合わせて、ややゆっくりと行うのがベターです(情動調律)
部位は背中が望ましいですが、肩や腕など、本人の嫌がらないところなら大丈夫です。

一人で行う場合、背中ではなく、別の部位でも構いません。
ただ、自分一人では触っても感覚に注意が向かなかったり、強く行いすぎて自傷行為に発展したりすることもありますので、やはり誰かにやってもらうのが理想的でしょう。

声かけや励ましはなくても有効ですが、もし行いたいのであれば、もう1つの方法を参考にしていただければと思います。

「~したかった」「~してほしかった」と話す

ストレス負荷がかかったとき、「(麻痺がなければ)どう行動したかったか」「誰に何をしてほしかったか」を話すのが効果的です。
ストレスのかかった最中は麻痺もあり、また自律神経系もうまく機能しなかったこともあって、理想的な行動はとれないことがほとんどです。
当時のことを話し、したかったことやしてほしかったことを言語化することで、当時の記憶が補完されます

このとき、先の背中さすりや背中叩きを併用すると、より効果的です。
脳で「感覚の麻痺が起こった」という記憶から「感覚はあった」という記憶に上書きされ、次にストレスがかかっても「また体がどうにかなってしまうのではないか」と不安定にならずに済むのです。
裏を返せば、トラウマティックストレスの後に誰とも触れ合わず、話もしないでいると、トラウマがそのまま残るリスクが高くなるといえます。

こういった声かけは、心理療法の中でも重要な問いかけとして利用されています。
一例を挙げると、催眠療法ヒプノセラピーにおける「未完の行為(本当はしたかったこと)」や、インナーチャイルドワークにおける「ほんとうは自分はどうしたいの?」といったアプローチは、現実世界では話しづらいけれど、相談室で話せば心身の改善に繋がるため、古くから用いられてきた手法でもあります。

背中とこころは繋がっている

トラウマ級のストレスが降りかかったときには、誰かに背中をさすってもらいながら、当時のことを振り返り、何をしたかったか、何をしてほしかったか話すことが回復を助けます。
一方、カウンセリングは一般的に身体接触を避け、声かけや身振りによって同調や共感を伝える場です。

そこに身体感覚への注意集中を加えたものを、ソマティック心理療法といいます。

当オフィスでは、ソマティック心理療法の一つであるブレインスポッティングを行い、トラウマ治療やPTSD治療を専門的に行っております。
心の傷が残っているとまではいかなくとも、ショッキングな出来事を体験していたり、感覚の麻痺に覚えがあったりされる方は、ぜひ一度当オフィスにご相談ください。

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