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ソマティック心理療法 -体を解放し安心感を得る全人的セラピー-

ソマティック心理学とは

ソマティック(somatic)は身体・生きている体という意味であり、ソマティック心理学は直訳すると身体心理学となります。
トークセラピストが相談者の思考や感情に同調するように、ソマティックセラピストは相談者の身体感覚に同調します。

ソマティック心理療法は、身体反応と精神作用の同調を基本とする心理療法群の総称です。
身体感覚を重視し、相談者が何をどのように感じているかに注目しながら、その感覚をより生き生きと、柔軟に受け取れるよう活性化させていくところが特徴的です。
セッションを進めていくことで、体と脳の再接続が促進されます。

ソマティック心理療法は当初、トラウマとPTSD治療に用いられていました。
トラウマティックストレスが脳だけでなく体にも症状を引き起こし、それがソマティック心理療法によって改善したからです。
現在はその有効性が周知されるようになり、過緊張・恐怖・怒りといった機能不全をもたらす感情の解放にも用いられます。

ソマティック心理療法の理論

ソマティック心理療法を支える理論が2つあります。
1つは自律神経系の理論であるポリヴェーガル理論、もう1つは脳の意思決定に関する理論であるソマティック・マーカー仮説です。

ポリヴェーガル理論は、1995年に神経学者のスティーブン・ポージャス博士が提唱した、自律神経系に関する理論です。
一般的に副交感神経系と呼ばれる神経回路を主に迷走神経が担っていること、その迷走神経が単一ではなく、腹側ふくそく背側はいそくの2つに大別できることを打ち出しました。

この2つのうち、背側の迷走神経はトラウマ反応(PTSD症状)に関連し、フラッシュバックを起こしたり、脳への血流が減って頭が真っ白になったりしているときの自律神経系の状態です。
ソマティック心理療法は、こういったトラウマ反応が出ているときにももう一方の迷走神経――腹側迷走神経連合体を働かせられるようにアプローチするセラピーです。

背側迷走神経だけが働いている状態ですと、脳や手足への血流量低下・内臓の過活動・脱力感や絶望感・流涙といったトラウマ反応が表れます。
しかし、同時に腹側迷走神経も働かせることができれば、呼吸は整い、息苦しさや動悸は治まり、それをとっかかりに安心感を得ることができます。
ただトラウマになった出来事を語るのではなく、そういった身体感覚に目を向けるのが、ソマティック心理療法の特徴です。

ソマティック心理療法を支えるもう一つの理論が、ソマティック・マーカー仮説です。
1991年に神経科学者アントニオ・ダマシオ博士によって提唱されたソマティック・マーカー仮説は、身体感覚と意思決定が関連しているとする神経生物学の理論です。

私たちは何か物事を決めたり取り組んだりするとき、頭で考えてその決定や判断をしたと考えがちです。
しかし、ソマティック・マーカー仮説では、その決定や判断には身体反応が関与しており、それが感情(快不快といった情動)を引き起こした結果、行動を選択させていると考えます。

例えば、掌に汗をかき、脈拍が高まり、筋肉が緊張しているときなら高リスクな行動はとらない人でも、それらの身体反応ソマティック・マーカーがない状態で同じ選択を迫られると、高リスクの方の行動をとってしまうのです。
ソマティック心理療法はこの情動的身体反応に着目し、過剰な身体反応を和らげることで、極端な感情や思考を穏やかにしていきます。

身体感覚と聞くと、まず思い浮かぶのが五感でしょう。
五感の中でも、視覚・聴覚・味覚といった外部の情報を受け取る知覚を外受容感覚といい、ソマティック心理学ではオリエンテーションと呼びます。
一方、筋肉などのこすれを感知する固有感覚、重力や加速度を感じる平衡感覚、呼吸や心拍、空腹感などの感覚は内受容感覚といい、心理学ではフェルトセンスとも呼ばれます。

内受容感覚は言語化しづらいものも多く、「もやもや」や「ピシッ」といった擬態語で表現されることも多い感覚です。
知覚しているはずなのに普段は感知されていない内受容感覚やフェルトセンスに注意を向け、安心感を感じながらその感覚を他者と共有していく体験を経験していくのも、ソマティック心理療法の特徴です。

代表的なソマティック心理療法

ソマティック心理療法は、いくつもの心理療法の総称です。
その中でも、代表格であるソマティックエクスペリエンシングブレインスポッティングをご紹介します。

開発者特徴
ソマティックエクスペリエンシングピーター・レヴィン安全な場での身体感覚に意識を向け、未完了の感覚を完了させる
ブレインスポッティングデイビッド・グランド視点を一点に定めることで脳のトラウマ処理を促進する
バイオエナジェティックスアレクサンダー・ローエン呼吸と身体動作を操作することで精神へアプローチする
ハコミセラピーロン・クルツラヴィング・プレゼンスという慈愛の境地を目指し、心を開けるよう進める
プロセスワークアーノルド・ミンデルワークを通して自分の進むべき道に気づき、実現することを支持する。ユング心理学発祥
エネルギー心理学ロジャー・キャラハンツボを叩くことで思考場にアクセスし、感情を解放する
ゲシュタルト療法フリッツ・パールズ今ここでの感覚に注目しながら再体験し、全体性を回復させる
EMDRフランシーン・シャピロ眼球運動や両側刺激を駆使しトラウマ処理を促す
臨床動作法成瀬悟策動作を変えることで無意識領域に介入し、心の問題を解消する
代表的なソマティック心理療法(一部)

ソマティックエクスペリエンシング

ソマティックエクスペリエンシング(SE:Somatic Experiencing)は、神経生理学者であるピーター・レヴィン(Peter Levine)によって開発された、心と体をつなぐトラウマセラピーです。
彼女はまず、野生動物は常に外敵からの脅威にさらされているのにトラウマ症状を呈さないこと、また、私たちが経験するトラウマ体験は様々なのにもかかわらずその症状は同じであることから、神経系の反応がトラウマ症状とその回復の鍵であると考えました。

動物は外敵に襲われた際、一時的に気絶したり失神したりしてやり過ごし、その後、意識を取り戻したときに身震いしたり、襲われたときに中断させた行動を続けたりすることでエネルギーを解放しているため、トラウマ化しないと考えました。
人間の場合、あまりに衝撃が強すぎて意識に留まっているのが危険なので、解離という症状を呈すると考えられます。

そこで、野生動物と同じく、「未完了の完了」「未解放の解放」を行うことでトラウマ症状の治癒を目指すのが、ソマティックエクスペリエンシングです。
安全安心を身体感覚を通して実感してもらい、その感覚を大きく、多くの場所で感じられるよう治療していきます。
「変化は遅ければ遅いほど治りは速く、少なければ少ないほど良い」とされており、(ダイエットでいうところの)リバウンドしにくいよう進めていくのが特徴です。

ブレインスポッティング

ブレインスポッティング(BSP:Brainspotting)は、デイビッド・グランド(David Grand)によって開発されたトラウマセラピーです。
視点を特定し、そこでトラウマ記憶や身体感覚に注意を向けることで、脳内の情報処理を促進させる、ソマティック心理療法の一つです。

EMDRのエキスパートでもあったグランド博士は、EMDR実施中、ある視点で留めたときにトラウマ記憶の処理が驚異的な効果を上げていることに気づき、その技術を洗練化させ、ブレインスポッティングを確立しました。
ブレインスポットと呼ばれる場所に視点を固定することで脳が活性化し、身体感覚や感情体験は抑制しつつ、記憶や思考の処理は促進されると言われていますが、詳しい機序はまだ分かっていません。

ソマティックエクスペリエンシングが愛着トラウマや発達性トラウマに強いとするならば、ブレインスポッティングはショックトラウマ(事故や災害などの強いストレス)に強いと言えます。
強い感情や身体反応にお悩みの方は、当院でブレインスポッティングを試してみるのも良いでしょう。

ソマティック心理療法の5つのセルフケア

ソマティック心理療法に基づくセルフケアの方法を5つご紹介します。
感情的興奮でお悩みの方は、セラピーを受ける前に試してみるのも手です。

呼吸法

口から息を大きく吐き、肺の中を空っぽにします。
鼻から4秒かけてゆっくりと息を吸い、胸部と腹部が膨らんでいく感覚に注目します。
1分ほど行えると、不安による扁桃体の発火やパニック発作のような浅い呼吸を整えることができます。

運動

ヨガ・ダンス・屋外でのウォーキング・太極拳などの運動は、体の緊張を和らげるのに適しています。
体は何もないところからリラックスさせるより、一旦緊張させてからリラックスさせる方が得意です。
感情を司る扁桃体も、あえて感情を高めてから落ち着かせる方が、スムーズに穏やかになります。

瞑想

瞑想することは脳のストレスを低減させます。
最近ではマインドフルネス瞑想をガイドしてくれるアプリもいくつも出ていますし、YouTubeやオンラインで人と一緒に瞑想できる方法もあります。
情緒の安定、不安感の低減、注意力の改善も見込めます。

グルーミング

犬や猫などの動物と触れ合うことは、短時間で緊張を緩和させることができます。
セロトニン・ドーパミン・オキシトシンが増加し、血圧・心拍数・コルチゾール値が低下することが確認されています。

漸進式筋弛緩法(プログレッシブ・マッスル・リラクゼーション)

息を吐きながら体の一部がリラックスしているのを感じ、息を吸いながらその部分に力を入れて緊張させます。
首から始め、肩、腕、胸部、腹部と、つま先に向かって順々におこなっていきます。
自分が心地良いと感じられる場所をイメージしながら行うと、より効果的です。

まとめ

ソマティック心理療法は、身体感覚と身体反応に意識を向け、それらにアプローチすることで感情や症状を落ち着かせるセラピーです。
自律神経系に関するポリヴェーガル理論、情動と意思決定に関するソマティック・マーカー仮説を理論的根拠とし、昨今注目を集めるようになりました。

心の症状も、根底には体の状態や感覚器官と密接に関わっています。
これまでの心理療法は、何を話したか、どう訴えているかといった情報を主眼に置き、それを変容させることに注力してきました。
いわば大脳新皮質に対するそれらのアプローチに対し、ソマティック心理療法は体が何を感じているか、それがどのように変化するかに着目し、体から元気になるよう治療介入していくアプローチです。

トラウマティックストレスへのアプローチとしては、ソマティックエクスペリエンシングやブレインスポッティングという方法があります。
当院ではブレインスポッティングに加え、ソマティックエクスペリエンシングをはじめとするソマティック心理療法の技法も取り入れながら、トラウマ治療をおこなっています。

幼少期や職場でのトラウマ体験にお悩みの方は、ぜひ一度当院にご相談ください。

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