逆境的な境遇を養育者との間で経験していると、ショート動画に依存しやすくなります。
テレビゲームやパチンコのように、強い光や音と素早い動きを伴うショート動画もまた、精神的な依存を引き起こすことが分かってきています。
親からひどい仕打ちを受けたり、感情を揺さぶるような経験を幾度もしたりした人は、ショート動画中毒やショート動画依存になりやすいことが近年報告されるようになりました。
ショート動画依存になりやすい人とはどういった人なのか、幼少期の経験から解放されるにはどうすればいいのか、臨床心理士が解説します。
ショート動画の依存性と中毒性
SNSの普及と共に、1,2分という短い時間で観られる動画も爆発的に流行しました。
Twitter(X)のショート動画、Tiktok、Instagramのリール動画など、無料のSNSで誰でも手軽に動画を作成したり投稿したりすることが可能です。
アプリが無料である以外にも、ショート動画の人気には以下のような理由が挙げられます。
魅力もあるショート動画ですが、人によっては何時間も視聴に費やしてしまう人もいます。
そのことが心身にまで異常をきたし、学業や就労といった社会生活にまで影響が出るケースもあるといいます。
とある調査では、大学生の73.4%、約4人に3人は「ショート動画は中毒性があり、止めるのが困難である」と感じているそうです※1。
実際にショート動画からくる悪影響を調べた研究では、うつ気分や不安、注意欠如といった精神衛生状態が酷く悪化し、そのことによって学校の成績も悪くなったり、家族関係が険悪になったりした傾向が確認されました※2。
ショート動画依存になると、明らかにショート動画に没頭し、離脱症状が起き、止めてはまた見てといった再発を繰り返すことから、従来の依存症としての症状を網羅しています※3※4。
幼少期の経験とショート動画依存症の関係
幼少期に虐待や親との別離といった苦痛を伴う経験をした人は、このショート動画依存症に陥る確率が高いことが報告されています※5。
こうした経験を小児期逆境体験（ACEs）といいますが、小児期逆境体験を経験した人はそうでない人に比べ、ショート動画依存症になるリスクが4.7倍ほど高いそうです。
ACEsは幼い頃に支持的な人がいなかったり、両親の口論を目撃したりする経験も含む包括的な定義ですが、その中でも特に暴力・虐待・ネグレクトはショート動画依存症のリスクが高くなるだろうということが示唆されています。
これは、ACEsの人が即時の満足感を求めており、それをアルコールやギャンブルに頼るように、ショート動画にも頼っている可能性が考えられます。
ACEsの人は心の中に未解決の感情的苦痛が残っており、その混乱や葛藤の解消にショート動画を使用している可能性もあります。
まとめ
ショート動画は次から次へと興味を惹くコンテンツを提供してくれますが、それは一時的な退屈しのぎに過ぎません。
幼少期に逆境的な環境に置かれ、そこからくる苦痛や緊張を解消してくれる魔法のような道具ではないということでしょう。
ACEsの人の症状は複雑性PTSDという診断が下るようになり、トラウマ症状として治療対象と見做すようになりつつあります。
トラウマ治療にはEMDRやブレインスポッティングなど、有効なカウンセリングや心理療法がいくつかあります。
過去のトラウマ的出来事や逆境体験の記憶でお困りの方は、ぜひ一度当院にご相談ください。
※1 青少年のショート動画依存と睡眠の質：社会不安の媒介的役割 https://bmcpsychology.biomedcentral.com/articles/10.1186/s40359-024-01865-9
※2 青少年におけるTikTokの使用と心理社会的要因：非利用者、中程度利用者、依存症利用者の比較 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0165178123001889
※3 愛着から依存症へ：SNSにおける欲求充足の媒介的役割 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0747563219301323
※4 ショート動画依存と抑うつ症状の縦断的関係：クロスラグ・パネルネットワーク分析 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0747563223004107
※5 小児期逆境体験とショート動画依存：レジリエンスと生活満足度の関係媒介モデル https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0747563224003170
コメント