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内向的な人

内向的とは、内面や自分のうちのことを優先する性質のことです。
落ち着いていて思慮深く、非社交的な性格と表現されることが多いですが、それは場面や対象によって異なるものであり、その本質は興味・関心の向きが内面優先か外界優先かという違いからきています。

内向的な人とはどんな人か、何によって内向的/外向的が決まるのか、内向的な人の傾向と対策を説明します。

内向的/外向的の定義

内向的とは、興味や関心が自分の内部にばかり向かうさまと定義されます。
日常的に使われる内向的という単語について、「内気」「ウジウジ悩みやすい」「照れ屋」といったイメージを抱いている方がいるかもしれませんが、それは正確ではありません。

心理学的に内向的/外向的という概念を提唱したのは精神科医・心理学者のカール・グスタフ・ユングです。
ユングによれば、人はどちらかといえば内向的(外向的)というようにタイプ分けできますが、完全にどちらか一方のタイプだというように分類できるものではないとされています。

内向的な人と外向的な人について理解しやすい例を一つご紹介しましょう。

あるところに、内向的な人と外向的な人が旅をしていました。
旅の途中、二人は大きな建物を見つけます。

外向的な人は目を輝かせて中に入ることを提案しますが、内向的な人は興味が湧かないためあまり乗り気ではありません。
しかし外向的な人の提案を受け入れ、二人は建物に入ります。

中に入ると、そこは図書館でした。
内向的な人は一転、蔵書に興味が湧いてきたので近くにいた司書に話しかけ、あれこれ早口で質問し始めました。
外向的な人はというと、そこまで書物に興味がなかったため、特に誰に話しかけるでもなく暇そうにしていました。

図書館に入る前、新奇なものへの興味を示し、積極的に対象にアプローチする外向的な人の行動は典型的な外向性の表れと言えます。
一方、内向的な人は新奇なものに特に関心がなく、むしろアプローチしたくないような消極的な態度を示しています。

ところが図書館だと分かるや否や、両者の行動は逆転します。
内向的な人は自分が一人で没頭できるもの(書籍)に対して行動的になり、他方、外向的な人は書籍には関心がなく、大勢の人や珍しい物品もなかったことから急速に建物への興味を失っています。

「積極的か消極的か」「活発かおとなしいか」といった一時的な行動や態度だけでは、内向的か外向的かは判断がつきません。
元々その人が持っている興味や関心は何か何に行動を起こし、何に行動を起こさないかによって分類可能になるのが内向性/外向性ということです。

内向的な人とされる著名人

有名人ではエマ・ワトソンやJ.K.ローリング、ビル・ゲイツやマイケル・ジョーダン、日本だとお笑い芸人のヒロシなどが内向的な性質を持っていると言われています。
歴史上の人物では、オードリー・ヘップバーンやアルバート・アインシュタインが内向的な人であったとされています。

内向的な人チェックリスト

  • 新しい環境になじむまで時間がかかる
  • 初対面の人と話をするのは苦手
  • 気の合った少数の友人と深く付き合う
  • 少数、または一人で遊ぶのが好き
  • 自分のことを表現するのに躊躇(ちゅうちょ)する
  • 自分の思っていることをみんなに伝えるのは苦手
  • 理屈や考え方より、人の感情や気持ちに興味がある
  • 物事を情緒的に捉えようとする
  • 物事を気持ちで判断していく
  • 気持ちを分かち合うことは大事だと思う
  • 対人場面では、相手の考えや意見より、気持ちや感情を察する

内向的な人(内向性)に関する誤解

単語の響きからか、内向性については様々な誤解が生じやすいです。
外向的な人は内向的な人を誤解しないために、内向的な人は「自分は本当は内向的ではないのでは」と自分自身を傷つけないために、よく聞かれる誤解を挙げてみます。

× 内向的な人はシャイである

シャイな人も内向的な人も「大勢のいるところを避ける」という点では共通しているかもしれません。
しかし、内向的な人は大勢が一斉に喋ったり話しかけてきたりするような、いわゆる刺激の多い(高刺激の)場所は避けがちですが、大勢の前で演説したり舞台に立ったりすることは苦痛でない人もいます

ビル・ゲイツやオードリー・ヘップバーンは、内向的ではあるけれどシャイではない好例です。
一方、シャイな人は他者の注目を集めることを恥ずかしがったり怯えたりするため、演説したり舞台に立ったりすることを回避します。

× 内向的な人は引きこもりやすい

引きこもりとは、学校なり社会なりで関係作りに失敗した(もしくは失敗したと思い込んでいる)であり、独りが好きなわけでも、内面に興味関心があるわけでもありません。
外向的な子でも学校で悪口や嫌がらせをし続ければ適切な人間関係が築けず引きこもりを余儀なくされますし、内向的な子でも最低限のコミュニケーションと理解者がいれば引きこもりにはならずに過ごせます。

内向的だから引きこもりになるという決めつけは、発言者の思い込みです。

× 内向的な人は人と交流するのが嫌い

内向的な人は自分の内面への興味を優先するだけですので、外界の人に興味がないわけではありません。
対比するとすれば、内向的な人は内面→外界の順で興味を持ち、外向的な人は外界→内面の順で興味を持つと言えば分かりやすいでしょうか。

外向的な人も熟慮したり落ち着いたりすることがあるように、内向的な人も人と交流することはありますし、むしろ少人数であれば人との関わりが好きな人も多いです。
他者との関わりを嫌い、ずっと一人でいたがる内向的な人はむしろ少数派の印象です。

× 内向的な人はHSPである

HSP(Highly Sensitive Person)は物事に反応しやすく、全人口の15~20%ほどの人が該当すると言われています※1
一方、内向的な人は全人口の30~50%を占めていると言われており、内向的な人の方が多いと考えられています。

HSPの中にもHSS型HSPという性質の方が一定数おり、この人たちは外向的な人でもあると考えられるため、「内向的=HSP」ではないと言えるでしょう。

× 内向的な人は冷静沈着で深く考えられる

内向的な人の特長や活かし方として、深く考えたり冷静沈着だったりする点を活かすよう書かれていることがありますが、これは内向性を拡大解釈しています。
物事を深く入念に考えられるかどうかはその人の知識や学習成果によりますし、外界に興味がないからといって内心落ち着いているとも限りません。

同じく、「内向的な人は他者からの意見に左右されず自分の世界を持っている」とか、「他者からの意見を取り入れず頑なに自分の意見を通そうとする」という言説もありますが、これも拡大解釈です。
そういった飛躍した解釈を踏まえて職業を決めたり転職先にアピールしたりすることを勧める書籍や転職サイトもありますが、職業決定するときにはきちんと自分の長所に合った職業を選びましょう。

内向的な人と仕事

内向的な人に向いている職業

社会科の授業で、一次産業・二次産業・三次産業という分類を習ったのを覚えているでしょうか?
人からの高刺激を苦手とする内向的な人は、前提として自然界に働きかける一次産業(林業・漁業・農業など)に向いています

産業革命以降、一次産業で獲得した資源を加工する二次産業は連携とチームワークが求められるようになりました。
工場ではスキルを伝え、休憩時間にはみんなと調和できることが求められますし、建築現場では皆と協力しオフでも一緒に過ごせることが求められます。
二次産業は外向的な人に適した職場の主流になったと言えるでしょう。

では、サービス業やIT業界などの三次産業はどうかと言うと、これはかなりのギャンブルです。
内向的な人とだけ関われる職場になればこれ以上ないほど能力を発揮できますが、ひとたび外向的な人と少数の中で密な関わりを求められると、たいへん苦しい思いをすることを覚悟しなければなりません。

現代は人格の文化と言われ※2、ホワイト企業500などで企業はこぞって働きやすい職場であることをアピールし、求められているコミュニケーションはどんどん高度になっています。
コロナ禍で物理的にオフィスには行かなくなったかもしれませんが、オンライン飲み、チャットによる報連相、自宅での残業などによって、プライベートの時間は徐々に仕事に浸食されています。

内向的な人には多数と関わる仕事よりは少数と関わる仕事が良いとは言えそうですが、カウンセリングでは「外向的な人と関わらなければなくなったために多数のときより関わる時間が増えて苦しい」という悩みもよく聞くため、一筋縄ではいかないようです。
将来的には、職場の人数規模や所在地を書くように、求人票に内向的/外向的の比率を提示する時代が来ると、個人的には考えています。

内向的な人と転職

内向的な人は仕事を転々としがちです。
これは内向的な人に忍耐が足りないからではなく、外向的な人との関わりが苦痛となり、業務遂行能力ではなくコミュニケーションからくる刺激が過剰となって職を離れざるを得なくなるのです。

内向的な人はむしろ忍耐力は高く、その忍耐がかえって仇となり、ストレス関連障害になって初めて自分が無理をしていたことに気づくケースが多いです。
毎日辞めたさゲージを少しずつ溜め、それが上限に達したら転職といったことを繰り返していたり、連休明け2日前から「明日はもう最終日かあ」と考えて連休最終日だけでなく最終日前日まで憂うつに過ごしたりしている人は、もしかしたら内向的な人かもしれません。

内向的な人と上司

私的な見解ですが、カウンセリングの中で会った仕事のできる人は、内向的な部下の扱いがとても上手でした。
いわゆるデキる上司は外向的/内向的に関わらず部下の興味・関心を注意深く知っており、その上で経験的に彼らをどのように扱ったら良いかを体得しているのでしょう。

内向的な人が長く働けている職場が可視化されれば、そういったデキる上司のノウハウも他企業に共有できるようになるかもしれません。

内向的になる原因

外向的な人と内向的な人との比較研究から、いくつかの要因によって内向的になることが解明されつつあります。
中でも有力なものとして、脳の側坐核とドーパミンの働きが挙げられます。

側坐核は快感やその抑制といった、いわゆる報酬系を司る部位です。
ドーパミンは脳内神経伝達物質であり、ドーパミンが側坐核で放出されると意欲が増して物事にとりかかったり、行動をずっと続けたりするようになります。

外向的な人は外界からの刺激によってドーパミンが産生されやすく、またその上限が高いことが分かっています。
つまり、外向的な人は人と関わったり、新奇な刺激に接したりするとドーパミンが出やすく、それに満足するまでずっとその行動を続ける傾向があるということです。

一方、内向的な人は外界の刺激ではドーパミンが反応しなかったり、反応したとしても上限が低いためにすぐ行動を中断したりしてしまうようです。
ドーパミンは持続的なやる気の機序に関連しているので、内向的な人でなかなか行動し続けられない方は、当オフィスに相談してみるのも手でしょう。

内向的な人との付き合い方

内向的な人に対して、外向的な人は何ができるでしょうか。
非内向的な人が内向的な人とどのように付き合ったらいいか、カウンセリングの中で訊かれることも多いので、ここで2つ取り上げてみます。

社会経験を活かしてフォローする

外向的な人は好奇心からパーティや人の輪などに気兼ねなく飛び込みやすく、そこでの立ち回りや会話の瞬発力を多く体得しています。
多少会話内で失敗したり相手をしくじったりしてもリカバリーでき、次の刺激に興味も移るために1つのミスを引きずることも少ないです。

一方、内向的な人は大人数と相対した機会が少なく、そういった瞬発力やリカバリーのバリエーションに乏しいことがほとんどです。
とは言え、大人数と関わる場面を全て避けるのも難しいものですので、そういうときには外向的な人が持ち前の社交性を活かし、内向的な人の言動をフォローしたり口火を切ったりする役割に徹すると良いでしょう。

注目を集める役割は代わる

内向的な人全てが注目を集めることを嫌うわけではありませんが、とは言っても大勢から何か言われたり無言の圧力を感じたりする状況を避けたがる人は多いものです。
外向的な人が代われるときには、内向的な人に代わって大勢の前に立つ役目を代わるのも内向的な人への支援となるでしょう。

内向的な人がした方がいいこと

内向的な人とだけ関わる

最も重要なことは、内向的な人は内向的な人とだけ関われる環境に身を置けるかどうかです。
内向的/外向的双方の言い分をカウンセリングの中で聞いていると、内向的な人は外向的な人のまさにその外向性にイライラしやすく、また外向的な人は内向的な人の内向性にストレスを感じることが多いようです。

内向的/外向的はあくまで人の性質の一つでしかなく、組織やチームを前進させるのは内向的か外向的かとは全く異なる軸によるところが大きいのです。
むしろ、もう一方の向性の人と関わらなければならないストレスで組織に不和が生じ、チームが離散してしまう確率の方が高いので、組織作り・チーム編成をする際には内向的な人だけで構成されることが望ましいでしょう。

笑顔でいる

非社交的な内向的な人は、黙っていたりリアクションが控えめだったりすることから、暗い人と誤解されがちです。
そういった印象がマイナスに働くことも社会生活を送る上では多いので、なるべく笑顔で機嫌よく振舞えるようにしておくのは有意義でしょう。

海外はともかく、日本文化の中では笑顔でいること、しかし笑顔だけで一言も発さないことはかなり強力な”壁”として作用します。
内向的な人がニコニコしているだけで相手はこちらに質問したり内情に踏み込むことを止め、精々自分のことをひたすら話すのが関の山です。
半数以上の人は笑顔から柔らかな拒絶のニュアンスを感じ取り、自分から話を切り上げてくれるでしょう。

支援する

人は援助してくれる人に対して寛容であり、批判してくる人に批判的です。
助けてくれる、支援してくれる人が内向的か外向的かなんてことは人から気にされなくなりますので、職場や友人関係などでは内向的な人は積極的に支援すると良いでしょう。

内向的な人は外向的な人に比べて的外れな支援をすることが少なく、迷惑をかけるような手出しはそもそもしないことも良い方に作用します。
たとえこちらから相手が嫌いであっても、相手から嫌われない状況はあなたのこころに平穏をもたらすでしょう。

期待を低く保つ

外向的な人が内向的な人と同水準に考えたり悩んだりしてくれることはまずありません。
「なぜ分かってくれないんだ」とイライラしないためにも、相手への期待のハードルをなるべく低くすること、他者に見返りを求めないよう心がけるスキルが、内向的な人には特に必要です。

内向的であることを矯正しようとしない

世の中には内向的であることを改善する方法や脱却する方法、治すためにはどうしたらいいかというノウハウで溢れています。
内向的であることをダメなことだという前提で話を展開している記事もあります。

ここまで読んでいただければ分かるように、内向的であることは長所であり美点ですので、治そうとしないことが精神衛生上では重要になります。

まとめ

内向的とは、興味・関心が自分のうちに向きやすい性質のことです。
シャイ、引きこもりがち、人と交流するのが苦手といった印象を持たれやすいですが、特にそういったわけではなく、単に新奇で刺激の多い状況を避けやすいだけです。

大勢の人といっぺんに関わるようなシチュエーションが苦手で、そういったシチュエーションの得意な人の少ない、一次産業のような仕事に適しています。
内向的な人だけの仕事に就けなかった場合、しばらくしてから辞めてしまったり出社困難になったりすることがあります。

内向的と思われる人は、人と笑顔で応対する、支援的に関わる、他者に期待しすぎないなどを心がけることによって、消耗を防ぐことができます。
日常生活でつらく感じたり、こころだけでなく体に不調が出ていたりする方は、一度当オフィスにご相談ください。

#1 ささいなことにもすぐに「動揺」してしまうあなたへ,  Elaine N. Aron, 2000

#2 内向的な人が秘めている力, Susan Cain, 2012 https://digitalcast.jp/v/12275/

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