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境界性パーソナリティ障害 -内面の不安定さからくる理想化とこき下ろし・自傷行為-

感情の起伏が激しく、自分や他人に対する認識の振れ幅が極端に大きい性格傾向を、境界性パーソナリティ障害といいます。
他者を理想化したかと思えば、期待にそぐわないことが少しでもあると失望し、厳しく叱責したり罵倒したりしてしまいます。

極端さのある自分にも失望し、または感情に振り回されることに疲れ果てて自傷行為を繰り返します。
境界性パーソナリティ障害の人はどのような特徴を持ち、何によってそのような性格傾向になったのか、原因と対策について説明します。

境界性パーソナリティ障害とは

境界性パーソナリティ障害(BPD:Borderline Personality Disorder)は、感情や思考の極端さを特徴とする人格パーソナリティ障害です。
現在、アメリカ精神医学会の診断基準には10種類のパーソナリティ障害が記載されていますが、その中でも最も古いものが境界性パーソナリティ障害であり、パーソナリティ障害という概念は境界性パーソナリティ障害から始まりました

境界性(Borderline)とは、精神病と神経症の境という意味です。
「精神病のような怒りっぽさや衝動性はあるが、幻覚妄想はない」、もしくは「神経症のような不安定さや空虚感は語られるが、神経症のそれよりも度を越している」といった状態像から、境界例(後に境界性)と呼ばれるようになりました。

アメリカ精神医学会の診断基準(DSM-5)では、18歳以上の早期に次のうち5つ以上を満たすことで診断されるとされています。

境界性パーソナリティ障害の診断基準
  • 見捨てられること(実際のものまたは想像上のもの)を避けるため必死で努力する
  • 不安定で激しい人間関係をもち、相手の理想化と低評価との間を揺れ動く
  • 不安定な自己像または自己感覚
  • 自らに害を及ぼしうる2領域以上での衝動性(例:安全ではない性行為、過食、向こう見ずな運転)
  • 反復的な自殺行動、自殺演技、もしくは自殺の脅しまたは自傷行為
  • 気分の急激な変化(通常は数時間しか続かず、数日以上続くことはまれ)
  • 持続的な空虚感
  • 不適切な強い怒りまたは怒りのコントロールに関する問題
  • ストレスにより引き起こされる一時的な妄想性思考または重度の解離症状

有病率は0.5~5.9%とされており、100人に1人か2人いると言われています※1
服薬によって衝動性が高まったり、理性のタガが外れたような言動脱抑制だつよくせいをしたりすることが多いため、投薬治療中心の日本では近年あまり診断されることのなくなった疾患です。

境界性パーソナリティ障害の症状

理想化とこき下ろし

理想化とは、他者の全てを「良いもの」と捉え、過剰に信頼したりあたかも悪い部分が見えていないかのように扱ったりすることです。
出会って間もない人なのに個人情報をどんどん話したり、「私のことを何でも受け止めてくれる」とLINEを昼夜問わず送ったり、相手の行動を束縛したりします。

理想化した相手が自分の期待に応えられなかったとき、一転、全てを「悪いもの」と捉え、相手をこき下ろします
理想化しているときには全く見せなかった攻撃性を前面に出し、罵倒したり排除したりするようになります。
治療者に理想化とこき下ろしが起こることもあり、心療内科や精神科のクチコミ評価が低い一因もここにあります。

不安定な自己像

全く自信がなく「自分には価値がない」かのような言動をしたかと思えば、急に周囲を非難し、確信に満ちた語気と態度で「自信たっぷり」に見えることがあります。
自分で自分がよく分からず混乱し、そのことが更に情緒の不安定さに拍車をかけます。

自傷行為や自殺企図

激しい感情に駆られたことから自己感覚が失われ、その感覚を取り戻すためにリストカットや頭を壁に叩きつけるなどの自傷行為を行います。
または、ストレス発散や出来事との区切りをつけるために自罰的な言動をおこなったり、他人から見捨てられたくない、心配されたい一心で家出をしたり、避妊せずにセックスしたりすることもあります。

自傷行為全てが自殺を目的としたものではありませんが、強い希死念慮に駆られて自殺しようとすることもあります。
自殺既遂率は10%と報告されており、一般人口の約50倍と言われます※1

境界性パーソナリティ障害は性格か

パーソナリティの統合理論である人格適応論では、パーソナリティを6つに分類し、誰でもそのうちの1つ以上のパーソナリティを示すとしています。
境界性パーソナリティ障害はその6つには分類されておらず、あくまでも精神疾患、社会生活を送る上での障害となるような状態を指したものであるとされます。

人格適応論では、境界性パーソナリティ障害の人は受動攻撃性パーソナリティ反社会性パーソナリティの特徴を兼ね備えているといいます※2
どちらのパーソナリティもポジティブな側面とネガティブな側面がありますが、境界性パーソナリティ障害はネガティブな側面が優勢になってしまい、ポジティブな側面が塗り潰されてしまっているような状態であると言えます。

受動攻撃性パーソナリティ同様、幼少期に感じた不公平感をオーバーラップさせたかのように怒り、攻撃的になります。
「自分は不公平に扱われてきたのだから、他人を公平に扱ってやる必要なんかない」とばかりに感情的になり、周囲と敵対したり、言い争ったりします。

ひとたび相手と衝突すると、社会的に許容された方法よりもむしろ許容されていない方法を選んで、相手に逆襲します。
反社会性パーソナリティのストレス反応のように、相手に見せつけるかのように自傷行為をしたり、見えるところにピアスを開けたりタトゥーを入れたり、危険運転や違法行為に走ったりします。

境界性パーソナリティ障害の認知

努力せよ try hard

達成したかどうかより、どれだけ頑張ったか、どれだけ一生懸命取り組んでいるように見えたかに注目された子は、次第に「努力せよ」の認知を持つようになります。
努力せよの認知があると、物事に熱心に取り組みはしますが、過剰に頑張りをアピールしたり献身を強調したりし、そんな過程に反して途中で手を抜いたり、完成させなかったりします。

境界性パーソナリティ障害の人は、場の暗く重たい雰囲気や参加者のため息、視線の動きといった本題とあまり関係のない些事さじを「とにかく良くしよう」と頑張ってしまい、問題解決や行動決定に使われるべきエネルギーを、全て本題と関係ない方向に注ぎがちです。
間違った方向への努力が報われることはあまりなく、ただ「頑張った感」と不満を心の中に残す結果になります。

他人を喜ばせなければならない be pleasured

養育者から「みんなに刺激と興奮を」と期待された子は、次第に周囲が楽しんでいるかどうかを価値基準の中心に置きます。
「他人が喜んでくれた自分の行動は良いものだから増やそう。喜んでくれなかった行動は減らそう」と学習し、それに合わせた行動や態度を選択していくのです。

認知が形成されたときには世間の良識や社会のルールなど知る由もありませんから、とにかく反応してもらえ、かまってもらえる行動――悪口やいたずらでも、お構いなくおこなってしまうことになります。
また、周囲からの反応があるかどうか、喜ぶかどうかが規準になるため、喜ばれた後でどのようなツケを払うか、どんな不満や周囲の無理解にさらされるかにまでは考えが及ばないことがあります。

強くなければならない be strong

強くあれの認知を持った人は、他者が離れていかないよう、本心を顔や言葉に出さないように我慢します。
境界性パーソナリティ障害の場合、不満や苛立ちを一時はこらえるものの、ある時点でそれが限界に達し、強い感情と衝動性を伴ってそれらが爆発します。

感じてはならない

「感じてはならない」「感じるべきではない」の認知を持った人は、自分の思ったことや感じたこと、特におびえと悲しみをそもそも抱いていないかのように知覚します。
これは、思ったり感じたりしたことでは親の理解や共感を得られなかったこと、怖がったり悲しんだりしても、むしろそれを笑いものにされて余計に傷つけられたことなどに由来します。

この認知を持った人は、自分の身体感覚に注意を向けたり、今どのような感情を抱いているかを言葉にすることがとても苦手です。
カウンセリングでは、感じていることに注意を向けられるようになったり、感じたことをいつ誰に伝えるかを一緒に計画したりして、主観を表現できるように働きかけていきます。

成長してはならない

どんな哺乳類も幼い頃は可愛らしい見た目と等身をしており、成長するに従ってそのような容姿ではなくなっていきます。
人間の場合も同様ですが、養育者から「自分自身を完了させたり成し遂げたりしないでほしい。成長して離れていってしまうくらいなら、成長しないでほしい」というメッセージを受け取ることで、精神的な成長を止めてしまうことがあります。

成長してはいけないので、食事を摂らなくなれば摂食障害、愛される容姿のままでいようとすれば醜形恐怖など、メンタル疾患を発症してしまうことも少なくありません。
このような場合にも、カウンセリングによる心理的アプローチと、点滴などによる生物的アプローチを並行して実施されることが有効です。

境界性パーソナリティ障害の原因

境界性パーソナリティ障害となる生物学的・遺伝的要因は特定されておらず、出生後の環境にその原因があるという説が有力です。
受動攻撃性パーソナリティ反社会性パーソナリティの特徴が見られるように、その育てられ方も双方に似通ったところがあると考えられます。

幼少期に言い分を親に聞き入れてもらえず、やりたくないことでも結局やらされることが分かってくると、やらされることに手を抜いたり、あえて失敗するようになったりします。
失敗することで、「ほら、言われた通りやってもうまくいかないでしょ」と反抗し、一矢報いるのです。
どんなに「やらされ」を失敗しても自分は満たされませんから、不満感はずっと本人の中に残ります。

また、親(養育者)が気まぐれで関わったり関わらなかったりした場合、かまってもらうチャンスを最大化するために非常識な行動をとったり、ぎょっとされるような過激な発言をしたりするようになります。
すると、次第に「喧嘩したり出血するような危険行為をすると注目されるみたいだ」「バカやアホのような大人が使わない単語を言ったり、悪口を言ったりするとかまってもらえるようだ」などを学習していきます。

人から見捨てられるのではという不安、見捨てられないかどうかの確認行為が常態化していくと、境界性パーソナリティ障害の傾向が出現します。
境界性パーソナリティ障害の診断は18歳以降から下りますが、こうした傾向は6歳までに形成されると言われます。

境界性パーソナリティ障害は、かつては精神分析的な疾病概念とされていましたが、近年では脳画像イメージングや神経ネットワークなど、神経精神医学的な切り口から疾病を理解する取り組みも盛んに行われています。
それらの取り組みでも、感情と衝動性に関する脳部位が増大していたり、反対に、感情と衝動性を抑える部分の機能が低下していたりすることが確認されています。

見捨てられ不安を始めとするネガティブ感情は、脳の扁桃体へんとうたいという部分で発生します。
扁桃体で生じた不安は、本来なら前帯状皮質ぜんたいじょうひしつで評価され、「まあ、そんな破滅的な事態にはならないだろう」と判断されるはずなのですが、逆に不安を過大評価してしまい、不安感を高めてしまうのです。
一部の境界性パーソナリティ障害研究では、扁桃体の体積増加と、前帯状皮質の活動低下が報告されています※3

他の報告では、扁桃体の体積は健常者と差はありませんでしたが、扁桃体の働きをコントロールする前頭前野、特に背外側はいがいそく前頭前野の活動性が低いことが示されました※4
最近の研究では、感情や衝動性が強いというより、感情や衝動性を抑制する前頭前野の機能が低下したために、気分や認知の不安定さや問題行動が増加しているという説が有力です※5

向精神薬は前頭前野の働きを低下させることから、境界性パーソナリティ障害の人が服薬すると、かえって衝動性などの症状が悪化する現象にも説明がつきます。

境界性パーソナリティ障害の治療

大うつ病性障害(うつ病)や双極性障害そううつ病)と違い、状態が不安定になるときとそうでないときの周期性がなく、適切な治療を継続的に行うことが難しいのが難点です。
6年後には50~70%の人は回復すると言われているため、適切な治療に根気強く取り組むことが大切です※6

治療効果が示されている、代表的な心理療法を紹介します。

弁証法的行動療法

心理・社会的スキルの獲得を目指す心理療法です。
観察を通して自身の体験を深める「マインドフルネス・スキル」、長期的な人間関係を構築できるようにする「対人関係スキル」、衝動的な情動をコントロールできるようにする「感情制御スキル」、危機的状況を引き起こすストレスへの耐性を高める「ストレス耐性スキル」の4つを、週1の個人カウンセリングや集団療法によって獲得していきます。

メンタライゼーション

精神分析療法由来の心理療法です。
①他者の心理状態をイメージする能力、②自分自身の心理状態をイメージする能力、③外界現実と心の状態を区別する能力、の3つを主要な能力と捉え、その能力獲得によって自他の精神状態に気を配れるようになることを目指します。

転移焦点化精神療法

精神分析療法由来の心理療法です。
抑圧や反動形成といった自身のとりやすい防衛機制を理解し、別の防衛機制をとれるようになることで苦痛を緩和しながら外の世界とも調和バランスを保っていけるようになることを目指します。

STEPPS

感情予測と問題解決のためのシステムズトレーニング(Systems Training for Emotional Predictability and Problem Solving)の略です。
認知行動療法を理論的背景とし、症状や経過についての知識をつけたり、信念スキーマを理解し話し合ったり、行動を変えることで気持ちを和らげる方法を練習したりします。
集団でのトレーニングを週1回、20週かけて行います。

まとめ

境界性パーソナリティ障害は情緒面で不安定さがあり、他者を理想化したかと思えば、少しでも悪い方に判定されたことがあると、評価を反転させこき下ろすことがあります。
自己愛性パーソナリティ障害が「自己観の不安定さ」を主とする障害だとすれば、境界性パーソナリティ障害は「他者観の不安定さ」が主症状とする障害と言えるでしょう。

境界性パーソナリティ障害の原因は、干渉的で柔軟性に欠けた成育環境だとする説があります。
養育者からの干渉に不満を感じつつも、そういった関わりがなくなると見捨てられ不安を感じ、そのように接してこない人を理想化したり、叶わずに失望したりを繰り返すのです。

他者観の不安定な境界性パーソナリティ障害には、安定した関わりを継続できる他者が必要になるでしょう。
また、情緒不安定の根底には愛着障害や愛着トラウマ、複雑性PTSDなどのトラウマティックストレスが潜んでいる場合もあり、注意が必要です。

両親や教師などからのトラウマ記憶にお困りの際は、ぜひ一度当オフィスにご相談ください。

※1 境界性パーソナリティ障害 https://www.vvpt.be/images/Publicaties/leichsenring-et-al-2011.pdf

※2 交流分析による人格適応論, ヴァン・ジョインズ, イアン・スチュアート, 2007

※3 境界性パーソナリティ障害におけるネガティブ感情の神経相関 https://scholar.google.co.jp/scholar_url?url=https://www.encephale.com/content/download/91243/1653172/version/1/file/borderline.pdf&hl=ja&sa=X&ei=6OeVY8KKPM6TywSuq4KQDg&scisig=AAGBfm0-NRkHTqz5mhtSY81OojxACRKxeg&oi=scholarr

※4 境界性パーソナリティ障害における感情処理困難の神経相関 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25935068/

※5 境界性パーソナリティ障害における信頼性評価欠損は扁桃体ではなく前頭前野皮質と関連する https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201902261173693348

※6 境界性パーソナリティ障害の長期に渡る臨床的・機能的経過 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30599336/

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