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いじめの後遺症

いじめとは

いじめとは、学校の内外を問わず、児童生徒が苦痛を感じている攻撃や否定のことです。
いじめの種類には、身体的なものだけでなく、言語的なものや関係性にかかわるものもあります。

身体的:殴る、蹴る、押す、体の一部を引っ張る、物をぶつけるなど

言語的:怒鳴る、罵倒する、嘲笑う、脅す、からかう、侮辱するなど

関係性:無視する、疎外する、排除する、敬語を禁止するなど

いじめは意図的なものであり、そのため繰り返し行われているものでもあります。
偶然ぶつかったり物が当たったりするものはいじめではなく、一回性のものもいじめではありません。

いじめには、力関係の非対称性が見られます。
腕っぷしが強い、人数が多い、武器を持っているなど、一方的な攻撃が行われるのがいじめです。

先輩であり、新入生より事情に精通している、親が雇用主と被雇用者の関係であるなどといった場合もいじめに該当します。
言い換えると、双方が同程度の力を有していること、攻守の交代のあるものはいじめではありません

いじめを受けることによって、いじめられた側は大きな苦痛を感じます。

直接的な暴力からは痛みが生じ、将来にまで残る傷や怪我を負うこともあるでしょう。
暴言や陰口は精神的なストレスを生み、身体的な傷と同じくらいか、より深く、長い期間悩まされる苦痛が生じる場合も少なくありません。

直接的:虐待、脅し、非難など

間接的:排除、友情の撤回、噂話、物の隠蔽、借用物への落書きなど

家庭内暴力(DV)や会社でのパワハラが直接的なものから非直接的・言語的なものに移行してきているように、いじめもまた非直接的・言語的な形で行われるように変化してきています。
最近ではSNSや学校掲示板、LINEなどネットを用いたいじめも増加してきています。

いじめを受けた直後は過敏さが増し、些細な物音や変化にも反応するようになります。
いじめられていないときにも気を張り続けるようになり、教室や部活が非常にストレスフルな場となるため、居続けることが難しくなります。

また、いじめに至るまでの出来事を頭の中で反芻し、「あんなことを言わなければ良かった」「ああしなければこんなことにはならなかった」と、自責的な思考を繰り返します。
「今後もいじめの対象になるのではないか」「別の人からいじめられるのではないか」と強い恐怖を感じながら将来を悲観します。

いじめの後遺症

いじめの後遺症は、学術的には仲間による被害(peer victimization)と呼ばれ、多方面に影響を及ぼすことが知られています。
その代表的なものが社交不安です。

仲間による被害研究では、社交不安を有しているといじめに遭いやすくなること、また、いじめの被害に遭うと社交不安を感じやすくなることから、いじめを受ければ受けるほど悪循環に陥りやすくなる可能性が示唆されています※1

その他にも、いじめを受けた人に特徴的な思考や行動がいくつかあります。

良くないことが起きるのではと心配する

未来のことは誰にも分からず、将来への不安は生きる上ではつきものです。
いじめを受けると、将来への不安が高まり、何か悪いことが起こるような気がしてしまい、行動することができなくなります

何かしておかないと大変なことになるような気がする一方、何かしたら余計悪くなるような気もしてしまい、葛藤状態に陥ります。
この状態は、自律神経系のうち凍りつきの状態とも呼ばれる背側はいそく迷走神経が優位になることによって起きます。

背側はいそく迷走神経優位の状態は生命維持を優先し、血液は胃や腸といった内臓に集中し、手足が冷たくなったり頭に血が十分に巡らなくなったりします。
周囲のありとあらゆるものが危険に見え、いじめられるまで何気なく行えていたことも不安から行えなくなるのです。

見た目や行動を嘲笑されるような気がする

他人の考えや気持ちもまた、自分からは窺い知れないものです。
なるべく他人に危害を加えたり、刺激したりするようなことはしないようにと思うものの、そうできないこともあったり、実際に不快な思いをさせてしまったりすることもあるのが対人関係です。

いじめ被害に遭うと、こういった他者が不快に感じることをしないようにと考え過ぎてしまい、他者とやりとりする状況を極端に避けるようになります。
人が自分に対して何と思うのか、どう感じるのかを際限なく考えてしまうため、人に見られる可能性があると極度に緊張します。

自分が人にとってはおかしいことをしたり言ったりしているのではと心配し、甲高い声や笑い声が聞こえただけで「嘲笑されている」と考えます。
人と関わっておかないとと思う反面、何を言ったりやったりしてもうまくいかない気もするため、ひたすら焦ったり心がざわついたりし続けます。

人から判断されることを怖れる

いじめを受けている最中というのは、被害を最小限にしたいという意識が働くため、いじめている側の価値観や判断基準を取り入れようとします。
「こう言えば殴られずに済みそう」や「こう答えれば嫌なことをされない」というように、いじめている側の意に沿うように行動できれば、痛い思いをせずに済むかもしれませんし、つらかったり恥ずかしかったりする事態を避けられるかもしれないわけです。

いじめの脅威が去った後、いじめられていたときの出来事がトラウマ化していると、人から判断されたり「良くない」と思われたりすることに、極端に怖れることがあります。
「誰からも不快だと思われてはならない」「誰からも嫌われてはならない」と考え、自由に発言したり、行動したりできなくなります。

誰にも迷惑をかけない、より無難で波風を立てない選択肢を探し採ろうとするため、その思考に疲れてしまい、いじめられる前よりも疲れやすくなったり、気持ちに余裕がなくなったりします。
人の判断基準を探ろうとする状況そのものを避けるようになり、学校やコミュニティ、就労からも遠ざかるようになります。

人から求められたことをやりたくなくなる

人から依頼されたり、お願いされたりすることは、社会で生きていく上では当然発生する出来事です。指示や命令のこともあれば、公共の場で「並んで」や「奥に詰めて」と言われることもあるでしょう。いじめを受けたことがあると、人から求められたことを素直にやりたくなくなります。

いじめの目的の1つは、いじめられている側に強制的に何かをさせる(もしくはさせない)ことです。
いじめられている側はその目的が何かをいじめられている間中ずっと考え、それをなるべく早く叶えて終わらせようと思考します。

しかし、それが何なのかはっきり表明されることはあまりなく、最後まで分からない場合もあります。
次第にいじめられている側は、人の目的や狙い通りに行動することに嫌気がさしてしまい、いじめられなくなってからもそれが続いてしまうのです。

盗む・迷惑行為をする

いじめの中には「万引きをしてこい」と命じるものや、「○○の物を盗ってこい」と強制するものもあります。
他の同級生や大人の持ち物が欲しくて盗ってこさせる場合や、ただ言うことを聞かせたい、恭順を示させたいがために盗ってこさせる場合もあります。

こういった被害に遭い続けると、社会規範より自分の保身を優先するようになり、その後も窃盗したり、自分が恐喝を行ったりするようになります。
他にも、暴力をふるう、騒音を立てる、危険運転をする、複数人と性的関係を結ぶ等、規範を逸脱した行為を行うようになることもあります。

ルールを守ることの価値が大きく下がってしまい、守っても守らなくてもどちらでもよくなってしまうことからくる場合もあります。
ルールを守っていたにもかかわらず自分のことは誰も守ってくれなかったと、半ば社会に対する憎しみの表明として行う場合もあります。

汚れたり壊れたりしてもどうでもよくなる

身の回りの物や自分自身が汚れたままでも気にしなくなり、そのまま放置するようにもなります。
所有物がボロボロでも買い替えたりしなかったり、スマホの画面が割れたままでもそのまま使ったりします。

いじめられていたとき、どんなに気に入っていたり綺麗に使っていたりしても最終的には汚されたり壊されたりしたことから、綺麗に保とうとしなくなっているためです。

いじめられ方によっては、大切にしている物ほどターゲットにされて壊されたり嘲笑されたりしたため、「大事にすればするほどひどい目に遭う」という信念を獲得してしまっていることもあります。
それらは所有物だけでなく自分自身にまで及び、面倒だからと入浴しない、空腹を感じても食事を摂らない、苦痛があっても病院にかからない等、自分で自分を大切にする行動がとれなくなっている人もいます。

社交不安障害

いじめによる被害後に発症しやすい精神疾患は、PTSD、全般性不安障害、パニック障害、そして社交不安障害です。
中でも社交不安障害は、不安や恐怖といった強いネガティブ感情を引き起こし、その後の対人関係や社会生活に大きな影を落とします。

社交不安障害(social anxiety disorder:SAD)もしくは社会不安症は、不安障害の一つです。
他の不安障害と同じく、強い不安感や恐怖心が湧き上がり、動悸や発汗といった体の症状が急に現れるようになる精神疾患です。

社交不安障害を発症した人は、他の人と比較されるような場面において、著しい不安や恐怖を感じるようになります。
最も一般的な場面は人前でスピーチする状況ですが、他にも人と話しているところを別の人が見ているような場面や、会食やデートといった緊張を伴う1対1での場面でも強い情動を感じることがあります。

社交不安障害の症状

不安や恐怖を知覚するのと同時に、他者からの否定的な反応や評価を怖れるような思考も生じます。
そして、こういった感情や思考を避けるため、症状が出現しそうな場面を回避したり、人との関わりそのものから撤退したりするようになります。

対人場面や対人場面を避けたいと思った際、動悸・吐き気・震え・赤面・発汗といった身体症状が起きます。

気分の不安定さから涙が出てきたり、かんしゃくを起こしたり、体が固まったり、人や物にしがみついたりもします。
その場で委縮してしまったり、全く喋れなくなったりすることも症状の一つと見做されます。

いじめに遭ったことで、こうした社交不安障害を発症することがあります
学生時代だと登校できなくなったり、教室に入れなくなったりします。

社会人になってからだと就労機会を失ったり、症状を抑えながら働いたために就労が長続きしなかったりもします。
社会的に孤立してしまうのが、社交不安障害の重大な障害といえるでしょう。

まとめ

いじめは被害を受けているそのときもつらく苦しい一方、いじめられなくなってからも心や体に大きな影響を及ぼし続けます。
その代表的なものは社交不安障害ですが、他にも対人関係上の障害である愛着障害になるケースもあります。

症状を避けることは人付き合いを避けることに繋がり、社会との接点を失うことは孤独感や絶望感を引き起こしてしまいかねません。

いじめを受けた、いじめ被害に遭ったことはあなたのせいではありません。
加害者の精神的な問題や、状況の異常性が引き起こした結果がいじめです。

いじめの後遺症が残っていたり、人や社会に対する複雑な感情を処理できないまま抱えていたりする状態は、なかなか一人では解決しづらいものです。
今も続く心と体の緊張は、カウンセリングで話すことで少しずつ緩めていけるかもしれません。

いじめの後遺症でお悩みの方は、ぜひ一度当院に相談ください。

※1 小学生におけるいじめ、被害、抑うつ、不安、攻撃性の関連 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0191886997001451?via%3Dihub

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