心療内科のお世話になるとまず間違いなく処方されるのが抗うつ薬。
その中でも中心的な働きをしているとされているのがセロトニンという神経伝達物質です。
ここでは、医師からセロトニンについてあまり説明を受けられなかった人、セロトニン不足で心療内科にかかった方がいいか迷っている人のために、セロトニンについて分かりやすく解説します。
セロトニンとは
セロトニンは、気分を安定する働きを持つとされている脳内の神経伝達物質です。
脳の神経細胞は電気信号によって情報伝達をおこなっていますが、神経細胞同士は完全に接続されているのではなく、その間にすき間が空いています。
神経伝達物質はそのすき間で使われる物質であり、電気信号が送られてくると神経伝達物質がそのすき間に放出され、次の神経細胞に伝わることで情報を伝達していきます。
現在発見されているだけでも60種類以上の神経伝達物質が確認されていますが、その中でもセロトニン・ノルアドレナリン・ドーパミンはうつに関連していると言われています。
セロトニンに限らず、これらの神経伝達物質はバランスを保つことで気持ちや頭の働きを正常に機能させてくれるのですが、長期間ストレスにさらされたり過大な負荷がかかったりするとそのバランスが崩れ、感情や思考、記憶などに異常をきたすようになります。
セロトニンの働き
セロトニンは気分の安定や不安の軽減、思考を明晰にしたり頭の回転を速くしたりする作用があることが分かっています。
神経細胞と神経細胞のすき間のことをシナプス間隙(かんげき)といいますが、シナプス間隙にセロトニンが充分にあると不安を和らげ、ストレスがかかっても脳が過敏に反応することなく、物事を柔軟にとらえたり穏やかな気持ちで対応したりすることが可能になるのです。
ちょうど浴槽に張っている水とボールの関係のように、セロトニン(水)が脳内(浴槽)に満たされていれば、ストレス(ボール)が入ってきても脳はダメージを受けずに済みますが、セロトニンが不足していると軽いストレスでも脳はダメージを負い、多少のことでも不安になったりショックを受けたりします。
一方で、どんなにセロトニンが充分でもストレスが深刻ならやはり脳は損傷し、精神的に不安定になることもある、ということです。
脳内でセロトニンが不足するとストレスに弱くなるため精神的に不安定になり、イライラしやすくなったり疲労感を感じたりするようになります。
行動面では落ち着きがなくなり、感情面では余裕がなくなってやる気や意欲が低下し、次第にうつ気分が現れて「何も楽しいと感じない」「普通に笑ったり喜んだりできない」といった状態に陥ります。
セロトニンの性質
セロトニンの化学構造は抗うつ薬や気分安定薬とよく似ているため、抗うつ作用や精神安定作用があるとされています。
それ以外にも、以下の3つの特性を持っていることが分かっています。
男女差
男性はセロトニンを生成する能力が高いことが知られており、女性に比べるとセロトニンが約52%多いと言われています。
言い換えると、女性のセロトニンの量は男性の2/3程度しかなく、そのことが女性の不安のなりやすさや落ち込みやすさ、細かなことにも気づいたり小さなストレスほど排除しようとしたりする傾向を生んでいる可能性があります。
リズム運動
脳内のセロトニンはリズミカルな活動や運動によって増加するという変わった特性を有しています。
最も身近なリズム運動は呼吸であり、腹式呼吸や瞑想によって規則正しい呼吸を心がけることによってセロトニンを増やすことが期待できます。
他にも、咀嚼(よく噛むこと)や歩行(ウォーキング)もリズム運動ですので、そういった行動を日常生活の中で意識的に取り入れることでセロトニンを増やし、不安に強く落ち込みにくいメンタルを作り出すことができます。
日光
日光を浴びることでもセロトニンを増加させることができます。
ただし、日焼け目的のように30分以上日光にさらされ続けてしまうとストレスからかかえってセロトニンが減ってしまうことが確認されているため、適度な日光浴が効果的であるというのには注意が必要でしょう。
また、セロトニンは眠気を催すメラトニンという物質の原料でもあります。
起床後にしっかり日光を浴びることはセロトニンを生み、それが夜になるとメラトニンとなって自然な眠気を引き起こすことにも繋がるのです。うつになると寝つきが悪くなったり不安から就寝後も目がさえてしまったりするのも、このセロトニンとメラトニンの関係からくると言われています。
抗うつ効果とセロトニン
1950年代、うつ症状を呈している患者さんにイプロニアジドという結核の薬を投与したところ、うつ気分が改善したという報告がありました。
イプロニアジドは、セロトニンの働きを妨げるモノアミンオキシターゼの働きを阻害する作用を持っていることから、セロトニンに抗うつ効果があることが確認されたのです。
この発見から提唱された仮説(モノアミン仮説)に基づき、現代の抗うつ薬の大半は開発・販売されています。
1960年代の動物研究から、確かに抑うつ状態になると脳内のセロトニンが不足することは確認されました。
一方で、その後の研究からはセロトニンだけでなくノルアドレナリンやBDNF(神経細胞の成長にかかわる因子)、コルチゾール(ストレスホルモン)の乱れもうつ病と関連していることが明らかになってきています。
うつ病の原因と治療法は、今後の遺伝子研究や分子生物学の研究によって更に解明されていくことでしょう。
抗うつ薬とセロトニン
現在市場に普及している抗うつ薬は、その多くがシナプス間隙にあるセロトニンを増やす作用が確認されています。
ただ、セロトニンそのものを薬で摂取してもそれらは血液脳関門(Blood Brain Barrier:BBB)を通過して脳内に入ることはできないため、抗うつ薬は「セロトニンの再取り込みを阻害する」という方法で脳内のセロトニンを増加させています。
神経細胞と神経細胞の間にあるすき間(シナプス間隙)はセロトニンなどの神経伝達物質を放出した後、一定時間経つとそれを吸収(再取り込み)します。
うつ状態になるとシナプス間隙のセロトニンの量が少ないにもかかわらず再取り込みされてしまうため、セロトニンが不充分になってしまいます。
セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)はこの再取り込みを阻害し、脳内にセロトニンを充填することで抑うつ気分を改善します。
先発医薬品名 | 一般名 (ジェネリック医薬品名として用いられる) | 特徴・種類など |
ルボックス・デプロメール | フルボキサミン | 日本で最初に承認されたSSRI 強迫性障害に使用されることが多い 統合失調症に伴ううつ症状にも |
パキシル | パロキセチン | 効果が表れるのが早い 副作用発現の少ないCR錠もある 離脱症状が出やすく、やめづらい |
ジェイゾロフト | セルトラリン | 少量から徐々に開始しやすい そのため、副作用が出にくくできる パニック障害やPTSDにも使用される |
レクサプロ | エスシタロプラム | 日本で最も最近承認されたSSRI 他SSRIより副作用の出る確率が低い 主な副作用は飲み始めの吐き気 |
同様に、うつ症状と関連するとされているノルアドレナリンの再取り込みを阻害するものをセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)と言います。
また、近年ではセロトニンやノルアドレナリンの量を直接増加させる薬(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬:NaSSA)も開発され、うつ治療に用いられています。
先発医薬品名 | 一般名 (ジェネリック医薬品名として用いられる) | 特徴・種類など |
トレドミン | ミルナシプラン | セロトニンよりノルアドレナリン受容体への 作用の方が大きい |
サインバルタ | デュロキセチン | ノルアドレナリンよりセロトニン受容体への 作用の方が大きい SSRIより活力の出る方向への働きが大きい傾向 (仕事、日常会話、思考などが活発になる) 体の痛み(疼痛)治療にも用いられる |
イフェクサーSR | ベンラファキシン | ノルアドレナリン受容体への作用はほぼなく、 セロトニン受容体への作用の方が大きい 容量を増やしていくことでノルアドレナリン への作用が大きくなる |
抗うつ薬の作用と副作用
抗うつ薬を服用することで気分の安定、不安感の低減、意欲の回復といった効果が期待できます。
これらの効果から抗うつ薬はうつ病だけでなく、不安性障害、パニック障害、強迫性障害、PTSD、悲嘆反応などの精神疾患の治療にも用いられることがあります。
一方、シナプス間隙で余ったセロトニンやノルアドレナリンが別の細胞などに作用してしまうと、副作用が生じることがあります。
主な副作用としては、吐き気、ふらつき、めまい、動悸、焦燥感などがあります。
セロトニンの増やし方
脳内のセロトニンを増やそうと口からサプリメントなどを摂取しても、血液脳関門を通れないため脳に届くことはありません。
脳内のセロトニンを増加させるには、先に述べたような日光浴や抗うつ薬の使用の他にも、次のような3つの方法が効果的です。
食事
脳内にセロトニンを分泌させるには、セロトニン生成の材料となるトリプトファンというアミノ酸を摂取することが重要です。
トリプトファンを摂ることでセロトニンの生成量が増加し、不安感が軽くなったりうつ気分がやわらいだりするとされています。
トリプトファンの含まれている食材としては、牛乳・チーズなどの乳製品・肉・魚・ナッツ・豆腐などの大豆製品・卵・バナナなどが挙げられます。
その他、うつ病に関連すると言われているビタミンB6や炭水化物もあわせて摂ることで、より効果的な抗うつ作用が期待できます。
運動
先に紹介したように、セロトニンにはリズミカルな運動によって増加するという特性があります。
咀嚼(食べ物を噛むこと)もリズム運動の一つですから、食事を摂るときによく噛むようにしたり、よく噛まないと飲み込めない食材を摂るようにしたりすると、セロトニンを増やすことができるでしょう。
また、ウォーキング(散歩)や軽いランニングもリズム運動の一つですので、セロトニンを増やす作用が期待できます。日中に適度な時間(20~30分)行うことで、日光を浴びながらリズム運動も行えるため、オススメです。
日光浴と睡眠
毎朝日光を浴びるようにすることも、セロトニンを増やすことにつながります。
これは、日照時間の短くなる冬場にはうつ病が増加すること(冬季うつ)、日照時間の短い地域(北海道や東北地方)ではうつ病になる人の割合が多いことなどから、日照時間の短さとセロトニンの減少が関連していると考えられるためです。
起床後に日光を浴びることで体内時計がリセットされ、その17時間後に眠気が来やすくなることが分かっています。
セロトニンは眠気の元であるメラトニンの原料でもあるため、朝に日光を浴びてセロトニンを生成し、夜はメラトニンによって良質な睡眠をとれれば、より安定した精神状態で日中活動することができるようになるでしょう。
うつ気分や不安感でメンタル不調かな?とお悩みの方、現在抗うつ薬を服用しているけれど今後やめていきたい方のお力にこの記事がなれれば幸いです。
更にうつ病や不安障害の治療について相談したい方は、是非当オフィスまでお越しください。
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