ネガティブシンキングに気づいたとき、「ものの見方を変える」というのが、古典的で正統派ながら、効果的です。
見方を切り替えられない人に多いのは、そのときそのときで別の見方をしようと考え、編み出しているため、次第に面倒になり、ネガティブなままでいいやと放棄してしまうケースです。
見方を変えられる人は、半ば自動的に見方を切り替えています。
そして、切り替えた視点にも法則性があります。
筆者をはじめとして、ポジティブな見方ができるようになった人が、どんな視点から物事を捉え直しているか、代表的なものを3つご紹介します。
時間軸
見方を変えるときの切り替え方の一つが、時間を変えてみることです。
特に、未来の自分がどう捉えるか、将来その出来事や対象をどう見るかといった視点は、ポジティブな見方に気づくのに役立ちます。
喉元過ぎれば熱さを忘れる
例えば、現在の自分から見たら「失敗した」「やらかした」としか思えないことでも、時間が経ってみれば、「良い経験だった」「勉強になった」と捉えられるものがあるかもしれません。
成功譚は、ともすれば自慢話やマウントと取られかねませんが、失敗談は笑い話や自己開示にもなり得るため、「一つ話のネタができた」と見ることもできるでしょう。
今がどんなに苦しくみじめでも、「未来から見れば」と考えられる時点で命はあるわけですから、将来老いたり病んだりした自分から見れば、「そんな小さいこと」と捉えられることかもしれません。
かつてはあんなに恥ずかしく思えた卒業文集が今なら「そんなものもあったな」となるように、時の流れは視野を広げる作用があります。
「むしろ良かった」とも思える失敗
未来の視点に立てば、むしろ失敗して良かった、そこでそのことが起こってありがたかった、といった見方も出てくるかもしれません。
入社直後にしたからその後気をつけることができ、後年に多大な功績を遺した失敗、ということもあります。
若い頃にやっておかなかったがために、成長してからではとてもではないが恥ずかしくて行えないこと、なんてものも、視点を変えると見えてくることがあります。
未来の視点というのは、何も遠くの未来である必要はありません。
混雑時でなくて良かった、複数の案件を抱えているときでなくて良かった、繁忙期でなくてよかった、終業間際でなくて良かったなど、近い未来から見ただけでも視野が広がり、肯定的な側面が見えてくることもあります。
当たり前だと思っていた幸福に気づかせてくれる失敗
年数を経たり歳をとったりして、今現在の自分と心理的距離をおけるようになると、「その失敗・やらかしまでは幸福だった」ということに気づける場合もあります。
機械の操作を間違っても、「ああ、これまでは間違って操作手順を覚えていたにも関わらず、大事にもならずに来られていたのか。幸せだったのかもしれない」と捉え直すこともできます。
これまで恵まれていたこと、何不自由なく過ごせていたことに、失敗は気づかせてくれることがあります。
階層軸
役割や立場によっても、ものの見え方や捉え方は規定されます。
ポジティブな見方に切り替える場合には、組織内での階層を上下させてみることも手です。
上位者である上司や上席から見れば、ミスや失敗とすらカウントされないような、取るに足らないことで落ち込んだり、心を痛めたりしているかもしれません。
知識や経験が豊富な上役なら、「むしろ誰もが通る道であり、その経験のないまま仕事を続けている人などいない」という場合もあり得るでしょう。
逆に、自分が上司や先輩の立場だった場合、ミスや失敗を下の役職や後輩から見たら、「上の人でも失敗することはあるんだ」と、自信をつけさせることができたり、堂々と勇気を持って行動できるようになったりするかもしれません。
「上の人にも人間らしいところがある」と親近感が湧き、距離感が近づいたり、相手からも自己開示してきたりする可能性もあります(見落とされがちですが、失敗とは人間味があるものです)。
フォロワーあってのリーダー
「自分なんて」と卑屈になったときでも、組織構造の上部から一番下の自分を見れば、「土台」「基盤」「縁の下の力持ち」「底支えしている」「収入源」といった見方ができ、自己認識を改められるかもしれません。
組織の中間に位置している人なら、「現場のトップ」「上と下を繋ぐ要所」「(人体でいえば)腰」といった表現によって、自分の存在意義を確認することもできるでしょう。
別の階層から今の自分を見ると、自分が組織にとって欠かせない、感謝されるべき存在であることに、自然と気づくことができるかもしれません。
別人の軸
自分ではない誰か――友人・同僚・恋人がその出来事や事象を見たらどう思うか、それに相対している自分に何と言うか考えることも、ポジティブシンキングを生み出す助けになります。
彼らが労をねぎらってくれたり、励ましたりしてくれるようなら、自分自身に対してもそのように対応していいかもしれません。
自分の中に内在化されている他人もまた自分です。
想定される友人や同僚からの声かけによって、自分で自分を責めていたことに気づき、自責を止めることができただけでも儲けもの、という場合もあります。
他人は他人の経験から物事を見ている
人から見たらむしろ羨ましがられたり、憧れられたりするケースもあります。
徹夜で仕上げたデータに不備が見つかったことを「そんなに熱意を持って打ち込める仕事があって羨ましい」と言われたり、告白して振られたことを「出会いがあって羨ましい」と言われたりする場合がそれです。
他人は無理にコメントを絞り出しているわけでも、経緯や話を理解していないわけでもありません。
人には人の経験と知識があり、それは自分の見ているものとは別の側面があることに気づかせてくれるのです。
特別ポジティブな人が周りにいなくても、「何かコメントしてくれる他人」を内在化することができれば、視点の切り替えには役立ちます。
他人は事象を言い換えてくれる
他人からの視点に立つと、言葉や単語も別のものに言い換えてくれることもあります。
「叱られた」という言葉も、「大声を上げていた」と言い換えてくれるかもしれませんし、「ハラスメントだ」と言い直してくれるかもしれません。
「失敗」も「笑いの種」や「ネタ」、「味がある」と言ってもらえれば、気持ちが前を向くこともあるでしょう。
視点の切り替えをルーティン化してポジティブに
このように、ポジティブな見方や捉え方に切り替えるには、時間軸、上下の軸(階層)、横の軸(別人)の3軸のいずれかに切り替えることが有効です。
人から「ポジティブ」と評されている人に話を聞くと、この3軸全てをほぼ瞬時に検討し、その中で最も納得しやすい、受け入れやすい視点から発言しています。
つまり、この3軸への切り替えは、練習していくことで素早く行えれば、誰でもポジティブシンキングを身につけられる技能だということです。
こうした視点の切り替えは、リフレーミングと呼ばれる技法の一つです。
リフレーミングとは、ある枠組みで捉えていた物事を、枠組みを替えて捉え直すということであり、元は心理療法の一つである家族療法の手法です。
自力で視点を切り替えたり枠組みを取り替えたりした方がより確信度の高い捉え方ができるようになりますが、手っ取り早く見方を変えるには、カウンセリングという方法もあります。
閉塞感を感じて見方を変えられそうにないという方は、ぜひ一度当院にご相談ください。
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