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五月病 -症状・抜け出し方・なりやすい人を精神疾患の観点から解説-

入学式・入社式の季節を過ぎるとよく言われるようになる、五月病
1960年代頃に生まれ、1968年には流行語にもなるほど、一般に知られるようになりました。

当初は受験戦争を終え、入学してから燃え尽きたように無気力感や倦怠感を訴える様子を表したものでしたが、現在は学生だけでなく、社会人にも起こることが知られています。

うつについての解像度がまだ低かった頃には、軽いうつとも呼ばれた五月病。
現在では、うつ気分が軽度であるといった程度の意味合いで、うつ病(大うつ病性障害)そううつ病(双極性障害)とは異なる疾患との見方が優勢です。

五月病とは何か、体と心にはどんなことが起こっているのか、どんな人が五月病にかかりやすいのかなど、解説していきます。

五月病とは? 五月病の症状

五月ごがつびょうとは、入学や入社1年目の人に見られる無気力や無関心といった症状のことです。
当初は大学生に対して用いられていましたが、徐々に社会人1年目や、異動1年目の人に対しても用いられるようになりました。

気分が優れなかったり、急にやる気がなくなったりする他、次のような症状が表れることもあり、「軽いうつ状態」と言われることもあります。
実際にうつ病の診断がなされたり、抗うつ薬が処方されたりすることもあります。

ただ、昨今は、うつ病は遺伝性疾患の色彩が強いことが判明してきていますし、そうでない人が抗うつ薬を使用すると余計に具合が悪くなったり、別の症状が表れたりしてしまいますので、一概に「五月病はうつだ」と考えない方がいいでしょう。

体の重くだるい感覚、疲れていないはずなのに疲れているような感じ、そこからくる気力の湧かなさ、やる気の起きなさ、興味や関心の湧かなさが4月・5月に表れている場合、うつではない疾患の可能性があります。
その疾患とは、身体症状症です。

五月病の特徴は? 五月病に当たる精神疾患

風邪で発熱すれば倦怠感が起き、体力を消耗するため意欲も湧かなくなります。
風邪(感冒)のような医学的な所見がないにもかかわらず、身体的な症状が表れるものを身体症状症(Somatic symptom disorder)といいます。

身体症状症は、かつては身体表現性障害と呼ばれていました。
2013年発行のDSM-5から、身体症状症の診断名に変更されています。
名称が変わっただけでなく、医学的に説明可能な疾患であっても、その身体所見で考えられる以上の症状があった場合、身体症状症と診断される旨が新たに追記されました。

症状が6ヶ月以上続いたものを身体症状症と診断するため、五月病になったからといって即座に診断名がつくわけではありません。
ただ、6ヶ月も症状を抱えたまま生活していては、その間に生活の質が下がってしまいますし、診断名がなくとも適切な指導と助言は欲しいものです。

当オフィスなら、そういったご相談にも保険証記録を残すことなく対応できますので、お困りの際にはご活用ください。

五月病はなぜ起こるのか? 五月病の成り立ち

五月病は大学生や新社会人など、特に若年層に出現しやすい症候群です※1
「うつや適応障害は若い人の方がかかりやすい」といった報告はありませんから、ここでも「五月病=うつ・適応障害」説は信憑性に欠けるといえるでしょう。

5月以前の生活上の出来事ライフイベントに着目し、心身にかかる負荷を説明します。

活動量を想定することの落とし穴

大学生になると、これまでのようにカリキュラムが組まれているのではなく、自分で選択し、決定しなくてはならなくなります。
「試しに授業を受けてみる」というのも、機会選択の幅が広がるといえばそうですが、判断材料を集めたり、慣れないキャンパスを行ったり来たりと、活動性も一時的に高めなければならなくなります。

加えて、新しい人間関係を結んだり、新歓コンパに出てサークルを決めたり、オリエンテーションのために合宿したりするところもあります。
急激に高まった活動性に何とかついていった体が、イベントのひと段落したことに対応できず、体と心に変調を来してしまうのが、五月病です。

想定したよりイベントが少ないことも起こり得る

実は、一見逆のパターンでも、五月病は起こります。
新社会人のケースで見てみましょう。

大学時代はオリエンテーションが開かれたり、親睦を深める会が催されたりしますが、会社ではそういうものが必ずしも行われるわけではありません。
少人数の同期、退勤時間になれば帰る同僚、名前以外の情報は自分から訊かない限りは知らされないかもしれません。

こういった、学生時代には当然のようにあった「親睦を深める機会」「イベント」が少なくなり、学生の頃とのギャップを目の当たりにすることで、活動性を高める準備をしていた体は肩透かしを食らったようになります。
新奇なストレスに備え、血流を高め、瞬発力を上げ、病気への免疫力も高めていた体は、入社1ヶ月を過ぎた頃からパタッと機能が低下します。
これも、五月病です。

変化に対する体の対応力は年々低下する

ストレスがかかったとき、体は交感神経優位になり、一時的に活動性を高めたり、思考を速くしたりします。
それとほぼ同時に、副腎からストレスホルモンであるコルチゾールが分泌され、平常時よりもストレスに強い状態に移行します。

五月病は、このコルチゾールが出尽くしてしまい、ストレスがかかってもむしろそれに反応できなくなっている状態と考えられます。

コルチゾールは目覚めにも関わっており、朝方に増加して目を覚めさせたり、やることを前に眠気が来ないようにしたりもします。
うまくコルチゾールが分泌されなくなるということは、目が覚めにくくなり、頭がしゃきっとする感覚もなくなるということです。

その他、コルチゾール値が下がると、以下のようなことも起こります。

作用説明
活力低下グルコース(ブドウ糖)が産生されないため、活動性が低下する
血糖値低下グルコース(ブドウ糖)が全身に行き渡らない
血圧低下心拍が小さくなり、血流も緩慢になる
炎症反応身体の至る所の炎症が抑制されず、損傷や苦痛が起こる
脂肪定着脂質が分解されず、そのまま脂肪になる
胃酸抑制胃酸の分泌が抑えられ、消化が悪くなる
覚醒度低下目覚めが悪くなり、日中も思考がぼんやりする
コルチゾール値低下によって引き起こされる状態(一部)

五月病は誰でもなる? 五月病になりやすい人

新入生や新社会人のように、環境の変化に直面した人なら、誰でも五月病になる可能性はあります。
加えて、身体症状症になりやすいといわれている特徴をいくつかご紹介します。

神経質傾向

性格特性とメンタル疾患の関連は多数ありますが、神経質傾向の強い人は身体症状症を発症しやすいと言われています※2
神経質傾向というと、繊細とかナイーブといったイメージを抱きやすいのですが、性格特性としての神経質は否定的ネガティブであること、前向きでない傾向を指します。

普段から自身のネガティブさを緩和しておけば、いざ五月病になるような環境変化が起こったときでも、症状化せずに済むかもしれません。
考え方や捉え方を修正したい方も、一度カウンセリング利用をご検討ください。

18歳までのルールを適用させやすい

高校卒業、およそ18歳頃までは、周期的に周りの環境が変化し、それに合わせて人間関係や取り組むべきものも変化します。
一方、大学卒業後、およそ22歳から先は、1年ごとの変化はほとんどなくなり、もっと短いスパンで人間関係も課題も変化したり、逆に5年10年と全く変化しなかったりするようになります。

五月病になりやすい時期というのは、まさにこの転換期に当たります。
目の前のことを淡々とこなし、18歳までに身につけた「こう来たらこう」をあっさり手放せる人は、五月病にはなりにくいでしょう。
反対に、18歳までの「こう来たらこう」を手放せず、それに適合するよう一生懸命動いたり、適合しないと「間違ってる」「理不尽」と感じたりしやすい人は、五月病にもなりやすいといえます。

その他

身体症状症は女性の方が発症しやすいことから、五月病も女性の方がよりかかりやすいと考えられます※2
各種調査からの報告でも、女性の方が五月病の経験は多いようです※1

また、虐待や暴行を受けたことのある人も、身体症状症にかかりやすいといわれます。
ACEsといった幼少期の体験はその後の疾患のかかりやすさと関連するといわれていますので、副腎からコルチゾールが分泌しづらくなるような、身体的なダメージを負っている可能性が考えられます。

五月病の治し方は? 五月病からの抜け出し方

体の倦怠感や疲労感が抜けない感じが6ヶ月以上続くようなら、身体症状症や別の疾患の可能性があります。
他方、6ヶ月未満であれば診断名こそつかないものの、身体症状症と同じような体の状態になっていると推察されます。

そこで、身体症状症への対処法を3つご紹介します※3

増悪要因の除去

身体症状を引き起こす可能性のあるものを極力減らします
歓迎会や研修の打ち上げなどではお酒がつきものですが、アルコールは摂取数時間後に虚脱感や鎮静作用が生じるため、控えるのが望ましいです。

他にも、睡眠不足、徹夜、乱れた食生活、過重労働、薬剤、喫煙、カフェインなどは、減らすか止めるかしましょう。

ペーシング

活動量の記録をつけ、その量を管理・増減することをペーシングといいます。
身体症状症(五月病)は、予定が許容量キャパシティを超えて過剰だったり、逆に過少だったりすることで引き起こされるため、それらを無理なく適切な時間に調整する必要があります。

まずスケジュール帳やカレンダーに記録をつけ、イベントの数が多すぎれば時間を短くするなどし、逆に少なすぎれば日常的に運動を取り入れるなどして、活動量を調整しましょう。
既に症状が出ている場合でも、記録することから始めることで素早い回復が見込めます。

心理療法

身体症状へのとらわれが強い場合には、認知行動療法やマインドフルネス瞑想を行い、とらわれを手放すアプローチが有効です。
認知行動療法の場合は、「こんなんじゃダメだ」「なんて情けない」というような、頭の中にネガティブな思考が浮かび、それが症状の悪化を招いている際に効果的です。

マインドフルネス瞑想の場合、特定の思考は浮かばず、しかし身体症状が気になって活動を始められないときに適しています。
どちらも自宅で気楽に始められますが、当オフィスでも実施可能ですので、やり方が分からなかったり、効果がイマイチだったりした方はご相談ください。

まとめ

症状詳細
疼痛頭痛・腰痛・背部痛・関節痛
消化器吐き気・下腹部の膨れた感覚・腹痛・下痢
循環器胸痛・動悸
呼吸器息苦しさ・空咳
神経めまい・しびれ・ほてり
全身疲労・倦怠感
身体症状症と診断される可能性のある症状(一部)

身体的なだるさや疲れの抜けなさと、そこからくる無気力感や意欲低下の生じる疾患の一つとして、身体症状症を取り上げました。
身体症状症は、五月病だけでなく、様々な症状を呈することのある精神メンタル疾患です。

一時期話題になったコロナ後遺症も、現在の診断基準では身体症状症に一部合致します。
精神疾患は早めの対処が有効と言われますが、一方で、診断は半年以上症状が続いているものにつくことが多く、また診断されても、日本では薬物療法を勧められることほぼ一択な傾向にもあります。

当オフィスでは、薬による治療を望んでいない方、薬以外の治療を行いたい方に、カウンセリングや助言・指導をおこなっています。
薬物療法と並行して通院されている方もいますので、五月病と思われる症状のある方は、どなたでもご相談ください。

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※2 DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引

※3 身体症状症|国立研究開発法人 科学技術振興機構 https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/8/107_1558/_pdf

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