私たちは、いつでもどこでも法則性を探しています。
いつでも割安なスーパーはないか、どんな事態にも対処できる解決策はないか、どんなメンタルの不調もたちどころに回復させられる名言はないか……。
法則を1つ知れれば基礎にも応用にも対応でき、時間効率も良いし記憶容量も節約できます。
過度の一般化は、こうした法則性を求める気持ちの暴走です。
気分を落ち込ませたり不安にさせたりする認知の歪み、その中でも特にメンタル疾患の原因になりやすいものを、4回に分けて紹介します。
認知の歪みとは
認知とは、物事の見方や捉え方のことです。
認知の歪み(Cognitive distortion)とは、非論理的で非合理なものの見方のパターンを指します。
認知の歪みによって不必要にネガティブになったり、自分で自分を苦しめたりするため、柔軟でポジティブな方向にできるのなら修正できた方が良いとされています。
認知の偏り | 例 |
二分化思考(全か無か) | 私は何をしてもうまくいかない・私は完全な落伍者だ |
非現実的な期待 | 一番でなければ意味がない・間違いは許されない |
破局的思考 | 失敗を犯したので、私は貧しく孤独になるだろう |
▶過度の一般化 | 面接に失敗したから、絶対に職には就けないだろう |
心のフィルター | 試験科目のうち、一つの点数が低かった。私は何一つ上手にやれない |
マイナス化思考 | これは大した成果ではない。みんなもっとうまくやっている |
過大視と縮小視 | あの取引ではなんてへまをしたのだろう。上司の望んでいた条件を提示されたのに |
結論への飛躍 | あの人は友達面をしながら裏では笑っている。私には分かる |
感情的な推論 | 自分に魅力がないと感じているから、事実そうに違いない |
物事を個人的に受け取る (自己関連づけ) | 私の話が終わる前に二人退出していった。私の話がつまらなかったに違いない |
自責または自己批判 | 仕事についていけない。私が愚かでなまけ者だからに違いない |
自己罵倒 | 私は本当に愚かだ |
上記は、代表的な認知の歪みです。
この中でも更に、①ネガティブ感情を引き起こすものと、②ネガティブ感情を更にネガティブにするものの2種類があります。
今回取り上げる4つは、①の認知の歪みになります。
個人的には、「認知の歪み」ではなく「認知の偏り」と表現した方が適していると考えていますが、ここでの表記は認知の歪みに統一します。
過度の一般化とは
外部から情報が入ってきたとき、私たちはそれらを瞬時に判断しようとします。
過度の一般化(overgeneralization)とは、その情報が例外的だったり、特殊なものだったりする可能性を無視し、普遍的なもの、絶対的なものだと決めつけてしまう傾向のことです。
過度の一般化の例
あなたが書類上の間違いを発見し、上司に報告しようというときに、「きっと叱られる」と考えるのは、過度の一般化です。
「上司も忙しいときには叱る暇もない」「間違いを見つけたのだからむしろ感謝される」等といった可能性の浮かぶ隙もなく、「以前叱られたから、今回も叱られるだろう」という法則性(一貫性)を見出し、自分を追い込んでいってしまうのです。
過度の一般化はなぜ起こる? 過度の一般化の原因
脳に入ってきた情報を一般化した方が、物事に素早く対応でき、躊躇ったり考え込んだりするエネルギーを少なく済ませることができます。
要はコスパが良いので、人は一般化するのです。
ただ、過度の一般化となると、エネルギー効率はむしろ落ち、時間も人的資源も余計にかかることになります。
過度の一般化が「最も厄介な」認知の歪みである理由
臨床的には、メンタル疾患の根幹にあり、最も治療を困難にしている認知の歪みが、この過度の一般化だと思います。
理由の一つには、過度の一般化が適用されてしまうと、「本当にそうか試してみる」という行動実験ができず、その認知を抱え続けることになってしまうからです。
行動活性化療法(認知行動療法の一つ)では、「現実だ」と思い込んでいたり、頭の中で考えたりしている事柄に対し、実際にやったり訊いたりしてみて(=行動実験)、その思考や認知を修正していきます。
過度の一般化をしてしまうと、「こうなるに決まってる」「こう思われてるに違いない」という考えがその人にとっての真実として固定されてしまい、ネガティブ感情が維持されてしまうのです。
過度の一般化の治し方・対処法
私たちの頭の中での情報処理過程についておさらいしましょう。
まず、外部のことが事実として脳内に情報入力されます。
そこに、個人の持っている判断基準が適用され、判断内容が出力されます。
先の例だと、書類上の間違いがある(事実)→間違いは悪(判断基準)→悪いことは叱られる(判断内容)となります。
過度の一般化が行われるのは、この「判断基準」の段階です。
「間違いは全て悪いもの」と即断したために、ネガティブな思考(「きっと叱られる」)やネガティブな感情(不安や怯え)が生じてしまうのです。
間違いを良いとも悪いとも判断しない人なら、ニュートラルな思考(「間違いは誰にでもある」)やポジティブな思考(「ミスを見つけられてむしろラッキー」)を思い浮かべることができます。
このように、過度の一般化を修正するポイントは事実だけを受け取るということです。
この、事実だけを受け取れる状態がマインドフルネスという状態になります。
第三世代の認知行動療法であるACT(アクセプタンス・コミットメント・セラピー)でマインドフルネス瞑想が強調されているのは、それが認知変容に必要だからでもあります。
まとめ
過度の一般化は、事実を事実として見ることから離れ、良いか悪いかという基準に一般化しすぎることで生じる、認知の歪みです。
適度な一般化は即断即決に役立ち、特に業務上での緊急時や小さな子どもを育てているときなどには活躍しますが、それが過度になると、様々な感情が生じてしまい、自分や周りを疲弊させます。
事実を事実として捉える修練に最適なのが、マインドフルネス瞑想です。
マインドフルネス状態は、自己を取り巻く内外の刺激に注意を向け、それらを評価判断することなく観察していく精神状態です。
ブレインスポッティングというトラウマ治療の技法でも、マインドフルネス状態を利用してトラウマ記憶を処理していきます。
当オフィスでは、マインドフルネス瞑想だけでなく、ブレインスポッティングも取り入れながら、評価判断を手放す治療をおこなっています。
一方、マインドフルネス瞑想をただのリラクゼーション法・気持ちを静める手段と見做している治療者も多く、注意が必要です。
また、よく認知の歪みを修正するために「思考の書き出し」を勧める治療者や書籍が散見されますが、どんなに考えを書き出しても、自分の判断基準(良い-悪い)に注意を凝らしていなければ、表面的な思考の書き換えに終始するため、気分や感情は改善されません。
第三者であるカウンセラーの目を通すと、自分の判断基準もよく見えてきますので、認知の修正にお困りの方は一度ご相談ください。
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