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迷走神経 -自律神経として働く、人体に広く分布する脳神経-

迷走神経とは?

迷走神経(vagus nerve)は、第10脳神経です。
脳から末梢に伸びており、その複雑な走行から「迷走」と呼ばれています。
脳神経系の中では最も広く分布しており、筋線維を動かす運動系と、筋肉や臓器の状態を知覚する感覚系の2つに分けられます。

運動系は、物を飲み込む、声を出す、呼吸するなどの動きを自律的におこなっています。
一方、感覚系は、喉の状態や食道、耳掃除するときに目にする外耳道などに分布し、その状態がどのようになっているか、異常が起きていないかを感じ取っています。
迷走神経のうち、80%は感覚系です。

迷走神経の働きは? 迷走神経の特徴

1995年に神経学者のスティーブン・ポージャス博士が提唱したポリヴェーガル理論(Polyvagal Theory)は、迷走神経が背側はいそく腹側ふくそくの2つで構成されていることをまとめた理論です。
これらはどちらも首のところ、延髄にその核があるのですが、背側はいそくは迷走神経背側はいそく運動核が、腹側ふくそくは疑核が、それぞれその働きを司っています。

背側はいそく迷走神経複合体は、迷走神経背側はいそく運動核から伸びている迷走神経と、それと連動して動く神経を合わせた呼称です。
背側はいそく迷走神経が活動的になると、体は低代謝状態になり、活発に動かなくなります。
人間だと失神したり、そこまではいかなくても頭が真っ白になったりします。
動物だと、仮死状態になって擬死行動をとるものもいます。外からの脅威に備え、頭や手足の血流を止め、生命維持とエネルギー産生のために胃や腸を働かせます。
この状態が、トラウマティックストレスに直面したときの状態と考えられています。

一方、腹側ふくそく迷走神経複合体は、疑核から伸びた迷走神経と、連動する神経を合わせたものです。
恒常性ホメオスタシス維持の神経とされ、心臓や肺のような、規則正しく動く筋肉や臓器の働きを司っています。
外からの脅威がなるべく起こらないよう、周囲と調和したり、物事を円滑に進めたりしようとも働きかけるため、社会交流コミュニケーションの自律神経とも呼ばれます。
自律神経失調症などのメンタル疾患では、特にこの腹側ふくそく迷走神経を活性化できるかが治療上重要です。

迷走神経と自律神経の関係は? 迷走神経と自律神経の違い

自律神経とは、交感神経と副交感神経からなる神経です。
このうち、副交感神経が迷走神経に当たり、背側はいそく迷走神経と腹側ふくそく迷走神経に分けられます。
つまり、自律神経⊃迷走神経です。
例えば、自律神経失調症といった場合、副交感神経(迷走神経)だけでなく、交感神経の変調も出現する状態を指します。

迷走神経反射とは? 迷走神経反射の症状と原因

迷走神経反射もしくは血管迷走神経反射とは、ストレスや緊張などによって血圧が低下し、心拍が遅くなることで意識を失う一過性の症状です。
きっかけとしては、長時間立っていることや緊張、疲労、睡眠不足、痛みなどによって起こります。

血管の緊張や収縮をコントロールしている脳幹血管運動中枢によって血圧の低下、脈拍数の減少が出現し、副交感神経背側はいそく迷走神経)優位になることにより出現します。
吐き気や冷や汗、気持ちの悪さ、めまいなどの前駆症状があることもあります。
注射によって起こることもあり、新型コロナワクチン接種時に迷走神経反射を起こした人もいらっしゃるかもしれません。

迷走神経はどこにある? 迷走神経支配の臓器・器官

迷走神経は体中の筋や器官に張り巡らされており、筋緊張や収縮、腺の働きの調整などもおこなっています。
そのうち、背側はいそく迷走神経は、胃、小腸、大腸の一部などの腹部臓器に分布し、不随意筋の動きを支配しています。
背側はいそく迷走神経優位のときにはそれらの部位に血流を集中させ、脅威が過ぎ去った後に備え、胃腸でエネルギーを産生したり、手足などの末梢が傷ついても失血しないようにしたりしています。

他方、腹側ふくそく迷走神経は、顔面、中耳、首、咽頭、気管支、心臓などに分布しています。
外部からの脅威を感じたとき、表情がなくなり(顔面)、声が出しづらくなり(咽頭)、呼吸が浅くなり(気管支)、心拍が乱れる(心臓)のは、この腹側ふくそく迷走神経複合体が不活性になるためです。
腹側ふくそく迷走神経の不活性から「この環境は安全でない」と判断した生体は、体を戦闘モードに切り替えるか、一目散に離脱するか(闘争か逃走か)の状態に移行します。

迷走神経を整えるには? ヴェーガルブレーキの働きと機能

ポージャス博士のポリヴェーガル理論によって、迷走神経は背側はいそく腹側ふくそくの2つの経路が存在することが判明しました。
加えて、心拍や代謝は腹側ふくそく迷走神経によって適度に抑制されており、それによって適度な状態を保っていることが分かりました。

例えば、心臓は腹側ふくそく迷走神経による抑制がないと90回/分と頻脈ですが、心臓に繋がっている腹側ふくそく迷走神経が働くと60回/分と、適度な心拍数になります。
この腹側ふくそく迷走神経による抑制機能をヴェーガルブレーキといいます。
普段から腹側ふくそく迷走神経支配の部位を活性化させるようなこと――よく噛み、発声し、抑揚をつけて話し、人の声に調子を合わせ、歌を聴いたり歌ったりしておくと、ストレス状況下でも、ヴェーガルブレーキが正しく機能します。

職場や対人関係で、ストレスからカリカリしたり気が立っていたりと交感神経優位になりやすいのも、また、自律神経系がシャットダウンを起こして頭が真っ白になったり涙が勝手に流れてきたりするのも、このヴェーガルブレーキが機能していなくなっていると考えれば、うまく説明することができます。
自律神経症状でお困りの方は、一度ご相談ください。

まとめ

副交感神経の働きを司る迷走神経は、ポリヴェーガル理論の登場によって、その知見が格段に進歩しました。
メンタル疾患や心理療法の分野でも、背側はいそく迷走神経複合体の機能不全がトラウマ症状を引き起こしていることが分かり、また、腹側ふくそく迷走神経複合体の活性化が安心感をもたらし、心を癒していく機序が分かってきています。

カウンセリングはただ話すだけと思われがちですが、安全な場で話すことが腹側ふくそく迷走神経を活性化させ、呼吸を整え、心拍を穏やかにし、更にのびのびと発声できるという好循環に入らせることができます。
トークセラピーだけでなく、各種心理療法の作用や効果も、今後は神経科学レベルで実証されていくことでしょう。

当オフィスでは、対話型のセラピーをはじめ、神経系へのアプローチとしてブレインスポッティングという治療法を実施しています。
生理神経レベルからの回復や治療をご希望の方、トラウマ記憶にお悩みの方は、一度ご相談いただければと思います。

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