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トラウマの絆

なぜ、DVを受けている人はなかなか関係を断ち切れないのでしょうか?
またなぜ、虐待児は親を庇ったり、他の保護下に入ることを拒んだりするのでしょうか?

その一因は、トラウマの絆が形成されているためかもしれません。
トラウマの絆の特徴と、その成立までの流れを説明します。

トラウマの絆とは?

トラウマの絆(traumatic bond)とは、虐待された人と虐待した人との間に形成される、感情的に強い結びつきのことです。
特に恋愛関係において形成されるとされますが、他にも親子関係、友人関係、管理職と部下、カルト宗教、人質事件、性的人身売買などでも形成されるといわれています。

トラウマの絆は、周期的な加害や虐待の結果、形成されます。
関係が深まっていくと、強い不安感や悲しみ、無力感が周期的に現れるようになります。

怒られたり不機嫌になられたりするような「罰」と、謝罪されたり配慮されたりするような「報酬」が断続的に行われ、長期的にゆっくりと形成される点が特徴です。

もう1つの特徴は、虐待されている側が一方的に絆を感じており、虐待している側はそれを感じてはいない点です。
被害者は「自分はこれだけ親密に感じているのだから、相手もきっと同じように感じてくれているだろう」と考えますが、加害者はそうは感じていません。

被害者と加害者、虐待される側とする側に不均衡アンバランスがあるのが、トラウマの絆です。

トラウマの絆のおこり

通常、健全で前向きな関係初期に一度目の加害が発生します。
怒声を浴びせる、物を破壊する、無視をするといった行動は、一回限りのものとして双方に認識されます。

その後、加害側は愛情を示したり、配慮したり、優しく朗らかになったりし、被害側はそれに安心し、「こういったことは二度と起きない」と、再発しないだろうという信念が植えつけられます。

こういったことが複数回発生すると、被害側は自分に原因や責任があると考えるようになります。
「私が問題の原因だ」と思ったり、「私に不備がある」「私が悪い」と考えたりするようになります。

実際には加害側のミスであったり、虫の居所が悪かったりしただけであっても、です。
そこから、「加害を防ぐのは自分の力だ」「防げないのは自分が至らないからだ」と、否定的な自己観を持つようになっていきます。

トラウマの絆の特徴

加害側を庇う

トラウマの絆が形成されている人は、パートナーの行動を正当化したり、擁護したりします。
手を上げられたことを「咄嗟に手が出てしまっただけ」と言ったり、物を投げつけたことを「自分も怒るとそうなることがあるから」と説明したりします。

「相手は悪くない」「相手を責めないであげて」と、パートナーを庇います。

加害の事実を偽る

パートナーではなく自分を責めたり、加害についての嘘をついたりします。
何度も同じ間違いを繰り返す自分を「バカだ」「欠陥品だ」と責めたり、「ちょっとした喧嘩」と周囲や近所に弁明したりします。

大ごとになるのを避けようとしたり、第三者の介入を拒もうとしたりします。

加害されないよう細心の注意を払う

自分への被害を最小限にするよう、あらん限りの努力をします。
叱られるような落ち度のないよう環境を完璧に整えたり、成績や見た目を人並み以上に輝かしくしたりします。

自分は感情的にならないよう、不満を押し殺したり、要求や希望は極力しないようにします。
強い精神力と忍耐力が培われるため、社会的には素晴らしい成果を残すこともあります。

平和を保つためにパートナーに媚びることもあります。
加害されてもなるべく穏便に済ませてもらえるよう、気に入られようと心がけたり、性的な要求も拒否しないようにしたりします。

時には虐待を受け入れ、許しているよう振る舞うことで愛情を示すこともあります。

加害者の下から去ることを拒む

加害側から引き離されたり、加害者の下を去ることを拒否したりします。
恋愛関係であれば、同棲を解消したり、別れたりすることを強く拒絶します。

児童虐待であれば、親元から離れて一時保護所に入ったり、祖父母のところに身を寄せたりするのを嫌がります。
そういった外部からの否定的な反応を避けようと、社会的に孤立することを自ら選びます。

トラウマの絆の構成要素

トラウマの絆が形成され継続していくには、2つの要素が必要です。
その2つとは、「報酬と罰による断続的な強化」と「一方向性」です。

どちらの要因も一般的な絆や愛着関係では見られない、トラウマの絆に特徴的な要素です。

報酬と罰による絆

トラウマの絆では、加害側は身体的・言語的・感情的・心理的虐待によって被害側を攻撃します。
常に被害側を攻撃し続けるわけではなく、断続的に、否定的な対応と肯定的な対応を繰り返しながら徐々に形成されるのが、トラウマの絆です。

例えば、愛情表現、ねぎらいの言葉、気遣い、優しさの表明、プレゼント、もうこのようなことは繰り返さないという約束などが断続的に行われます。

極度の暴力と極度の愛情表現の間を繰り返し行き来することによって、被害者の中に自分を責める傾向が生じていきます。
「あんなに優しい人なのに、自分は報いていない」と思ったり、「お金も出してくれるしやりたいこともさせてくれているのに、どうして自分は期待に応えられないんだ」と考えたりするのです。

良い扱いと悪い扱いを散発的に繰り返すことで、信じられないほどの強い感情的絆が生まれます。

一方向性の絆

トラウマの絆を成立・継続させるもう1つの要因は、両者のパワーバランスが不均衡であることです。
恋愛関係なら、関係初期は対等な関係を築けていたものが、一方が徐々に権力(発言権や決定権など)を掌握し、もう一方がそれを放棄するという不均衡アンバランスによって引き起こされます。

親子関係や上司/部下の関係のように、最初から一方の権力が大きい場合もあります。

権力の不均衡もまた、情緒的絆を強固にし、被害側の自責の念を強める場合があります。
強い権力を持つ加害側が暴力を振るったとき、加害側の認識をそのまま内面化することがあるからです。

親が「お前はダメな子だ」と言えば、子は良い子とは何か、ダメな子とは何かが分からないので、無批判に「自分はダメな子だ」と思ってしまうわけです。
上司と部下の関係でも、「そんなんじゃこの会社じゃやってけないよ」と言われれば、上司の方が『この会社でやっていけている』わけですから、部下は半ば自動的に「自分はこのままではダメだ」といった意識が刷り込まれます。

否定的な自己評価は加害側への依存感情を生み、それが強い情緒的絆であるトラウマの絆を形成します。
また、トラウマの絆が続けば、加害側は権力を持っている感覚を維持することができ、被害側は無力感や被支配感を抱き続けます。

このように、被害側の抱いている感情を加害側も抱いているとは限らず、結果、情緒的な面でも一方的な関係が成立することになります。

まとめ

ひとたびトラウマの絆が形成されると、被害側は恐怖・支配・予測不能感を周期的に感じることになります。
関係性が深まれば深まるほど、不安・悲しみ・無感覚も強くなっていきます。

精神的な不調をきたすだけでなく、仕事やプライベートな人間関係など、社会生活にも悪影響が及ぶことも少なくありません。
関係を断ち切るには多大な労力を要し、しかも強固な絆のために再び虐待関係に戻ってしまうケースもあります。

トラウマの絆によって生じた否定的な自己評価は、トラウマ治療によって改善することが可能です。
当オフィスでは、ブレインスポッティングやEMDRなど、治療効果の認められているトラウマ治療を受けることができます。

トラウマの絆でお悩みの方は、ぜひ一度当オフィスにご相談ください。

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