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トラウマ長期化の原因 -トラウマとは02-

トラウマの定義

トラウマ(心的外傷)とは、災害、暴力、深刻な性被害、事故、虐待などに晒されたことで生じる一連の症候群のことです。
そのようなトラウマを引き起こす経験のことをトラウマ体験、そのような体験に関する記憶をトラウマ記憶といいます。

トラウマ体験の後、1ヵ月以上経っても反応が消失しない場合、PTSDと診断される可能性があります。

なぜトラウマ症状は長引くのか

トラウマが長期的に症状を生じさせるのにも、否定的な認知が関わっています。
トラウマ体験は否定的な認知を生み出しますが、生み出された否定的な認知はまたトラウマ体験を思い出させるきっかけにもなります。

被災体験から「私は無力だ」と考えるようになると、生活を立て直そうとするときにも「私は無力だ」と思い、脱力して力を入れることが今ひとつできなくなります。
場合によっては、清掃や勉学といった一見災害と無関係なものに取り組むときにも「私は無力だ」と考えてしまい、頭が働かなくなったり生活が荒れたりしてしまいます。

いじめ体験から「私は価値がない」と考えるようになると、進学や就職のときにも「私は価値がないから」と考え、積極的に取り組めなくなります。
そればかりか、同僚に挨拶されなかったときにもいじめ体験が脳裏をちらつき、「私は価値がないから挨拶されなくても当然だ」と思って悲しみや落ち込みまで感じてしまうかもしれません。

やりたい事業計画の話が社内で持ち上がったときにも、「私は価値がないからどうせ選ばれないだろう」と、手を挙げる前から諦めてしまうことにもなるかもしれません。

トラウマ体験は否定的な認知を引き起こし、それまであった肯定的な認知を崩壊させます。
例えば、「私はうまくやれる」と考えていたものに疑いが生じ、「私はうまくやれない」という考えが優勢になります。

物事に取り組むことを避け、他の取り組んでうまくいっている人を見て、「やっぱり私はうまくやれない」という考えをより強固にします。
やれることにだけ取り組むようになりますが、「うまくいっていない部分」ばかりに自然と意識が向くようになり、「やっぱり私はうまくやれない」とますます確信していくようになります。

養分を与える記憶

トラウマを体験した脳内では、あたかも過去の記憶が現在に向けて養分を送り続けているような状態になります。

通常の記憶なら「そういうこともあった」と脳に記録されているだけで、否定的な認知までは形成されません。
これまでとったことのないような低い点数をテストでとったとしても、「低い点をとってしまった。次のテストでは頑張ろう」と思う程度で済みます。

これがトラウマ記憶になると、否定的な認知が形成され、それが現在起きている出来事の捉え方にも影響を及ぼします。
仕事中、上司に提出した改善案をダメだしされたときにも、過去テストで低い点数をとったときの「私はダメだ」という思考が脳裏をよぎり、「やっぱり私はダメなんだ」と落ち込み、悲しくなります。

こうして、過去のトラウマ記憶が現在の認知に養分を与え、それに伴う否定的な感情も活性化させ続けてしまうのです。

出来事を思い出にする

トラウマ治療では、トラウマ記憶を通常の記憶にし、養分を与えなくします。
これを「トラウマ体験を”思い出”にする」と表現することもあります。

他の数多ある体験エピソード記憶と同じように、トラウマ体験についても「そういうこともあった(けれど今は今。昔とは違う)」と思える状態が、トラウマが昇華され、記憶が養分を与えなくなった状態です。

トラウマ記憶が他の一般的な体験エピソード記憶と異なるのは、強い感情を伴っている点です。

親から強い叱責を受けたときも、何もない空気から怒鳴られたことへの驚きと衝撃、叱られてしまったことへの落胆と恥ずかしさ、自分自身への失望、親の期待に応えられなかったことへの申し訳なさ、見捨てられるのではないかという不安、見捨てないでほしいと懇願したいような気持ち、怒りにコントロールを失っている親をなだめたい気持ち、叱責に対する怯えなどが一挙に心に押し寄せます。
こうした感情が強ければ強いほど、感情の種類が多ければ多いほど、体験はトラウマ記憶に残りやすいものです。

過去の感情体験に深く入り込み、当時の感情を言葉で表現しながら感じ切ることがトラウマ治療には必要です。
「そんなことで落ち込んでどうする」「世の中にはもっとつらい思いをしている人が沢山いる」のように言ってきそうな人には、感情を吐露することはできません。

また、内なる声が「当時はそんな風に考えたかもしれないけど、考えただけで実際には起きなかったじゃない。それは私の妄想だよ」と自分で自分に言い聞かせてきても、過去の体験を感じ尽くすことはブロックされてしまいます。
トラウマ治療は、体験を話すのにふさわしい相手に、話すのに適した精神状態のときに、適切なガイドを受けながら行うのが望ましいでしょう。

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