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HSP

「繊細さん」「敏感さん」とも呼ばれるHSP。
最近では芸能人や有名人もHSPであると発表したことで、何だか特殊能力めいたステータスを持ち始めてきています。

元々は医学でなく心理学的な性質を表していたこともあり、「原因は分からない」「治療はできない」等の情報が多く見られます。
これまでの情報から考えられる原因と対策について、臨床心理士が説明します。

HSPとは

HSP(highly sensitive person)は、感覚処理感受性の高い人、という意味です。
生体内部や外部からの刺激に対して過敏さを持っており、刺激に対する耐性が低い人が一定数いるとして、1996年にエレイン・N・アーロン博士によって提唱されました。
目や耳といった感覚器に異常はなく、脳内の処理過程に特徴のある人のことを指します。

HSPチェックリスト

  • 大きな音が苦手・不快
  • 短時間にしなければならない頼みごとがあると慌てる
  • 繊細な香りや味、音などを好む
  • 雑然とした光景のような、強い刺激にわずらわしさを感じる
  • 他人の気分に左右されやすい
  • 美術や音楽に深く感動する
  • 一度にたくさんのことが起こっている状況が苦手
  • ビクッとしやすい
  • 微細で繊細な芸術作品が好き

上記のような特徴全てに「当てはまる」「どちらかというと当てはまる」方は、HSPに該当します。

HSPの特徴

提唱者のアーロン博士によると、HSPはDOESドーズという4つの特徴を全て備えているとされています。

DOES
  1. 物事の考え方が深い Depth of processing
  2. 刺激に敏感である  Overstimulation
  3. 共感しやすい    Emotional response and empathy
  4. 感覚が鋭い     Sensitivity to subtleties

また、後の研究では、感覚域が低く反応しやすいこと(Low Sensory Threshold)興奮状態に陥りやすいこと(Ease of Excitation)美的感覚に鋭敏であること(Aesthetic Sensitivity)の3つが特徴であると言われています。

物事の考え方が深い

人より多くのことを感じ、考え、追究を深めようとします。
時間を要することが得意な反面、制限時間までが短かったり、性急さを求められたりすると圧倒されてしまうため、苦手さを感じやすいです。

慎重さ、丁寧さ、想定範囲の広さが持ち味で、それらが比較に向かないため、誰かと比べられたり、競争させられたりすることが苦手です。

刺激に敏感

大きな物音や声がすると驚いてしまい、思考できなくなったり、ビクッと反応してしまったりします。
情報量の多い状況が苦手で、雑然としていると片づけたくなります。

人の顔や表情、等身大のものにも反応しやすく、顔のアップや等身大パネルなどにも心臓が跳ね上がるほどドキッとしてしまいます。

共感しやすい

人や動物に感情移入しやすく、あたかも自分が体験したかのように感じながら、話を聞いたり映像を見たりします。
自分以外の人や動物のされたことに同調してしまうため、苦痛を感じている人やいじめられている状況を目にすると、自分も傷ついてしまいます。

半ば自動的に共感してしまうため、とても疲れやすく、そういう話や場面に急に出くわさないか、常に緊張しています。

感覚が鋭い

美的感覚に長けており、ささいな違いにも気づいたり、逆に少しでも感性にそぐわないと受け入れられなかったりします。
人の顔色や声のトーンに鋭敏に反応し、どういう気持ちでいるか、機嫌や雰囲気が悪くなっていないかを、即座に察することに長けています。

自分の心の機微を感じ取るため、外部からの刺激がなくても楽しんだり充実させたりすることができます。

HSPのタイプ

一般的なHSPの他に、探求心が強く、自ら刺激を求めていってしまう行動傾向を持ったHSP、HSS型HSPというものもあります。
刺激希求型(High Sensation Seeking:HSS)HSPは、新しいこと、新しい場所、新しい人などに積極的にアプローチする反面、持ち前のHSP気質から、そういった刺激にすぐ疲れてしまったり、別の刺激を求めてすぐ他のところに移ってしまったりします。

HSPの原因

HSPは心理学研究から提唱された概念であり、医学的な原因はまだ分かっていません。
ただ、全人口の20%、5人に1人はいるとされ、動物や植物にも同じような性質を持った個体が同程度いるとも言われていることから、生物全般に共通した因子が関連しているものと考えられます。

ここでは、HSPの特徴に関連していると考えられる要素を説明していきます。

扁桃体

ヒトの大脳辺縁系の中には、扁桃体へんとうたいという部位が存在します(扁桃とはアーモンドのことです)
扁桃体は感情、特に個体にとってネガティブな感情を司っているとされ、恐怖や不安を感じるような場面で活性化することが分かっています。

扁桃体は、哺乳類の脳でも同じ働きをしていることが確認されており、脅威に対して即座に逃げたり、判断がつかないような状況で迂闊に動かないようにしたりすることに役立っています。
特にヒトの場合、この扁桃体がヒトの顔に反応しやすいことが分かってきています。
群れの中でコミュニケーションをとる際、顔から得られる情報量がより重要だったことに由来していると考えられます。

HSPの人は、扁桃体が過剰に活性化しやすく、人に対して敏感に反応したり、人の感情から影響を受けやすかったりするものと推察されます。
扁桃体の過活動を抑えるアプローチや、刺激に対して扁桃体を慣らしていくアプローチ、VR(仮想現実)やデジタルシステムを活用して扁桃体を刺激しない環境にしていくアプローチなどが有効と考えられます。

ドーパミン

脳内の神経伝達物質の一つにドーパミンというものがあります。
ドーパミンは、脳の報酬系に働きかけ、行動が完了したときに快感を感じるようになり、更に行動したくなるよう働きかける仕組みを担っています。

HSPの人はこのドーパミンの上限が低く、刺激を得てもすぐに上限に達してしまい、刺激を受け続けることができなくなると考えられています。
小食の人がすぐ満腹になるように、HSPの人は刺激がすぐに「お腹いっぱい」になってしまう、というような状態です。

この仕組みは内向性/外向性にも関わっているとされ、HSPと関連があるとされています。

シナプスの刈り込み不足

脳内の神経細胞(ニューロン)はシナプスで接続されており、その繋がりは出産後、右肩上がりで増えていきます。
しかし、学習や技術習得していくにつれて余計なシナプスは間引かれ、必要なシナプスだけが残って強力な繋がりを形成していきます。
この一連の過程を、シナプスの刈り込みといいます。

シナプスが刈り込まれていないと、刺激が脳に入ってきたとき、必要な神経回路以外の回路にも電気信号が伝わってしまい、過剰な反応が引き起こされます。
HSPのより深く考える性質や過敏さは、刈り込み不足によって説明できます。

自閉症やアスペルガー症候群などの自閉症スペクトラム障害も、この刈り込み不足によって感覚過敏になっているとする説があります。

成果主義の成育歴

幼児期や学童期に多くの習い事に通っていたり、「しっかり者」や「お兄ちゃん・お姉ちゃんらしさ」を親から求められたりすると、物事を完璧に、人からの期待を十全に叶えようとする性格パーソナリティが形成されます。
そのような経験を核に人格形成がなされると、強迫性パーソナリティになります。

HSPもまた、物事を完璧にこなそうとして、より深いところまで考えたり、推し量ったりするところがあります。
今現在HSPのように見える人の中には、成育歴によってそのような特徴が発現した人もいるかもしれません。

ただ、元々HSP気質を持った人が、親からの成育歴によって更にHSPの特徴が色濃く出現した場合もあるため、成育歴だけを理由にするには、注意が必要です。

HSPの治療

HSPは医学ではなく心理学的な性質(気質)であり、診断基準や治療法は確立されていません。
ただ、ここまで述べてきたように、HSPはそれ以外の生物学的な機能不全や気質・性格とかなり似通った特徴を有していることが分かります。
そういったHSP以外の障害や疾患への対処から、HSPの治療への応用を考えてみます。

扁桃体の過活動

扁桃体の過活動に対しては、繰り返し人と接したり写真や画像を見たりすることで、馴化じゅんか(慣れ・耐性形成)させていく方法があります。
好きな俳優やアイドルの顔を待ち受けにしたり、顔がアップで映し出されるLIVE配信を視聴したりすることでも、徐々に過敏さが治まっていくことが期待できるでしょう。

ドーパミンの閾値いきちの低さ

ドーパミンの上限が低い(低閾値の)場合も、同じく馴化を利用し、少しずつ上限を高めていく方法があります。

また、上限が低いことを逆手にとり、刺激から刺激へと移していくフットワークを軽くする手もあります。
事業や趣味はじっくり取り組んだからといって成功するとは限りませんから、新奇なことに取りかかることを楽しむと決め、次から次へと移る方が人生を楽しめる可能性もあります。

感覚過敏

感覚過敏には、なるべく多種多様な刺激に触れ、その後で標的となる感覚に接すると、苦痛を低減できることがあります。
例えば、光過敏があって眩しさを感じたり文字が読めなかったりした人が、運動してから同じことをしたら、光がつらくなくなったり文字が読めたりするようになったケースもあります。
発達障害の人が30代になったとき、20代前半の人と同程度の神経発達に至ったという報告もあるため、訓練次第では生理神経学的な改善が見込めます。

まとめ

HSPは、脳内の感覚処理過程に特徴のある人です。

  1. 物事の考え方が深い Depth of processing
  2. 刺激に敏感である  Overstimulation
  3. 共感しやすい    Emotional response and empathy
  4. 感覚が鋭い     Sensitivity to subtleties

の4つ全ての特徴を有しているとされ、全人口の20%ほどしかいないと言われるため、理解者が少なく、生きづらさを感じやすいです。

生物学的な原因としては、扁桃体の過活動、ドーパミンの閾値の低さ、シナプス刈り込みの不足などの説が有力です。
また、心理学的な原因としては、成果主義的な成育環境によるものが考えられます。

芸能人や有名人がHSPを公表したこともあり、HSPを特殊能力のように捉え、自称する人が増加しました。
その人たちを狙い、カウンセラーや情報商材屋さん、YouTuberさんが殺到している昨今です。

HSPはいわゆる「病気」ではないため、治療はありませんが、原因に即した対策やトレーニングを行うことは可能です。
これを執筆している私は、私自身の顔が怖いことから「HSP治療には向いていない」と思っていますが、それでも治したい、生きづらさを和らげたいとお考えの方は、一度当オフィスにご相談ください。

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