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性被害の後遺症

性被害は「魂の殺人」とも呼ばれ、その後遺症は劇的かつ長期にわたって被害者を苦しめます。
性被害とは見知らぬ人から暴行を受けることだけでなく、行為を強制されること、断りづらい状況を作り出された上で行為を行わされること、痛みや嫌悪感を伴う行為を行うことを含みます。

ここでは、性被害の後遺症について説明していますが、全ての被害者に当てはまるわけではないことをご了承の上、お読みください。

性被害の後遺症の歴史

性暴力は被害者の意識を混乱させ、ネガティブな思考や感情に陥りやすくするだけでなく、脳神経系や自律神経系といった意識下の変調も引き起こします。
しかし、現代でこそ性暴力や性被害がトラウマになったり、後々フラッシュバックを起こしたり半狂乱になったりすることは一般にも知られるようになっていますが、そう認知されるようになったのはつい最近のことです。

性被害の後遺症としては、1970年代にレイプ・トラウマ・シンドロームという概念が提出されました。
これは、強姦直後のほとんどの被害者にみられる身体的・心理的反応の総称であり、数日から数週間続くものであると言われていました。

これが戦地から帰ってきた兵士の状態と類似していたため、のちにPTSDとして精神疾患として認められるようになります。

同じく1970年代、近親相姦の被害に遭った児童が人と親しくなることを拒んだり、距離の近かった者を一転して遠ざけたり嫌ったりするような傾向が報告され、これを近親姦経験者(incest survivor)と呼ばれるようになりました。
また、家庭内暴力(DV)を受けた人も社会的な関わりから遠ざかったり、アルコール依存や薬物依存になったり、自殺願望が高まったりすることから、この現象を被殴打女性症候群(battered woman syndrome)と称されるようになりました。

これらの被害を受けた人はもっぱら女性であったため、報告された状態像もほとんどが女性のものでした。
現在では男性でも性被害や性暴力を受けていることが明らかになっており、その後遺症を抱えている人は男女問わずいることが知られるようになってきています。

超急性期

無感情・無感覚

強い衝撃が外部から加わると、感情や情動が一時的に感じられなくなります。
衝撃に対する驚きの感情に全ての注意が注がれてしまい、驚き以外のことに目が向かなくなってしまうのです。

性被害に遭った直後も同様に、起こったことへのショックや起こる前と明らかに変わってしまうであろう予感の方に心が囚われてしまいます。
感情や情動に意識が向くのは脳にとっては負荷が高く、人体としてはそういった負荷を避けるためでもあります。

怒りや悲しみといった感情だけでなく、痛みや空腹感といった感覚(身体感覚)も感じられなくなります
これも、体の状態を感覚として受け取ってしまうと、それに対しても感情が動いてしまったり、それを「つらい」「苦しい」と感じなければならなくなったりするので、感覚を遮断するよう体が反応するためです。

生体防御反応として“凍りつき”の神経に切り替わり、感覚の麻痺が起きている場合もあります。

「私は恥ずかしい」

そんな中でもほとんどの方が体験する感情として、「恥ずかしい」という感情(羞恥心があります。
性的なことをしたことへの恥ずかしさ、果敢な行動をとれなかったことへの恥ずかしさ、個人的な出来事として心のうちに留めておきたかったのにそうできなくなったことへの恥ずかしさなどが一気に、もしくは徐々に心に押し寄せます。

本来なら被害に遭ったことも理想的な行動がとれなかったことも何ら恥ずかしがることはなく、むしろ生き延びられたことからすれば胸を張っていいはずなのですが、心の働きとしてはどうしても恥ずかしい気持ちが湧き上がる方に作用してしまうようです。

「私が悪い」

性被害は交通事故や通り魔と同じく“被害”に過ぎないのですが、「性的な行為をおこなった」「人に話せないような目に遭ってしまった」という考えが湧き起こり、「こんな目に遭うような自分は何か良くない行いをしていたのではないか」「考えが足りなかったから、普通はしないような事態に陥ったのではないか」と考えるようになります。
端的に言えば、自分を「悪い子だ」と考えます

「自分は悪い子(人間)だ」という思考は、自身の恥ずかしさや消えてしまいたいくらいの苦しさからくる感情的な決めつけです。
「こんなにつらいということは、自分が悪い存在だからであり、その罰を受けているのだろう」と、感情の理由を自分の存在に求めるのです。

ただただ理由もなくつらい感情になるより、その理由があった方がいくぶん納得できることからこの思考は生じます。ネガティブ感情が強ければ強いほど、その決めつけも強固になります。

従順・懐柔反応

恐怖を恐怖として認識しないまま、それでも何とか身を守ろう、被害を最小限に留めようとする行動にだけは出ることがあります。
むしろ加害者に優しく声かけをしたり、加害者を庇うような発言をしたり、従順に振る舞ったりします。

これを、従順・懐柔反応といいます。
筋骨格のしっかりしている成人男性なら戦ったり逃げたりするエネルギーを、女性や子どもの場合にはそれらに注がず、加害者を感情的にさせないよう働きかける方に向けるのです。

恐れや怯えといったネガティブな感情には蓋がされており、従順・懐柔反応をおこなっている本人ですら心の底から本心でそうしたいと感じながらおこなっています。
感情を伴った行動のため、後からでも克明に思い出すことが多いです。

そのことが更に自分の罪悪感を強めたり、「なぜあんなことをしたのだろう」と激しく混乱させたりすることになります。

急性期

恐怖

遭遇した出来事からくるショックが大きいと、その衝撃に注意が向かず、本来感じるべきタイミングで恐怖や怯えを感じられないことがあります。

恐怖や怯えを感じられるのは、むしろそれらを感じられ、表出することができたと自覚したとき――安全安心だと実感したときです。
そのとき初めて、適切に怖がり、正しく恐怖を感じることになります。

本来なら安全安心を感じるタイミングで恐怖心が出現してしまうので、その後どんなに加害者から離れようと、害意を持たない異性だと思おうと、恐怖心が甦ってきてしまうようになります。
安心感を実感できず、警戒心と緊張感を長く感じ続けるようになります。

感情の抑圧

感情からくる苦痛を避けるため、一切の感情に封をしたように自覚できなくなる場合もあります。
空腹を感じ続けると苦しいので空腹を感じなくなるように、攻撃したいけれどできないと悔しいのでそもそも攻撃したいと思わなかったことにするようにします。

こうした精神作用を心理学では抑圧といいます。

攻撃性は、最もよく抑圧される感情の一つです。
加害者を糾弾したい、𠮟責したい気持ちは抑圧され、胸の内に閉じ込められます。

嫌悪感や不快感、悲しみや怒りといった感情も抑圧され、あたかも自分の中で消化されたり、何も感じなかったかのように感じられたりします。
抑圧した感情は本当にはなくなってはおらず、症状や行動といった様々な形で表出されます。

自責

自分を責めるような思考は本来、ミスや失敗を改め、より良い方向に進めるために用いられるべきものです。
性被害の多くは被害者に過失などなく、被害者が自分を責めることは何の改善にも再発防止にもならないのですが、それでも自分を責めるような考えが頭に浮かび、自分を非難したり否定したりします。

自責的な思考は、本来責めるべき相手を責めるよりも、より身近で責めやすい自分にそのエネルギーを向けてしまった結果によるものです。

自分を責める思考に近いものには、「私は汚い・汚らわしい」や「無価値だ・無力だ」などがあります。
誰かを責めれば反撃されるかもしれませんが、自分を責めてもやり返してはこないので、自分をサンドバックとして叩いてしまうのです。

過呼吸・吐き気・震え・痛み

身体的な症状や異常行動として、性被害の後遺症が表れることもよくあります。

肺と気管支のリズムが狂い、頻繁に過呼吸になったり、パニック発作を起こしたりします。
吐き気に襲われやすくなり、実際に嘔吐してしまうこともあります。

体の内側が震えているように感じられたり、実際に手足や全身が震えたりもします。
こめかみの辺りに鋭い痛みが走ることもあれば、頭全体に締めつけられたような痛みが生じることもあります。

自傷

指先の皮やかさぶたをめくったり、爪を噛んだり、髪の毛や眉毛を抜いたりする人もいます。
手を執拗に洗うようになったり(洗浄強迫)、物の配置や向きが変わるのを何度も直したりします。

心身に生じた些細な不安や変化を見過ごすことができず、何か対処しないと悪いことが起きるような気がしてしまい、思いつく限りの手近な対処を繰り返し何度も行うのです。

後急性期

怒りや悲しみ

本来、加害者への怒りや侵害されたことからくる悲しみは、被害を受けたまさにそのときに湧き上がってくる感情です。
はらわたは煮えくり返り、自らが傷つくことも顧みず暴れ回り、目の前が真っ赤になったように感じるほど頭に血が上ったり泣き叫んだりするくらいの激情に駆られてもおかしくありません。

しかし、ショックの大きさから時間を経過してからでないとそれらを感じられないこともままあるのが、性被害です。

体から湧き上がってきていた感情は表出することができず、しかしそれは体には緊張として記憶されています。
その緊張を再び感じるようなことが起きたとき、それが性被害のときとは比べ物にならないくらい些細な感覚であったとしても、体に記憶されていたエネルギーは被害を受けているときと同じか、それ以上に大きく増幅されて体から解放されます。

トラウマ時の状態を“凍りつき”の状と表現し、侵入思考やフラッシュバックを“冷凍保存された記憶が解凍されたかのように”と表される現象です。

親密な関係からの回避

対人関係は相互作用であり、相手のことを知っていくと安心し、自己開示するとなお相手も自分のことを開示していき、更に安心感が高まっていって関係性が深まっていきます。
反対に、知られることを避けたり拒んだりすると相手も心が安らかにならず、警戒して相手自身のことを話さないようになるため、自分も安心することができないといった悪循環にもなります。

性被害を受けた人は、このような親密な関係から回避的になりやすい傾向にあります。

親密な関係になることと再び性被害に遭うことがイコールで結びついてしまっているため、親密になりそうになるとかえって警戒し、距離をとろうとします。
被害を受ける前から親密であったとしても、安心感を感じることが気の緩みと同義となってしまっているため、以前のように親しくできなかったり、関係を断ち切ったりした方がいいというような思考も生じます。

親しくなることに類似のものとして、人に触れたり触れられたりすることや、触れようと思えば触れられるくらいの距離(パーソナルスペース)に近づくことも避けます。
性的な関係を持ったり、性を想起させるような事柄を嫌悪したりもします。

性逸脱

被害に遭ったことの反動のように、性に奔放になったり、性行為を頻繁に行うようになったり、一般的な性行為から大きく逸脱したりもします。
これは、性被害を重大なものと意識下で捉えていることに反発し、「身に降りかかったことは大したことではない」ことにしようと、あえて性的な事柄に接近し、「ほら、こんなこと何でもないんだ」と自身に言い聞かせようとしているのです。

被害を受けたことへの悲しみや加害者への怒りを直視すること、後悔やみじめさを一人で感じ続けることがつらいため、感情と直面することへの回避として行為に勤しむ場合もあります。
自分をぞんざいに扱ったり蔑ろにしたりすることで、他者を巻き込んでの自傷行為をしているという側面もあります。

アルコール依存・薬物依存

性被害も一般的なストレスと同じく、負荷のかかった後には何らかの対処行動がとられます。
その中には、家族や親しい人に少しずつ打ち明けることや、哲学や精神世界についての造詣を深めるといった有効なものもありますが、むしろ逆効果となるような無益なものや有害なものが選択されることもあります。

典型的な対処行動としては、アルコールや薬物への依存が挙げられます。
どちらも一時的には覚醒水準が高まり、気分も高揚して快感情が増大しますが、体内から排出された後には反動で落ち込んだり、そういった一時しのぎに手を出したことへの後悔に苛まれたりします。

買い物依存なども、物を得たり一括で支払ったりした瞬間は快感ですが、それがずっと続くことはまずなく、次から次へと瞬間的な興奮を求めなければいけないことはかえって苦痛に転じていきます。

二次被害

直面化からの回避は刺激と興奮を求める方向に向かいやすく、すると同じく境遇から回避したい者たちとの接触が多くなっていきます。
そうした者たちと結託して危険な行為に走って事故や怪我をしたり、犯罪に手を染めたり、そこでの関わりから新たな性被害に遭ったりすることもよく起こります。

単一のショックトラウマに終わらず、二次的三次的なトラウマを抱えることになっていきます。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)

性被害をはじめとする、人間の生命と幸福を脅かすような出来事を経験した場合、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症することがあります。
PTSDの主な症状は、再体験、回避、過覚醒、思考や感情のネガティブな変化の4つです。

再体験     :鮮明に思い出すこと、フラッシュバック、悪夢など

回避      :場所を避ける、人を避ける、考えることを避けるなど

過覚醒     :強い警戒心、緊張感、物音や揺れなどに驚く反応など

ネガティブな変化:悲しみ、不安、怒り、過活動、不活動、ぼんやりとした様子、絶望など

自然災害や事故のケースに比べ、性被害はPTSDを発症する確率が高いことが報告されています。

PTSDが疾患として採用されるようになったのは、1980年のDSM-Ⅲ(診断および統計マニュアル)からです。
そして、性被害がPTSDを発症させうるものとして記載されたのは、2013年のDSM-5からになります。

PTSD症状の多くは被害から3ヵ月以内に収まるとされていますが、6ヵ月以上継続した場合にはPTSDと診断されます。

解離性障害

性被害のようなトラウマティックストレスに遭遇したとき、意識下にある心身を守ろうとする機能が働き、遭遇した出来事を忘れたり、あたかも普段とは別の意識が行動をおこなったり、感情や思考を働かせたりしたように感じられることがあります。
こういった変性状態を解離(dissociation)と呼び、解離を起こす精神疾患を解離性障害(Dissociative disorder)といいます。

解離性障害は特に幼少期の児童虐待の結果発症することが多く、それが性的虐待の場合にはより発症する可能性が高まります。
解離性障害には、解離性同一性障害(多重人格)、解離性健忘(出来事を思い出せない)、離人感・現実感喪失障害(自分の外に自分がいるように感じられる)などのタイプがありますが、性被害によってこれらを発症することもあります。

まとめ

性被害はその出来事に関連した思考を増加させる他、感情を不安定にさせたり、トラウマにまつわる不快な身体反応を増加させたりします。
その影響は自覚している範疇だけでなく、夢などの意識下の部分や、意識上ではどうすることもできない生理反応の部分にまで及び、被害者は苦痛になりそうな状況や思考を避けるようになります。

トラウマ的出来事に起因する不安を感じているとき、視点は落ち着きなく急速に動いていたり、あるいは他のことを考える余地など全くないかのようにじっと一点を見つめていたりします。
EMDRブレインスポッティングは、このような視点の特徴から脳と身体にアクセスし、トラウマ記憶の解消を目指す心理療法です。

性被害について語るのではなく、性被害や被害後の出来事について考えることを促すEMDRやブレインスポッティングは、苦痛も最小限で、治療からの離脱も少ないです。
PTSDの他、性被害の後遺症に悩まれている方は、ぜひ一度当オフィスにご相談ください。

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